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ライトノベルの起源とその後の流れ(2015年版)

昔書いた「ライトノベルの起源とその後の流れ」も、もう7年前になるので、ちょっと纏め直してみたり。ざっくりいうと、SFの影響を受けて1970年代にライトノベルが誕生、その後、アニメやRPG、美少女ゲームなどの影響を受けて、今のライトノベルになっているという話です。

ライトノベル以前 ~1960年代


少年向けの娯楽小説は、戦前から『少年世界(1895~)』『少年倶楽部(1914~)』といった雑誌で人気を博していたようです。でも、手塚治虫に代表される漫画に置き換わるように1950年代には衰退。なので、これら戦前/戦後の小説は、ライトノベルの源流のひとつではあるけれど、直接の祖先かというと、それはちょっと違いそう。

  • 1895年 少年世界創刊
  • 1914年 少年倶楽部創刊
  • 1936年 少年探偵団シリーズスタート ← 1962年まで続く戦前戦後の人気シリーズ
  • 1951年 『少年ケニヤ』連載開始
  • 1952年 漫画『鉄腕アトム』連載開始
  • 1959年 週刊少年マガジン、週刊少年サンデー創刊 ← 創刊当時は小説も掲載していたがやがて漫画中心に
  • 1963年 『鉄腕アトム』アニメ化

むしろ、ライトノベルの直接の祖先は、1960年代以降にブームを形成したSFと言えそうです。日本のSFは、1960年はじめに、小松左京、筒井康隆、眉村卓、平井和正、光瀬龍といったSF作家が相次いで登場して、1960年代後半にかけて、大きなブームとなるそうなんですが、この1960年はじめに登場するSF作家が、そのまんま、1970年代にライトノベルを支えた作家として出てきます。

ライトノベルの誕生前夜に大きな存在感を示すのが筒井康隆の『時をかける少女』で、1965年に中三コースに連載され、1972年にNHK少年ドラマシリーズでドラマ化されます。また、同じ1965年には、眉村卓の『なぞの転校生』も、中二コースに連載されていますね。これも1975年にNHK少年ドラマシリーズでドラマ化されて、さらにその後、秋元文庫、角川スニーカー文庫に収録されます。掲載紙を見ても少年/少女向けで、まさに、ライトノベルの先駆け的な作品です。

  • 1959年 SFマガジン創刊
  • 1961年 第一回「空想科学小説コンテスト」で、眉村卓、豊田有恒、小松左京、平井和正、光瀬龍らが入選
  • 1962年 第二回「空想科学小説コンテスト」で、半村良、筒井康隆らが入選
  • 1963年 日本SF作家クラブ発足
  • 1965年 『時をかける少女』『なぞの転校生』連載開始
  • 1973年 『時をかける少女』ドラマ化
  • 1975年 『なぞの転校生』ドラマ化

ライトノベルの誕生 1970年代


1970年代になると、さらに少年/少女向けの小説が増え、ついに、少年/少女向けの文庫レーベルが登場します。これら秋元文庫、コバルト文庫、ソノラマ文庫の創刊、もしくは、その少し前辺りをライトノベルの誕生とする場合が多いです。

初期には平井和正、眉村卓、光瀬龍らが活躍、やがて、新井素子、氷室冴子、高千穂遙、夢枕獏、菊地秀行、笹本祐一が登場し、これらの作家が、続く1980年代のライトノベルを牽引していくことになります。

  • 1969年 サンヤング・シリーズ創刊 ← ソノラマ文庫の前身
  • 1970年 ハヤカワ文庫創刊
  • 1971年 『超革命的中学生集団』発売 ← 『ライトノベル☆めった斬り!(大森望/三村美衣)』のいう起源
  • 1973年 秋元文庫創刊 ← 早見裕司のいう起源 (早見裕司 ジュニアの系譜)
  • 1973年 『ねらわれた学園』発売
  • 1975年 ソノラマ文庫創刊
  • 1976年 集英社文庫・コバルトシリーズ(後のコバルト文庫)創刊
  • 1977年 新井素子、氷室冴子デビュー ← コバルト文庫の方向性を確立
  • 1982年 『魔界都市』『キマイラ・吼』スタート ← ソノラマ文庫の方向性を確立

