Location via proxy:   [ UP ]  
[Report a bug]   [Manage cookies]                
AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 3月15日:皮膚をガンから守ってくれるバクテリア(Science Translational Medicine掲載論文)

3月15日:皮膚をガンから守ってくれるバクテリア(Science Translational Medicine掲載論文)

2018年3月15日
SNSシェア
腸内細菌に大きな注目が集まっているが、もちろん体のいたるところに細菌叢は存在する。現在口腔や皮膚など他の場所に存在する細菌叢の研究も盛んに行われているが、どうしても腸内細菌叢研究と比べると研究者の数は少ない。ただ。細菌叢が注目される理由の一つは、私達の身体自体とは違い、細菌同士で形成されているバランスやその異常に介入が可能な点だ。従って介入が容易な皮膚などでは面白い可能性が開けていると思う。ただ、細菌叢としてエコシステムを形成しているとはいえ、介入可能性を本当に調べようと思うと結局は個々の菌と身体との相互作用を調べる必要がある。

今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文は、皮膚の細菌叢からガンの発生を抑制するブドウ球菌を発見したという面白い論文で2月28日Science Translational Medicineにオンライン出版された。タイトルは「A commensal strain of staphylococcus epidermidis protects against skin neoplasma (皮膚に常在するstaphylococcus epidermidisの1系統は皮膚の腫瘍から体を守る)」だ。

中辻さんという日本人が筆頭著者になっているが、Galloのグループは皮膚で働く抗菌作用を持つペプチドと自然免疫についての研究で有名だが、最近はバクテリアから分泌される様々な分子にも研究範囲を広げ、昨年は緑膿菌の増殖を抑えるバクテリアを同定していた。今日紹介する研究は、この方向の研究で、やはり抗菌作用のあるブドウ球菌を探索していたところ、緑膿菌などの増殖を抑えるペプチドとは異なる6-HAPと名付けた化合物を介して増殖を抑える菌株を特定したところから始まっている。

有機化学分析により、構造が明らかになり、この化合物が核酸合成を阻害する構造を持つことが分かったため、正常皮膚のケラチノサイトやがん細胞に対する6-HAPの作用を調べると、なぜか都合のいいことにがん細胞だけに増殖抑制作用を示す。核酸合成阻害活性に特異性があるとは思えないので、6—HAPの処理に関わる酵素の発現が正常とガンで違っているのではと、ミトコンドリア内に存在するmARCの発現を比べたところ、正常細胞のみで発現が高いことから、これが6-HAPの処理能力の差になっているのではないかと推察している。

データから見ると、これだけで全ての差を説明するのは難しいかもしれないが、6-HAPをマウスに20日近く投与し続けても問題ないので、正常の皮膚ではこのバクテリアと上手く共生でき、あまり正常細胞に悪さをしないと考えてよさそうだ。そして何よりも、皮膚に移植したメラノーマの増殖を抑制することができる。

さらに、紫外線によりパピローマを誘発する実験系で、この菌株の作用を調べると、この菌株が皮膚に存在するとパピローマ形成が抑えられることを示している。抗がん作用になると、この薬剤をガン治療に使うというほどではないが、6-HAPを作る細菌が私たちの皮膚をガンから守る重要な役割を担っていると結論している。

最後に、この菌株が普通に私たちの皮膚に存在することも示しているが、では本当にこの菌株がガンの発生を人間でも抑えているのかについては、よくデザインされた疫学調査が必要だろう。腸内細菌分野では、ガンを誘発する突然変異分子を分泌する細菌は研究されてきたが、おそらく守ってくれる細菌の話は、私が読んできた中では最初のように思う。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。