9月21日に開催された「ITproフォーラム 仮想化の全てがわかる一日」で,デル エンタープライズマーケティング本部マネージャーの布谷 恒和氏は「最近は多くのベンダーが仮想化ビジネスに参入しており,仮想化の目的が忘れられがちになっている。企業システム内で最も台数が多いIAサーバーをIAサーバーで統合するのが,最小限の投資で最大の利益を享受できるやり方だ」と訴えた。布谷氏は「仮想化のためにブレード・サーバーを推すベンダーもあるが,あまりお勧めできない」とも言い切る。布谷氏が語る低コストでの仮想化導入のコツを紹介しよう。
布谷氏は冒頭「仮想化を目的に大型のサーバーを売りたがるベンダーが増えているが,仮想化は目的ではなく,あくまで手段であることを認識したい」と警鐘を鳴らした。デルはローエンド・クラスのIAサーバーとVMware製品の組み合わせを提供しているが「標準的なハードウエアと標準的なソフトウエア,標準的な利用方法を採用することが,限られた予算で適切なスケジュールを実現することに繋がる」(布谷氏)と訴える。デルがVMware製品を薦める理由については,「デファクト・スタンダードだし,ソフトウエアも既に第3世代に入っている。エンジニアの間にVMware製品のスキルも蓄積されている」(布谷氏)と語っている。
布谷氏によれば「ユーザー企業におけるVMware製品の導入実績を見ると,2003年後半から開発環境や検証環境での導入が始まり,2005年初頭から企業規模や業種に関係なく,実運用環境での導入が始まった。2006年下期は,その傾向がさらに強まっている」という。またアジア太平洋地域で見ると,「仮想化の導入は,オーストラリアやニュージーランドが一番先行している。やはり英語圏で情報も入手しやすいことが影響している」(布谷氏)と傾向を紹介している。
それでは,布谷氏が語る仮想化の目的とは何だろうか。布谷氏は,(1)ソフトウエアのライフサイクルの方がハードウエアのライフサイクルよりも長い問題に対処すること,(2)エントリ・クラスのハードウエアにおける性能向上のメリットを享受すること,(3)開発期間を短縮化すること---とまとめている。
深刻化する「OSやアプリケーションのマルチ世代化」
布谷氏は多くの企業システムで「OSやアプリケーションのマルチ世代化」が深刻になっていると指摘する。OSであれば,Windows NT 4.0やWindows 2000 Server,Windows Server 2003が混在しているし,データベースはOracle8/9i/10gやSQL Server 2000/2005が混在しているのが実情だ。マルチ世代化の最大の問題は「ソフトウエアのライフサイクルの方が,ハードウエアのライフサイクルよりも長いこと」だ。業務アプリケーションを使いたいのに,サーバー・ハードウエアの保守期間やリース期間が終了したり,ハードウエアが故障したりすることで,利用が阻害されることが,ユーザー企業の懸念になっている。ハードウエアの寿命切れ対策として,仮想化の導入が向いているというのだ。
仮想化の目的の第2点として挙げたのが,ハードウエアの有効活用だ。「最近のサーバーは,40万~50万円で購入できるエントリ・クラスの厚さ1Uのモデルでも,デュアルコア・プロセッサを2個と,32Gバイトのメモリーを搭載できる。このようなサーバーで従来のアプリケーションを動かすのは,F1マシンを町で乗るようなもの」と布谷氏。サーバーを追加しても,ハードウエアの利用率が低いのが現状だという。「32Gバイトのメモリーがあれば,10~15台のサーバーを一元化できる」(布谷氏)。むやみにサーバーを増やすのではなく,仮想化でサーバー統合をするのが投資効率を上げるというのが布谷氏の主張だ。
目的の第3点は,システム開発の短期化だ。システム開発で意外と問題になっているのが,検証環境や開発環境の構築だという。「ハードウエアの調達やOSとアプリケーションのセットアップで青い顔をしているSEは多い」(布谷氏)。仮想マシンであれば,開発用の環境をすぐにセットアップし,それを展開したり再利用したりするのも容易だ。
NTTデータが営業支援システムで仮想マシンを使用