アニメーション文化の流入 1970年代後半~1980年代前半


ソノラマ文庫創刊当時から、アニメのノベライズはありましたが、今のようにライトノベルがオタクの読み物になったのは、この時代があったから。

1978年の『宇宙戦艦ヤマト』の映画化は、大量のアニメファンを生み出し、そのアニメファンをターゲットに、アニメのノベライズやライトノベルのアニメ化が盛んに行われることになります。ただ、アニメブームは、1980年代後半には急速にしぼんでいきます。

  • 1977年 アニメ『宇宙戦艦ヤマト』映画化
  • 1977年 『クラッシャージョウ』スタート
  • 1978年 アニメ雑誌『アニメージュ』『アニメック』創刊
  • 1979年 アニメ『機動戦士ガンダム』放送
  • 1979年 『機動戦士ガンダム』ノベライズ
  • 1979年 『ダーティペア』スタート
  • 1982年 徳間アニメージュ文庫創刊
  • 1982年 『銀河英雄伝説』スタート
  • 1982年 アニメ『超時空要塞マクロス』放送
  • 1983年 『超時空要塞マクロス』ノベライズ
  • 1983年 『クラッシャージョウ』アニメ化
  • 1984年 『宇宙皇子』スタート
  • 1985年 『ダーティペア』アニメ化

異世界ファンタジーの時代 1980年代後半~1990年代


1980年後半、RPGの文化がライトノベルを席巻していきます。『ロードス島戦記』と『スレイヤーズ』の登場です。それまではエロスとバイオレンスといわれていたライトノベルが、いっきに異世界ファンタジーばかりになるわけ。

当時、アニメブームが終了して空白となっていたオタクコンテンツの領域を狙って、まだ目新しかったテーブルトークRPGやコンピュータRPGを猛プッシュして、角川や富士見がブームを作り上げていったという感じです。それまでのソノラマ文庫やコバルト文庫が、文庫の方向性を確立するのに創刊から数年かけていたのに対して、特に、富士見ファンタジア文庫は、はじめからオタク向けファンタジーを狙い撃ちですからね。

『スレイヤーズ!』の売り上げのピークが1996年、異世界ファンタジーのもうひとつの代表作『魔術士オーフェン』のアニメ化が1999年なので、少なくとも1990年代後半まではライトノベル=異世界ファンタジーと言っていいような状況だったと思います。また、『スレイヤーズ!』や あかほりさとる作品の影響で、ライトノベルが“軽い”イメージになったのも、この頃のせいといってもいいんじゃないかしらん。

  • 1972年 『指輪物語』日本語版が発売
  • 1974年 アメリカでTRPG『D&D』発売
  • 1983年 ファミリーコンピュータ発売
  • 1983年 パソコンゲーム雑誌『コンプティーク』創刊 ← のちに『ロードス』『聖エルザ』を掲載
  • 1986年 『D&D』のリプレイとして『ロードス島戦記』掲載
  • 1987年 ゲーム『ドラゴンクエスト』『ファイナルファンタジー』発売
  • 1988年 富士見ファンタジア文庫、角川スニーカー文庫創刊
  • 1988年 小説版『ロードス島戦記』スタート
  • 1988年 『聖エルザクルセイダーズ』スタート
  • 1988年 『魔獣戦士ルナ・ヴァルガー』スタート
  • 1988年 前田珠子、1989年 若木未生デビュー ← コバルト文庫がファンタジー路線へ
  • 1989年 『無責任艦長タイラー』『フォーチュン・クエスト』スタート
  • 1990年 『スレイヤーズ!』スタート
  • 1992年 『十二国記』スタート
  • 1992年 『<卵王子>カイルロッドの苦難』スタート
  • 1993年 電撃文庫創刊
  • 1993年 『爆れつハンター』『MAZE☆爆熱時空』スタート
  • 1993年 『ヤマモト・ヨーコ』スタート
  • 1994年 『魔術士オーフェン』スタート
  • 1995年 『スレイヤーズ!』アニメ化
  • 1999年 『魔術士オーフェン』アニメ化

異世界ファンタジーから学園が舞台の萌え小説へ 1990年代後半~2000年代前半


1998年に、『ブギポ』『フルメタ』『マリみて』と、次の時代をリードする作品が出てきます。異世界ファンタジーの時代にも『聖エルザ』とか『タイラー』とか『ヤマモト・ヨーコ』とか非異世界ファンタジーの名作はあったんですが、ライトノベル=異世界ファンタジーのイメージが変わるには、これらの作品の登場し人気を獲得するのを待つ必要がありました。

