7月19日に販売開始した楽天(Kobo)の電子書籍リーダー「Kobo Touch」だが、あまり良い評判が聞こえてこない。本稿では、その原因や課題などを考えたい。
7月19日に販売開始した楽天(Kobo)の電子書籍リーダー「Kobo Touch」だが、あまり良い評判が聞こえてこない。「楽天みんなのレビュー」でも、☆1つのレビューが最多というのが本稿執筆時点の状況である(現在はメンテナンス中としてレビューが見れなくなっているようだ)。本稿では、Kobo TouchまたはKoboのサービスで起こった混乱について、筆者が考える課題などをまとめたいと思う。
Kobo Touchを使い始めるためには、パソコンに「Kobo Desktop」というアプリケーションをインストールし、アクティベーション(端末認証)する必要がある。ところがこのKobo Desktopがうまくインストールできない、インストールできても楽天会員ログインができない、Kobo Touchのシステムアップデートができない、アクティベーションができない、といった諸々の症状に悩まされているユーザーが数多く発生しているようだ。
アクティベーションができなければもちろんKobo Touchを使うことができない。そのため、楽天公式TwitterやFacebookページ、「楽天みんなのレビュー」に批判が殺到している。問題なく使用できているユーザーもいるようなので、恐らく環境依存の問題だと思われる。が、リリース前の検証が足らなかったのではないだろうか?
Kobo Touch付属の紙のマニュアルが非常に簡素なのも、ライトユーザーには厳しい。マニュアルにはサポートの電話番号が載っておらず、オンラインヘルプのURLが記載されているのみ。また、オンラインページのURLとは別に、ヘルプページが用意されており、後者の方が情報は豊富だが(とはいえこちらも不十分で分かりにくいが)、それが十分に周知されておらず、ユーザビリティを下げている。また当初、カスタマーケアの電話番号もオンラインヘルプのトップページには記載されていなかった。
なお、カスタマーケアの受付時間は当初平日9時〜20時、土日・祝日9時〜18時だったが、今は臨時で24時間体制に切り替わっている。準備不足であったことは疑いようもないが、即座に体制を変更して取り組む姿勢は評価したい。
Kobo Touchの端末紹介ページには、「日本語で約3万冊」という記述がある。実際にストアが正式オープンした7月19日にラインアップを確認してみたところ、日本語書籍は1万8894件と3分の2にも満たない状態でスタートした。これは明らかにオーバートークだ。また、無料作品だけを絞り込むと1万2537件、青空文庫で検索すると1万741件だったことから、国内のコンテンツに占める有料コンテンツのラインアップは少々見劣りする。
本稿執筆時点で比較すると、例えば「BookLive!」では6万3122タイトル8万6969冊が配信中。先行ストアの4分の1に満たないというのが現状である。仮に事前告知通り3万冊用意できていたとしても、半分にも満たないラインアアップだったとはいえ、これは残念なところだ。ただ、三木谷氏は会見で「1日1000点ペースで」増やすと明言している。今後急速にラインアップが拡大されることを期待しよう。
koboイーブックストアでは電子書籍の標準フォーマットにXMDFや.bookといった国内で普及しているフォーマットではなく、EPUBを全面採用している。世界でも標準的に使われているEPUBはEPUB3になって日本語組版の表現力が増したが、国内で全面的に採用したのは楽天が初だ。
koboがグローバルでサポートしているEPUBだけに、国内のコンテンツを海外に向けて販売する際にそのままで行けるというのはビジネス上都合がいい。楽天がKoboを買収したことでグローバルで販売される端末にしっかりと国内向けの日本語組版ルールが根付くことは意義深いといえるだろう。
Koboイーブックストアは、国別ストアではない。グローバルで展開しているメリットを生かし、海外の電子書籍を比較的容易に購入できるのは評価したい。例えば海外のKoboストアである「Kobo eBooks」でLincoln Childの『The Third Gate』はKobo eBooksで16.09ドル(約1262円)で販売されているが、konoイーブックストアだと1296円。同じく16.09ドルの『What Really Happened: John Edwards, Our Daughter, and Me』(Rielle Hunter著)も1302円で販売されている。
また、オンラインヘルプによれば、海外旅行先からでも購入できるようになっている。他の電子書籍ストアの多くが海外からの購入には対応していないので、ここは大きな違いだ。ただ、米国の友人に依頼し、楽天会員IDでログインした画面を確認してもらったが、現状ではうまく機能していないようだった。海外のkoboユーザーが日本語コンテンツをどのようにすれば購入できるのかは日を改めて検証してみたい。
楽天の電子書籍事業に国内の出版社が期待していることの1つに、koboのストアを通した海外への販路があり、三木谷氏もこれをことあるごとに説いてきた。ただ、海外在住のユーザーや日本国内の出版社にとっては大きなメリットだが、日本在住のエンドユーザーにはあまり関係のない話だ。「グローバル展開」という勇ましい掛け声もいいが、足元の国内ユーザーをおざなりにしてはいないか? と感じる部分もある。
事前に噂があった、海外からの配信により消費税の課税を回避し、その分ユーザーに安価に提供することで競争力を得ようとする動きについては、出版社によっては一部のタイトルで5%ほど安価に設定されていたが、大半のタイトルは他の電子書籍ストアと同じ販売価格のようだ。この辺りは出版社や業界に配慮したと考えられ、価格差があるタイトルは出版社との契約でそれが合意済みなのだろう。
税制回避が行われていないとすると、販売価格には消費税が含まれているのだろうか? 実は、Koboイーブックストアの商品詳細画面・購入画面・利用規約や販売規約のどこにも、表示価格に税金が含まれているかどうかが記載されていない。会社概要を見ると、販売事業者名はKoboで住所はカナダになっているので、現状の法律では消費税の納付義務はない。ちなみにAmazonのMP3やゲームのダウンロード販売は、現状でも既に消費税はかかっていない。
ところで、利用規約には、下記のような記述がある。
Kobo 電子ブックリーダーデバイスを利用するお客様に関し、Koboは、お客様のデバイスに宣伝広告及び勧誘を表示する権利を有します。これらの宣伝広告及び勧誘は、デバイスの電源が切られ、又はスリープモードのときに、ホームスクリーンの下部に、スクリーンセーバーとして、又はその他のKoboの選択するユーザインターフェースの領域において表示されることがあります。
楽天がkoboを買収した際の発表会の様子を伝える記事でも、「広告を表示することで安価な価格にする施策についてほのめかした」とあるので、これらがシナリオに含まれているのは間違いないだろう。実際、Koboはすでに海外で広告付きkobo Touchを発売しているし、Amazonも海外では広告付きKindleを安価に提供している。
現状のKobo Touchには、まだこうした広告は配信されていない。今後広告付きKobo Touchが登場する可能性もあるが、現行のKobo Touchにある日広告が配信されるようになれば、規約に載っているとはいえ、ユーザーからの反発が起こることは想像に難くない。そのとき、どういったユーザーメリットを代わりに提供するのかを注目したい。
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