アプリケーションの最も基本的な部分を支える開発基盤が大きく変わろうとしている。主役は「二つのJava」だ。Javaを基に、関数型という先進技術を導入した「Scala」。Scalaに触発されて関数型のアイデアを取り入れたJavaの次期版「Java 8」。この二つが互いに影響を及ぼしながら、本来ならトレードオフの関係にある「高生産性」「高品質」を両立できる新たな基盤を実現しようとしている。三菱UFJフィナンシャル・グループのように利用を始めた企業も出てきた。情報システム部門として二つのJavaを生かさない手はない。
(進藤 智則)
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切り札は「関数型」
全世界で開発者は900万人。アプリケーションは8億5000万台のPC、数十億台の機器で動作する――米オラクルが公表したJavaの現状である。
日本でも、今やJavaは企業の情報システムに欠かせない存在だ。単なる開発言語にとどまらず、アプリケーションサーバーをはじめシステムの構築・実行に必要なプラットフォームの役割を果たす。メインフレームからオープン系に移行する際に、COBOLで開発したアプリケーションをJavaで書き換えることも今や当たり前になった。
1995年の誕生から18年。もはや枯れたプラットフォームといえるJavaが今、「高い開発生産性」と「高いソフトウエア品質」を両立できる言語へと大きく変わろうとしている。それを実現するのは「二つのJava」だ(図)。
一つは「Java 8(Java SE 8)」。2014年3月にリリースされるJavaの次期版だ。
もう一つは、2003年に登場した「Scala(スカラ)」。Javaの親戚と呼べる開発言語である。Javaの言語仕様に近く、Javaの実行環境であるJava VMで動く。
現時点で利用できるScalaを採用する企業は増えつつある。日本を代表する金融機関や流通業向けシステムの開発に向け、現在検討が進んでいる。
共に関数型を取り入れる
Java 8とScalaには重要な共通点がある。共に「関数型」の考え方を取り入れていることだ。これが高生産性と高品質を両立できる最大の理由である。
関数型は、ソフトを開発する際のプログラミングスタイルの一つ。開発生産性が「Ruby」のような軽量言語並みに高いのが特徴だ。一度アプリケーションを開発した後に、機能を継続的に追加・修整するアジャイル開発に向く。
開発言語では通常、ソフトの開発生産性と品質がトレードオフになりやすい。その点、関数型は高生産性と高品質を両立できるのが大きな魅力である。機能を変更しやすい一方で、変更による二次的な不具合(デグレード)を起こしにくいという性質があるからだ。
二つのJavaのうち、先に関数型の性質を取り入れたのはScalaである。ScalaはJavaに関数型の考え方を融合させて生まれた言語であり、関数型のメリットをフルに引き出す力を持つ。「現時点でエンタープライズ分野で関数型を使いたいのであれば、Scalaで決まり」。オブジェクト指向やJavaの権威として知られる浅海智晴氏は断言する。
このScalaに刺激を受け、関数型の性質を取り入れたのがJava 8だ。本家のJavaなので、従来のJavaとの上位互換性を備える。
Javaの良さを引き継いでScalaが誕生し、Scalaの持つ関数型の良さを取り入れてJava 8が生まれる。二つのJavaは「Java共栄圏」を構成しつつ、互いに影響を及ぼし合いながら進化している。
関数型が身近な存在に
二つのJavaが互いに進化を続けるのは、企業の情報システム部門にとって朗報と言える。高生産性と高品質を両立できる関数型が身近な存在となるからだ。
問題は、関数型には「取っつきにくい」とのイメージがあることだ。関数型の歴史は古く、基盤技術が形作られたのは1980年代である。しかし現在に至るまで、関数型のプログラミングスタイルを採用しているのは、一部企業にとどまっている。
二つのJavaにより、この状況が一変する可能性が高い。大きいのは、Java 8の登場だ。Javaの開発者が、使い慣れたJavaを使いながら関数型のメリットを享受できるようになる。
「関数型が難しいというのは偏見。Java 8の登場で、そのような思い込みを持つ人は減るはず」と、オブジェクト指向の識者である豆蔵の羽生田栄一CTO(最高技術責任者)は話す。
Java 8の登場により、Scalaが不要になるかというと、そうではない。Java 8が取り込むのは、Scalaが備えている関数型の性質の一部に過ぎない。関数型のメリットをフルに引き出したいのであれば、Scalaを使う方が効果的だ。
Scalaを利用する企業の担当者は異口同音に、「一般的なJavaエンジニアであれば、最長でも1カ月あればScalaで業務をこなせるようになる」と話す。Java 8で関数型のプログラミングスタイルに親しみ、フル活用したくなったらScalaを併用する。こんな選択肢を採ることが可能になる。
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