また、2000年以降、Leaf、Keyの作品を中心とした美少女ゲームの影響もでてくるようになります。「萌え」をネタにした『天国に涙はいらない』が2001年、Keyの影響が見て取れる『インフィニティ・ゼロ』が出たのが2002年。2004年には、美少女ゲーム出身のヤマグチノボルの『ゼロの使い魔』が登場。同じく美少女ゲーム出身の竹宮ゆゆこの『わたしたちの田村くん』も2004年か。この『ゼロの使い魔』以降、美少女ゲーム出身の作家も増え、ライトノベルの萌え化が顕著になります。

  • 1996年 ゲーム『雫』『痕』発売
  • 1997年 ゲーム『To Heart』発売
  • 1998年 『ブギーポップは笑わない』『マリア様がみてる』『フルメタル・パニック!』スタート
  • 2000年 『ブギーポップは笑わない』アニメ化
  • 1999年 ゲーム『Kanon』発売
  • 2000年 ゲーム『AIR』発売
  • 2000年 『キノの旅』スタート
  • 2001年 『天国に涙はいらない』『イリヤの空、UFOの夏』スタート ← この頃から美少女ゲームの影響が出てくる
  • 2002年 『インフィニティ・ゼロ』『灼眼のシャナ』『戯言シリーズ』スタート
  • 2002年 『フルメタル・パニック!』アニメ化
  • 2004年 『ゼロの使い魔』『わたしたちの田村くん』スタート ← 美少女ゲーム出身の作家もラノベに参入してくる
  • 2004年 『マリア様がみてる』アニメ化

バブル化していくライトノベル人気 2000年代


1990年代までは、実は、そんなに話題になることのなかったライトノベルが、2000年代中ごろの評論本ブームで一般にも注目されるようになり、その結果、ライトノベルバブルのようなアニメ化ラッシュが起きて今もそのまま続いています。

や、うちのブログは1995年からやってますが、1990年代、インターネット上にライトノベルのコミュニティなんてのはなかったんですよ。そもそも、「ライトノベル」という呼び方も定着していなくて、それでも困らなかったぐらいに誰もライトノベルなんかに注目してなかったのよね。

それが変わってくるのが2000年ぐらい。『ブギポ』をはじめとして電撃文庫周辺で語られる作品が増えてきて、で、ここら辺の小説に名前がないと語りづらいということで、元々パソコン通信のニフティサーブローカルで使われていた「ライトノベル」という呼び名で呼ぶようになったという流れです。たぶん、そんな感じだった。

で、「ライトノベル」という名前がつくことで注目が集まり、2004年になると相次いでライトノベル評論本が発売され、さらに、2005年辺りから大量にアニメ化されていきます。「ラノベのTVアニメ化 - Matsuの日記」を見ると、二期を除いて、2004年が2本 → 2005年が6本 → 2006年が17本。劇的にアニメ化の本数が増えています。この大量にアニメ化された中に、2005年の『シャナ』、2006年の『ハルヒ』『ゼロ魔』があり、こられの成功によって、今でもライトノベルが大量にアニメ化される状況が続いています。ほんと、『ハルヒ』はヒットは凄まじかった。

