トライゼット 西川善司
大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。元電機メーカー系ソフトウェアエンジニア。最近ではグラフィックスプロセッサやゲームグラフィックス、映像機器などに関連した記事を執筆。各誌の連載として「西川善司の大画面☆マニア」(AV Watch)、「西川善司の「S660で楽しむ、ドラレコマニア」」(Car Watch)、「ゲームのムズカシイ話」(週刊ファミ通)など多数。ブログはこちら。
時代は変わった。
以前は「PCでゲームをプレイする」というと、洋ゲー・マニアが連想されたが、今や状況は変わってきている。プレイステーション 4(以下PS4)、Xbox Oneといった家庭用ゲーム機向けのファーストパーティ作品以外は、PS4、Xbox One版のリリースとほぼ同時にWindows(以下、WIN)版も発売されるようになってきたのだ。
今年の作品で言うと、PS4向けに発売された格闘ゲーム「ストリートファイターV」は、WIN版(Steam)のほうが一日早い2月17日に発売されているし、宇宙探索アドベンチャー「No Man's Sky」もWIN版(Steam)は8月13日で、PS4版より12日早く発売されている。
以前のように、「英語版しかない」ということもなく、日本でPS4、Xbox One向けにリリースされているゲームのWIN版は、ほぼ間違いなく言語設定で日本語が選べるようになっているので心配無用だ。
こうした状況になっているのは、ゲームメーカー側も、PCが「安定したゲームプラットフォーム」と認識したからだろう。
「安定した」という文言には2つの意味がある。1つは「動作が安定した」ということ。
2000年代以前は、CPUやGPU、チップセットも種類があり、その組み合わせは膨大で、場合によってはゲームが起動しないこともよくあった。しかし、現在はCPUもGPUも大手主要メーカーは2種類ずつ。しかもアーキテクチャは大枠ではよく似ているし、なにしろ家庭用ゲーム機のPS4、Xbox Oneが、もはや「中身がほぼPC」になっている。なので、ゲーム開発側も「移植」にかかる工数がこれまでよりも大幅に削減されている。
このように、PS4、Xbox One向けのゲームタイトルのWIN版がほぼ同時にリリースされる背景には、従来よりも開発の工期や予算の確保が少なくて済む……という事情もある。
2つ目は「供給スタイルが安定した」の安定。
2000年代以前のPCゲームは、日本では在庫のある店舗が少なめだったし、世界的には違法コピーユーザーも横行していた。特に後者の問題は深刻で、ゲームメーカーは家庭用ゲーム機版の作品をリリース後、しばらく経ちそのタイトルが“枯れて”から提供するケースが多く、新作の早期発売は躊躇しがちだった。
ところが、マイクロソフトの「Microsoftストア」、Valveの「Steam」やEAの「Origin」、Ubisoftの「Uplay」など、大手ゲームパブリッシャーがクラウド技術を使って各ユーザーのゲーム所有権を管理しつつ、ゲームタイトルのオンライン販売を実践するようになり、世界中のユーザーが安心してPCゲームを購入できるようになった。
これらのダウンロードゲームは、オンライン認証で所有権が確認されないとプレイできないので、少なくとも違法コピーは防げるようになったし、一度購入したタイトルは、同時に1台のPCでしか遊べないとはいえ、複数のPCにサーバーからダウンロードしてインストールすることができるようになり、ユーザー側の利便性も格段に向上した。
それに加え、6月に開催されたE3では、マイクロソフトがPCゲーミングファンに嬉しい「大きな発表」をしたので、今後、ますますPCゲーミングが人気を博しそうだ。どんな発表かといえば、マイクロソフトのファーストパーティから発売されるゲームを中心に、Xbox One版とWIN 10版がほぼ同時にリリースされることを保証し、どちらかを購入するともう一方のプラットフォームでもプレイできる「Xbox Play Anywhere」というプログラムについてだ。
このプログラムに準拠したタイトルには「Xbox Play Anywhere」のロゴが与えられるそうで、2016年9月現在「Gears of War 4」「Forza Horizon 3」「Scalebound」「ReCore」「Sea of Thieves」「Halo Wars 2」の6タイトルがあてはまる。
PCゲーミングは、いまや家庭用ゲーム機と肩を並べるほどのゲームプラットフォームになっていると言っても過言ではないのだ。
と、以上の内容を踏まえた上で、HPの新型ゲーミングPCの話題へと移ることにしたい。
