失われた20年で東アジアでの日本のプレゼンスは激減した。軍事費から分析する日本・中国・韓国・アメリカ・ロシアの「軍事力バランス」
領土問題が緊迫化している。いうまでもなく、竹島、尖閣、北方四島だ。相手国は、竹島は韓国、尖閣は中国、さらには北方四島はロシアである。これらが、最近になって同時進行化してきている。
この背景には、日本と韓国、中国、ロシアとのパワーバランスが崩れていることがある。これを考えるために、先週の本コラムで紹介した米国シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS: Center for Strategic and International Studies)のアーミテージ・ナイ・レポートを参考とすれば、その中で、一流国の定義として「顕著な経済力」、「有力な軍事力」、「地球規模のビジョン」、「世界的問題解決におけるリーダーシップ」の4条件があがっている。
この中で何がもっとも重要かといえば、「経済力」だ。経済力があれば、「軍事力」(軍事費など)は何とかなる。それとカネの裏付けがあれば、「ビジョン」や「リーダーシップ」も立派に見える。
もっとも軍事力といっても、軍事力は軍事費(防衛費)だけで測ることはできない。軍事力の他にも、軍の士気や錬度・戦闘経験、兵器性能、軍事戦略、地政学的環境もある。さらに、工業生産能力、国内資源量など経済・社会体制に関わるモノも含まれる。そのため、軍事力を軍事・防衛費に落とし込むのはやや単純すぎるが、大きな要素であるので、一次接近としてはいいだろう。
軍事・防衛費は、数字なのでわかりやすい反面、各国とものその定義が異なるので慎重な扱いが必要だ。ここでは、定評のあるスウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI:Stockholm International Peace Research Institute)の軍事費支出データベースをとり、その分析を行うこととし、本文中のデータ・図の出所とする。
軍事費水準を高めるためにはGDPを増やすこと
まず、経済力があれば「軍事力」(軍事費など)は何とかなる、と上に書いたが、その根拠も上記データベースをみればわかる。
2000年代の172ヵ国の軍事費対GDP比をみると、各国ごとにその水準は異なっているものの、それぞれかなり安定している。各国の平均は2.35、各国の標準偏差(データのばらつき)の平均は0.44。OECD35ヵ国に限ると、平均は1.65、標準偏差は0.15と、平均が低くなって、ばらつきもさらに小さくなる。
日本と周辺国の2000年代における軍事費対GDP比の推移は下図のとおりだ。軍事費対GDP比が安定しているので、軍事費水準を高めるためにはGDP水準を高めるのが先決だ。