  • 1990年 ニフティ上で“ライトノベル”という言葉が生まれる (神北情報局: 名付け親だぞ)
  • 2000年 2ちゃんねるに「ライトノベル・雑誌・エンターティメント板」が開設
  • 2001年 第一回ティーンズノベル・フェスティバル開催 ← 今でも続いているライトノベルファンイベント
  • 2002年 「ティーンズノベル・フェスティバル」が「ライトノベル・フェスティバル」に名称変更
  • 2003年 『涼宮ハルヒの憂鬱』スタート
  • 2004年 『とある魔術の禁書目録』スタート
  • 2004年 ネット有志によるWebイベント『このライトノベルがすごい!(のちにライトノベル・ファンパーティに改名)』開催
  • 2004年 『ライトノベル完全読本』『ライトノベル☆めった斬り!』『このライトノベルがすごい!』発売 ←ライトノベル評論本ブーム
  • 2005年 『灼眼のシャナ』アニメ化
  • 2006年 『とらドラ!』『狼と香辛料』『“文学少女”シリーズ』スタート
  • 2006年 『涼宮ハルヒの憂鬱』『ゼロの使い魔』アニメ化 ← この年から多量にラノベのアニメ化が行われる
  • 2008年 『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』スタート
  • 2008年 『とある魔術の禁書目録』『狼と香辛料』『とらドラ!』アニメ化
  • 2009年 『ロウきゅーぶ!』『僕は友達が少ない』『這いよれ! ニャル子さん』『織田信奈の野望』スタート
  • 2010年 『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』“文学少女”シリーズ、アニメ化
  • 2011年 『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』『のうりん』スタート
  • 2011年 『僕は友達が少ない』『ロウきゅーぶ!』アニメ化
  • 2012年 『ノーゲーム・ノーライフ』スタート
  • 2012年 『這いよれ! ニャル子さん』『織田信奈の野望』アニメ化
  • 2013年 『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』『ノーゲーム・ノーライフ』アニメ化
  • 2014年 『のうりん』アニメ化

そして、今。ネット小説の流入とライトノベルの浸透と拡散


そして、ライトノベルに関する最近の大きな流行は、大きく二つ。なろう系に代表されるネット小説の流入と、メディアワークス文庫や新潮文庫Nexに代表されるライトノベルの浸透と拡散でしょう。

ネット小説の書籍化は、古くは『福音の少年』とかがありますが、注目されるようになったのは、『ソードアート・オンライン』『まおゆう魔王勇者』『魔法科高校の劣等生』が出てくる2010年ぐらいからでしょうか。2012年のヒーロー文庫創刊から、いわゆる“なろう系レーベル”も増えて、最近では、かなり目立つようになった印象です。あと、なろう系の影響があるのかないのか、2000年代に比べると、多少、ファンタジーが復権して、「萌え」も控えめになっているような、なってないような。

ライトノベルの拡散については、先の評論本ブームなどでライトノベルが一般に認知された結果、2005年ぐらいから桜庭一樹、米澤穂信、有川浩といった作家がライトノベルを越境して行き、そして、2008年の桜庭一樹の直木賞受賞がかなり大きな事件でした。ただ、翌2009年にメディアワークス文庫が創刊されたものの、その後に続くレーベルはすぐには現れず、『ビブリア古書堂の事件手帖』『珈琲店タレーランの事件簿』がヒットして、やっと、富士見L文庫、新潮文庫Nexが昨年2014年に追随してきます。

  • 2002年 『ソードアート・オンライン』ネット連載スタート
  • 2003年 『福音の少年』発売 ← 元は『エヴァ』二次創作のネット小説
  • 2003年 『失はれる物語』発売 ← 乙一のライトノベル作品を一般向けに再収録
  • 2004年 小説投稿サイト「小説家になろう」開設
  • 2004年 『さよなら妖精』発売 ← 米澤穂信の一般向け作品
  • 2005年 『少女には向かない職業』発売 ← 桜庭一樹の一般向け作品
  • 2006年 『図書館戦争』発売 ← 有川浩の一般向け小説
  • 2008年 『魔法科高校の劣等生』ネット連載スタート
  • 2008年 桜庭一樹が『私の男』で直木賞受賞
  • 2008年 『迷宮街クロニクル』発売
  • 2009年 『ソードアート・オンライン』電撃文庫化
  • 2009年 メディアワークス文庫創刊 ← ライトノベル的な高年齢向けレーベルの創刊
  • 2009年 『まおゆう魔王勇者』2ちゃんねるで発表
  • 2010年 『まおゆう魔王勇者』書籍発売
  • 2011年 『魔法科高校の劣等生』電撃文庫化スタート
  • 2011年 『ビブリア古書堂の事件手帖』スタート
  • 2012年 『珈琲店タレーランの事件簿』スタート
  • 2012年 ヒーロー文庫創刊 ← なろう系レーベルの創刊
  • 2012年 『ソードアート・オンライン』アニメ化
  • 2013年 『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』GA文庫化スタート
  • 2013年 MFブックス創刊
  • 2014年 富士見L文庫、新潮文庫Nex、モンスター文庫創刊
  • 2014年 『魔法科高校の劣等生』アニメ化

[ 2015.03.01 ]