スマートフォンのタップ1つで人の行動が変わるネット時代には、より人の心に届くコンテンツが大きなパワーを持ちうる。アニメ、マンガ、日本的な文化が、世界から評価されているのだとするとチャンスのはずだが、政府のコンテンツ政策はどう議論されていて、なにが課題なのか? 慶應義塾大学教授の中村伊知哉氏に『コンテンツと国家戦略』(角川EPUB選書)を書かれた背景を聞いた。
10年間で状況が一変、市場はむしろ縮小した
−− なぜこの本を書かれたのでしょう?
中村 知財本部(知的財産戦略本部)が内閣官房にできて10年なんですよ。10年間コンテンツ政策を政府をあげてやってきたんですが、メディアの環境がかなり変わった。コンテンツ以上にソーシャルメディアなど、コンテンツだけではなくそれを取り巻くコミュニケーションとコミュニティーが大きな意味を持つようになってきた。それから、ブロードバンドも地デジも普及して、日本全体がデジタル列島になりました。デバイスも10年前の中心だったテレビとパソコンとケータイから、スマホとかタブレットとかサイネージなどになってきた。つまり、根本的に見直さないといけない時期に来ているわけです。
−− なるほどそういう理由ですね。
中村 それから、10年前に知財本部ができたときは、コンテンツが大きな産業になると考えていて、10年間で5兆円ぐらい拡大すると目標として掲げられていたんですが、成長してないんですよ。
−− 拡大しようといったのに伸びていない?
中村 いえ、減ってます。
−− 減ってるんですか!!
中村 それはアナログのコンテンツ産業の市場が減っていて、デジタルがそこまで大きくなっていない。というのと、そもそもコンテンツ産業はGDPにほとんど依存するので、コンテンツだけ伸ばそうとしても無理なんで、海外市場をやんなきゃいけないとか、所謂エンタテインメントだけじゃないコンテンツを大きく取り込んでいかないといけない。知財本部の中でそういう議論をやってるんですが、それを外に向けてきちんと発信しようというわけです。
−− クールジャパンに関しても、どんなことなのか気になります。
中村 クールジャパン政策も、やっと政府全体が乗り出すようになってきました。漫画アニメゲームを尖兵にしながら、ファッションとか食とか工業デザインとか観光にどう役立てていくかという議論も展開されるようになった。だからコンテンツ産業の12兆円を15兆円にという話だったのが、GDPの470兆円をいかに拡大するかということになってきています。
−− 日本の商品やサービスを売り込むというよりも、好きになってもらう。
中村 クールジャパンという言葉は、ダグラス・マックレーというアメリカのジャーナリストが言い出したんですね。つまり、海外から入ってきた日本の評判なんですね。ただ、それがビジネスに変えられてなかった。10年経って振り返ると、そこのビジネスは韓国がとっているわけです。
−− 10年前というと、ニューヨークタイムスの記者とニューズウィークの東京支社のかたが共著で書かれた本がありましたね(『巨額を稼ぎ出すハローキティの生態』)。まさに、GNPならぬGNC(グローバル・ナショナル・クール=国民総文化力)は世界一だとか、マイクロソフトのビル・ゲイツ元会長が3000億円でキティーちゃんの権利を買おうとしたが断わられたというウワサが出たりとか。
中村 それで、各コンテンツ業界、音楽にしろ、アニメにしろ、ゲームにしろ、海外に出て行くという取り組みはあったんだけど、点でしかなかった。それを横展開して面的にできるんじゃないかという議論で、韓国はそれを意図的にやって成功した。国家的にやった。それは韓国のK-POPとか韓流ドラマのようなものと、Samsungのような家電をセットにしたりとか、車のキャンペーンをそういう人たちにやってもらうとか。それはキム・デジュンン大統領時代から、ずっと続けていて政府が相当後押ししてるんですね。それと、海外で、なぜK-POPがそんなに人気があるのですか? と聞くとK-POPの人たちは呼んだら来るもん。海外にちゃんと出かけていってビジネスをやってるというんですね。
−− 売りに行ってると。
中村 日本は、コストがかかって収入に見合わなかったりするとどうしても国内でとなる。でも、ここ1年で海外市場もガラッとかわってきた。
−− それと関係してちょっといいですか? 先日あるスマートフォンの会合に出たのですが、スマホ広告関連の会社の方がアジア各国から引っ張りダコだというのですね。スマートフォンは、日本は米国より遅れて動いているけけど、アジアよりは少しだけ早い。その人は、英語も現地語もできないけどインドネシアで頑張っていますと言っていました。ここ1年から2年くらいが、ピンポイントでもの凄いタイミングではないでしょうか?