Appleに殺されてしまうひと達まとめ、あるいはプラットフォームに依存するということ
WWDC 2011 Keynoteも終わりました。
iOS4までで基礎は完成させたということでしょうか、これまで30%税で儲けさせてくれたはずのサードパーティすら殺してしまいそうなサービスを次々と発表するジョブズの姿を見ると、ああプラットフォーマーの強権というものは恐ろしいのだなぁと実感し、嬉々としてObjective-Cを学んでいた昨日までの自分に恐怖するわけであります。
そこで今回は、アップデートで死んでしまう、あるいは死なないまでも大ダメージを受けるであろうひとたちを振り返り、明日への戒めとしたいと思います。
なお、WWDCの画像はEngadgetから引っ張ってきています。感謝いたします。
iOS組み込みのTwitterサポート
Twitterを使用するにはiOSの設定画面でアカウントを登録しなければならず、すべてのアプリケーションはHTTPでTwitterAPIを叩く代わりにiOSのAPIを通して動作することになります。雨後の筍のように増殖するTwitterアプリの管理が簡単になるというメリットはありますが、TwitterをサポートするOS標準のアプリと競わなければならないということでもあります。
もっとも影響を受けるのは、Twitpicやyfrogといったマイクロブログ用画像アップローダーでしょう。なにせ、これからはカメラロールから直接「Twitterへ送る」ことが出来るのですから、わざわざ別アプリを開いてTwitpicに送信してくれる人がどれだけいるかは疑問です。
Twitter社は(自らも手を下したとはいえ)さすがに心が痛むのか、こうしたアップローダサービスには、別の方向性を模索するように数カ月前からアドバイスしていたそうです。
safari
いちいちタブ一覧を開かないと他のタブを選べない仕様とか、プラグインに対応していないとか、「使えない標準アプリ」という批判に甘んじてきたsafariですが、今回のアップデートでそういった汚名を返上できるようです。
標準的なタブUIが整備され、タブ間の切り替えは高速、開いているタブを複数のiOSデバイスで同期でき、Safari Readerで長い文章を読みやすく整形、おまけに読んでいるページの内容をメールで送信可能。有料のタブブラウザアプリと比較して遜色ない性能になりました。
となると、割を食うのはそういったブラウザを開発してきた人たち。もともと描画エンジンはsafariと同じwebkitを必ず使用しなければならず、*1ページの読み込み速度や描画の綺麗さでは差が付けにくいという宿命を抱えています。したがって、タブ切り替えの快適さや読み込みの速さで選ばれてきたOperaやAtomic Brawser、iCabMobileといったブラウザアプリは下火になってゆくことでしょう。
また、Safari Readerが追加されたことで、InstaPaperやRead it Laterはオフラインダウンロードの強化など、より一層の営業努力が求められることになります。
Reminder
おそらくAppStoreに激震が走るのがこの分野。「Todo」でアプリを検索すると100件以上出てくる激戦区に、大人気なくAppleが殴り込みをかけます。これが自由競争というやつでしょうか。
アプリの機能としては、タスクのフォルダ分けやフォルダの入れ子が可能で、GPSと連動して「スーパーの近くを通りがかると、牛乳を買い忘れてませんかと催促してくれる機能」まで付いている豪華仕様。Remember the milkをはじめとした単純なTodoアプリが息をしていないのはもちろん、OmnifocusやThingsといった高額GTD系アプリまで蹴落としてしまいそうなのが、さすがは標準アプリの貫禄といわざるを得ません。
Camera
「使えない標準アプリその2」の座を長らく守り続けてきたカメラアプリも、iOS5では一気に優等生に生まれ変わりました。
ロックスクリーンから直接起動できるようになり、起動時間は短縮され、横持ち状態ではボリュームキーでシャッターが切れるようになり、タッチでフォーカス・露出ロックの簡単操作、ピンチ操作でズームできてグリッドも表示可能で、撮影後の傾き補正・赤目補正・クロップまでボタン1つでできるようになります。
