恵文社とガケ書房が「生き残る書店」のお手本ではない3つの理由
はてな検索: 恵文社
http://search.hatena.ne.jp/search?word=%B7%C3%CA%B8%BC%D2&site=d.hatena.ne.jp&from=
はてな検索: ガケ書房
http://search.hatena.ne.jp/search?word=%A5%AC%A5%B1%BD%F1%CB%BC&site=d.hatena.ne.jp
本屋の話をする前にちょっとパン屋の話を。
さて、あなたがもしパン屋を作ることになったとしよう。
そこでまず第一に重要なのは、小麦でもなく水でもなく山岡士郎のアドバイスでもなく、自らの商圏の確保である。
よほどの自信過剰か既に確立したブランドがなければ、いわゆる激戦区にいきなり打って出るなんてことはまずしないであろう。
店から歩いて周囲何百メートル圏内に住宅地や駅などの交通網がどれくらい確保できるかが、そもそものスタートである。
それを頭に置いておいて、書店に関していうならば、激戦というより今後の撤退戦をどう生き残るかが問題になるわけだが……
さて、これからの電子書籍化時代を乗り越えていく「生き残る書店」のお手本として、よく京都にある「個性的な書店」恵文社一乗寺店 のことが取り上げられる。そして、同じくガケ書房という名前も挙げられる。
だが、ハッキリ言って、これからは恵文社やガケ書房みたいになればいいんだ!これが出版文化だ!紙の手触りだ!付加価値だ!というのは、21世紀にもなって山岡士郎のアドバイスを真に受けるようなものである。
それを実行したところで、せいぜい電子書籍をダウンロードする間に個性的な在庫の山に押しつぶされるのが関の山だろう。
なぜか。
その理由は、「一乗寺」「お上りさん」「個性的なお客」という3つのキーワードでだいたい事足りる。
キーワードを見てだいたいわかった人はここでこの記事をブクマしてブラウザを閉じても結構。
以下一応、補足をしておくと、それぞれ次のような理由と相なる。
「一乗寺」
この両店、恵文社・ガケ書房が立地する左京区一乗寺・白川通り界隈というのは、東京で言えば青山にあたるような場所にあたる。
要するに、元々の立地のブランド力と集客力が桁違いなのである。財布の紐のゆるさ的な意味で。
これがひるがえってその他の地域にお住まいの御方々がそれぞれ住まわれる郊外化、国道沿いのチェーン店化、ショッピングモール化が進む地域の中で、シャッター通り商店街の活性化のノリで「個性的な本屋」なんかつくっちゃったりなんかしたら結局、小規模書店の末期定番の「エロ本屋」に落ち着くのがせいぜいではないだろうか。
「お上りさん」
地域ブランド目当ての「お上りさん」が毎年供給されるような土地はそうあるものではない。
東京かそれとも京都か、くらいのものだ。観光でいうなら北海道・沖縄もあるが。
恵文社・ガケ書房が存在するのはまさしく京都は左京区一乗寺というブランド地区。
そしてそこにはざっと見積もっても毎年一万人の「お上りさん」が新規顧客層として供給される。
黙っていても供給される。ビラもチラシもメールもホームページもブログもTwitterもSEO対策もやらなくても供給される。
なぜか。
京都市左京区は「大学の街、京都」の中でも特に大学が集中する地域だからである。
およそ近い順番に名前を挙げていくだけでも、京都大学、京都造形芸術大学、京都精華大学、京都工芸繊維大学、京都ノートルダム女子大学、京都府立大学、京都産業大学、大谷大学、同志社大学など、9つもの大学がすぐ近くにある。
商圏から少し離れたところまでみわたせば、立命館大学に仏教大学も加えられる。
これが毎年一万人の新規顧客層、「お上りさん」の正体である。
こんな地域が他にあるだろうか?そう、東京以外に。
「個性的なお客」
「個性的なお店」に行きたがるお客というのはたいがいが「個性的なお客」である。それもオブラートに包んでいえば。
それらの客は要は変わり者、つまりは変人である。あるいは変人でなければ美大生である。何をか言わんやその両方を兼ね備えたものである。
そんな変人と美大生が毎年供給されるような土地はさらにそうそうあるものではない。
それも、東京かそれとも京都か、くらいのものだ。
先に挙げた大学の内、京都造形芸術大学、京都精華大学が美大にあたる。さらには建築系として京都工芸繊維大学やその他大学の建築系学部・学科も数に上げられよう。そして、何より変人の総本山と知られているのが京都大学であることは言うまでもない。
もちろん、恵文社の店内奥のスペースには貸しギャラリーが儲けられており、常時、誰かしらの個性が切り売りされている。店内を一巡した後、周辺の有名ラーメン店で一杯食べるなりすれば、あなたも立派な個性的な人間となれるわけである。
以上が、恵文社とガケ書房が「生き残る書店」のお手本ではない理由である。
両店は個性的であるから生き残っているのではなく、そもそもの地政学的メリットに活かされている、環境最適化している書店なのである。
<補足的に>
同地域ではないが、近い場所にはサブカルショップ・ヴィレッジバンガードも「ちゃんと」出店している。
プラスチック臭が好きならヴィレッジバンガード、嫌いなら恵文社かガケ書房、くらいの違いしか「個性的」な違いは見いだせない。
あるいは、サブカルDQNが多いのがヴィレッジバンガード、ゆるふわスイーツが多いのが恵文社・ガケ書房、くらいか。
<おまけに>
ついでに触れておけば、この左京区一乗寺・白川通り界隈というのは、『けいおん!』*1の舞台となっている地域でもある。
幸か不幸か、作品内での「商店街」の描写は三条寺町界隈となっているので、一乗寺にある両店が登場する可能性は、オシャレサブカル方面にいらっしゃるであろう「個性的なお客」に優しい確率でかなり低い。
がしかし、何かの間違いで、恵文社やガケ書房がうっかり、『けいおん!』で描かれてしまったあとには、店内はオシャレピラミッドを登ったはずの「個性的なお客」様方と萌え豚オタク集団との悲惨なめぐりあい宇宙の地獄絵図が描かれることになるであろう。
出版社経営者の説得力
このままでは、どこでも本が買えなくなります
本好きの人には参考になるかもしれません
出版業界に働く人のための本
匂いのする本屋。
V.V.は実は本屋であった!
愛するV.V
VVのすべてがここにある!
*1: <(゚д゚)>ハッ!!