「ヒューマンキャピタル2009」で、「職場のメンタルヘルスケア」についての講演を行った。インターネットの普及でじっくり顔を見て話もしない現代。メールでメンタルヘルスケアは可能だろうか。
日本の自殺者数は11年連続で3万人を超えたと言われている。勤労者のストレス状況、働き盛りの自殺者の急増から職場のメンタルヘルスが叫ばれている。
「仕事は志事であって、死事じゃない」――企業の人材/組織戦略のための専門イベント「ヒューマンキャピタル2009」において、横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長の山本晴義氏が、「職場のメンタルヘルスケア」について講演した。
仕事熱心で、責任感が強くて、つきあいも良い人。周りからの信頼の厚い職場で必要とされるタイプがうつ病になりやすいと言われるが、「働いている人に責任感がないわけがない。これは働いている人みんなに当てはまる。全員の問題だ」と山本氏。
うつ病は男性よりも女性の方が多い。割合としては女性は男性の倍。一方で自殺者は7割が男性。そして労災認定された自殺者の75%が病院に行ってない。それもすべて男性だという。
「女性はいい意味でおしゃべりだから誰かしらに相談している。男は黙ってビール(笑)。誰にも相談しない。お酒はうつ病の薬になりません。お酒は踏みとどまっているブレーキをはずしてしまうことがあるので危険です」
山本氏は不特定多数の人からメールで相談を受けている。月にして約500件のメールが来るが、来たメールには24時間以内に返事をする方針だという。山本氏は「みなさんが管理職の立場だとして、部下から『死にたい』とメールが来た場合どうしますか」と聴講者に問う。
こういったメールに返事をする場合、「いいこと」「心に響くこと」を考えて、悩んでしまうかもしれない。しかし山本氏は次のようにアドバイスした。「メールにいいことを書く必要はない。それよりもレスポンスを早くしなさい」
「ばか野郎死ぬな」「何があった」――それだけでいい。考えている間にメールを送った本人は自殺しているかもしれない。それよりもメールのやりとりを往復するだけで、思いとどまってくれる可能性が高いのだと山本氏。
山本氏は「メールでうつ病を治すのではない」と補足する。インターネットの普及で、フェイストゥフェイスのコミュニケーションが減ってきた。だから日ごろの気配り、声かけ、声を聞く、つなげる・協力が必要という。「日ごろネクタイをしている人が、ネクタイをしていない。いつも元気なのに顔色悪いね。この気付きが大切です」
周りの人は気付いたらきちんとサポートしてほしいと山本氏。「頑張ったんですね」と言うのはもちろん、「(あなたは)うつ病になっていると思います。精神科医に相談してください」と病院に結びつけてあげることが大事。そして最後に必ずこう付け加えよう。「必ずよくなりますよ」と。
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