日野さん・宇野さんのこと(あるいは残念なLINE田端さんの話)※追記有り
Lいまネットを賑わしているこの2つの出来事。それぞれ批判や擁護の声がありますが、共通してちょっと気になる点があります。
- ジャズトランペッターの日野皓正さんが、公演中に中学生を往復ビンタ。素行に問題があったのでやむを得ないじゃないか、という擁護。
- 評論家の宇野常寛さんが、日テレの番組を降板。「アパホテル批判が右翼を刺激したことを嫌ったため」というその主張がおかしいという意見。
それは「原則と事情を分けて論評されていない」という点です。
まず公衆の面前で中学生をビンタするのはダメだ、というのが原則です。
事情がなんであれ教育手段として体罰は適切ではありません。
ここでやむを得ない事情があったから仕方がないじゃないか、とか、体罰を受けた本人がそれを良しとしている、とかいった主張は、他の体罰もやむを得ない事情・本人からの同意があれば良しとするということになります。戸塚ヨットスクール事件から延々繰り返されてきた議論ですが、「体罰は教育手段として取るべきではない」という原則は、事情に優先することは改めて確認されるべきではないかなと思います。そういう観点からは、高野寛さんの「観衆の前での暴力は、ダメだ。」という意見に共感します。
そもそも外野が「そこにどんな事情があったのか」なんて、事実をうかがい知ることは極めて難しく、「特殊な事情があったのだ」とするならば綿密に取材して、エビデンス(証拠)を集めてから主張しないと、ということになります。その際も、「原則として体罰はNGである」ということは確認された上での、極めて慎重な論評が必要となるはずです。
宇野さん降板問題も同じくで、関係者と面識もない私も事情は分かりません。従って言及しなかったんですが……。
言論弾圧っちゅうよりは、大してメリットない割に厄介だけ起こす出演者で、庇うだけの価値がないっちゅうだけやろなあ。 https://t.co/VatMUoBSz3
— 田端 信太郎 (@tabbata) 2017年9月2日
ありゃ、つい先日の5月に拙いツィートで会社から注意を受けたはずのLINEの田端さんが、また……。
宇野さんは、番組中でのアパホテル批判によって、日本テレビ前に街宣車がやってきて、そのことを嫌った番組側によって降板させられたと主張されています。それに対して、「庇うだけの価値がない」からだ、と田端さんは指摘したわけです。それをメディア事業も展開するLINEの偉い人が言っちゃまずいでしょう、とメンションしたところ、真顔で反論が。
彼は彼で反論しとるから十分に「言論の自由」は保証されてるじゃないですか。商業メディアにお呼びがかかって出る以上、コメンテーターも芸人と一緒ですよ。モテない黒人男性が美人の白人女性にプロポーズして断られたのを「人種差別だ!」って騒ぐようなもん。彼の発言には需要が少なかっただけ。 https://t.co/G3xANPNYeY
— 田端 信太郎 (@tabbata) 2017年9月2日
(わざわざこの流れで人種を例に持ち出すあたり、可燃性高いなあ……)
情報バラエティであれ、報道であれ、メディアは言論の取り扱いには慎重でなければなりません。ましてやテレビには放送法で定められた中立・公正さが求められるという原則があります。「そんなの幻想だ」「メディアだって営利企業じゃないか」という意見はもちろんあるでしょう。しかし、原則は原則であり、事情があるからといって、そう簡単に曲げちゃって良しという訳にはいかないのです。
そもそもメディアの歴史は、営利と言論のせめぎ合いの歴史です。ステマ問題然りでメディアを運営するということは、この問題とどう向き合うかを問われ続けるということでもあります。「庇うメリットないし」とメディア運営もしている会社の偉い人が言ってしまうのは、この責任を放棄したとみられても仕方がありません。
繰り返しになりますが、宇野さんと日テレの間でどんな事情があったのかは外野からは窺い知ることはできません。したがって、日テレの対応を批判するものではないのですが、田端さんのこれはさすがに看過できません。「LINEのメディアで気に入らない出演者がいたら、どうぞ街宣車を寄こしてください。厄介がメリットを上回るという判断で降板を決めた番組責任者を僕は非難しません」と宣言しているようなものです。ご本人が自覚的かどうかは分かりませんが。
Twitterではディスクレーマー(所属企業とは関係ありません、というアレ)を掲げる方が多いのですが、田端さんは「真に受けないで」とはされているものの(その割に真顔で何度もメンションされてきてびっくりしましたが)LINEの役員であることを明記して投稿されているため、これはまた企業としての姿勢を問われる案件かなと思います。(一応LINE広報には見解を問い合わせ中です)
LINEはその創業期から取材を続けていて、イノベーターとしての挑戦は高く評価しているのですが、メディア運営事業者としてこういった発言を容認し続けるのだとしたら残念極まりないのです。
(追記 2017/09/03 23:10)
先ほど、田端さんより以下のようなメンションを頂きました。自分ルールで申し訳ないのですが、相手のことを「阿呆・馬鹿」言い始めたら、まともな議論はできないかなということで、恐れ入りますがブロックさせて頂きました。よもや上場企業の役員の方に適用することになるとは……。なお、「投稿の曜日で業務外であることは判断せよ」とのこと(斬新!)。いやちゃんとディスクレーマー入れておいてくださいよ、皆さんやってるじゃないですか……。
あと宇野さんは、また出演の場が得られた様子ですね。
一昨日依頼があったので、再来週出ますー https://t.co/f9Vq1iwxzc
— 宇野常寛 (@wakusei2nd) 2017年9月3日
良かったです。