写真1●MicrosoftでSQL Server Data Servicesを担当するGroup Program ManagerのTudor Toma氏
写真1●MicrosoftでSQL Server Data Servicesを担当するGroup Program ManagerのTudor Toma氏
[画像のクリックで拡大表示]

 米Microsoftは,2008年6月3日より米国オーランドで開催している「TechEd Developers 2008」で,同社が2009年上期にリリースする予定のストレージ・サービス「SQL Server Data Services」の利用シナリオなどを説明した。同社のGroup Program ManagerであるTudor Toma氏(写真1)は「インターネットにプラグインするだけで,ストレージが利用可能になる」と力説する。

 SQL Server Data Servicesは,米Amazonの「Amazon S3」に対抗するストレージ・サービス。Toma氏は「データベースのスキーマなどを定義する必要も無い,コンピュータ・クラウドにストレージを置くタイプのアプリケーション開発を容易にする,シンプルなサービスだ」と,SQL Server Data Servicesの利点を語る。

 SQL Server Data Servicesは,インターネットで広く使われているアプリケーション連携プロトコルである「SOAP」や「REST」を経由して利用できる。データベースのスキーマやテーブル構造を定義せずに,構造化データ,非構造化データを問わず,あらゆるタイプのデータを格納できる。データの操作は,抽象化されたコンテナ単位で実行するため,アプリケーションの開発も容易であるという。

写真2●Microsoft CloudDB Management Studioの画面
写真2●Microsoft CloudDB Management Studioの画面
[画像のクリックで拡大表示]

 Toma氏は「企業内のデータセンターで運用するオンプレミス(据え置き)型のアプリケーションと,企業の外のクラウドで運用するアプリケーションとで,同じAPIを利用できるようにしたい。APIが同じであれば,オンプレミス型とクラウド型のアプリケーションの連携が容易になるからだ」と語る。また,オンプレミス型のSQL Serverでも,クラウド型のSQL Server Data Servicesでも同じ「LINQ」(言語統合型クエリー)を使えるという。加えて,開発者に対して「Microsoft CloudDB Management Studio」という,既存のSQL Serverの管理ツールに似たツールを提供することも示唆している(写真2)。

容量計画や信頼性の確保に気を遣う必要が無くなる

 Toma氏は企業がSQL Server Data Servicesを使用する利点について,「ストレージのキャパシティ・プランニング(容量計画)や,可用性の確保,ディザスタ・リカバリー(災害対策)といった,オンプレミス型アプリケーションを構築する際の課題について,ユーザーが頭を悩ませる必要が無くなることだ」と強調する。SQL Server Data Servicesは,使ったぶんだけ課金されるサービスであり,世界各地にあるMicrosoftの巨大なデータセンターで運用されるので,どこかのデータセンターで障害が発生しても,ユーザーは継続してサービスを享受できると語る。

写真3●アーカイブ・ストレージとしてSQL Server Data Servicesを利用するシナリオ
写真3●アーカイブ・ストレージとしてSQL Server Data Servicesを利用するシナリオ
[画像のクリックで拡大表示]

 そのうえでToma氏は,SQL Server Data Servicesの利用シナリオを三つ提示した。一つ目は,アーカイブ・ストレージとしてSQL Server Data Servicesを利用するというもの(写真3)。大規模ニュース・サイトのようなサービスを提供する事業者が,発行から30日以上経過したアーカイブ・データを保存するのに,SQL Server Data Servicesを利用するのが良いとToma氏は指摘する。「(変更の無い)コールド・データを保存する安価なストレージとして利用できる。特に,ディザスタ・リカバリーを自動化できるという点で,アーカイブ・データの保存にSQL Server Data Servicesは向いている」(Toma氏)という。

写真4●社外から利用する帳票アプリケーションのストレージとしてSQL Server Data Servicesを利用するシナリオ
写真4●社外から利用する帳票アプリケーションのストレージとしてSQL Server Data Servicesを利用するシナリオ
[画像のクリックで拡大表示]

 二つ目に披露したのが,ノート・パソコンや携帯電話機など複数の端末から使用する帳票アプリケーション(モバイル・フォーム)のストレージとしての利用だ(写真4)。社内や社外からアクセスするアプリケーションのデータ保存先としてSQL Server Data Servicesを使用すれば「VPN無しに,どこからでもアプリケーションが利用できるようになる」(Toma氏)。またデータベースのスキーマなどを定義せずに,簡単に帳票アプリケーションが開発できる点も,SQL Server Data Servicesの利点だと語る。

写真5●企業間での大容量データの共有にSQL Server Data Servicesを利用するシナリオ
写真5●企業間での大容量データの共有にSQL Server Data Servicesを利用するシナリオ
[画像のクリックで拡大表示]

 三つ目の用途は,企業間での大容量データの共有(写真5)である。医療用データのような大容量データをやり取りする際に,SQL Server Data Servicesを使用するというシナリオだ。企業間の回線速度に左右されずに,大容量のデータを転送できるようになると指摘する。

 Toma氏は,SQL Server Data Serivesの特徴を「ビジネス・ユーザーをターゲットにしていることだ」と語る。サービスを開始するに当たっては,SLA(サービス・レベル・アグリーメント)を設定して,信頼できるサービスを顧客に提供すると強調する。競合のAmazon S3に関してAmazonは,「稼働率99.9%」または「稼働率99.99%」というSLAを用意している。この水準を上回れるかどうかが,SQL Server Data Servicesの課題となるだろう。

 Toma氏によれば,Microsoft社内でもSQL Server Data Servicesを使ったサービスの構築に取りかかっているという。「将来的には,Microsoft社内で開発したSQL Server Data Servicesの関連ソリューションも社外に提供していきたい」と語る。Amazon S3はもともと,Amazonが同社のeコマース・サイトを運用するために開発したストレージ技術であり,Amazonのノウハウが込められている。Microsoftとしても,同社自身がSQL Server Data Servicesのユーザーとなって,ノウハウを蓄積することで,サービスの利便性を高める考えだ。