ゼネラル・モーターズ(GM)が瀬戸際に立たされている。12月14日の報道によれば、GMなど自動車大手に対する上院での救済法案の協議決裂を受け、米政府は12日、140億ドル規模の年越えの運転資金の融資などを考えているという。再建が時間との戦いになってきたということである。

 ビッグスリー(米自動車大手3社)、中でもGMは米国自動車業界の象徴的存在であり続けた。

 ところが、2005年に13年ぶりの赤字に転落すると、その後の業績は目に見えて衰え、ついには国の資金援助なしに年を越せないまでに至った。破綻の足音が耳元まで迫ってきたと言っていい。こうしたGMの衰退を財務諸表ではどのように表現されてきたのか。それは数字から読み取ることができていたのか。そして、GMの再生は可能なのか。誰でも入手できる財務情報を使って検討していきたい。

損益計算書

 絶望的な粗利益率

 最初にGMの衰退が損益計算書にどのように表れていたのか見ていくことにする。過去5年間で、業績の激しい変わり目は2005年だった。13年続いた黒字決算に終止符が打たれ、約1兆円の赤字に転落したのだ。この年を境に業績不振は続き、2007年度の赤字は約3兆9000億円を記録した。

 赤字になったのは、売上総利益(粗利益)が2004年度と比べて、約2兆円減ってしまったからだ。16%あった粗利益率は一気に5%を切ってしまった。粗利益率が低下した理由は収益減少とコストの下方硬直性にあった。ヒット車不在による販売台数の減少で収益が落ち、競争力の弱さによる値引き幅の拡大で利幅が低下した。

  2003 2004 2005 2006 2007
売上高合計 185,837 195,351 193,050 205,601 181,122
売上原価合計 152,872 164,028 183,832 186,689 166,579
売上総利益 32,965 31,323 9,218 18,912 14,543
売上総利益率 17.7% 16.0% 4.8% 9.2% 8.0%
販売費及び一般管理費 (合計) 11,737 25,969 13,003 13,650 14,412
研究開発費 0 0 0 0  
固定資産償却費 5,567 0 0 0  
利息純額(営業) 0 0 0 0  
特別損失(利益) 0 1,584 12,259 11,085 4,521
その他営業費用合計 12,664 4,315 0 0 0
営業利益 2,997 -545 -16,044 -5,823 -4,390
利息純額(営業外) 0 1,400 -1,185 165 -1,863
固定資産売却損益 0 0 0 0 0
その他収益費用(純額) 0 0 0 0 0
税金等調整前当期純利益 2,997 855 -17,229 -5,658 -6,253
法人税合計 710 -1,126 -6,046 -3,046 37,162
税引後利益 2,287 1,981 -11,183 -2,612 -43,415
少数株主利益 0 0 -48 -324 -406
持分法による投資損益 612 720 610 513 524
異常項目前の当期純利益 2,899 2,701 -10,621 -2,423 -43,297
異常損益項目合計 960 0 204 445 4,565
当期純利益 3,859 2,701 -10,417 -1,978 -38,732
1ドル100円で換算

 もう1つは、コストが経営者の思惑通りに下がらなかったからだ(ちなみに、この2つの体質は2008年まで一向に改善されず、ついには致命傷となった)。2005年、GMは北米12拠点の閉鎖と3万人の人員削減を実施した。この結果、粗利率は4.8%から9%に上昇したが、2007年には再び8%に低下した(トヨタは18%)。労働組合が強いため、賃金カットはままならず、しかも休職中の従業員に対して所得を補償する米自動車業界特有の慣行がある。さらに、年金や退職者に対する医療費も負担しなくてはならない。

 ちなみに、時間当たり人件費はGM工場従業員78.21ドルに対して、トヨタ自動車の米国工場従業員47.6ドル。GMの時間単価が高いのは、福利厚生費としての年金・医療費負担(約50ドル)が含まれているからだ。

