消費税率10%への引き上げに伴って議論されてきた「軽減税率」が、食品以外では新聞にも適用されることになった。2017年4月に消費税率が10%になっても、新聞の消費税率は8%に据え置かれるため、定期購読料は現在と変わらない。
これに対し、ネット上では「なぜ新聞だけ特別扱いなのか」と批判が起こっている。購読料を支払う読者にとっては値上げが回避されたのだから不利益にはならないし、諸外国を見れば新聞の税率を低く抑えている国はたくさんある。それにもかからず、今回のような批判が起こる原因を「新聞の値段」から考えてみた。
文/幸田泉
なぜ月100円の値上げにピリピリするのか
消費税率が上がり続ける中で、新聞業界は新聞を軽減税率の対象とするよう訴えてきた。「ニュースや知識を得るための消費者の負担を軽くする」という理由だが、購読料が上がることで定期購読者が減るのを恐れているのが新聞社の本音である。
私は2014年3月まで全国紙の新聞社に勤務していたが、その年の4月に消費税率が5%から8%に上がるのを目前に控え、読者がどっと減るのではないかと社内は戦々恐々とした空気が漂っていた。
全国紙が朝刊と夕刊を発行している「セット地域」では、1ヵ月の定期購読料はギリギリ3000円代だったところ、消費税率が8%になると月4000円を超える。新聞販売は、家計に負担感のある「4000円の壁」を乗り越えなくてはならなかった。
販売店主らの会合では「消費税を乗り切ろう」が合言葉だったし、読者訪問や読者サービスなどで販売店と読者とのつながりを強め、購読料アップに理解を得ることに心血を注いでいた。
消費税率が5%から8%になった時に行われた定期購読料の「定価改定」は、消費税率が3%から5%に上がった1997年4月以来、17年ぶりだった。そのため読者の反応が読めないことも不安を膨らませていた。
実際に消費税率が8%になってから読者が急に減るという事態は起こらなかったので、新聞社も胸をなでおろしたのだが、新聞販売現場からすれば「やっと8%を乗り切ったのに、またすぐに10%の定価改定ではたまらん」というのが正直なところだ。
1ヵ月の購読料でわずか100円前後の値上げに新聞業界が神経質になるのは、戦後の新聞の歴史が「値上げの歴史」だったことと密接に関連している。