米新興メディア企業、Vice Media(バイスメディア)がテレビ放送に進出する。Webメディアがテレビ放送局を運営する初めての事例だ。Webで成長したVice Mediaのビジネスモデルが、トラディッショナルメディアとうまく融合するか、注目が集まる。
「『VICELAND(バイスランド)』は我々のブランド進化がたどる次のステップ」。Vice Mediaのシェーン・スミスCEO(TOP画像)はニュースリリースにこう記している。
2015年10月3日に発表された、同社のテレビ参入。2016年初頭に、衛星・ケーブルテレビ局A+Eネットワークが保有する「H2チャンネル」を「VICELAND」と改名し、A+Eとともに運営すると明らかにした。A+Eが「VICELAND」の株式の過半数を保有し、放送や業務面を統括。残りの半数近くを保有するVice Mediaがすべてのコンテンツを提供する。
米新興メディア企業、Vice Media(バイスメディア)がテレビ放送に進出する。Webメディアがテレビ放送局を運営する初めての事例だ。Webで成長したVice Mediaのビジネスモデルが、トラディッショナルメディアとうまく融合するか、注目が集まる。
「『VICELAND(バイスランド)』は我々のブランド進化がたどる次のステップ」。Vice Mediaのシェーン・スミスCEO(TOP画像)はニュースリリースにこう記している。
2015年10月3日に発表された、同社のテレビ参入。2016年初頭に、衛星・ケーブルテレビ局A+Eネットワークが保有する「H2チャンネル」を「VICELAND」と改名し、A+Eとともに運営すると明らかにした。A+Eが「VICELAND」の株式の過半数を保有し、放送や業務面を統括。残りの半数近くを保有するVice Mediaがすべてのコンテンツを提供する。
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「ウォールストリートジャーナル」によると、Vice Mediaは2014年、自社株式10%とA+E株式15%を交換。この結果、A+Eが2億5000万ドル(約300億円)をVice Mediaに出資する形になっており、それが今回の開局の原資になっているようだ。
ちなみに米国ではケーブルか衛星でテレビを視聴するのが一般的で、日本のケーブル局とは位置づけが異なる。
なぜ、Vice Mediaだったのか?
現状、Vice Mediaは自社サイトのほか、さまざまなプラットフォームでコンテンツを配信し、数億人にリーチしているという。多数のチャンネルに、膨大な購読者を抱えているのだ。このWebで拡散していたコンテンツが、今回の「VICELAND」設立により、テレビという伝統的なメディアから、さらに7000万人のユーザーへリーチすることになった。
「H2チャンネル」側は、急激な視聴率の下降に苦しんでいたという。大手局HBOでのスミスCEO自身がホストを務めるテレビ番組が人気になり、エミー賞を受賞するなど、若年層に響くコンテンツを制作できるVice Mediaとの協業は渡りに船だったのだ。
海面上昇をテーマにスミスCEO自身がグリーンランドなどを取材するVice on HBOのシリーズ。海面上昇が大惨事を招くと警鐘を鳴らしている
Vice Mediaはサブカルチャー系雑誌から出発した経緯から、強いクリエイティブ人脈をもつ。その1人が、同社のクリエイティブ・ディレクターで、アカデミー・オリジナル脚本賞、ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞の映画監督スパイク・ジョーンズ氏だ。同氏は「VICELAND」について「素晴らしい視点をもつ、いままでにないチャンネルになる」と話した。
広告とコンテンツの両方を制作
スミス氏はテレビ事業で番組と広告制作の両方を担う「新しいビジネスモデル」を模索しているという。自社内の広告制作会社「バーチュー(Virtue:「美徳」の意。社名のVice「悪徳」の反意語)」は、オンライン動画広告を制作しており、今後はテレビコマーシャル制作を見越している。
「ビジネスインサイダー」によると、スミス氏は「我々はテレビに『ネイティブアド』をもち込む、最初のメディアになるだろう。テレビの収益化方法を変える」と説明。この「ネイティブアド」の意味は不透明で、今後の展開に注目が集まる。
紙からWeb、そしてテレビへと変遷
1994年にカナダ・モントリオールで創業したVice Media。当時から現在まで雑誌を発刊し、Webに進出した。2006年にデジタル動画へ参入して以来、若者の強い支持を受け、同事業を拡大。2013年12月にはニュースメディア「Vice News」を設立した。「Vice News」はイスラム国潜入ルポ動画など、世界各地を取材した長尺のドキュメンタリー動画でトラディッショナル・ニュースメディアを追い上げている。
Vice Mediaの企業価値が拡大した大きなキッカケは、「メディア王」ルパート・マードック氏による出資だ。同氏は2013年8月、7000万ドル(約86億円)でVice Media株5%を取得。これによりVice Mediaの信頼が増し、その当時、評価額が14億ドル(約1724億円)に達した。
しかし、同社の評価額は留まる所を知らず、マードック氏傘下の「ウォールストリートジャーナル」は2015年11月時点で、一年前に25億ドル(約3079億円)だった評価額が、45億ドル(約5543億円)まで伸びた、と主張している。
これによりスミスCEOの資産は、数億ドル程度まで膨張。富裕層が居住するカルフォルニア州サンタモニカに4300平米、ベッドルーム12部屋の豪邸を2300万ドルで購入するほどだ。
歩み寄る、新興メディアとテレビ業界
新興Webメディアのテレビ参入は、Vice Mediaに限ったことではない。両者の「婚姻」には理由がある。ミレニアル世代と呼ばれる、「テレビ離れ」したデジタルネイティブな若年層の確保に苦しむテレビ局側。対して、新興メディア側は次のステップとして、テレビ、映画など、より規模の大きな市場へのアクセスを必要としているのだ。
動画の視聴方法で、ミレニアル世代(18〜34歳)と、X世代とベビーブーマーの若い世代(35〜58歳)を比較。ミレニアル世代が動画をオンラインで視聴する傾向が強い。(出典:フォレスター)
米国の4大テレビネットワークのひとつ、NBCUは2015年夏にBuzzFeed、Vox Mediaにそれぞれ2億ドル(約246億円)を投資した。両者はテレビ、映画、オリンピックだけでなく、広告関係でも協力するとしている。
米広告メディア「Adage」によると、この投資はNBCUの「ミレニアル世代買い」だ。ユーザーのタッチポイントは多様化しており、NBCUは高めの年齢層が利用するテレビに強く、BuzzFeed、Vox Mediaは若年層の好むデスクトップ、モバイルに強く、相互補完的といえる。BuzzFeedはソーシャルメディア解析ツール「Pound(ネットワーク拡散の理解と最適化の手段)」、Vox Mediaも広告主に開放された独自コンテンツマネジメントシステム「Chorus」でソーシャル時代に適合したターゲティングができると謳う。
メディアコンサル・投資会社ブレイブベンチャーズ共同創業者のジェス・レドニス氏は「極めて素晴らしい組み合わせだ。NBCUはBuzzFeedとVox Mediaに彼らが切望していた信頼を与える。BuzzFeedとVox MediaはNBCUに若いオーディエンスを与え、多様なモバイルに届くコンテンツを提供する」と指摘した。
もう一方でBuzzFeed、Vox Mediaは、NBCUの経営支配権を握るメディア・通信大手「コムキャスト」がもつ、全米最大のケーブルテレビ網にアクセスできるかもしれない。
written by 吉田拓史
Photo by TechCrunch(CreativeCommon)