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法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『まおゆう魔王勇者』を読んでも、上手に作者が節税できそうな気はしなかった

なんとなく言及しなければいけないような気がして。


下記記事の全文では本名や年齢が公表され、他の報道では法人の入っている住居や、風貌も報じられている。
http://www.asahi.com/articles/ASH48538QH48UTIL01J.html

橙乃社長は2011年4月、自身の著作権管理会社を設立。大手出版社などと契約し、印税収入や講演料を得ていたが、14年3月期までの3年間に約1億2千万円の法人所得を申告せず、法人税約3千万円を免れた疑いがある。所得のうち約1億円は会社名義の口座に預金していたという。
 「まおゆう魔王勇者」は、魔王と勇者が協力して経済を立て直し、戦争を終結させようとする内容の小説。主人公の魔王は経済学に詳しく、税の仕組みや税務官の仕事も解説し、登場するキャラクターは「税の処理は複雑」などと語っていた。

現実と虚構の符合や皮肉を読者が面白がるくらいは自由かもしれない。それを反映させた作品批評というものもある。
しかし一般論として、ペンネームで活動している個人が罪をおかしたとしても、本名を報じる意味はまずない。特に「脱税」ならば税務署は本名を把握しているだろうし、作家のブランドイメージを守らなければ今後の納税額がむしろ少なくなるかもしれない。
いかなる手続きの作為もしくは不作為が脱税とされたか、それを周知することが報道のやるべきことだろうと感じる。信じていた税理士の過ちかもしれないし、不備にしても何らかの思い違いがあったのかもしれない*1


それはそれとして、たとえ作品でそれらしい描写がされている時、それを作者本人が実行できる必要はない。運動神経がないと自他ともに認める作者が見事なスポーツ作品を書きあげたりする。実行できればディテールの助けになるかもしれないが、それだけだ。
読者にそれらしく感じさせればいいだけなので、細部は誤っていてもいい。むしろ由良三郎という医学博士のミステリ作家は、作中の犯罪手段を真似されないよう意図的に実行不可能な過程を入れていた。
由良三郎論 「元東大教授の推理作家への転身」 | 雑文ノート

あまり現実的に書くと実際の犯罪に使用されかねないので問題があり、そのためにある程度の嘘も必要であるとしています。
まあ贅沢な悩みですが、毒薬や細菌学を使用した完全犯罪を専門家が書いては、本当に笑い事ですまない可能性はあります。


そもそも『まおゆう「魔王勇者」』を、そのタイトルすらなかった非商業時代に初めて読んだ時、評判に反して設定をきちんとつめていない作品だと思った。
典型的な描写が、6スレ目に出てくる鉱山の設定。
魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」6

竜族の住む山にはえてして鉱山物資が眠っている。
 魔界では少ない純度の高い鋼の取れる山も竜族のものだ。

このまとめサイトの設定ページでは、「竜族」の項にわざわざぬきだしている。
魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」単語録

居住する山には鉱山物資が眠っていて魔界では少ない純度の高い鋼が採掘出来る。

もちろん鋼とは炭素などが適度に混ざって強くなった鉄のこと。
鍛錬して余計な不純物をとりのぞき、目的の鋼へと近づけていくことを「純度」と表現したならわかるが、普通は鉱山から採掘できるとは設定しない。
「純度の高い鋼」というフレーズは異世界にしても違和感があるし、現実世界の知識を反映しているファンタジーパロディならばなおさらだ。


この作者の作品は、広範な知識を駆使して世界観を緻密に構築していくのではなく、あくまでインターネットで読者の反応にあわせて描写をつぎたしていくものばかり。
それがインターネットで高く評価されたのは自然ではあったろう。しかし距離をおいて完結後に読んだ側としては違和感をそこここに感じたものだ。

*1:性質は全く違うが、税務署の判断が誤っていたと確定した判決があったばかり。http://www.asahi.com/articles/ASH2L5PYJH2LUTIL033.html