痴漢に関する資料のまとめ
ネット上ではなにかと話題になる「痴漢」ですが、なかなか冷静な議論にはならないようです。ここでは、痴漢犯罪に関する調査の結果をまとめてみたいと思います。なお、「痴漢」は法律上では「迷惑防止条例違反」または「強制わいせつ罪」に当たるものです。本エントリでは、主に電車内での痴漢行為について述べています*1。
いざ痴漢犯罪についての資料を探してみると、これが意外と少なく、網羅的な調査はネットでは見つけられませんでした。仕方ないので、見つかった以下の資料を比較検討してみることにしました。
- (資料1)電車内の痴漢撲滅に向けた取組みに関する報告書 警視庁(2011)
(1)被疑者の意識調査(電車内の痴漢で検挙・送致された者219人対象) (2) インターネットによる意識調査(通勤・通学で電車を利用する16歳以上の男女3,256人対象) (3) グループ・インタビュー(東京圏に居住する男女40人対象) (4) 大学生へのアンケート(都内の私立大学生108人対象)
- (資料2)女性専用車両の学際的研究 性暴力としての痴漢犯罪とアクセス権の保障 居永正宏ら(2008)
2007年、大阪府立大学の学生に授業の最後にアンケート、その場で回収。男性222、女性166。
- (資料3)女性専用車両に関する一考察〜痴漢被害の実態とともに〜 岡部千鶴(2004)
2003年、西鉄久留米駅構内福岡行きホームで聞き取り調査と配布による留め置き回収。女性169票、男性58票
- (資料4)男女間における暴力に関する調査 総理府(2000)
1999年、全国20歳以上の男女 4,500人、郵送留置訪問回収法
どれくらの人が痴漢にあい、そのうちどのくらいの人が届けているのか?
各資料のアンケート結果を表にまとめました。痴漢にあった経験のある女性の割合は14〜49%とバラツキがあります(49%であった資料4は路上での経験も含まれます)。(→過去1年間とそれまでの全期間のデータが混在していますので注意。コメント欄参照。2012.08.07追記)痴漢にあった場合に通報する割合は2つの調査で1割程度と一致しています。一方、男性の痴漢被害は調査すらほとんど行われていないのが現状ですが、資料2の大阪市営地下鉄職員への聞き取りでは「それが何件かはいえないが、2 パターンあって、男性が男性とわかって痴漢にあう場合と、男性が女性と間違われる場合がある。それを目の当たりにしたことがある。小柄な男の子で女性とまちがわれた。(p.88)」 との記載がありました。男性が痴漢被害に合うこともなくはないようです。届け出ない理由については資料1、3に記載があり、ともに「面倒だから」が1位、「時間がない」が2位、ほかには犯人が捕まらないと思う、恥ずかしいなどが理由として挙げられていました(資料1「インターネットによる意識調査」p.9、資料3 p.63)。
痴漢の絶対数は資料1にありました。強制わいせつは電車内のみ、迷惑防止条例違反の痴漢行為は電車外も含むことに注意。上記の結果から、届けを出すのが1割程度とすると年間4万件程度の「痴漢」が行われていると推測されます。2012.08.07 ご指摘により削除します
被害内容については資料1、3に被害者のアンケート回答があり、どちらも「身体を触られた」がほとんどで、「身体を押し付けられた」が続きます。他には盗撮、鏡による覗き見など(資料1「インターネットによる意識調査」 p.7、資料3 p.63)。
痴漢被害者はどんな行動を取るのか?
資料1〜3の、痴漢被害経験者に対する「痴漢にあった時どのような行動をとったか」に対する回答をまとめました。資料1の「犯人に対して何らかの行動を起こした」には、「睨みつけた」「手を振り払った」「体の向きを変えた」「バッグ等の持ち物でブロックした」等が含まれます(p.8)。どの資料でも、我慢している人は多いです。そうでない場合には、その場から逃げる、カバン等でブロックする、手を払いのける等の「静かな抵抗」が主で、周りの人に助けを求めることはあまりないようです。資料1では痴漢にあったとき「我慢した、その場から逃げた」人に対してなぜそうしたか問う質問があり、「怖くて何もできなかったから」が45%、「逃げれば済むと思ったから」が30.9%、「我慢すれば済むと思ったから」が25.2%(複数回答)となっています(資料1「インターネットによる意識調査」 p.8)。
痴漢を目撃した人はどんな行動を取るのか?
資料2では、痴漢を目撃したことがある男女は全体の9%(33人)程度で、複数回答可で46%(17人)が「何もしなかった」、35%(13人)が「対応する間がなかった」と回答しています(p.56)。資料3では女性への質問で、痴漢を目撃したことがある人は17人(全体の約10%)で、そのうち6人が「見て見ぬふりをした」と回答しています(p.61)。痴漢を目撃しても、助けたり、通報したりする人の数は多くないようです。
どんな人が痴漢をするのか?どんな人が痴漢にあうのか?
資料1に「平成22年6月から7月にかけて、大規模都府県警察において、電車内の痴漢行為で検挙・送致された者219人に対し担当取調官を通じて実施した」意識調査の結果が掲載されています。
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資料1 「被疑者の意識調査」p.2より抜粋
*1:路上での痴漢行為についての資料が見つからなかったためです