高島屋、大丸・松坂屋、ほかの百貨店は業績を立て直しつつある。でも、なぜかウチだけはうまくいかない……。伊勢丹はどうして「ひとり負け」しているのか。同社の挑戦、失敗、苦悩の実態に迫る。
漬物の隣りで服を売る
JR松戸駅の西口を出て3分ほど歩くと、白い壁に青い窓ガラスの美しい11階建ての建物が見えてくる。伊勢丹松戸店だ。
休日の午後、それなりに賑わっている1階の化粧品売り場を抜けてエスカレーターに乗り、5階の紳士服売り場を目指す。
フロアには、「ブルックス ブラザーズ」や「カルバン・クライン」など高価格帯のブランドが多く、売り場もスッキリと洗練されファッショナブルな印象が強い。
「ファッションの伊勢丹」の面目躍如だ。
しかし、店の華やかな雰囲気に反してフロアを歩く人は少ない。売り上げを年々落としているこの店舗は、来年3月をもって閉店する。全国に9店舗しかない伊勢丹のひとつが閉じる――この事態を巡って三越伊勢丹HD内は揺れている。
「閉店するか否かで、閉店派の杉江俊彦社長と、続行を訴える竹内徹専務執行役員の間で対立があったそうなんです。
とりあえず結論は閉店に落ち着きましたが、現場レベルでは、まだ納得していない人もいる。いまが攻めるべきときなのか、守るべきときなのか、意思の統一が難しいということです」
こう語るのは同社の中堅社員だ。景気は徐々に上向いているが、三越伊勢丹は、苦境を抜け出すための打開策を見出せずにいる。
11月7日に杉江社長が発表した中期経営計画からは、「今後どこへいくのが正解なのかわからない」という、経営陣の迷いが見て取れた。計画には以下のような縮小策ばかりが並んだ。
●中小型店舗の「エムアイプラザ」を5店舗閉店。
●スーパー「クイーンズ伊勢丹」をファンドに売却する(今後、再取得する予定)。
●婦人服の子会社「マミーナ」を売却する。
●退職金を最大5000万円上乗せすることで、早期退職を促す。
'20年度までに営業利益350億円という目標を掲げ、EC強化などデジタルの改革に注力するとしてはいるが、あくまで抽象的なもの。
なかでも迷走を象徴するのが、今年3月に退任に追い込まれた大西洋前社長が肝煎りで進めていた、中小型店舗エムアイプラザの一部が閉鎖されることだ。わずか4年での方向転換である。いったいどんな店舗なのか。