交換レンズレビュー
Distagon T* FE 35mm F1.4 ZA
カールツァイスらしい階調やボケ味が味わえる
Reported by 大浦タケシ(2016/1/26 11:38)
ソニーEマウントとしては最も明るい開放F値を持つレンズである。Distagonの名が示すとおりレトロフォーカスタイプの光学系とし、テレセントリック性にも徹底した配慮がなされる。
さらに高度非球面レンズ(Advanced Asphericalレンズ)1枚を含む非球面レンズ3枚を採用し、加えてAF駆動には停止位置精度と静粛性に優れたダイレクトドライブSSM(DDSSM)を搭載するなどスペックから見る完成度は極めて高い。
Eマウントのカールツァイスレンズとしては4本目、さらにフルサイズ対応とした場合3本目となる本レンズの描写をチェックしたい。
デザインと操作性
レトロフォーカスタイプの光学系を採用していること、開放F値が明るいこともあり巨大だ。同じカールツァイスのフルサイズ対応SonnarT* FE35 mm F2.8 ZAとくらべるとその差は歴然。一眼レフ用の大口径中望遠レンズを、マウントアダプターを介して装着したかのようである。
さらに幅広のフォーカスリングや絞りリングも特徴的。これは動画撮影での使用も強く意識しているためと思われる。ちなみに絞りリングにはクリックのON/OFFスイッチも備えている。鏡筒の大きさは78.5×112mmでレンズ質量は630g。フィルター径は72mmとする。
フォーカスリングの操作感は、AFレンズのそれとしてはなかなかだ。DMFもしくはMFにフォーカスモードを設定したとき、フォーカシングする感触が気持ちよく感じる。さらに絞りを開放としたときなど、合焦面がフォーカスリングのスムースな動きに合わせてEVFのなかで浮き立っていく様子は、視覚的に気持ちいのよいものである。
遠景の描写は?
作例を見るかぎりコントラストが高く鮮明な描写である。シャープネスに関してもキレがよく、不足を感じるようなことはない。また画面周辺部は開放で僅かに緩さが見受けられるものの、1段ほど絞ると画面中央部と遜色ないものとなる。
筆者個人がこれまで経験的にカールツァイスのレンズに抱いている印象といえば、解像力ばかりを闇雲に追うのではなく、コントラストや階調の再現性、ボケ味など交換レンズとして総合的なバランスのよさを目指しているように思えるが、本レンズもそれに違わないものである。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
ボケ味は?
前ボケも含め被写体同士が溶け合うような柔らかさを持ち、素直でクセのないボケ味である。ボケの端が色づくようなことも皆無だ。さらにピントの合った部分から始まるボケはどこまでも滑らかでナチュラル。これもカールツァイスレンズの味というものであろう。
35mmという画角を考えると極端に大きなボケをつくるには制限が多いが、それでも積極的にボケを活かした撮影を楽しんでみたく思える。なお、絞り羽根は9枚、円形絞りを採用している。
逆光耐性は?
太陽が画面内にある画像も画面外にある画像もゴーストおよびフレアが見受けられる。
前者はレベル的にはミニマムといってよいもので、掲載した作例を見るかぎりゴーストはスタンプツールで消してしまえそうだ。一方後者は、横に光が広がったような独特のゴーストが発生。そのままでは目立ってしょうがないほどである。
作例の条件だけかも知れないが、撮影の際は太陽の位置などに気をつけておきたい。画面全体を見渡すとコントラストの低下はなく概ねクリアな描写。まあまあの逆光耐性といえるだろう。
作品
開放F1.4で撮影。柔らかい描写、クセのないナチュラルなボケ味に加え、モデルとの適度な距離のとれるポートレートレンズとしても魅力的だ。(モデル:池田静香)
こちらも開放F1.4での撮影だが、合焦面直後からはじまるボケは滑らかに変化していく。ちなみに本レンズの最短撮影距離は0.3m。
本レンズの描写のピーク域である絞りF8としているが、周辺減光の解消は当然ながら、被写体のどの部分を見てもしっかりと解像していることがわかる。文句の無い描写特性といえるだろう。
たいへん立体感のある描写である。クセの無い前ボケと後ボケによって、ピントの合った部分が際立っている。重量級のレンズであるが、描写を考えれば納得できるものだ。
まとめ
カールツァイスらしい階調やボケ味などにも徹底したこだわりを持つレンズである。キレキレな解像感命の写真愛好家にはちょっと物足りなく感じられるかも知れないが(それでも十分な解像力だが)、それを論破できるほど総合的に優れた描写特性としている。
残念ながら鏡筒の大きさから気軽に持ち歩けるようなレンズではない。しかしながら、ここ一番というような大切な撮影では、その期待に十二分に応えてくれることだろう。同社のフルサイズ用FEレンズの開発ロードマップを見ると、今回のDistagon T* 35mm F1.4 ZAと前回紹介したFE90mm F2.8 Macro G OSSで2015年はひとまず完了したようである。
2016年の予定としては、大口径単焦点レンズと大雑把に記載されたものが現在ひとつあるのみだが、さらなく拡充を期待したいところだ。