出版社内容情報
痴呆老人はどのような世界を生きているのだろうか.彼らは何を見,どう感じているのだろうか.痴呆を病む人の治療・ケアに20年以上携わってきた著者が,その心的世界を解き明かし,彼らの心に添ったケアの道を探る.
内容説明
痴呆を病む人たちは、どのような世界を生きているのだろうか。彼らは何を見、何を思い、どう感じ、どのような不自由を生きているのだろうか。痴呆老人の治療・ケアに二〇年以上携わってきた著者が、従来ほとんど論じられてこなかった痴呆老人の精神病理に光をあて、その心的世界に分け入り、彼らの心に添った治療・ケアの道を探る。
目次
第1章 痴呆を病む、痴呆を生きる
第2章 痴呆を生きる姿
第3章 痴呆を生きるこころのありか
第4章 痴呆を生きる不自由
第5章 痴呆のケア
終章 生命の海
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
あこ
10
読み返したい一冊。認知症を病む人たちのこころに、以前より近づけたと感じる。認知症の初期(未来への不安)は精神症状、中期(過去への執着)に至る時期は行動障害、末期(今、ここに)は身体的問題が頻発する時期。妄想の物盗られ感情は喪失感と攻撃性の狭間で揺れ動いている。「不安と寂寥こそが、こころの奥底に潜む本来の感情であるに違いない」と著者。記憶は失われてもエピソードにまつわる感情は蓄積されていく。周辺症状は障害受容の過程で生じるとまどいの表現であるという考え方は理解しやすかった。2015/11/29
tomatobook
6
痴呆は疾患名ではなく症状レベルの名称。脳障害の直接的なあらわれである中核症状(見当識障害・記憶障害など)にケアは届かないが、周辺症状(徘徊・幻覚妄想状態・意欲障害など)は周囲の心がけで変わる。できないことは要求せずできることを奪わない。耕治人の私小説や臨床例を交え痴呆の経過がよく分かる。2019/05/22
こと
5
大学での指定図書。 認知症のことが詳しく書いてある本。正直、読んでいてしんどくなった。でも目を逸らしてはいけないことだとも実感した。読んでいて、沢山の身近な人が思い浮かんだ。
脳疣沼
5
新書を読んで泣きそうになったのは初めてである。痴呆には、人という生物の全ての有り様が凝縮されているように感じる。これから日本社会は痴呆の方が増えるわけだが、それをうまく受容できる社会は、全てのものにとって素晴らしい社会となるだろう。2017/05/25
Hiroshi
5
未だ認知症が痴呆症と呼ばれていた頃に書かれた本。認知症は記憶障害・見当識障害等の中核症状と幻覚妄想状態・せん妄・徘徊・弄便等の周辺症状がある。中核症状は原則完治する薬はない。そのため周辺症状を和らげることを目指した本。自己の責任で対処することの困難という認知レベルの障害と、適切に対処できないと言う不安等の情動反応性の保持との間のズレ。そのズレに対処できなく周辺症状が現れる。自己保全のために攻撃的にならざるを得ないのだ。患者の心に沿うようにケアをせよと。認知症の方がどのように感じているのかがわかり大変良い。2015/03/18