Location via proxy:   [ UP ]  
[Report a bug]   [Manage cookies]                
TOP PAGE BLOG ENGLISH CONTACT




 郵便事業会社の経営を根底から脅かしているペリカン便との統合問題の「経営判断」はどのようにして生まれたのか。続けて、

郵政ガバナンス検証委員会専門調査委員会報告書を見ていくとしよう。「検証総括書」から引用する。

 

〔引用開始〕

 

 

② 日本郵政・郵便事業会社・日通間の統合基本合意書(平成20年4月25日)の関係

 

* 注目すべき事実等 

 

・平成19年10月5日の基本合意書締結後、日本郵政・郵便事業会社と日通は、平成20年4月に予定されている本件事業統合についての最終契約に向けての所要の協議・検討を行うべく、事業統合検討委員会を設け、両者それぞれが国内証券会社をファイナンシャルアドバイザー(以下、「FA」という)とするなどした上、平成19年末までに、それぞれの宅配便事業についての年間の貸借対照表及び損益計算書を作成し、同作成に係る財務諸表を基にして、JPEXにおける事業統合後の1年間の事業収支を算出することに取り組んだ。

 

しかし、郵便事業会社・日通の両社ともそれまで宅配便事業のみの財務諸表を作成していなかったことなどから、作業は遅々として進まず、平成20年3月末の時点でも、日本郵政・郵便事業会社側算定のJPEXの上記事業収支と日通側算定のものはともに営業損失が発生する見通しであったが、両者は約65億円も相違しており、同年4月にJPEXの同事業収支を正確に予想するにはほど遠い状態であった。

 

・また、郵便事業会社にあっては、日本郵政の依頼による上記国内証券会社に飽き足らず、関係コンサルタント会社をFAとするなどして関係作業を進めた結果、同年4月10日の段階でJPEXの上記営業損失は約190億円となったものの郵便事業会社との連結(以下、「連結」は郵便事業会社との関係をいう)では約379億円の営業損失が見込まれるなどしたことから、北村会長・團社長は、直ちに本件事業統合を行うことは困難との結論に達し、設立後のJPEXにおいては、当面、事業統合は行わず、郵便事業会社並びに日通から貨物の集配を委託する程度にとどめ、その後、段階的に業務提携を拡大して行き、事業統合のメリット実現が見込まれた場合には同統合を行うとの案をまとめ、同月10日ころ、西川社長に同案を進言をした。

 

しかし、同社長は、FAである国内証券会社から聞いている内容とは違うとして、同案を拒否し、同4月中に事業統合についての契約を締結し、同統合をやり切るように決定した。

 

・その結果、日本郵政・郵便事業会社と日通は、JPEXの事業収支が確定していない状況下で事業統合についての最終契約を締結することはできないため、同契約は同年8月末日とする一方、同4月の25日には、同年6月1日に共同出資によりJPEXを設立すること、同年8月末日に最終契約を締結すること、同年10月1日にJPEXへのゆうパックとペリカン便の業務委託を開始し、平成21年4月1日には両宅配便事業を会社分割によりJPEXに承継させる(すなわち事業統合を実現させる)ことなどを内容とする日本郵政・郵便事業会社・日通の3者間の統合基本合意書(以下、「統合基本合意書」という)を締結することとし、現に同4月25日にそのことが実行された。

 

・なお、同年4月17日ころ、日本郵政は北村会長らにJPEX単独の事業収支が開業1年目に21億円の黒字となるなどとなっている資料を示したが、そのような数字は国内証券会社のそれまでまとめていた数字と余りにも相違した良好なものであったことから、郵便事業会社の担当部長において不審に思い、その後、同証券会社の担当者に同資料における数字の根拠を確認したところ、同担当者は、同数字は日本郵政の指示で作った数字であり、具体的な根拠に基づくものではないなどと説明した。

 

しかして、現状、その「日本郵政」というのが、具体的にどの人物であるのかが定かではないのであるが、いずれにしろ、西川社長は日本郵政の者から実現可能な数字として同資料を渡され、これを信じたことにより、北村会長らの提示した数字を真摯に検討することもなく、その場で上記のとおりの決定を行ったとも思われる。

 