高速起動をウリにしたカメラアプリは全滅するでしょう。どんなに起動が早かろうが、ロック画面から直接呼び出したほうが早いに決まっています。
Photoshop Mobileに代表される写真補正アプリもうかうかしてはいられません。いまのところ標準でサポートされるのは傾き・赤目・切り取りだけですが、露出・彩度の調節やトイカメラ風フィルタがいつ実装されるかわかったものではありませんから。
Game Center
ソーシャル機能が追加され、実績ポイントシステムやフレンド検索、ゲームのダウンロードまでが可能になりました。
「iOS向けソーシャルゲーミングプラットフォーム」であるOpenfeintさんが息をしてないように見えるのは気のせいではないはずです。大枚をはたいて買収したグリーさんに「ねぇねぇどんな気持ち? いまどんな気持ち?」と聞いてみたいものであります。
最近ではセガさんがiOS向けにOpenfeintを利用すると発表していましたが、このまま突き進むのかGame Centerに乗り換えるのか、注目していきたいと思います。私はGame Centerに乗り換える方に5000ペリカ賭けておきますが。
iMessage
iOSユーザ同士のインスタントメッセージング。iOS版iChatだと考えればだいたい合っています。送った・届いたメッセージはアカウントごとに管理され、すべてのデバイスに自動で同期されるというなかなか便利な仕様。グループメッセージングもOKです。
これによってダメージを受けるのはSMS系アプリ。メールは送受信無料が当たり前の日本ではあまり馴染みがありませんが、海外では携帯回線を使ったメール(SMS)は高額なのが当たり前。そういった理由からBelugaなどのグループテキストアプリが愛用されていたわけですが、OS標準の機能で搭載されてしまっては、もはや立つ瀬がありません。サードパーティのみなさまには、ぜひAndroidやWindowsPhoneとのインターオペラビリティ強化の方向で頑張っていただきたいものです。
iCloud
あまりの出来の悪さにジョブズが激怒したと噂されるMobile Meが新サービスとして再スタートしました。年額1万円をお布施しなくてはいけなかった割にはご利益の薄かったMobile Meとは違い、無料で「連絡先、カメラロール、カレンダー、購入済みの音楽・アプリ・書籍、ドキュメント、デバイス設定」を同期できるという大盤振る舞い。カメラロールの写真は永遠に保存されるわけではないとかいろいろ制限はついていますが、それでも無料で提供されるインパクトは無視できません。
連絡先を書き出すアプリが売れなくなるであろうことをはじめ、カレンダーの同期にGoogle Calendarを通さなくてよくなったり、DropboxやSugarsyncでファイル管理する必要がなくなったり、Pogoplugがゴミになったりと、多方面に計り知れない爪痕を残してゆくものと思われます。
おそらくはじめに、通信量の増大によるソフトバンク回線のパンクという形で影響が現れることでしょう。
iTunes Match
One more thingで「iTunesのちょっとした機能」として紹介されたiTunes Matchですが、かつてAppleが買収したLalaの技術が使われているものと推察できます。
Google Musicがお披露目されたいまとなってはロッカー型音楽サービスはさほど目新しいものではありませんが、Appleにしかない強みとしては、すでにiTunes Storeで扱う楽曲が1800万曲を超えていることが挙げられます。Appleのサーバ側にある楽曲が多ければ多いほどユーザがアップロードしなくてはいけない楽曲が減りますし、場合によってはレコード会社がAACファイル用に特別なマスタリングを施したバージョンを配信していることもあります。
ロッカー型音楽サービスとして直接のライバルとなるAmazon Cloud PlayerやGoogle Musicについては、Appleが参入したからといってすぐに勝敗が決するわけではありませんが、全世界で2億台以上とされるiOSデバイスに手が出せないのはおもしろくないはずです。
それにしても、これからはAmazonでLady Gagaの安売りmp3をダウンロードして、iTunes Cloudで高音質を聞くのが主流になるのでしょうか。