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2024年5月28日火曜日

絵はがきの大日本帝国

5.25 孫に会いに横浜。姉入学と妹誕生日のお祝い。ヂヂババも孫姉妹もテンションあがる。うれしいけれど、バイバイで妹は大泣き。まったね~!

5.26 谷中墓地、家人母方の墓参り。銀座ウロウロ、家人は買い物、ヂヂ教文館。帰宅。

「朝日俳壇」より。

〈喜寿にして買ふ入門書「薔薇(ばら)の庭」 (栃木県壬生町)あらゐひとし〉

「朝日歌壇」より。

〈バイトせし茗渓(めいけい)書店すでに無く書肆(しょし)あまた消ゆお茶の水より (さいたま市)伊達裕子〉

〈休みの日てぷてぷてぷと雨が降り行きつ戻りつページをめくる (東京都)たけしたまさこ〉

 

 二松啓紀 『カラー版 絵はがきの大日本帝国』 平凡社新書 

2018年 1400円+税



二松啓紀(ふたまつ・ひろき)、1969年京都生まれ。本書執筆当時、京都新聞記者、立命館大学の客員研究員。

〈絵はがきはメディアである。見知らぬ土地の風景を我々に見せてくれる。小さな紙片にさまざまな情報が凝縮されている。それが古いとなれば、未知なる過去への扉にもなる。本書では古い絵はがきをメディアとして捉え直した上で歴史教材の一つに加えてみたい。(後略)〉

 日清戦争から太平洋戦争敗戦まで、「大日本帝国」の膨張と崩壊を「絵はがき」を道しるべにしてたどる。

 欧米列強とアジア、富国強兵、海外植民地、戦争報道、皇族、産業発展、暮らし、災害、移民、スポーツ……、捕虜、難民、残酷な死体写真も。国や公の組織が制作したものもあれば、民間業者が作ったものもあり、発行元や年月日不明も多い。

〈絵はがきの世界は、購入者が見たい、発行者が見せたい、検閲者が見せてはならないという三要素によって成立してきた。発行者が不特定多数の購入者(読者)を意識し、大量に発行するマスメディアとしても機能した。だからといって事実をありのまま伝えているとは限らない。プロパガンダに利用されてきた側面はつねに留意すべきだろう。時を超え、騙し絵のように引っかかる危険性も帯びている。また、誤った解釈によっては歴史認識を巡る時限爆弾にもなってしまう。〉

 いつの世も新しいメディアは魅力的。だが、危うい。

 神戸関連。1938(昭和13)年「阪神大水害」、1937(昭和12)年上海に日本赤十字社兵庫支部から看護婦派遣(湊川神社で式)、1939(昭和14)年発表日本画家・橋本関雪の「難民(支那避難民)」、1938年から漫画家・松本かつぢが雑誌「少女の友」連載した「クルミちゃん」。金属回収された「兵庫大仏」。

「絵はがき」390点オールカラーで紹介、大部分はアメリカのラップナウ夫妻のコレクション。全495ページ。

(平野)

2024年5月23日木曜日

長い読書

5.21 先週平日に休みがなかったから用事が溜まっている。法務局、銀行、散髪、内科、本屋さん他買い物。歩き回って内科で血圧測ってもらったらいつもより低い。思わず「エーッ!」

5.22 仕事終わって明石で職場先輩の引退飲み会。18名参加、みんな気持ちの良い人ばかり。駅前の本屋さんに寄ったら昔馴染みの書店員さんがいらした。

 

 島田潤一郎 『長い読書』 みすず書房 2300円+税



 ひとり出版社「夏葉社」主宰のかたわら文筆も。

 小学生時代の本環境からはじまる。中学生になると音楽に熱中、大学で文芸サークルに入り創作し、芸術にもめざめる。卒業後は就職せず、小説家をめざす。花も実もない孤独と不安の青春生活を告白する。起業して、結婚して、子どもができて、義父の介護も経験。ずーっと本があった、読んできた。本への憧れ、読む喜びを語るが、時には苦痛もある。表題作は義父の介護に通う日々のこと。

〈ぼくは義父の家へ行く日々を過ごすうちに、だんだんと厚い本を選んで読むようになった。(中略、義父は日に日に弱り、一年経たず亡くなる)当時のぼくはそのことをうまく理解できなかった。だから、その代わりに、一所懸命本を読んだ。/それはいいかえれば、近くのことがなにも見えなかったから、遠くのものを目を凝らして見つめた、そんな日々だったのだと思う。〉