布谷氏は講演の中で,実稼働システムで仮想マシンを使用している事例として,NTTデータの営業支援システムを紹介した。NTTデータでは営業支援用のWebポータル・サイトを,仮想マシンを使って開発・運用している。従来このシステムは,12台の物理サーバーを使って開発・運用していたが,ラックに空きがないことや,サーバー稼働率が低いことが問題になっていたという。
そこでNTTデータでは,開発環境も運用環境も仮想マシンに移行した。開発の際には,テンプレートとなる仮想マシンを1個作ればそれが再利用できるので,検証作業が効率化した。実稼働環境への移行も容易で,開発サーバー上の仮想マシンを実稼働用サーバーにコピーするだけで済んだという。
仮想マシンのホスト用に4台のサーバーを利用しているが,いずれもメモリーを1Gバイト搭載するエントリ・クラスのハードウエアだという。「仮想化によって,開発用システムで使うラックのスペースは16Uから4Uに,運用に使うラックのスペースは8Uから2Uに削減され,電力使用量は4分の1になった。またリソースの利用率も数%台だったものが,40%以上になった」(布谷氏)。
NTTデータでは,「SecureVISTA」という運用監視ツールの開発にも仮想マシンを使用している。様々なプラットフォームの監視をテストするのに,仮想マシンを使っているのだ。こちらの場合はデルのサーバーで最も安価な「Power Edge1600SC」を使っており,コスト削減効果は年間500万円に達するという。「米GoogleもVMware製品の初期からのユーザーで,様々なWebブラウザを使う検証作業に仮想マシンを使っていると聞いている」(布谷氏)と,検証用途に仮想マシンが向いていることをアピールした。
製造業の現場でも仮想マシンが使用されている
事例はもう1つ紹介された。社名は明らかにされなかったが「社員数1万人を超える製造業」だという。この企業では,製造現場にある端末から収集される情報を蓄積するデータベース・サーバーを仮想マシンに移行した。仮想化を採用したきっかけは「メーカー保守の切れたサーバーをどうするかだった」(布谷氏)という。
まずは2005年夏に検証システムで「VMware ESX Server」を導入し始め,2006年3月から実稼働環境で仮想マシンを利用し始めた。検証環境から実稼働環境への移行も,ファイルなどを移動するだけで済んだという。同社では,既存サーバーのうちアプライアンス・サーバーや,実行するのに「ドングル」が必要なアプリケーションを使うもの以外は,メーカー保守が切れるサーバーから順次,仮想マシンに移行するという。布谷氏は「いきなり仮想マシンで運用を始めるのではなく,検証環境から仮想マシンを導入することによって,VMware ESX Serverの運用スキルを蓄積したり,仮想マシンに対する社内理解を深めたりしたことが,導入を成功させたポイント」と指摘する。
仮想化にブレード・サーバーは必須ではない
最後に布谷氏は,仮想化を進める際のハードウエア選定ポイントを指摘した。まず布谷氏は「高価なサーバーは必要ない」と断言する。「実は,物理プロセッサを2個搭載できるエントリ・クラスのサーバーが,技術の進展が一番早い。恐らくすぐに,エントリ・クラスのサーバーが,クアッドコア(4コア)プロセッサを2個搭載するようになるだろう。コスト・パフォーマンスを重視するのが,仮想化でも最も効率的だ」(布谷氏)という。
また布谷氏は「仮想化でボトルネックになるのは,プロセッサではなくI/O」と指摘する。また「今から仮想化を始めるのなら,ファイバ・チャネル(FC)のSANを使うのがベスト。VMware製品はiSCSIやNASもサポートしているが,サポート対象はハイエンド機が中心。低価格の小型SAN装置を使うほうが,コストを抑えられる」(布谷氏)という。
最後に布谷氏は「仮想化するなら必ずブレード・サーバーが望ましいわけではない」と指摘した。「ブレード・サーバーは高密度実装を実現するために,拡張性を犠牲にしている。VMware ESX Serverを使う際には,複数のPCIポートが必要になるのだが,ブレード・サーバーのユーザー企業の中には,PCIスロットをすぐに使い切ってしまったユーザーも多い」と語る。プロセッサよりもI/Oを重視してハードウエアを選択すべきと,改めて強調した。