今回発表された「OMEN X by HP 900」は、HPのゲーミングPCブランド「OMEN by HP」のフラッグシップモデル。いわゆる熱狂的ユーザー向けハイエンドクラスのゲーミングWIN PCである。HPがこのクラスのゲーミングPC製品を出したのは初めてのことらしい。HPも、米国やアジアを中心に国内外で盛り上がりを見せるPCゲーミングの世界に力を入れ始めたということなのだろう。
ハイエンドクラスのゲーミングPCというと、まず自作PCを連想する人が多いだろう。だが、その方面にあまり詳しくない、もしくは自作したことのない人もいるはず。そのような人たちは、HPなど大手メーカーのゲーミングPCを購入するほうが無難だ。
なぜなら、ハイエンドクラスのゲーミングPCは消費電力が大きめで、電源ユニット選択の難度が高いし、安さ優先で適当なPCパーツを組み合わせるとパーツの相性問題で不具合が起きたり、あるいは安定動作しないという状況に陥ることがしばしばあるからだ。
その点、HPの製品は安心だ。パーツは一流のものを厳選しているから相性問題は起こりえないし、動作安定性についてもHPのお墨付きなのだから。
さて、筆者は今回、ほとんど予備知識なしに「OMEN X by HP 900」と接することになったのだが、まず驚いたのは自宅に届いた箱だ。ブラウン管テレビでも入っているのかというほど巨大な箱だったのだ。
箱を開梱して再び驚く。なにしろ、正六面体っぽい幾何学的なデザインのボックスが45度に傾いた状態で入っていたのだから。
一瞬、これは本当にパソコンなのか……と疑ったが、とにかく部屋に持っていくことに。で、持ってみたら重い! 重量は約28kgだそうで、「しっかり作るにもほどがある」というほど堅牢な筐体だ。寸法は504×406×515mm(幅×奥行き×高さ)だそうで、やはり正六面体に近い。
本来ならば、すぐに電源を入れるべきなのだが「本当にPCなのか」を確かめたくて、本体カバーを空けることに挑戦してみる。
しかし、スタンリー・キューブリック監督の映画「2001年宇宙の旅」に登場する、謎の物体モノリスを彷彿とさせるデザインをした正六面体ボックスの各面はビズ留めがされておらず、まるで組木細工のよう……開けかたがわからない。
取扱説明書が見当たらなかったので一瞬戸惑ったが、「SLIDE PANEL ACCESS」と「EJECT」という表記を発見。「SLIDE PANEL ACCESS」と書かれている場所が小さいビズで留められていて、これを外して「EJECT」を押すとバチンとスプリングが外れてカバーが開く。
てっきり六面体の一面が外れるのかと思いきや、まるでメルセデス・ベンツ「300SL」の跳ね上げドア(ガルウィングドア)のようにパカリと開く。とにかくおしゃれである(笑)。
カバーを外してご開帳。たしかに中にはMicroATXのマザーボードが鎮座していて、まぁ、当たり前なのではあるが、れっきとしたパソコンであることを知るのであった。
六面体の筐体は斜めに設置される関係で、ご開帳されたマザーボードも斜めな状態で筆者と対面した。
「OMEN X by HP 900」は、上位モデルの「OMEN X by HP 900-070JP」(以下、070JP)だったので、マザーボード上には「NVIDIA GeForce GTX 1080」(以下、GTX 1080)が2枚、メモリスロットにはPC4-17000の8GBメモリモジュールが4枚、計32GB分ささっていた。
下位モデルの「OMEN X by HP 900-066JP」(以下、066JP)は、「GTX 1080」が1枚、搭載メモリは半分の16GB構成となっていた。それ以外の仕様は共通。CPUにインテル Core i7-6700Kプロセッサーを搭載していることも、「OMEN X by HP 900-070JP」との格差なし。
マザーボードが設置されているスペースは改めて観察すると結構広い。それこそ、「GTX 1080」がささった先端にまだ5cm以上のスペースができるほど。下位モデルの「066JP」ではPCI-Express x16スロットやメモリスロットの空きがあるはずで、グラフィックスカード(GPU)やメモリモジュール(DIMM)の増設も、筐体スペースが広いので作業はしやすいと思う。
こうしたメーカー製パソコンは、パーツがギチギチにひしめき合っていてメンテナンス性のよくないものが多いが、本機に限ってはそうした心配はなさそうだ。HPも「自作PC並の高い自由度、メンテナンス性とカスタマイズ性を目指した」と謳っているだけのことはある。
この六面体筐体、実は見た目だけでなく、機能的な観点からもこのような形をしている。六面体筐体は隔壁構造(トライチェンバーシャーシ)によって、全部で3つの区画にわかれており、熱源となるパーツを互いに隔離し合う構造になっているのだ。
一番大きい区画はマザーボードが組み付けられている場所だ。