 栄町通の〈1003〉で購入、サイン入り。刊行記念冊子「【夏葉社】をつくった100冊」もいただいた。

(平野)

2024年5月21日火曜日

日本語と漢字

5.19 「朝日歌壇」より。

〈この国が形を失いゆく姿買い物難民書店難民 (観音寺市)篠原俊則〉

〈遠足の子らに挟まれ電車内そっとスマホを仕舞い書を読む (松山市)安井愛弓美〉

 大阪市内に引っ越した友人が近所にスーパーも本屋もないと言っていた。

5.20 息子からの母の日プレゼント、大幅遅れで到着。

 

 今野真二 『日本語と漢字――正書法がないことばの歴史』 

岩波新書 940円+税



清泉女子大学教授、日本語学。20228月~9月のお茶の水女子大学での集中講義「日本語学特殊講義」を書籍化。日本語の複雑さ・おもしろさを再発見。

英語の「heart」にあたる日本語は「心」「こころ」「ココロ」と書ける。また漢字2文字「精神」にふりがな「こころ」と振って文字化することも可能。

〈つまり、日本語の文字化に際してはつねに選択肢がある。選択肢があるのだから、文字化のしかたが一つではない。だから「正書法」はない、ということになる。〉

本書は、「正書法がない」という観点から「日本語の歴史」をみなおし、「漢字・漢語」に注目する。仮名を発明し、これで日本語を文字化できるのに、漢字を使い続けた。

〈「日本語を文字化する」ということの中心(センター)に漢字があった。〉

 中国大陸から漢字が伝わったのは5世紀半ば、公文書は中国の漢文を使った。日本語の話しことばをあらわすための文字はなかった。8世紀初めには漢字の音から万葉仮名をつくる。古代人は、ひとつの漢字があらわす中国語に対応する日本語は何か、と長い時間かけただろう。9世紀末頃には、漢字と漢字からできた平仮名・片仮名を使って文字化する。中国語文を訓読(翻訳)して書きことばがうまれる。漢語を借用して日本語の文字化を進め、漢字で漢語も日本語もあらわすことができるようになった。

(平野)

2024年5月19日日曜日

楠木正成・正行・正儀

5.15 今週は臨時仕事が2日あって、働きすぎ(?)。仕事すんで、埼玉の岩さん年に一度の神戸出張に合わせて飲み会。アリス福、のの様の4人。岩さんが愛読する作家さん推薦のお店を予約しているとのことだったが、その店が存在しない。別の都市の似た名前のお店を予約していたらしい。のの様行きつけの店に。しばらくして先方から確認電話あって、平あやまり。本年3月発行の本に紹介されているから無理もないけれど、きっと閉店とかの注意書きもあるはず。岩さんも老人力ついたなあ。

 帰りの駅で板宿井戸書店森さんにばったり。6月の落語会の案内いただく。ご当人も出演。

5.16 軽い二日酔いで垂水の大きなマンション臨時仕事。エレベーターの止まらない階があり、階段が56本、同じ階でも部屋によって別の階段を使う。いつも西に見えている須磨の山が東にある。

5.18 友人と約1年ぶりのランチ、西梅田で乾杯。

 

 生駒孝臣 『楠木正成・正行・正儀 南北朝三代の戦い』 

星海社新書 1400円+税



 楠木正成と長男・正行は南朝の忠臣と讃えられ、戦前は尊皇の象徴とされた。史料は少なく謎が多い。数多くの逸話があるが、脚色もあろう。近年は畿内の流通経済を基盤にし権力に抵抗した「悪党」と評価される。正儀(まさのり)は三男、父・兄ほど知られておらず、ふりがななしには読めない。楠木の当主として南朝を支えたが、一時北朝に転じ、また南朝に帰参。裏切り者のイメージだが、南北朝の和平を目指した行動だった。

本書は、同時代史料を繙き、「可能な限り史実に近いかたちで復元することを目的」に、「三人の実像を再構築する」。

(平野)直木賞作家・今村翔吾朝日新聞連載小説「人よ、花よ」(3月連載終了)は正行が主人公。父の遺志を継ぎ、南朝を支える。戦況を有利に導き、北朝・室町幕府との和議を目指すのだが、南朝強硬派はあくまで倒幕にこだわる。正行はあとを正儀に託し、幕府の大軍に突入する。

(平野)