しかし、その一方で、B次長は、同年4月3日、事業統合検討委員会で、同年3月末時点で日本郵政・郵便事業会社算定の事業収支が約295億円の営業損失となったことについて、「ほとんど改善の余地がないと思われる」旨発言し、また、その後、日通に対して、「JPEXが落ち着くまで相当の資金手当てをしなければならないので応分の負担を願いたい」などと発言

していることに照らすと、西川社長が、上記資料の数字を信じて上記のとおりに決定したというのも不自然であるようにも思われる。

 

* ガバナンス上の問題点

以上のとおり、西川社長があくまで事業統合を行うべく決定をするについて、上記の国内証券会社に係る資料を信じていたか否かについては、にわかに断定しがたいものがあるが、仮に信じていたとしても、北村会長らの提示した数字や案を真摯に検討することもなく一方的に排斥し、上記のとおりに決定して、結果、法的には郵便事業会社も当事者になることによって基本合意書よりも法的な意味の重い統合基本合意書の締結に至らしめたのは、経営判断として所要の検討が不十分であったと言えるし、また、B次長から西川社長に対し上記委員会における発言に応じた報告が上がっていなかったとすれば、当時の日本郵政における事務方の経営陣に対する情報等の伝達にガバナンス上の大きな問題があったと言わざるを得ない。

 

③ 株主間契約(平成20年8月28日)の関係

 

* 注目すべき事実等

 

・平成20年4月25日の統合基本合意書締結後は、郵便事業会社に團社長を本部長とし、執行役員らをメンバーとする宅配便統合推進本部(以下、 「統合推進本部」という)が設置され、それまで日通と交渉を行っていた日本郵政に代わって、郵便事業会社の同統合推進本部が日通と打合せを行うようになり、以後、財務及び法務各デューデリジェンス(以下、「DD」という)などを実施するとともにJPEXの事業収支を詰めていったが、同年6月2日には統合基本合意書に基づき郵便事業会社と日通が各3億円を出資してJPEXが設立された。

 

・しかして、その後もJPEXの事業収支(正確には年間の同収支予測であるが、以下においても、単に「事業収支」という)については事業統合を是認するには未だ大きすぎる赤字額が見込まれていたが、同年8月7日の郵便事業会社の取締役打合せ(西川社長も社外取締役として出席)で示された事業収支は、連結では赤字185億円であって前月算定(赤字202億円)よりも若干改善されていたが、JPEX単体では赤字172億円となっていて前月算定(赤字57億円)よりも大幅に赤字が増えていた。

 

 

・また、開業5年度の見通しについても、JPEX単体で5年度すべてが赤字であり、その累計は806億円の赤字、連結では943億円の赤字というものであった。西川社長は、これに対して、「数字が信用できない」などと言って叱責し、また、それに平仄を合わせる形で他の一人の社外取締役も「3年単黒、5年累損解消が望ましく、その方向が見えるようにしてもらいたい」などと発言した。

 

    これを受けて、郵便事業会社の統合推進本部では事業収支を検討し直し、同月22日の取締役会には、開業4年度目にJPEX単体が黒字化するなどの事業収支を提出した上で、同月28日の取締役会において、最終契約である株主間契約(以下、「株主間契」という)締結を決議し、同日、日通との間で同株主間契約を締結した。

 

* ガバナンス上の問題点

 

・ 上記8月7日の取締役打合せで示された事業収支は、現に宅配便事業をおこなっている郵便事業会社の統合推進本部において相応の期間にわたって検討してきた中で算定されたものであるから、その当時においては最も信頼するに足る事業収支であったものと言えよう。

しかるに西川社長らが、上記のとおりの対応を行ったのは、本件事業統合を至上命題とし、そのための辻褄合わせをしょうとしたのではないかとすら考えられるのであって、経営判断のあり方としてガバナンス上極めて問題と思料される。

 

・また、同対応が郵便事業会社をして上記株主間契約の締結に至らしめ、それによって本件事業統合が確定し、結果、後記のとおりJPEXが平成22年7月に合計983億円もの累積損失が見込まれる状態で解散するなどの運びとなっていることを考えると、同対応の意味は重いと言わざるを得ない。

 

 

 

〔引用終了〕



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )



« 郵便事業の巨... 「05年郵政選... »