日曜日。散歩に出る。
散歩のための服装もいろいろと試行錯誤をして本日は、半袖のエアリズムの上にウールの入った無印の長袖のあったか下着、そこにジャージ(英国のサッカーチーム・アーセナルのレプリカ)を羽織る。強い北風吹く今日の天候を考慮してその上にColumbiaの防風・防寒のウインドブレーカーを着用する。足元は、膝の痛い人にオススメと聞いた(この年代のご多分に漏れず膝が痛い)ニューバランスのフレッシュフォームというクッションが入ったランニングシューズを装着した。これで怖いものはない。
今日は、高田馬場駅まで電車で行き、そこから歩いて神保町までいく予定。
学生の頃、このルートで早稲田の古本屋と神保町の古本屋を覗き、その勢いで秋葉原駅まで歩き、そこから地下鉄に乗り埼玉の自宅まで帰ったということが何度かあった。そのルートを40年振りに辿ってみようと考えた。
昼前に高田馬場駅に到着。右手にBIGBOXの建物を見つつ早稲田方面に歩き始める。以前は行われていたBIGBOX前での古本市が懐かしい。早稲田の古本屋街へ差しかかって早稲田の古本屋は日曜定休であると気付く。古書現世も丸三文庫もやってないのかと一瞬歩みが止まった。40年前の再現は早くも頓挫する。
いやいや、今日は歩きに来たのだと気を取り直し、早稲田の通りを神楽坂方面に歩いて行くと右手に穴八幡宮が。ここでも以前古本市が開かれていたんだよなと思いながら歩を進める。どこも寄らないのは寂しいので、弁天町の手前を右に曲がり、“漱石山房通り”という名前の通りにある“漱石山房記念館”に行ってみる。思っていたよりも随分立派な建物だった。漱石生誕150年の平成29年(2017年)に建設されたとのこと。300円の入館料を払い、展示室に入ると漱石の書斎が再現された部屋があった。「吾輩は猫である」初版本の書影の入ったトートバッグと漱石がデザインした「こころ」の装幀を使った文庫本用のブックカバーを記念に購入。
大通りに戻り、進んでいくと神楽坂に到着。通りに“かもめブックス”という本屋があるのを発見。どこかで聞いたことがあるなと検索してみると、書籍の校閲専門の校正会社である鷗来堂がやっている書店だった。入ってみる。入口の左手にはカフェスペースがあり、右手は奥まで書棚が続いている。思ったよりも奥行きがあり、本は判型や出版社、作者名の別で分類されてはおらず、店独自の分類で並べているスタイルだ。雰囲気は恵文社一乗寺店をもっと明るくした感じ(個人の見解です)。棚を見るのが楽しい店だ。出たのを見逃していた本を見つけたので買っておく。
・マグナス・ミルズ 柴田元幸訳「鑑識レコード倶楽部」(アルテスパブリッシング)
知らない作家だが、月曜の夜に、バーの小部屋に3枚のレコードを持ち寄って、ただ黙って聞く男たちを描く英国の小説という帯の説明に惹かれた。柴田元幸訳というのも安心材料だ。
店を出て、神楽坂を下っていく。インバウンドの波はここにも押し寄せており、外国人観光客と多くすれ違う。この神楽坂には漱石も通った洋食の田原屋があった。2002年に閉店したらしい。一度だけ食べに来たことあったはず。何を食べたかももう覚えていないが。
飯田橋駅横を通り、九段方面へ。人通りも少なくなり、周囲は学校が多くなる。正面に日本武道館が見える。天気がよく、強い北風が吹いているので雲一つない空に金色に輝く玉ねぎが光っていた。右手には靖国神社の大きな鳥居とその先に続く参道の坂が見えた。靖国神社には入った記憶がない。行ってみようかと思ったが、気持ちは神保町の古本屋街にあるので、左に曲がる。
神保町に到着。あまり寄り道をしていないせいか、記憶よりも距離も短く、あっというまにここまで来た感じだ。早稲田で本屋に寄れなかった分を神保町で本の栄養補給。
・松本莞「父、松本竣介」(みすず書房)
・鈴木伸子「大人の東京ひとり散歩」(だいわ文庫)
・佐藤徹也「完本 東京発半日徒歩散歩」(ヤマケイ新書)
松本竣介は、洲之内徹の「気まぐれ美術館」シリーズで知って好きになった画家。、宮城県美術館等で実物の絵も見、画集も手に入れた。その松本竣介の息子である著者が書いた父・松本竣介の伝記。みすず書房の白い瀟洒な本で出たことを喜ぶ。
後の2冊は、東京とその近郊の散歩本。これからの散歩計画を立てるための資料として購入。
水分補給と足休めをかねて神田伯剌西爾で、コーヒーとレアチーズケーキ。ほっとする。まだ、余力はあるからいっそ秋葉原駅まで歩くかとも思ったが、強い北風が吹くコンディションと鍛錬ではなく楽しみとしての散歩である(続けるためには重要なポイントだと考えている)ことを考えて、本日はここまでとする。
帰りの電車の中で堀江敏幸「いつか王子駅で」(新潮文庫)を読む。ある必要から再読(実際には3度目だから再々読)している。本文中に安岡章太郎の「サーカスの馬」の話が出てきて、主人公が九段の学校に通っているという記述を読み、今日歩いてきた九段周辺の風景を思い出した。