特別企画

個人事業主の税金を理解し節税しよう・前編
税金の計算方法を理解する

 先日掲載した「専用ソフト/サービスを使って確定申告を乗り切ろう!!」でも紹介したように、今年、平成26年(2014年)分の確定申告から白色申告の記帳義務化が始まる。白色申告の記帳が大変になるから青色申告に切り替えた方がよいらしい、青色申告に変更すると節税できるらしいといった話を聞いた人もいるだろう。

 サラリーマンは源泉徴収(天引き)や年末調整で会社が納税を代行してくれるので税金の知識がなくてもさして困ることはない。そのまま起業、独立をすると節税はおろか納税額を算出する方法すら理解せずに事業を始めた人もいるだろう(もう少し慎重な人は、税金の知識がないことを不安に感じて、独立をちゅうちょしているかもしれない)。

 実は筆者はその1人で、「経理とか分からないと独立は難しい」と思いつつ無計画に独立。初めての確定申告直前の1月に本を買ってあわてて勉強し、節税の方法を知ってガッカリ……「時すでに遅し」と思った。

 今回はそもそも納める税金をどうやって算出するか、節税をするために何をすればよいかを説明したい。実は12月は節税の重要な時期だ。今年独立して来年(2015年)に初めて確定申告をする方、近い将来独立を考えているが税金の知識が乏しいことに不安を感じている方を対象に税金の基本を紹介していこう。

【確定申告シリーズ】

・個人事業主の税金を理解し節税しよう・後編 “節税の肝”各種控除を理解する
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/special/20141219_680822.html
・初年度無料、話題のクラウドサービス「やよいの青色申告オンライン」を使ってみる
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/review/20141226_681659.html
・源泉徴収票の見方、知っていますか? ~税金の計算方法を理解すると節税ができる~
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/special/20150304_690747.html
・確定申告って何を申告するの? ~個人事業主の税金の計算方法を理解しよう~
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/special/20150310_691870.html
・青色申告は白色申告よりお得なの?~青色申告の特典と節税効果を検証しよう~
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/special/20150311_691891.html

 このような原稿を書くフリーライター、アフィリエイター、プログラマー、デザイナーなどフリーランスとして独立する人は珍しくない。もちろん飲食店や小売りで独立する人もたくさんいる。職種はさまざまなので共通する部分と異なる部分はあるが、基本となる部分は同じなので自分に当てはめながら読み進めていただきたい。

 サラリーマンも個人事業主も税金の区切りは1月から12月の1年間だ。企業(法人)は3月決算、9月決算など任意の期間を設定できるが個人事業主は12月決算を変えることはできない。平成26年(2014年)分の事業の収支を計算し、2015年の2月16日から3月16日の間に確定申告を行い、所得税を納税する。確定申告の結果が市町村役場に送られ、5月に住民税の案内が届く。これが一連の流れとなっている。

 個人事業主が納める主な税金は所得税、住民税。事業税は業種により納税の必要がないこともある。東日本大震災の復興特別所得税、国民健康保険も所得税の算出と連動するので、所得税を節税するとそれ以外も連動して納める金額が減る仕組みとなっている。まずは基本となる税金の計算方法から説明していこう。

税金の計算方法

 節税を考えるには税金の計算方法を理解する必要がある。最初は個人事業主の所得税の計算方法を確認したい。所得税は以下の式で算出される。

  • 式1:売り上げ-経費=所得
  • 式2:所得-各種所得控除=課税所得
  • 式3:課税所得×税率=所得税
所得税算出の概念図

 最後の式(式3)の所得税を減らすことが節税だ。式1で売り上げが同じなら 経費を増やす と所得を減らすことができる。式2の 各種所得控除を増やす と課税所得を減らすことが可能だ。式3の税率は下表のように課税所得の額により定められているので、課税所得が減れば自動的に所得税は減ることになる。

