独創的なゲームアプリなどで累計750万ダウンロードの「ハップ」さんにお話を伺いました。不思議な世界観のアプリはどのようにして生まれているのか?
※株式会社ハップ 石本さん(イメージ画像)
ハップができるまで。
石本さんは、アプリ開発をはじめる前は、何をされていたんでしょうか?
石本:
もともとウェブ系の会社でWEBデザイナーとして働いていました。Flashを使ったウェブサイトの構築がメインです。
それからフリーで独立して、その2年後に法人化してハップをつくりました。いまも社員はいなくて、自分一人なんですけどね。
デザイナーとして会社から独立するのは、不安はなかったですか?
石本:
それはあまりなかったです。元々いた会社も、10人くらいの小さい会社だったので、自分で打ち合わせして、見積もりして、デザインして、コーディングして、納品していたんですよ。
隙あらば営業もしてましたし笑。元々、独立を目指して仕事をしていたので、なんでも進んでやっていましたね。
どうして、アプリをつくりはじめたんですか?
石本:
最初は受託メインでFlashの仕事をしていたのですが、iPhoneの普及でFlashのニーズが減り、暇な時間がだんだん増えてきて。笑
それで、どうしようかなあと思ってたときに、「Flashでアプリがつくれる」というのを知って、空き時間に簡単なアプリをつくりだしたのがはじまりです。まさにピンチはチャンスでした。
ちなみに、今でもアプリはFlashでつくっています。
最初につくったのはどんなアプリですか?
石本:
最初のアプリは、ただサイコロを振るだけのアプリです。
当時、あんまり良いサイコロアプリがなかったんですよ。1個しか振れなかったり、サイコロがただの静止画だったり。
なので、シンプルに練習のつもりでつくったんですけど、それなりにダウンロードされました。いま累計で約40万ダウンロード(iOS32:Android7)されています。
そうなると「アプリって簡単じゃん」と思いましたか?
石本:
正直、最初は「あれ、こんなんでも結構いけるんだ」という印象でしたね。
でも、ダメなアプリも全然ありましたよ。例えば「ツクロス」という「自分でクロスワードパズルがつくれる」というアプリをつくったことがあって。
裏側のデータベースも自作したのですが、全然ダウンロードされなかった。時間をかけてつくったアプリが、必ずしもヒットするわけではなかったですね。
「ツクロス」はおもしろそうなアイディアですが、ダメだったんですね。
石本:
そうですね、「クロスワードをつくる」って実は難しくて。例えば『「あ」から始まって「お」で終わる4文字』ってすぐ出てこないじゃないですか。
ということで、ほとんどの人はクロスワードの問題をつくれず、アプリも全然広まりませんでした。
※試してみたが、たしかに途中で飽きてしまった。最後にバランスを調整していくのが大変。
2014年からテイストが変わりました、どうしてこの辺からふざけだしたんですか?
石本:
最初は恥ずかしくて、ふざけられなかったんですよ。
どういうことかというと、2013年まで受託も並行していたので、クライアント様に「あれ、ハップさん・・・変なアプリつくってどうしたの?」って思われるのが恥ずかしかった。笑
つまり、それまでのアプリは「本当につくりたいアプリ」じゃなかったってことです。
じゃあ、途中で目覚めたのではなく、「いまのアプリが真の姿」ってことですね。
石本:
そうですね。「こんなフリーキックはイヤだ」からは、ほんとに好きなものをつくろうと思いました。この頃から意識はすごい変わりましたね。
アプリはいつもどんな感じでつくっているんですか?
石本:
「深夜のノリ」でつくっていますね。文字通り深夜にアイデアを考えることが多いです。
つくってる時は、最初ノリノリなんですよ。「このアイデア絶対面白いから、アプリ出すまでは絶対死なない!」って、いつもより交通事故に気をつけながら家に帰ったりとかして。笑
でも、そのノリは後半には「うわ、これ絶対つまんないわ」に変わっています。ネガティブな人間なんで。
もうアプリを公開する直前は、半泣きに近いです。「どうしよう、できちゃった、クオリティ低いし出すの嫌だな、でも食うためにはしょうがないよね」と自分に言い聞かせて公開ボタンを押しています。
「こんなフリーキックはイヤだ」について
一番のヒット作「こんなフリーキックはイヤだ」のダウンロード数はどうですか?
石本:
ダウンロード数は250万ダウンロードで、AndroidとiOSは半々くらいです。250万ダウンロードのうち、半分は日本のユーザーですが、もう半分は海外ユーザーですね。
開発期間としては、大体の設定を決めてから、2週間ほどで最初のバージョンをつくりました。
「海外で100万ダウンロード以上されている」ということですよね。どのへんの国のユーザーが多いですか?
石本:
アジアは韓国や台湾など、欧米はイタリアだけピンポイントで伸びました。
イタリアで火がついた原因は謎ですが、AppStoreのランキングが伸びて、4日間くらい上位にいて、16万ダウンロードくらいされました。
ローカライズはしていたんでしょうか?
石本:
はい、アプリ名と説明文の翻訳くらいですけどね。
元々「世界で遊ばれるアプリにしよう」というのは意識していて、絵と動きだけで伝わる説明がいらないゲームにしていました。
なので「人類の進化」とか、そういう世界共通のネタに絞って、日本人にしか通じないネタは封印しました。
そういう意味で、影響を受けたのは「空気読み」というアプリです。世界観もそうですが、絵だけで「何をしたらいいか?」がわかるのが良いなと思って。
海外版のアプリ名はどうやって決めたんですか?
石本:
アプリ名は「クレイジーフリーキック」「クレイジーピッチャー」など、とりあえずクレイジーつけとけばいいかなと。笑
でもそのおかげで、韓国や台湾では「おい、クレイジーシリーズまたきたぜ」とか、言われていたり。
日本ユーザーと海外ユーザーの違いは感じますか?
