アイ・ティ・アール 代表取締役 プリンシパル・アナリスト 内山悟志氏
アイ・ティ・アール 代表取締役 プリンシパル・アナリスト 内山悟志氏
(写真:北山 宏一)

 地道に節約を重ねる「専業主婦型」のコスト削減策には限界がある。発想の転換が必要──。アイ・ティ・アール 代表取締役プリンシパル・アナリストの内山悟志氏は今がそのチャンスだと主張する。(聞き手は,田中 淳=ITpro)

日本企業のIT投資の現状をどう見ますか。

 IT投資に関して,専業主婦的なやり繰りをしている企業が圧倒的に多いと感じます。家計も同じですが,一定の収入の中でやり繰りしなければならないとすると当然,1円でも安いスーパーで買い物しようとするわけです。

 当事者の方々は,一生懸命切り詰めて,ぎりぎりの線でやっているのだと思います。日本人は,そうした専業主婦的な努力をするのが,本当に上手です。100円を98円に,98円を96円にするといった形でのコスト削減は,これまでも十分やってきました。例えて言えば,ぞうきんはかなり絞り込まれたはずです。

 しかし,例えば別のぞうきんを使う。ぞうきんでなく,タオルで良しとする。スーパーの例で言えば,1円安いスーパーを目指して30分かけて隣町に行くよりも,その30分で別の仕事をして収入を増やす。そうした発想の転換というか抜本的な改革を,日本企業はあまり実施していなかったのですね。

 それをやろうとすると,構造改革のためのコストがかかります。そこに踏み込めないまま,重い荷物を背負って節約の努力をしているというのが,いまの姿ではないかと思いますね。

経営側がITの価値を正しく理解していない点も問題です。

 その点もIT投資の現状に大きく関係しています。ITに限らず,投資とは経営の意志にほかならない。費用を使うのと,投資をするのでは根本的に意味が違います。

 費用は必要なものを買うために投じるもの。一方,投資は運用し,増幅して返ってくることを期待して投じるものです。何を得たいのか,どういう姿になりたいのかが明確でなければ,投資は一銭もできないはずです。意志がなくて投資をすると,それは単なるギャンブルです。

 もちろん,投資には必ずリスクが伴います。ある程度,見込みで踏み込まざるを得ない投資もあると思います。それでも,意志が伴うギャンブルか,たださいころを振るだけのギャンブルかは大きく違います。

日本企業はIT投資と言いつつ,費用をかけているだけだ,と。

 IT支出に占める戦略的な投資の割合は,先進国の中で日本が最も低いんですよ。フォレスターリサーチの調査では,日本は15%と出ています。インドや中国は40?50%近く,欧米でも20%を越えています。日本だけが15%と低いんです。

 つまり,IT支出の85%が定常費用あるいは使う必要がある費用で,本当に意志を持って投じる投資に当たる部分は15%しかないということです。