【集中連載】「辞めません。でも、頑張りません」。そう考える30歳前後の社員が増えている。そんな彼らのことを筆者は「新・ぶらさがり社員」と呼ぶ。目的がないゆえに、会社では時間を「潰す」ことに明け暮れ、常に70%の力で仕事に取り組む。そんな彼らの実態に迫る。
辞めません。でも、頑張りません。会社を辞める気はない。でも、会社のために貢献するつもりもない。そんな30歳前後の社員が増えている。彼らのことを「新・ぶらさがり社員」と呼ぶ。
新・ぶらさがり社員は目的を持たない。目的がないゆえに、会社では時間を「潰す」ことに明け暮れ、常に70%の力で仕事に取り組む。本書では、彼らのマインド低下を表すデータを豊富に紹介している。その一部を紹介しよう。
「周囲の人に主体的に関われている」(社会人1〜3年目:8.4%、社会人7〜9年目:4.5%)、「重要な業務を担っていると思う」(社会人1〜3年目:10.3%、社会人7〜9年目:8.4%)、「仕事で自分らしさを発揮できている」(社会人1〜3年目:9.7%、社会人7〜9年目:5.8%)。
新人・若手よりも、会社の中で存在意義を感じられないのは、いったいなぜなのだろうか?
本書では、企業研修の講師として6000人以上の人材育成を手がけてきた筆者が新・ぶらさがり社員の実態に迫るとともに、30歳社員の「目の色」を変えてやる気にさせる方法を詳しく解説する。
先日、入社して7年目になるメガバンク勤務の女性と話したときのことである。
「あなたにとって仕事とは何ですか?」
人生の命題ともいえる質問をぶつけたところ、「うーん、お小遣い稼ぎのアルバイトみたいなものかな」と彼女は軽く答えた。
私にとってこれは、かなり衝撃的だった。
この女性をAさんとしよう。
Aさんはもともと大学では建築を学び、卒業後は不動産会社に就職した。本当は設計を手掛けたかったが、実際には営業に回ったり、登録や申請の手続きをしたり、引越しまで手伝わされたりと、望む仕事ではないので次第にやる気を失っていった。プライベートで結婚したという事情もあり、勤務条件や収入が安定しているメガバンクに転職したのである。
銀行では住宅ローンに関する業務を行っている。
Aさんいわく、Aさんのいる部署は「銀行の墓場」。左遷されたり、銀行を定年退職した人が腰かけ程度にいる部署である。仕事はほとんどないので、まわりもみなダラダラと過ごし、トイレに行ったまま1時間帰ってこない人もいるのだという。
そんな部署で働いていたら、身も心も腐りきってしまうだろう。不満が爆発するのかと思いきや、「仕事や会社に求めることはありますか?」と尋ねたら、彼女は「現状維持でいい……」とポツリと答えたのである。
「仕事はつまらない」「適当にやればいい」「私は向上心がないから」と、Aさんはネガティブな言葉ばかりを繰り返す。話を聞いているこちらまで気が滅入り、疲れてしまった。
まだ30歳だというのに、この「あきらめ感」は何だろう。仕事がつまらなくても、会社の環境を改善しようと思わない。与えられた仕事はこなすが、それ以上は何もしようとしない。つまり、給料さえもらえればいい。まるで定年間近の社員のようである。
私は、Aさんが特殊な例だと思ってはいない。Aさんのように問題のある職場ではなくても、多くの企業で30歳前後の社員がAさんと同じようにあきらめた社員になっている。
会社は辞めない、けれども仕事は頑張らない。
仕事に対するやる気はない、けれども与えられた仕事はこなす。
与えられた仕事はやる、けれども管理職になって責任を負うのは嫌だ。
私はこのような傾向の30歳前後の社員を「新・ぶら下がり社員」と呼んでいる。
数年前まで、企業の経営者や人事担当者からよく聞いたのは、「今の若者はすぐに会社を辞めてしまう」という悩みだった。入社して3年に満たない社員が辞めてしまう、30歳前後のこれから組織の中核を担う中堅社員が転職するといった人材の流出に頭を悩ませていた。
その後、リーマンショック後の不景気によって転職市場は冷え込み、失業率は上がり転職したくてもできなくなってしまった。人材の流出に歯止めがかかり、胸をなでおろしている企業も多いだろう。
しかし安堵したのもつかの間、ここで新たな問題点が浮上してきた。それが新・ぶら下がり社員の出現である。
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