石本:
欧米の人はリアクションが大きいです。「お前のアプリ面白いぜ、HAHAHA!」みたいなメールが、ユーザーから多く届きますよ。
あと欧米で「グラフィックはだめだけど、面白いね」って感想もありました。ゆるい絵なので、もっと3Dとかでリアルにしたら、欧米ウケは良かったんだと思います。
日本でダウンロードが大きく伸びたのは、どういうタイミングでしたか?
石本:
実は「こんなフリーキックはイヤだ」が伸びたのは、「東京デッドボール」が着火点だったんです。
「東京デッドボール」のリリース時に、AppBankさん、ゲームキャストさんなど、WEBメディアで一気に取り上げられて、それにつられて「こっちも面白いじゃん」と注目されました。
もうひとつは、このアプリはゲーム実況で紹介されることが多くて、マックスむらいさんなどの有名人が、You Tubeで実況動画を上げてくれた時に、すごく伸びていますね。(※Youtubeに100本ほど動画が上がっている)
※「こんなフリーキックはイヤだ」のランキング推移。(データ参照:AppAnnie)
「こんなフリーキックはイヤだ」のマネタイズについて
「フリーキック」は広告モデルかと思いますが、マネタイズはどうですか?
石本:
ダウンロード数の割には、ぜんぜんですね。というのも、最初は広告マネタイズにあまり興味が無くて、半年くらいは1ダウンロードあたり1-2円しか稼げていなかったんです。
いまではすこし頑張って、といってもインタースティシャル広告(全画面広告)を入れたくらいですけど、1ダウンロード4~5円くらいの収益性まで改善しました。
最初は、インタースティシャル広告を入れるのが怖かったんですよ。ゲームの進行が広告で途切れる感じがして、ユーザーに嫌われるかなと。
海外と日本で、広告収益に差が出ますか?
石本:
出ますね、海外の収益性はもう日本の半分以下です。例えば、イタリアで16万ダウンロードされても、収入的にはぜんぜん大したことにならないです。
そもそも、ハップのアプリは収益性が高くなくて、「東京デッドボール」とか「トースト少女」とかもそうですが、せいぜい1ダウンロード2~5円くらいなんですよね。
※ハップのアプリは累計750万ダウンロード。東京デッドボール(100万ダウンロード)、「トースト少女」、「くるくる選手権」(40万ダウンロード)などなど。
なるほど、「もっと、収益性高くていいのかな」という気もしますけどね。
石本:
世界観を壊されたくないので、できればバナー広告をあまり入れたくないんですよね。本当はインタースティシャル広告だけでもいいかなと思ってます。
あと、今は目先のお金はあまり気にしてないですね。まずはユーザーに楽しんでもらうのが第一です。
それで、ブランド価値というと大げさですが、「ハップ」を気に入ってくれる人が増えて、結果的に総ダウンロード数が上がれば良いかなと思います。
独自路線のアプリは、競争にまきこまれにくい。
2年前と比べて「アプリ業界、すごい変わった」と思うことってありますか。
石本:
Androidの市場が伸びてきているのは感じます。ダウンロード数や収益が上がりやすくなってきている。
逆にiOSは競争が厳しくなったみたいですが、僕のアプリは影響が少ない方かもしれません。
世界観が独特なので、コアなファンがついているのかもしれませんね。それを感じる瞬間ってありますか?
石本:
そうですね、Twitterで「このアプリ面白い」ではなく「ハップのアプリ面白い」と言ってくれたり、実況のコメントで「あ、ここのアプリ知ってる」と言ってくれたり。
ハップのアプリでは、意図的にキャラ素材などを使い回していて、それで「この敵あれにも出てきたやつじゃん」「またおまえか」みたいに、絵を覚えてくれてるのだと思います。
「ファンを増やしていく」という意味で、他に工夫していることはありますか?
石本:
工夫と言えるかわからないですが、僕のアプリって悲しいことに、Twitterとかで「クソアプリ」とか「つまんねえよ」って、たまに言われているんですね、まあ事実なんですけど。笑
そういうツイートをエゴサーチして、何も言わずにファボるようにしています。
すると、その後「もちろんいい意味で!」とか「最後までやってみたら、面白かったわ」とか、弁護ツイートしてくれたりして。笑
だから、Twitterでディスられたら、無言でファボるのオススメです。それがきっかけでフォローしてくれる人もいますしね。
※一応説明、ファボるとは「Twitterでお気に入りに登録する」こと、相手に通知がいく
今ひとりでつくられていますが、チームでアプリをつくるのは難しそうですか。
石本:
今の自分の作り方ですと難しいですね。やはり1人の利点があって。企画書も要らないし、思いついたらすぐモックもつくっちゃえて、気楽です。
絵も外注しようしたことがあるのですが、ポーズのニュアンスを伝えるのが難しかったり、絵がうますぎても面白さが伝わらなかったり、結局自分で絵を練習して描いているという経緯もあります。
あとつくりながら、どんどん仕様を変えられるのも、一人ならではですね。途中で変更するとプログラマーは困るでしょうし、僕も無理なこと言えない性格なので。
でも今後は体制変えて、いろいろ挑戦してみたい気持ちもありますね。
取材協力:ハップ
編集後記
ありのままが一番でしたという話。あと、「こんなフリーキックはイヤだ」がYoutuber・ゲーム実況で紹介されやすい、というのはなるほど。
激ムズ系のゲームもそうだけど「ツッコミを入れやすい」「リアクションが取りやすい」「単調でなくバリエーションがある(トラップやステージ)」という特徴があると、紹介されやすいのだろうな。