屋根があればいいのか/ホームレスに女性が少ないという話
厚生労働省:ホームレスの実態に関する全国調査によると、平成20年度の男性ホームレスの数は14,707人、同年、女性ホームレスの数は531人。
(中略)
あまりにも不自然な数ですよね。僕は一応男性として生れて、男性として育ってきた男性なのですが、これはちょっと社会の作りを疑ってしまうというか、こんな問題を取り上げないマスコミとか*1、その他もろもろを信用できなくなっちゃうよね。
ホームレスに女性が少ないね、なんでだろう? という記事がありました。
そこでブクマでコメントしました。
むしろ、路上に出られず、悩みを抱え不本意ながら夫なりなんなりの側でギリギリ持ち堪えてる女性たちがいる/ホームレスにすらなれないと捉えるべき
そしたら、id:welldefinedさんに
id:Romance ホームレスを自分探しか何かと勘違いしてませんか?
と書かれてしまいました。
え、なんで? って感じなんですけど、とにかくなんか誤解されてるみたいなので以下説明します。
まず、厚生労働省が発表している全国調査の数字自体(男性のデータも含め)、かなりデタラメだと思います。ホームレス支援団体などの協力を得てかなり正確に調査できている地区と、そうでないところが混ざっているように感じます。*1そして、女性のホームレスは男性よりも発見するのが難しいとされています。容易に想像できる理由から、女性のホームレスは「わかりやすいところ」では寝ません。今年の五月の末に、民家の押し入れの天袋で起居していた女性ホームレスが住居侵入で逮捕されたという報道がありました。あれはまだ特殊かもしれませんが、私が以前聞いた話でも、鍵のかかってない店舗をたまたま見つけたから明け方まではそこに入って鍵をかけて寝ていたとかいう例もあるし、かなり慎重なわけです。もちろん、わかりやすいところで寝ている女性ホームレスもいるにはいます。ちなみに私が出会った範囲での実感ですが、そういう女性ホームレスは精神に問題を抱えている人も多いです。(ところで夫婦のホームレスは増えてるし今後も増えていくのでは。)
とはいえ、こうしたことを踏まえてもホームレスは男性の方が圧倒的に多いのは事実です。これにはいろんな理由があると思いますけど、男性独り身より母子世帯などの方が生活保護を受けやすいというような、福祉がうまくいってるのが一つ。また、性風俗に限らない水商売などの仕事にありついた場合に、住宅の世話もしてもらってるケースが多いんじゃないでしょうか。基本的な誤解としてホームレスは仕事してないと思われてますけど、なにかしらの仕事をして収入を得て食いつないでるパターンが圧倒的に多いわけです。男性ホームレスの場合、路上から出勤しているというのは全く珍しくないし、日雇い労働で夜は野宿というのは典型的といってもいいです。しかし女性の場合、(仕事内容が男性と違うから)路上で起居して出勤ということ自体に無理があったりして、就労と住宅がセットになる割合が男性よりかなり高いのでは、と考えています。
とまあ、私なりに「女性が路上で寝ずに済んでいる理由」を適当に考えてみました。しかし、私がブクマコメで言いたかったことはこういうことではなく、もっと別の観点でのことです。当該のエントリは、題名が「男は生きづらい?」となっているところからも、「男性ばかりが野宿になる一方、女性はなんとかなってて良かったね」というような発想が根底にあるような印象を受けました。*2 果たしてそうなのか? ということです。もちろん、男性にとっても野宿生活は過酷だし、不安定就労と野宿のセットというのは継続も困難だし大きな問題です。ホームレスが自分探しとかなんとかというのは、青島幸男発言みたいな無理解の極地です。*3しかし、じゃあ野宿にならない点で女性たちは恵まれているのだろうか? それも一つの無理解ではないか? と思うのです。
女性ホームレスが少ない理由のうち、おそらく最も大きいのは、本人たちの「路上では寝まい」という意志です。意志というより、路上で寝ることへの恐怖です。そのために、極めて悲惨な状況ながらその悲惨な状況に留まらざるを得ない現実があるのではないでしょうか。ただ「屋根」のために、パートナーの暴力や低賃金労働や性搾取に堪えている女性たちがいて、それはホームレスのように可視化してこない分さらに深刻な問題なのではないか? 野宿は過酷であり決して「自分探し」などではない。しかしそのことを踏まえた上でも、男性には「路上」は最後の受け皿であり得る。しかし女性にはそれすらもない。「男性ホームレスは多いが女性ホームレスは少ない」とか「女性ホームレスは男性と違ってよっぽど悲惨だろうな」とか言ったときに、この問題はほとんど見過ごされています。「家庭内での社会的排除」とも言うべき境遇によって、社会に排除されているホームレス男性たちと同等もしくはそれ以上の苦しみに晒されながら、それでもそこから逃げ出せず踏ん張っている女性たちがいます。だからこそ、女性ホームレスは少ないのです。
【追記】
若い女性がホームレスになる場合、原因として最も多いのは「DVから逃げてきた」です。こういう最悪の二者択一があるということです。