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Ubuntu Weekly Recipe

第56回VAIO Type Pを使う(1):Type P特有の問題・無線LANの有効化

SONYから1月に発売されたVAIO Type Pは、IntelのMenlowプラットフォーム(旧ブランド名『Centrino Atom⁠⁠)を用い、最小構成で600gを切ることも可能な、非常に軽量なノートPCです。

ただし、Menlowプラットフォームは幾つかの点で特殊であり、Ubuntuを「そのまま」使おうとすると少々やっかいなことになってしまいます。そこで今回から何回かにわけて、この環境でUbuntuを使うためのレシピを紹介します。

VAIO Type P

VAIO Type Pが採用するMenlowプラットフォームは、一般的なNetbookで利用されるAtomプロセッサ環境とは、幾分異なった構成となっています。

特徴的なのは次の点です。

  • 通常のAtom環境で利用されるi945系チップセットではなく、US15W(以下、コードネームの「Poulsbo」とします)という独自のチップセットが利用されている。
  • チップセットに内蔵されたグラフィック機能も、PowerVRベースのGMA500という専用のものになっている。
  • 無線LANなどの一部を除き、ほとんどの周辺機器がUSB経由で接続される。

Windows以外のOSを利用しようとする場合、二番目の問題、グラフィック機能がGMA500になっている点が大きな問題となります。

PoulsboはIntelが推進するMoblinで利用が想定されているMID(Mobile Internet Device)の主要なプラットフォームであるため、Linux向けドライバが準備されつつあるのですが、まだ「そのまま」使える状態にはなっていません。

Ubuntuの場合、8.04を用いてUbuntu MobileチームのPPAを利用し、xserver-xorg-video-psbの最新版をインストールすることで高機能なドライバが利用可能です[1]⁠。8.10・9.04では今のところドライバが用意されていないため、vesaで動作させる必要があります。

単に専用ドライバを使わないと性能が落ちる、というだけであれば、vesaドライバで動作させれば良いように思えますが、Poulsboではドライバ経由でバックライトの明るさの調整を行うため、汎用のvesaドライバで利用している場合、常に最高輝度で動作することになります。これではバッテリ動作時間が短くなってしまいますので、モバイル用途で利用する場合はxserver-xorg-video-psbの利用が必須=8.04の利用が必須、という状態になっています。

ただし、8.04を用いても、インストール時点では以下のような問題があります。これは8.04系の最新のポイントリリースである8.04.2を利用しても同様です。以下は筆者が確認した範囲の、⁠インストール時点で発生する問題」のリストです。

  • GMA500用のドライバ(xserver-xorg-video-psb)が導入されておらず、VESAで認識されている。このため液晶バックライトの明度が変更できない。
  • 画面の解像度が正しく認識されず、⁠引き延ばされた」表示になっている。
  • イーモバイルの各種Windows Mobile端末のRNDISによるインターネット接続共有が利用できない(これはRNDIS経由の接続が、8.10以降で導入されたためです⁠⁠。
  • イヤフォンジャックにイヤフォンを差し込んでもミュートされない。
  • 無線LANが認識されない。
  • それだけでなく、有線LANも認識されない(!!)

特に最後の2つが強烈な問題で、なんらかの方法で対処するまではネットワーク接続が不可能です。逆に8.10や9.04 Alpha3ではインストール時点から有線・無線LANともに認識できますが、前述の通りPoulsboチップセット内蔵のGMA500対応ドライバ利用できないので、液晶バックライトの明度調整が行えません。現状では8.10や9.04をType Pで使うのは非常に不利であると言えます[2]⁠。

8.04の話に視点を戻すと、ネットワーク接続ができないということはアップデートも行えませんし、ネットワーク接続ができない限り、パッケージのダウンロードもできないわけですから、一種の「詰み」状態です。今回はここから脱出するための手順を紹介します。画面解像度を含めたより詳細な設定を、回を改めて紹介する予定です。

Type PへのUbuntuのインストール

それではVAIO Type PへUbuntuをインストールしてみましょう。前述の通り8.04を使う必要がありますので、8.04.2をインストールします。

インストール先として次の候補が挙げられますが[4]⁠、今回は内蔵HDD(SSD)へインストールすることを想定しています。

  • 内蔵HDD(SSD)にインストールする
  • 超小型USBメモリ(たとえば、BuffaloのRUF2-Pシリーズを使えば本体に挿したまま持ち歩いてもほとんど問題がありません)

なおUSBメモリへのインストールやデュアルブートのためのレシピを、これも回を改めて紹介する予定です。

HDD(SSD)へのインストールを行う場合ですが、もしWindowsを消してUbuntuをインストールしようとする場合、必ず済ませておくべきことが2つあります。

まず1つは、ユーザー登録です。VAIOのユーザー登録は、Internet Explorer上でしか動作しないActiveXモジュールを用いてシリアル番号を検出させる必要があります。このためユーザー登録処理はWindows上からしか行えません。UbuntuをインストールしてWindowsを上書きしてしまうと、ユーザー登録ができずに面倒なことになる可能性があります。Ubuntuをインストールする前に、かならずユーザー登録を行ってください(もちろん、デュアルブートにするのであれば問題ありません⁠⁠。

もう1つはリカバリディスクの作成です。BIOSのアップデート等でWindowsを必要とする場面も考えられますから、Windowsは何らかの形で残しておく必要があります。実際には使うつもりが全くなくとも、必ずUSB接続の書き込み可能な光学ドライブを準備し、リカバリディスクを作成しておいてください。

