核兵器を開発・保有し、実戦使用可能な状態に置くこと。ある国が核兵器を実戦配備している状態。
ただし、現時点での日本の政策論議においては、核兵器の開発と同一視されて用いられている嫌いもある。
核兵器を実効ある状態とするためには、単に核爆発装置を開発するだけでは不十分であり、少なくとも以下のような段階を経なければならないと考えられる。
後発国にとって、核武装の目的は大きく二つ、政治的威嚇か核抑止のいずれかである*2。
とにかく核兵器を1発でも保有し、そのこと自体を政治的取引の材料としようというもの。北朝鮮などが目指しているとされる。
基本的には「核保有国」というステイタスの獲得が問題であり、実際に「使える」かどうかはさして重要ではない*3。このため弾頭が小型化されてない、単なる核爆発装置を保有しているだけの段階であるかもしれず、厳密には核で「武装」しているとは言い難いかもしれない。
核兵器を一定の数量以上配備して第二撃能力(報復能力)を確保、他国から核攻撃を受けない立場の獲得を目指す。
核抑止は、(先制核使用を放棄していない)超大国含めほぼすべての核保有国(および核保有を目指す大国)が確保しようとするものである。
核戦争であろうと、戦争は国益追求のために行われるものであり、したがって敵国主要都市・工業地帯に重大な損害を与える能力を保持しておれば、「核攻撃を仕掛ける→敵国壊滅→報復で自国も壊滅→じゃあ核攻撃はやめよう」という図式が成立することになる。
核抑止戦略が機能するためには、政治的な意思(数量では表せない)だけでなく、以下の2つの条件が必要になる。
- 敵国のミサイル攻撃に破壊されることのない核兵器
- つねに敵国の防衛を突破しうる核兵器
それは潜在敵国の国土に、耐えがたいほどの打撃を与えられる兵力を常に保有していなければならないということだ。
http://www.ambafrance-jp.org/IMG/pdf/Dissuation.pdf
上記が核抑止の基本理念である。陸上配備ミサイルや航空機が先制攻撃に対して脆弱性を持つ以上、実際には潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の開発と配備・運用を行うまでがワンセットであると言える。
基本的に戦略原潜1隻だけでもMIRV化によって100発程度の弾頭を搭載することは可能であり、今のところ隠密行動中の戦略原潜を事前に発見して撃沈することも*4、発射された弾道ミサイルを迎撃することも、いずれも非常に困難であると考えられている。
いくら何でも100発もの核攻撃を受けた国の覇権獲得能力が大幅低下するのは明白*5なので、フランスなどはこの状態を維持することを目的としている。
イスラエルが核兵器を開発し、配備していることは確実視されている。彼らがその存在を公式には認めておらず、周辺に核兵器を配備している国もないことから、それがどういう場合に使用されるかは定かではない。たぶんアラブ諸国の軍隊にイスラエル軍が完敗して国家存亡の危機になったら使うと思われる*6。
同様に先制攻撃用に核兵器を開発しようとする国が存在しないとは言い切れないが、現実に核攻撃とかしたら国際社会全部を敵に回すことは確実なので*7、この点をクリアーするのは難しいと思われる。
ブッシュ政権のように「ならず者国家が開発した核兵器がテロリストの手に渡る」危険性を喧伝する場合もあるが、それは現実問題としては「核保有国」ということで得られるステイタスを帳消しにしかねない行為であり*8、実現可能性には疑問が残る。
*1:なお、「即応体制」の中身には、兵器システムを維持運用するだけでなく、戦時での最高意志決定メカニズムの生存性確保と核兵器装備部隊への命令伝達系統の確保が含まれる
*2:超大国であれば先制使用とかそういう贅沢な考えを玩ぶ余地があるかもしれないが
*3:むろん実効性が高い方が取引の時に高値を吹っかけることができるとかそういう違いはあるが
*4:戦略パトロール任務中の米英の戦略原潜は、歴史上一度も探知されてないとされる
*5:場合によっては国家崩壊まであり得る
*6:第四次中東戦争の序盤で大敗したイスラエルは核使用を検討し、それを抑制するためにアメリカは大規模な軍事援助の提供に踏み切ったとされる
*7:矛盾した話だが、核抑止力に依存する大国にとっても、核兵器は「使われない兵器」であるに越したことはない
*8:そもそも初期段階では1発の弾頭ですら貴重品のはずだ