マザーボードには、前述したようにグラフィックスカードやメモリのほか、CPUも設置されており、熱源ポイントは多め。この区画へのフレッシュエアの吸気は、「GTX 1080」が取り付けられている側から行われており、取り込まれた空気はまずGPUを冷却する。そして、GPUの熱を取り込んだ空気はグラフィックスカードのブラケット側から排気される。
CPUの冷却システムは水冷式を採用。CPUの発熱を受け止めた冷却水は、筐体内外殻に外向けに設置されたラジエターへと流され、ここに取り付けられた大きな電動ファンで冷却される構造となっている。大型ファンをゆっくり回しているためなのか、ファンのノイズはそれほど大きくない。ラジエター冷却用の電動ファンは、ラジエター自体を冷やすだけでなく、マザーボード区画内の熱気を強制的に排出する役割も任されているようだ。
2つ目の区画は電源供給ユニットがある区画だ。
本機に採用されている電源ユニットは、なんと出力1300Wの80PLUS GOLD仕様のもの(下位モデルの066JPも同じ)。電源ユニットは比較的熱くなるパーツなので、隔離してマザーボード部への熱の流入を回避しているのである。
3つ目の区画はストレージデバイスがある領域だ。
本機には、起動OS用やアプリ用のメインストレージとなる、512GBの「M2.SSD」がマザーボード側に実装されている。それ以外のデータストレージデバイスとしては、同じ区画に3TBのハードディスクと、光学ドライブ(DVD/ブルーレイ対応)が一基ずつ搭載されている。
この区画には合計4基のドライブベイがあり、うち1基に3TBのハードディスクが割り当てられている格好だ。なので、残る3基にハードディスク/SSDを増設することができる。しかも、ケースを開けることなく、簡単に出し入れができるトレイ式のデザインを採用しているのが心憎い。光学ドライブはスリム型を採用している関係で、この4基のドライブベイとは別の専用ベイに収納されている。
こうした3つの熱源を区画に分割した構造により、隣接する区画からの熱の流入、流出を低減させているわけである。
ゲーミングPCなので、ゲームをプレイしなければ話は始まらない。ということで、最近、筆者が夢中になっている「ストリートファイターV」を本機にインストールしてプレイしてみた。
今回は、32V型サイズで2560×1440ピクセルの「OMEN by HP 32 Gaming Display」も届いたので、それと組み合わせてプレイ。それぞれ解像度を2560×1440ピクセルに、グラフィックスを最高に設定してプレイしてみた。
ちなみに、初回プレイでは本機に搭載されている2枚の「GTX 1080」がSLI駆動されていなかったのだが、「ストリートファイターV」は1枚でも上記設定で常時60fpsでプレイできた。なかなかのハイパフォーマンスぶりある。
お世辞をいうわけではないが、「070JP」と「OMEN by HP 32 Gaming Display」での「ストリートファイターV」は、非常にプレイしやすく、オンラインランクマッチで自己ベストの19連勝を達成。偶然か必然か、これには筆者も仕事を忘れて大感激した次第だ(笑)。
ディスプレイの設置位置は視距離が50cmくらい。これくらいだと2560×1440ピクセルの高解像感もわかるし、それでいて32V型の画面サイズも小さすぎず大きすぎずでちょうどよい。PS4版「ストリートファイターV」は1920×1080ピクセルで固定だが、WIN版は2560×1440ピクセルでもプレイできる。WIN版ではキャラクターの描画がより高精細になるので、ジャンプ攻撃からの早い連携技などもよく見えた。
さらに、最新タイトルでグラフィックスがヘビーだとされる「No Man's Sky」に加え、グラフィックス表現に定評のある「The Witcher 3: Wild Hunt」もプレイしてみた。
この2作品は、「ストリートファイターV」とは違い、「GTX 1080」の1基駆動では2560×1440ピクセル、かつ全グラフィクスオプションを最高位設定にすると30fps前後か、それ以下に落ち込むことが時々あった。しかし、SLI駆動にすると60fpsを安定してキープできるように。
この2つのタイトルは、もともと4K表示も想定して開発されているタイトルのため、テクスチャ解像度が異様に高い。なので、2560×1440ピクセル解像度での表示は、輪郭線が細やかになるだけでなく、肌の肌理、衣服のシワ、装飾品の質感などの微細な凹凸表現がとてもリアルに見えていた。こうした、PS4、Xbox Oneなどの家庭用ゲーム機よりも一段上のゲーム体験が楽しめる優越感は、ハイエンドゲーミングPCならではの特権である。
本来は、ちょっとパフォーマンスを確かめればよかったテストプレイだったのだが、「No Man's Sky」と「The Witcher 3: Wild Hunt」の2タイトルは未プレイだったこともあり、時の流れを忘れてプレイにふけってしまった(笑)。
そうそう!