 こうした事情で人件費は簡単には減少しない。生産縮小による工場稼働率の低下と人件費の重しは、製品原価を押し上げ、粗利率は一向に良くならないのである。

 2007年度の最終赤字は約3兆9000億円となった(トヨタは1兆7000億円の黒字)。営業利益4300億円に対して、法人税が3兆7000億円も計上されたからである。これは、将来にかけて十分な利益(課税所得)が見込めないと判断したため、繰延税金資産(3兆6000億円)を取り崩したからだ。損益計算書だけ見ていると、2007年に急に業績が悪化したように見えるが、実はずっと以前から、深刻な事態は続いていたのである。

貸借対照表

債務超過と退職給付債務の二重苦

 貸借対照表は損益計算書では見えなかったGMの別の姿を表している。

 第1に指摘すべき点は、GMは2006年12月期からすでに債務超過に陥っていた、ということだ。2004年度には2兆7000億円あった純資産(会社の富)は、2006年度になると5700億円の債務超過に転落し、2007年にはその額は3兆7000億円に達した。つまり、GMの富はすでに底を突いてしまったのである。別の言い方をすれば、借金は残っているのに、それに見合う資産が3兆7000億円も足りないということである。この状況は、米国経済の縮図と言っていい。

 第2に、2005年には23兆7000億円あった金融部門の債権が、2006年になると349億円に減少している点である。これは、金融子会社であるGMACの株式のうち51%を、投資グループに売却したからである。この結果、GMACは連結対象から外れ、貸借対照表上の売掛債権と長期借入金は大幅に減少した。

資産 2004 2005 2006 2007
現金及び短期投資 19,803 16,603 23,912 26,688
売掛金 6,713 5,917 8,216 9,659
棚卸資産 11,717 13,862 13,921 14,939
金融部門の短期ローンとリース等 244,087 237,283 349 268
繰延税金資産(流動) 8,883 7,073 10,293 493
その他流動資産 8,399 8,902 8,814 8,356
流動資産 計 299,602 289,640 65,505 60,403
有形固定資産 純額 37,170 38,543 41,934 43,017
長期投資 7,126 3,242 1,969 1,919
金融部門その他長期ローンとリース等 78,717 74,661 21,774 16,721
繰延税金資産(長期) 17,639 23,761 33,079 2,116
その他長期資産 42,093 44,309 22,043 24,707
資産合計 482,347 474,156 186,304 148,883
負債及び持分 2004 2005 2006 2007
買掛金 24,257 26,402 26,931 29,439
未払費用 46,202 42,697 21,507 22,423
短期借入金 1,478 955 3,325 4,154
一年以内返済長期借入金 584 672 2,341 1,893
金融部門 その他流動負債 4,573 3,731 192 30
その他流動負債 93,469 40,971 12,636 16,009
流動負債 170,563 115,428 66,932 73,948
長期債務 30,460 32,580 33,067 33,384
少数株主持分 397 1,047 1,190 1,614
金融部門 その他非流動負債 204,513 249,803 11,362 2,173
退職給付債務 32,848 40,215 63,505 59,769
その他非流動負債 16,206 20,430 15,900 15,089
負債合計 454,987 459,503 191,956 185,977
純資産 27,360 14,653 -5,652 -37,094
負債及び持分 合計 482,347 474,156 186,304 148,883

 連結決算上、GMACがGMグループから外れたものの、GMの実質的支配下から外れたわけではない。同社は、その後住宅ローンビジネスで手痛い損失を被る。先の繰延税金資産取り崩しの引き金となり、実質的な親会社であるGMの経営の足を引っ張るのである。

 第3は年金及び退職後給付債務である。退職者に対する給与の後払いとも言うべき債務が、約6兆円に膨らんでいる。この額は負債と純資産総額の40%に達している。言うまでもなく、退職者に支払うコストは、会社に何の価値ももたらさない。現職者と退職者に対する高額な人件費の負担が、GM再建の重い足かせとなっているのである。

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