リカバリディスクを作成しなくてもHDD/SSD内にVAIO Recovery Centerを残しておけばリカバリ可能であるかのように思えるかもしれませんが、VAIO Recovery Centerによるリカバリ処理ではMBRを復帰させないらしく、UbuntuをインストールしてMBRを変更した場合、Windows VistaのDVDなどを準備しないと二度とWindowsを起動できなくなってしまいます。

必要な起動オプション

それでは実際のインストール作業に移りましょう。Type Pには内蔵光学ドライブはありませんので、USB接続の光学ドライブを準備してCDから起動してインストールを行います。通常通り起動すれば良いように思えますが、Type Pで8.04を使うには、内蔵HDD(SSD)を認識させるために、Kernel Optionとしてall_generic_ideを与える必要があります。これも8.10や9.04を使うのであれば不要となります。

第2回を参考に、CDブートの最初の画面で[F6]キーを押し、⁠第2回で追加したpersistentではなく)all_generic_ideキーワードを追加してください。

この状態で起動し、デスクトップ上の[インストール]アイコンからインストールを行います。インストール後の再起動は問題なく行われ、解像度の関係で少々ボケているとはいえ、問題なくUbuntuのデスクトップ画面になるはずです。

ここからが問題のネットワーク接続への対処を行いましょう。

ネットワーク接続の確保(無線LANの有効化)

ネットワーク接続の確保のためにはath9k無線LANドライバ、もしくは有線LANに利用されているMarvellのGigabit Ethernetチップの新しいドライバが必要となります(前述の通り、これらは8.10・9.04では不要です⁠⁠。が、いずれも「ネットワークの先」にあるため、そのままでは接続が不可能です。

8.04で動作するath9kドライバは、Ubuntu Forumsにある投稿から入手できるものを使うのが容易です。が、これは実行時にドライバをコンパイルするため、利用するにはbuild-essentialパッケージを導入し、コンパイルが可能な環境を整えている必要があります。そしてbuild-essentialパッケージを導入するにはやはりネットワーク接続が必要なので……というループが始まります。

こうした場合、USB接続の無線LAN・有線LANデバイスやイー・モバイルの通信機器があれば接続が可能です。こうしたデバイスがお手元にあれば、これらをつないでbuild-essentialパッケージを導入すれば問題ありません。

$ sudo apt-get update
$ sudo apt-get install build-essential

ネットワーク接続さえ可能であれば自動的に必要なパッケージがダウンロードされ、インストールが行えます。しかし、必ずしも手元にこうしたデバイスをお持ちでない方も多いかと思います。ネットワーク接続ができなければ、このコマンドは以下のように失敗するはずです。

$ sudo apt-get install build-essential
パッケージリストを読み込んでいます... 完了
依存関係ツリーを作成しています
状態情報を読み取っています... 完了
E: パッケージ build-essential が見つかりません

このような場合は、⁠どこか他の場所でパッケージファイルを確保し、USBメモリ経由でコピーする」という手を使います。すなわち、別のPCで8.04のLiveCD環境を立ち上げ、ネットワーク接続を可能にして以下のようにコマンドを実行します(⁠⁠Type Pしか持っていない」という方は困ってしまいますが、その場合は8.04.2ではなく8.04・8.04.1を用いて、Ubuntu Forumsにあるバイナリパッケージを直接入手してください⁠⁠。

$ sudo apt-get update
$ sudo apt-get --download-only install build-essential

これにより、/var/cache/apt/archives/以下にパッケージがダウンロードされます。ここにある*.debファイルを全てUSBメモリにコピーし、そのUSBメモリをType Pに接続し、dpkgコマンドでインストールを行います。以下の例ではUSBメモリの直下にあるtmp/ディレクトリにパッケージファイルを置いた状態を仮定しています。USBメモリが必ずしも/media/disk-1としてマウントされるとは限りませんので、環境によって読み替えてください。

$ cd /media/disk-1/tmp/
$ sudo dpkg -i *.deb

このようにしてbuild-essentialパッケージを導入し、compat-wireless-ath9k-20080916.tar.gz(前述のUbuntu Forumsの投稿からリンクをたどって入手してください)を手に入れ、同じようにUSBメモリ経由でコピーします。このファイル図1をダブルクリックしてファイルの中身を表示させ図2⁠、この中身をデスクトップ等にコピーします。

図1
図1
図2
図2

コピー後、⁠アプリケーション⁠⁠→⁠アクセサリ⁠⁠→⁠端末]を開き、次のように操作します。

$ bash compat-wireless-ath9k-20080916.sh

自動的にドライバのビルドが始まりますので(かなり時間がかかります⁠⁠、しばらく待ってください。ビルドが完了すると、compat-wireless-ath9k_20080916-debgen1_i386.debといったパッケージができあがるはずです図3⁠。

図3
図3

このファイルをダブルクリックし、gdebiを開きます図4⁠。

図4
図4

[パッケージのインストール]を押すことで、このドライバをインストールできます。インストール後はシステムを再起動してください。再起動後、⁠設定⁠⁠→⁠システム管理⁠⁠→⁠ハードウェア・ドライバ]を開くと図5のようにドライバが読み込まれているはずです(もし読み込まれていなければ、⁠有効にする」チェックボックスにチェックを入れ、もう一度再起動してみてください⁠⁠。

図5
図5

これで無線LANに接続可能になりますので、あとはお使いの無線LANアクセスポイントへの接続を行ってください(ただし、筆者が確認した限りではBuffaloのAOSSを有効にしている場合、うまく接続できないように見えます。AOSSを解除し、手動で設定したアクセスポイントであれば接続可能なようです⁠⁠。

次回は画面解像度の設定(ドライバのインストール)を始めとした、実際に「使う」ためのレシピを紹介する予定です。

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