今回3作品をプレイしていて、1つビックリしたことがある。
それは「OMEN X by HP 900」の筐体の側面がカラフルに光るところ。
「OMEN X by HP 900」は、ゲーム中のサウンドの周波数分布に連動して光るようで、音楽のビートにあわせて妖しく美しく明滅していたのだ。最初は、本機を床下に置いてゲームをプレイしていたので気が付かなかったが、本機の電源を落とさず、ゲームを動かしたまま放置して部屋を出ようと照明を消したときに、床下がパレードみたいにカラフルに光っていたのである。
筆者は、このサウンド連動で光るモードが気に入ったが、もっと落ち着いた光りかたをさせることもできる。プリインストールされている専用ソフトを使ってカスタマイズすることで、一定周期で色が変化するモード、あるいは固定色にて室内照明的に光らせることもできる。また、CPU/GPUの温度や負荷率に応じて色を変化させる、システムモニター的な使い方もできるようだ。
こうしたハイセンスな付加機能は、自作PCではなかなか実現しがたいところ。必須な機能ではないかもしれないが、搭載されていることでちょっとした優越感に浸れると思う。
さて、こうして見てきた「070JP」だが、最後に、下位モデルの「066JP」とどちらを選ぶべきか……の購入ガイド的な部分にも触れておこう。
まず、2560×1440ピクセルや4K(3840×2160ピクセル)で、グラフィックスオプションを最高位に設定してプレイしたいのであれば「070JP」がお勧め。前述したように、実際のゲームプレイ体験でも、その恩恵はしっかりと感じることができた。
一方、フルHD(1920×1080ピクセル)にて、グラフィックスオプションを最高にしてプレイしたい場合は、「066JP」でも十分過ぎる性能があると思う。今ブームとなりつつある、Oculus RiftやHTC Viveに代表されるVR(仮想現実)を楽しみたいというユーザーにおいても、GPUメーカーのNVIDIAが「『GTX 1080』1基で最高のVR体験が実現可能」とアピールしているので、「066JP」で性能は十分なはずだ。
価格は上位の「070JP」が44万8000円(税抜)、下位の「066JP」が34万8000円(税抜)。約10万円の価格差は決して小さくはないが、まずは下位モデルの「066JP」を購入して、より性能を高めたくなったときや、「GTX 1080」の単価が安くなってきたときに、自作PCっぽくSLI構成にアップグレードしてもいいかもしれない。
いずれにせよ、デスクトップ型ゲーミングPCの購入を考えている人は、どちらを選択しても間違いはないと思う。ハイエンドゲーマー向けの製品ではあるが、安心のHP製品と言うことでこれからPCゲーミングを始めたいと思っているような初心者にもお勧めできる。
かくいう筆者も、愛用中のデスクトップPCは、昔のモデルを自前でアップグレードしながら現在に至るので、そろそろ買い換え時期ではある。今回の評価を経て、上位モデルの「070JP」が欲しくなってしまった(笑)。
また、通常のデスクトップPCよりも巨大な「070JP」や「066JP」を置けるスペースが確保できない、もしくは価格的に厳しいという人は、一般的な箱型のパフォーマー向け「OMEN by HP 870」も用意されている。こちらの価格は19万8000円(税抜)で、CPU、GPUともに、「070JP」や「066JP」と同じものを搭載(詳しいスペックはコチラ)している。ぜひチェックして欲しい。
というわけで、秋の夜長は、ぜひとも「OMEN X by HP 900」シリーズで最高のPCゲーミングを楽しんでいただきたい。
(Reported by トライゼット 西川善司)
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