自分のなかにあったマネジメントに関する固定概念の続き。リーダーシップに関する固定概念を棚卸しして自覚的になるためにまとめます。
リーダーシップとマネジメントの違い
自分の中ではこれはかなり明確です。私はVisionary Leadership and Strategic Managementという言葉を多用していますが、マネジメントが戦略的に地盤を作ってリーダーシップがその上でreactiveに問題解決に動くイメージ。例えば文化を醸成してガードレールを用意するSREはマネジメント的だと言えます。
他の観点から言うと、私が言うマネジメントはドラッカーが提唱するものを指していて、ほぼほぼ経営のことです。顧客の創造に必要なことは全部やる。しかし「やる」というのは直接手を下すことではなく、権限委譲や組織文化づくり、つまり「自分より強い人に気持ちよく働いてもらう」ことを指しています。だからこそのビジネスモデル、だからこその目標設定です。なお自分のマーケティング側の解像度がイノベーション側のそれよりも粗いのが、個人的には課題だと思っていますがここでは割愛。
そしてリーダーシップは現職で田中聡先生が勉強会を開いてくださった、チームワーキング本の定義がわかりやすいです。私の解釈ではリーダーシップとは知的労働者みんなが持つべき「働き方」「新常識」であり、それが目標を握り続けるなどのチームの行動原理を通じて働く上での共通言語として機能します。
だからこそ知的労働者が勤める企業においては、少なくともMVVのうちValueはリーダーシップを内包するものになるでしょう。現職の行動指針はまさにそんな感じですし、前職の「問題解決の核になる」もまさにリーダシップのレゾンデートルを表しています。
で、なんでこの「リーダーシップとマネジメントの違い」を一番最初に持ってきたかと言うと、同僚とまずここをすり合わせないと会話が成立しないからなんですね。例えばこちらは同僚が書いたnoteなんですが、このnoteで語られるリーダーは戦略的に組織機能を設計する役割を担っていて、私の定義ではマネジメントに踏み込んでいます。リーダーシップという概念的な話ではなくチームリーダーという具体的な役割について議論しているのだと私は理解しましたが、この理解を敷かずに「それリーダーじゃなくない?」と突っ込むのは違うわけです。ので「リーダーシップとマネジメントの違い」を自分の中できちんと持っておいて、相手の提示した概念とのマッピングを構築しながら議論することが必要です。
リーダーシップとは必ずしも情熱を持っていたりヒエラルキーの頂点に立っていたりするとは限らない
リーダーシップとは熱い情熱を持って部下を引っ張ることではありません。もちろん理想や目標を掲げるのは立派なリーダーシップですし、引っ張ることはリーダーシップの形のひとつではあります。ここで言いたいのは「リーダーが全員そうである必要はない」ということです。むしろ熱い想いを語り続けるあまりに周囲の声や自発性を拾えないようであれば、リーダー失格とすら言えます。情熱型であることはリーダーシップの発現の形のひとつでしかなく、必要条件でも十分条件でもないわけです。
ではヒエラルキーの頂点に立つことはリーダーシップかというと、これも違います。肩書がリーダー業務を楽にしてくれる部分はもちろんあるのですが、リーダーシップとはむしろ顧客や課題に直接接する人間こそが発揮するべきものであり、頂点に立つ人にはそれを邪魔しないことが求められます。よってどちらかといえばマネジメント側の存在だと言えるでしょう。
周囲に影響をめっちゃ及ぼしている方がリーダー適性がないという自己評価を持っている場合、だいたいこのあたりのかみ合わせがズレていたりします。ので、いやいやめっちゃエナジャイズしてますやん、巻き込み力高いじゃん、と思った場合は「リーダーっていろんなやり方があるんですよ〜」みたいな話ができます。
リーダーの言うことは常に同じだが、目標やアプローチはコロコロ変わる
リーダーの言動は常に一致しなければなりません。リーダーが顧客が第一だと言うならば、それは常にそうである必要があります。昨日までは顧客が第一だったけど、今日からは株主を優先します!という人はリーダーではありません。いかに顧客が重要で、そのために我々がどうしたいかを手を変え品を変えて力説する人こそが良いリーダーです。
一方で、良いリーダーが取るアプローチはコロコロ変わります。それは理想(TO-BE)が変わらずとも現実(AS-IS)が変化するためであり、仮説検証を通じた学習が頻繁に行われているためでもあります。先月と今月では見ている指標が変わるでしょうし、昨日と今日では最優先のEpicが変化しているでしょう。だからこそチームは目標を握り続ける必要があります。
ここはリーダーシップの理解がズレると言うか、働き方についての理想像がズレがちなところかなと思っていて、マネージャが働き方の理想像を継続的に発信していく必要がありそうです。
リーダーシップは良いマネジメントに依存している
アプローチや目標がコロコロ変わる必要があるということは、それが可能な勤務体系や評価制度が必要です。例えばプロダクトバックログの順番を変えると混乱をきたすようなコミュニケーションが行われてはいけませんし、半年前に設定した目標の達成度合いで評価されるようでは良いリーダシップは発揮できないということですね。ここはマネージャがリーダーのために心を砕いて戦略的に整備するべきところです。
これは組織内に閉じた話ではありません。目標やその優先度を変えるということは、顧客に提供する価値の内容や順番が変化することを意味します。ですから顧客の理解を得るためのコミュニケーションをすることや、過多なコミットメントを避けることもまたマネジメントには必要です。情報システムで言うならば顧客にビジョンへの共感を持っていただき、具体的な価値を提供し、継続的にブランドを作ることで、UIや機能の変化をポジティブに受け止めていただけるだけの関係性を構築するということです。これはマーケティングであり明確にマネジメントの領域です。
ですからマネージャはリーダシップを理解し、良きリーダーに寄り添えるようにしなければなりません。マネージャの払う工数の大多数はここに突っ込まれるべきなのではと思うことも多いです。
まとめ
マネジメントが「全部自分でやれ」ならリーダシップは「皆を巻き込め」です。ひとりでできない問題解決をするためにビジョンを掲げて人を巻きこむことを指します。
リーダーシップは今日の知的労働者が持つべき新常識であり、その点で採用の時点で考慮するべきものです。MVVや行動指針に組み込むのが一番わかりやすいでしょう。
またリーダーシップとマネジメントは両立します。問題の核となる能力と問題解決に向けた戦略を考えることは、問題解決の両輪であって排他的なものではありません。
という3点が噛み合わないと話がどこまでも発散するので、リーダーやリーダシップについて話すときはその言葉の意味するところや議論の目的を見極めるところから入る必要がありそうです。