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一年間「経済学入門」を担当したので最後に「まとめ」

2008年4月からさる私立大学で1〜2年生向け(全学部対象)に経済学入門の講義を担当させていただきました。

1月に筆記試験を実施し、採点し、先日「採点に納得がいかないので調査してほしい」という学生さんからの成績調査依頼があり、再調査し回答しました・・・と言う訳でお陰様ですべての日程が無事に終わりました。

ここで一年を振り返ってみたいと思います。

[経済学入門は役に立つ!]
この1年の講義で常に心がけたのは「経済学は現実の経済について理解するのに役立つ」ということを大学の1〜2年生に理解してもらうことです(世間には「経済学なんて何の役にも立たない」と思っている人も少なくないようですが、その考えは間違っていると思います)。

経済学を学ぶことで「なぜこんなに原油価格は上がったり下がったりするのか?」「なぜ大学生の就職活動は楽だったり大変だったりするのか?」「景気が悪いってどういうことか」「景気が悪いときには政府や日銀はどうすべきか」という疑問に対する答が見つかるということを理解してもらえるように努力しました。

[トンデモエコノミストに抗して]
この一年の講義で常に気をつけたのは「欧米で標準的な教科書」(スティグリッツ、マンキュー、クルーグマン)の内容から逸脱しないことです(教科書は「スティグリッツ 入門経済学<第3版>」を用いました)。

欧米の(というか米国の)経済学入門教科書は非常に標準化されていて、どれを読んでも含まれている内容はほぼ同じです(もちろん表現・説明の仕方は異なります)。

この一年、講義をするにあたって常に標準的な教科書と異なることを教えないように気を付けました。トンデモエコノミストは「これは欧米では常識だ!」などと言いながらをblogや雑誌に書いていますが、彼らを反面教師として講義は常に標準的な教科書に沿って行いました。

[重要なのは直観的理解]
経済学入門で重要なのは数式を多用した経済学の理解ではなくて、むしろ直観的な理解の方だと思います。

いや、矢野がこれを言うとものすごく意外そうな顔をされるので、傷つくんですがw*1

経済学の論文はほとんどの場合とても数学的に洗練された形式で書かれているのですが、その基本的な発想の多くはとても直観的に分かりやすいものだと思っています*2

だから、講義では常に数学的な形式は完全に無視して、できる限り直観的な説明を心がけました。そういう講義の仕方が学部1〜2年生向けの講義では一番良いと(少なくとも現時点では)考えています。

[日本の最新の時事ネタやデータを使用する]
できる限り日本の最新の時事ネタや最新データのグラフを講義で使用するように常に心がけました。

アメリカで書かれた教科書の翻訳の場合、解説例やデータがアメリカのものであることが多くて日本ではなじみにくいと思ったので、講義のパワーポイントではできる限り日本の例に置き換え、日本の時事ネタや最新データを用意して解説するようにしました。

そうすることによって「経済学は現実の経済を理解するのに役立つ」ことを学んでほしかったのですが、実は毎週データや講義資料を用意するのがかな〜〜〜〜〜り大変でした_| ̄|○

[個人的希望]
個人的な希望としては今後「統計学入門」「計量経済学入門」「上級マクロ経済学(要はDSGE)」「マクロ計量経済学DeJongのStructural Macroeconomicsにあるような内容)」を教える機会があればうれしいと思っています。どれもとても面白い分野ですので、学生さんたちにワクワクしてもらえると思っています。

[個人的感情]
矢野はいつも個人的な感情は表に出さないようにしているのですが、この講義の最終回の日はとてもつらかったです。矢野の講義を受けた学生さんたちは主に1年生から2年生なのですが、彼らがこれから体験する過酷な現実を思うと泣きたい気持ちでした。

・・・いや、40歳近いおっさんなので泣いたりしませんけど・・・

最終日はいつもより少し早めに校舎に到着し、しばらくどんより曇った空を眺め、そして、楽しそうなふりをして教室に入りました。

これからの彼らの過酷な状況を生み出すことになる原因の大部分はマクロ経済政策の失敗です。その失敗の責めを何の責任もない彼ら若い人たちが集中的に受けなければならないという事実を考えると今もとてもつらいというのが正直な思いです。

[最後に]
この一年の講義が成功したかどうかは・・・はっきり言って自信がありませんが・・・とにかく矢野自身のできる限りのことはしました・・・・まあ、後は皆さんに評価をお任せしたいと思います。

講義資料は以下のサイトからダウンロードできます。いつか消してしまうかもしれませんが・・・当分はこのまま置いておくつもりです。
http://koitiyano.hp.infoseek.co.jp/rikai/

少しでも皆さんのご参考になれば幸いです。

追記(2008年3月20日):少し補足をしました。
http://d.hatena.ne.jp/koiti_yano/20090320/p1

*1:いつも数学的・統計学的にテクニカルな論文ばかり書いているせいだと思いますが・・・

*2:もちろん若干の例外はあると思いますが。