2024年5月14日火曜日

星落ちて、なお

5.6 やっぱり未読のコミックあった。『高丘親王航海記』3巻、第4(原作澁澤龍彦、漫画近藤ようこ、KADOKAWA2021年)。

5.8 連休中に職場マンションの住民さんがお亡くなりになった。奥様からお知らせいただく。お会いするたび声をかけてくださった。療養中のためしばらくお目にかかっていなかった。ご冥福をお祈りいたします。花壇の木に数年ぶりに野鳥が巣作り。

5.9 来週臨時出勤が2日あって、どちらも初めての職場ゆえ下見に行く。垂水行って、兵庫に。その足でお役所に書類再提出。

5.11 未明、家人の従姉訃報。

5.12 「朝日歌壇」より。

〈捨てられて収集人が来るまでに百科事典が見てた青空 (甲府市)村田一広〉

「桂吉弥独演会」、サンケイホールブリーゼ。噺家生活30周年、半年にわたる全国ツアー初日。開演前のリクエスト上位3本「ちりとてちん」「崇徳院」「はてなの茶碗」を熱演。

「BIG ISSUE」477号、特集「ガザ76年」、478号スペシャル企画「坂本龍一」




5.13 従姉通夜。

 

 澤田瞳子 『星落ちて、なお』 文春文庫 810円+税



 2021年、第165回直木賞受賞作。幕末から明治初期の絵師・河鍋暁斎(きょうさい)の娘とよ=画号・暁翠(きょうすい)の生涯を描く。

 暁斎は浮世絵、狩野派、土佐派はじめ様々な画法を学び、風刺画も手がけた。弟子は200人を超える人気絵師。逸話も多く、幼い頃から自分の家の火事や水死体を写生し、臨終間際には自分を看取る人びとを描いてみせた。画鬼と呼ばれ、絵師として生涯を全うした。子のうちでも絵の技量を見込んだ長男ととよを鍛えた。子にすれば、偉大な父を超えることはできず、また父の画風・業績を絶やしたくない。父が誇らしくもあり、憎くくもあり、愛憎相半ば。「血ではなく墨によって結ばれた」親子。とよは父の弟子(後述)の言葉から幼い日を思い起こす。

「絵を続けているのは、そこに少しなりとも喜びがあったためではないですか」

父が描いた鳩の絵を手本にもらった時の喜び。

〈あの刹那の喜びはぽっかりと澄明で、生きる苦悩も父や兄への憎しみも、何一つ混じってはいなかった。だとすれば暁斎が真実とよに与えたのは、延々と続く絵師の火宅ではなく、火花のごとく眩く、だからこそ永遠に失せぬ澄みきった煌めきだったのではないか。〉

 暁斎の弟子で支援者でもある鹿島清兵衛という人物がいて、本書で重要な脇役。大きな酒問屋の婿養子で趣味人。長男を亡くしてから放蕩。人気芸者を愛人にして、最新設備の写真館を作り、とうとう廃嫡させられる。落ちぶれたが、得意の笛で能楽の笛方となる。

(平野)

2024年5月6日月曜日

くらべて、けみして

5.4 連休、溜まっているコミック本を読もう。買って間もない本もあれば、1年以上ほったらかしの本も。



5.5 観光客でいっぱいを覚悟して京都。狸教授にいただいた観覧券、京都国立博物館「雪舟伝説――「画聖(カリスマ)」の誕生――。日本美術史を代表する画家ながら、現存する作品はわずか。もちろん国宝や重要文化財。後世の画家たちが高く評価し、手本にしてきた。その歴史の積み重ねを展示。

 博物館から大谷本廟お参り。河原町に出て、昼ごはん食べて帰宅。

 こいしゆうか 『くらべて、けみして 校閲部の九重さん』 

協力・新潮社校閲部 新潮社 1150円+税 

〈本を読んだことが/ある人なら/一度は見たことが/あるだろう/奥付/そこには/著者の名前/デザイナー/もしくは編集者など/その本に/関わる人たちの名前が/記載されている/しかし/一冊の本に/大きく関わりながら/名を知られることもない/仕事が存在する/それが校閲〉

 字や言葉の間違いを正すだけではない。登場人物の特徴や設定、季節など文章の前後で矛盾はないか、著者・編集者に疑問を提出する。著者と直接顔を合わせることはない。疑問の出し方にも注意が必要。

「校閲」の「校」は比べる、考える、正す、調べるの意味がある。「閲」は「けみする」数える、見る、調べる、読むの意味。

 新潮社は文芸出版社として校閲に力を入れ、「校閲部」は50人体制。

 