【所得税の税率】
課税所得金額税率控除額
195万円以下5%0円
195万円超 330万円以下10%9万7500円
330万円超 695万円以下20%42万7500円
695万円超 900万円以下23%63万6000円
900万円超 1800万円以下33%153万6000円
1800万円超40%279万6000円

 税率も少し説明しておこう。所得税の税率は表のように課税所得が増えると税率が10%、20%……と上がっていく累進課税となっている。ただし課税所得全体にその税率が掛かるわけではなく、例えば課税所得が400万円の場合、195万円までの部分は5%、195万円を超え330万円の部分に10%、330万円を超え400万円の部分に20%を掛け、それらを合計した額が税額となる。実際に計算してみよう。

  • 195万円×5%=9万7500円
  • (330万円-195万円=135万円)×10%=13万5000円
  • (400万円-330万円=70万円)×20%=14万円
  • 9万7500円+13万5000円+14万円=37万2500円

 税率ごとに計算するのは手間なので、表の右端の控除額を利用すると簡単に計算ができる。

  • 課税所得金額×税率-控除額=所得税額
  • 400万円×20%-42万7500円=37万2500円

 話を節税に戻そう。式が単純なので、節税方法も単純だ。経費を増やす、各種所得控除を増やす、この2つが節税の基本となる。例として売り上げ500万円、経費80万円、独身、国民年金と国民健康保険を納め、生命保険なしという条件で簡単な計算してみよう。各種所得控除は基礎控除が38万円、国民年金と国民健康保険の社会保険料控除が54万円で計92万円とした。

  • 500万円-80万円=420万円
  • 420万円-92万円=328万円
  • 328万円×10%-9万7500円=23万500円

 同じ条件で節税対策をしたとしよう。年末にゆとりがあったのでPC、タブレット、デジカメなどを購入し経費が20万円増。詳細は後述するが小規模企業共済というものに年額48万円を掛け、白色申告を青色申告に切り替えて青色申告特別控除の65万円をゲットし各種所得控除の額が205万円になったとすると、

  • 500万円-100万円=400万円
  • 400万円-205万円=195万円
  • 195万円×5%=9万7500円

と所得税の納税額を13万3000円減らすことができた。内訳は経費が20万円増えたので、その10%の2万円。各種所得控除が113万円増えたので、同じく10%の11万3000円。合計13万3000円納税額を減らすことができた。ちなみに住民税の税率は10%なので住民税も13万3000円減り合計26万6000円の節税となる。さらに復興特別所得税も減り翌年の国民健康保険料(地域により計算方法は異なる)も減ることになる。

経費と控除を増やし節税

 余談だが「○○市に住むと住民税が安い」といった話を聞いたことはないだろうか。これは都市伝説で、住民税の税率はほぼ全国一律10%。10%の内訳は都道府県民税が4%、市町村民税が6%。例外は神奈川県の県民税が4.025%、名古屋市の市民税が5.7%、財政破たんした夕張市の市民税が6.5%などがあるが、東京都内で港区から大田区に引っ越したら住民税の税率が大幅に変わる、といったことはない。

 税率とは別に「みやぎ環境税(1200円)」「あいち森と緑づくり税(500円)」など環境税を徴収している県は多い。いずれにせよ引っ越し代を考えると住民税の差で移転を考える必要はないだろう。

経費を増やす

 先ほどの例では経費を20万円増やすことで所得税が2万円、住民税が2万円、合計4万円の節税となった。もし課税所得が400万円に増えると所得税の税率が20%となり、経費が20万円増えると所得税が4万円、住民税が2万円で合計6万円も納税額が減ることになる。気分的には30%のキャッシュバックをもらったのと同じでかなりうれしい。

 儲かる→課税所得が増える→税率が上がる→節税効果も上がる、という図式だ。常に儲かり具合が安定している人は関係ないが、儲かり具合に波がある人は「儲かった年に仕事に必要な設備・備品を購入すると得する」ということだ。

