Location via proxy:   [ UP ]  
[Report a bug]   [Manage cookies]                

動物写真家・岩合光昭が語る、猫の撮り方

May 11, 2011 / Topics

Tags: interview

Photo:Mitsuaki Iwago/Edit&Text: Madoka Hattori

川崎市市民ミュージアムで開催中の『岩合光昭どうぶつ写真展』で催された、トークショウ「ネコの撮り方」をレポート。猫に対する愛情たっぷりの岩合さんが、猫の撮影方法の秘訣を教えてくれました。



猫とのコミュニケーションが大事

「沢山の動物を撮影していますが、僕が一番最初に作ったのは猫の写真集です。だから、猫についてはとても強い思いがあるんです。一般的に野良猫といっても地域によって、猫の表情や動き方は全く異なります。人が穏やかな場所では、猫も穏やかな表情をみせてくれます。特に坂道の多い場所では、人の動きがゆっくりとなるので、猫の動きもゆっくりしている。また、道が細く車が入れないような所は、道の真ん中に寝っころがってくつろいでいてますよね。そういうリラックスした猫たちは、“おはよう”と声をかけると、きちんと返事をしてくれるんです」

どんなカメラや機材が必要?

「携帯電話のカメラ機能で十分です。ただ、望遠レンズがないと猫に近づかないといけないので、外で撮影するには一眼レフを使うのはいいかもしれませんね。一緒に暮らしている場合は、大きなカメラを構えてしまうと嫌がってしまうので、普段からカメラが目につくような位置に置いておくことが必要です。カメラが怖くない物だと慣れさせてから、シャッターを押すといいですね。ストロボを室内で使うと猫の毛が毛羽立って見えてしまい、猫のソフトさがなくなってしまうので、ストロボは使わないほうがいいと思います。また三脚を使うと視線が高くなってしまうので、おすすめしません。僕が撮影する場合は、猫と同じ目線になって、ほとんどホフク前進のような格好になっています(笑)」

撮影は朝5時から!

「今くらい(4月〜5月)の季節だと、朝5時くらいから撮影を始めます。その時間に寝ていると猫の写真は撮れない。夜明けとともに外にでてください。夜型の人はそのまま寝ないで撮影に出かけるといいと思います(笑)。猫は夜行性と思われていますが、実際は人の動きに準じているので、人が動き出すと猫も動き始めます。人が起きて窓を開けると、猫は外に出る。最初に外にでると、まず立ち止まる。その立ち止まることがとても重要で、天気や風などを敏感に感じとり、一日の動きを決めているんです」

街中にいる猫との出会い方

「よく聞いて、よく見て、よく匂いを嗅ぐと、“猫を見る目”が研ぎすまされていきます。歩きながら五感をフル稼働させていると、路地を曲がった瞬間に猫の匂いがしたり、猫のいる場所がわかるようになるんです。そういう時は、人の目ではなく“猫の目”になっている。本来、人間も自然の生き物なので、空気や匂いを感じる能力をもっているんです」

オス猫とメス猫の違い

「動物全般にいえることですが、特に哺乳類は、オス・メスはもちろん、大人か子どもかということがとても大切です。野生動物に襲われるのは、やはり女性が多い。猫の場合は、オス猫に引っ掻かれることが僕は多いですね。実際、撮りやすいのはオス猫なんです。オスは暮らしに余裕があるというか、暇なんです(笑)。メスは子育てだったり、身の回りのことに集中しています。オスはパトロールをしているので、出会う確立も高い。暇だから、撮影に付き合ってくれるんですよ」

ナイーブな猫との距離のとり方

「猫と目が合い、ずっとこちらを見ているようなら、かなりこちらのことを気にしています。そういう時は、少し遠ざかったほうがいい。気にしている猫に近づこうとすると、“これ以上近づくな”という表情をしてますます距離ができてしまう。その表情に気づかずにまた一歩近づいてしまうと、サッと逃げてしまうんです。撮影する時は、その距離のとり方がとても大切です。近づける猫かどうかを、観察し見極めなければなりません」

猫の目線をこちらに向かせる方法は?

「猫によって、振り向かせかたは様々です。例えば夕暮れの暗くなっている時は、シャッタースピードが遅いので、猫が動くとブレてしまう。そういう時は“ハイ、息を吸って〜、止めて!”と、掛け声をかける。そのタイミングでシャッターを押します。語りかけると、猫にはきちんと伝わるんですよ。とはいえカメラ目線にこだわらず、猫に自由に動いてもらうほうが、いい表情が撮れます」

難易度高し!黒猫を撮るコツ

「黒猫は確かに難しいですね。ポイントは、表情を捉えるために、目をしっかりと写すことです。そして自分の目を信じて、黒猫の表情や毛の質感や一番よく見える所を探します。猫を動かすのではなく、自分がよく動いてその場所をみつける。そして、黒くベッタリと平になってしまわないように、立体的に見える光を選ぶことが必要。でも基本的に、黒猫は黒く撮るのがいいと思います。黒猫はいい猫ですよね。とても賢いし、僕は大好きです。猫は自分の毛の色をわかっていて、白猫と黒猫では太陽の光を吸収する量が異なるので、動き方も全く違います。黒猫は光が少ない場所で休むことが多いので、日陰を探すと見つかりやすいかもしれません」

より生き生きとした表情を撮るには?

「ブラッシングをしてあげましょう。健康状態がいいことはもちろん、目のゴミを取ってあげたり。モデルさんがお化粧をするように、猫も整えてあげるんです。メス猫であれば美人に撮ってあげたいですし、オス猫であれば凛々しい表情が見たいですよね。それが生き生きとした表情になる、大切なポイントです。よく黒目が大きい方が可愛いといいますが、僕はそんなに気にしていない。猫はどんな表情をしていても100パーセント可愛いんです(笑)。自分の既成概念で、猫をあてはめるのではなく、自分の見方を変えることが必要。カメラよりも人の目のほうが優れているので、自分の目を信じること。また、背景や光も重要です。猫ばかり見ていると、猫が何をしているかばかり気になってしまいます。写真になることを考え、自分でカメラを動かしながら、猫が一番立体的に見えるポイントを探すこと。より丸みを帯びたように見える光を探したり、影を利用するのもひとつの方法です。僕の場合は、猫と背景は半々の割合で考えて撮影しています」

人間は猫に飼われている!?

「猫と一緒に過ごしていると、あっという間に時間がすぎていきます。猫と暮らしている人は多いと思いますが、彼らは飼われているつもりはないと思います。犬は、主従関係をしっかりしてあげたほうがいいのですが、猫は全く違う。むしろ猫は、“人間を飼っている”と思っているかもしれません(笑)」


ポートレイト:2009年日本、田代島 ⓒ Hideko Iwago

岩合光昭(いわごう・みつあき)
1950年、東京都生まれ。動物写真家。80年木村伊兵衛賞受賞、85年に日本写真協会年度賞、講談社出版文化賞受賞。写真集に『おきて』『ホッキョクグマ』『ちょっとネコぼけ』など。 http://www.digitaliwago.com/

『岩合光昭どうぶつ写真展』
動物物写真家・岩合光昭 40年の集大成「地球の宝石」シリーズに加え、地元神奈川の猫たち、初公開「よこはま動物園ズーラシア」の写真を展示。
日時:2011年4月16日〜6月26日
会場:川崎市市民ミュージアム 企画展示室1、アートギャラリー1・2
入場料:一般600円、学生・65歳以上400円、中学生以下 無料
http://www.kawasaki-museum.jp/