 Q.B.B.作・久住昌之 画・久住卓也)『古本屋台2』  

本の雑誌社 1500円+税

 老主人が引く屋台の古本屋。焼酎1杯(100円)だけ飲める、お代わりダメ。酔っ払いは断わる、やかましい客や本の扱いにも注意する。当然本を大事に扱わないといけない。知ったかぶりする常連に、

「アンタ知ってることだけペラペラウルサイよ  今日はもう帰ったら?」

 ご機嫌がいいと、お菓子や豚汁をご馳走してくれる。夜な夜な常連客が集まってくるし、新しいお客も寄ってくる。主人が屋台を出していることがうれしい。多彩な本が登場する。

 

 ヤマザキマリ とり・みき 『プリニウス』

11700円+税)、12740円+税) 新潮社 

 古代ローマの博物学者プリニウス評伝。連載開始から完結まで10年。

 

(平野)まだ積ん読本の下敷きになっている本があるはず。

 

2024年5月4日土曜日

放浪・雪の夜

5.2 ギャラリー島田DM作業にお呼びがかかる。ヂヂのボケ防止の脳トレ・リハビリ。ときどき手指が痙る。

5.3 連休で曜日を間違えるが、害はない。約束も予定もない!

 

 織田作之助 『放浪・雪の夜 織田作之助傑作集』 新潮文庫 630円+税



織田作之助(191347年)は活動期間短いけれども、「オダサク」は今も人気作家。太宰治や坂口安吾らと並んで「無頼派」とされるが、この呼称が広まるのは戦後10年ほど経ってから、と知る。ということは、彼らは「無頼派」と呼ばれていることを知らない。

〈作之助が自称したのは「軽佻派」だった。(中略)戦時下の生真面目な風潮に背を向け、軽佻浮薄に映ることを怖れず、自ら心の動くままにふるまった。〉(解説 斎藤理生)

表題作の「放浪」は料理屋に婿入りした男の出奔人生、「雪の夜」は都会から落ちぶれたカップルの話。

 私が面白く読んだのは「四月馬鹿」。先輩作家・武田麟太郎を懐かしむ。

「神経」は少女歌劇から歌舞伎、新劇、ラジオアナウンサーなどなどの台詞回しや型、紋切り調子への苦言から始まる。自己批判でもある。歌劇ファンの家出少女が死体で発見されたことから、千日前界隈の芸人や商売人の話になる。女優たちが少女のため供養の地蔵を建立する。空襲後と敗戦直後に、織田は雑誌に千日前の人と復興の様子を書いた。無理やり美談にしたようで自己嫌悪に陥るが、人びとは喜んでくれ、励ましになっていたと知る。「波屋書房」が登場。

バカ正直な人物が主人公の「人情噺」と「天衣無縫」も良い。

(平野)

2024年5月2日木曜日

不思議な時計

4.28 昨日朝、花壇のさくらんぼの実は残っていた。今朝すべて消滅。連日の風雨で落ちて確かに少なかったが、高い所にはあった。種だけあちこちに落ちている。ご近所さんが、野鳥が来てたと教えてくれる。鳥に怒るわけにはいかない。♪あかいとりことり、なぜなぜあかい~♪

4.30 書類誤記でお役所に出頭。緊張して行ったけれど、担当の方が親切丁寧に教えてくださる。

5.1 孫電話。姉はパパに買ってもらった服(まだ包装したまま)を見せてくれる。妹も姉とおんなじ服がほしい。


 北村薫 『不思議な時計 本の小説』 新潮社 1800円+税



「波」連載、連作短篇小説集。言葉、物語、人、が時空を超えてつながっていく「本の小説」シリーズ。謎から謎、そこに不思議が絡む。著者の読書体験、人生経験、人との出会いによって解きほぐされていく。

始まりは、古い映画「猟奇島」のDVD。表題の「時計」は萩原朔太郎のからくり時計。「猟奇島」から「時計」までの探検を楽しんでいただきたい。著者の父上のエピソードも重要。

人名、作品名がいっぱい出てくるけれど、最初の2に登場する作家名だけ挙げる。江戸川乱歩、佐藤春夫、横溝正史、エラリー・クイーン、キャビン・ライアル、筒井康隆、リチャード・コネル、サマセット・モーム、谷崎潤一郎、久生十蘭、芥川龍之介、菊池寛、庄野潤三、永井龍男、穂村弘、谷川俊太郎……、他に映画・芸能関係者が加わる。

 小説であっても、こういう本には〈人名索引〉〈事項索引〉があればいいな、と思う。

(平野)