 年末が近づくとその年の売り上げが見えてくる。経費も算出すると儲かり具合が明確化する。儲かっていたら経費を増やすと納税額を減らすことができる。12月は節税対策の重要な時期なのだ。

 経費を増やす方法を考えてみよう。確定申告する際の経費の科目をみると、荷造運賃費、水道光熱費、旅費交通費、通信費、接待交際費、修繕費、消耗品費、地代家賃などがある。どの経費を増やしても節税にはなるが、無駄に水道光熱費を増やしたり、電車で移動できるところをタクシーにしても先々のメリットは感じられない。できれば来年以降の有効な投資となるような出費で経費を積み上げたい。

損益計算書の経費欄には荷造運賃費、水道光熱費、旅費交通費、通信費といった経費が並ぶ

 一般的に手っ取り早く経費を増やせるのは消耗品だ。消耗品費は10万円未満または使用可能期間が1年未満の少額減価償却資産のことで、簡単に言うと10万円未満の備品が対象となる。先ほどの例のようにPC、タブレット、デジカメなどで税込価格が10万円未満であれば対象となる。職種によって必要となる器具や設備を年内に購入すると、気分的には大幅割引で買ったことになる。

 忘年会シーズンなので取引先の人と会食すれば接待交際費、遠くの取引先に年末のあいさつに行けば旅費交通費、まだまだ使い続けたい機器を修理すれば修繕費……といった感じだ。ただし必要以上の切手の大量購入などはNG。あくまで仕事に必要なもので経費を増やしたい。

 今年はガッツリ儲かったから、5万、10万じゃなくドーンと100万円くらいのものを買って経費を増やしたい、という人もいるだろう。残念ながらそれは難しい。例えば300万円で車を購入しても300万円をその年の経費にすることはできない。10万円を超える機械、器具などは固定資産となる。

 例えば車の場合、長期に使用するため6年で分割して経費計上しなければならない。6年=72カ月で分割するので12月に360万円の車を買っても、その年に経費にできるのは1カ月分の5万円だけだ。製品ごとに分割する期間=耐用年数が定められていて、車は6年、テレビは5年、PCは4年、カメラは5年などとなっている。このように価格=価値を分割して経費にしていくことを減価償却という。

筆者は今年ホンダのVESELを購入したが、今年の経費となるのは20万円弱

 4KテレビもEOS 7D Mark IIも今年の経費にできないのか……とガッカリすることはない。減価償却には特例がある。10万円以上20万円未満の資産は、一括償却資産として3年で均等に割って償却することが可能だ。例えば18万円の4Kテレビを5年(=60カ月)で償却すると12月に経費となるのは3000円、節税効果は数百円しかない。一括償却資産とすれば6万円ずつ3年で償却できるので、12月に買っても6万円をその年の経費とすることができる。

 さらに青色申告を行っている個人事業主は、10万円以上30万円未満の資産を「少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例(措置法28の2)」により、その年に全額経費として処理することが可能だ。青色申告と白色申告の違いは次回で説明するが、青色申告を行うことで得られる大きなメリットの1つがこの「少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例(措置法28の2)」だ。

EOS 7D Mark II。ボディのみで税別20万8000円

 これを利用すればEOS 7D Mark II(税込22万円4640円)も全額を経費にすることができる。合計金額に300万円という上限はあるが、10万円以上30万円未満の資産を複数購入すれば大きな節税が可能だ。300万円の上限は1年分なので7月に起業して事業期間が6カ月の場合は150万円が上限となる。「少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例(措置法28の2)」は2年ごとに延長され、現在は平成28年3月までとなっているが、おそらくその先も延長されると思われる。

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 さて、今回はここまで、税金の基本的な考え方と計算方法、そして経費について説明してきた。次回は、代表的な控除について、具体的に説明していこう。

奥川浩彦@ アイピーアール