2015.05.08
多様性が広がる最新マイクロコントローラー11機種
[この記事は、Make:英語版 Vol. 43に掲載されたものです]
80年代、いろいろなCPUを搭載したさまざまなメーカーのパソコンが世の中にあふれ出した。当時を覚えている人なら、今のマイクロコントローラーの状況はあのときと似ていると感じるだろう。この1年半ほどで、数多くの新しいボードが登場した。近い将来、この傾向が収束するとはとても思えない。しかし、マイクロコントローラーの市場はパソコンの市場とは違う。その変革を起こしている力はまったくの別物だ。そのため、今の多様性を犠牲にして統一しなければならない理由がない。事実、この市場はどんどん面白くなってきている。
平民の身分
新しく登場したボードのほとんどは、ほんの数カ月で跡形もなく消えてしまう。生き残っているボードはどこが違うかといえば、それらをコミュニティが守っている点だ。現在ある2つの巨大コミュニティは、ArduinoとRaspberry Piのものだ。一部の市場でがんばっている面白いボードもあるにはあるが、マイクロコントローラーとシングルボード・コンピューターの世界では、その2大巨塔が話題を独占している。
何もないところからコミュニティを立ち上げるのは難しい。そのため、新しいボードの場合は、既存のコミュニティを奪い取るか、特定のボードにこだわらないコミュニティに入り込むかが常套手段になっている。新しいボードのメーカーの大多数は、後者の方法に従っている。そこでは、Makerつまりウェブ開発者との古いつながりがないことを売りにしている。
意外かもしれないが、Node.jsやJavascriptのコミュニティにもハードウェアのハッキングの歴史がある。しかし、Javascriptが走るTesselやEspruinoの登場によって、開発者たちは自分のネイティブ言語でハードウェアをハックできるようになった。
しかしながら、ArduinoやRaspberry Piの周囲に育ったコミュニティとは違い、そうしたコミュニティを束ねているのはボードではなく言語だ。この第三のコミュニティの基盤が特定のボードではないことは、理に適っている。そこには他のボードが参加できる余地があり、Javascriptの違う使い方も可能になる。
BeagleBone BlackはRaspberry Piの最大のライバルと見られているが、Cloud9開発環境と独自のBone Scriptが含まれていることはあまり知られていない。Beagleファミリーに最適化されたNode.jsライブラリーと、よく使われるArduinoのファンクションコールも含まれているのだ。WelOなどの他のLinuxベースのボードも、Javascriptベースの開発環境を最初から含めるようになってきた。
どこでもワイヤレス
長い間、Arduinoをなんらかのネットワークにつないで使えるようにすることは、とても難しかった。無線ネットワークとなると、さらに難しかった。私が見るところでは、だからこそRaspberry Piが、DigiのXBeeと同じく、Makerたちの人気を得ることとなったのだろう。
新しい世代の無線通信の可能性、とりわけTIのCC3000が市場に現れると、物事は劇的に変化した。無線通信が簡単になったというだけではない。新しいボードのほとんどに、Bluetooth LEやWifiに代表される無線通信機能が内蔵されるようになった。
その好例として、私が知る限り唯一、スケッチをアップロードしてBluetooth LEが使えるArduinoボードのLight Blue Beanと、切手サイズのボードにWiFiを内蔵した新型のSpark.io Photonボードがある。価格は20ドル以下で、次世代のネットワーク可能なマイクロコントローラーボードのシンボル的存在になるだろう。
ウェアラブルとモノのインターネット
マイクロコントローラーの市場が統一に向かわない理由のひとつには、ボードが汎用コンピューターではないからということが考えられる。マイクロコントローラーはいろいろなもののコントロールに使われる。なので、使用目的が単一ではない。そのため、今後もアークテクチャーやフォームファクターの異なるさまざまなボードが登場してくるはずだ。
現在、その幅を広げているものに、ウェアラブル機器とモノのインターネット(IoT)がある。この2つのトレンドは、マイクロコントローラーのデザインに大きな影響を与えた。より小さく、より効率的で、無線内蔵という方向だ。とくにウェアラブルの場合は、コンセントから電源をとるわけにはいかない。この傾向は、Kickstarterなどのクラウドファンディングに登場する新世代のボードに見られる。MetaWear、MicroView、そしてもちろん、Light Blue Beanもその仲間だ。
この傾向を示す好例に、ESP8266シリアル・トランシーバーモジュールがある。たった5ドルというこの小さなモジュールは、そもそもは製品をインターネットに、安価に簡単に接続するためのものとして作られた。しかしこれに、コミュニティが開発したGCC SDKが加わり、それ自体がマイクロコントローラーボードとなったのだ。IoTにとって非常に安いプラットフォームだ。
MakerからMaker Proへ
どこかで聞いて知っているかも知れないが、マイクロコントローラーはMakerムーブメントが発明したものではない。それは大きな、これまでは遠い存在の、大手企業によって作られたものだ。表面実装のパーツや400ページのチンプンカンプンなマニュアルが大好きな業界だ。去年あたりから面白い動きが出てきたのだが、こうした市場も、Makerの世界で起きていることに関心を示し始めた。それにMakerたちも気づき始めたのだ。
その兆候は、2つの方向性が中央でひとつに修練した場所に現れている。Makerの世界にはRaspberry Piがある。市販の製品に頭脳を埋め込むために作られたボードだ。そして工業界にはIntelのEdisonがある。これもまったく同じ使命を帯びている。
すでに、Makerコミュニティから生まれたCompute Moduleを内蔵したOTTOカメラが製品化されている。Edison においても、普及が進むにつれて同じことが起きてくるだろう。
プログラム不要
このスペクトラムの反対側の端には、実質的にプログラミングを必要としないlittleBitsのような製品がある。ちょっと見るとオモチャのようだが、現在そのシステムはすごいものになっている。大企業のなかにも、モックアップや実際の製品の開発にこれを役立てているところもあるくらいだ。
Arduino bit、もっとはっきり言えば、ほぼあらゆるものに接続してインターネットが利用できるようになるcloudBitの登場で、システムはシンプルになり、柔軟性が大幅に増した。そして、ビットの開発を可能にしたメイカースペースのbitLabによって、ティンカリングしたい一般のMakerや、それにユニークな機能を追加したいプロのMakerのためにシステムがオープン化された。
次世代のArduinoとPi
現在のフォームファクターとソフトウェアに大量に投資している巨大なコミュニティーを抱えるArduinoとRaspberry Pi財団は、どちらも劇的な進化ができにくい状態にある。とは言え、この市場の2大モンスターがずっと変化しないということではない。
間もなく発売予定のArduino Zeroは、ARMプロセッサーを採用しているが、やがてはUnoやLeonardoに取って代わり、全体を32ビットに移行しようという狙いがある。さらに、Arduino at Heartプログラムにより、爆発的に登場するであろうApolloボードのような次世代の互換ボードもコントロールしようとしている。
Raspberry Pi財団も、Model A+とB+を発売して、オリジナルのModel AとModel Bを置き換えようとしている。最初のPiが発売されてからの2年間で、その組み立ての悪さに対して多くの苦情が寄せられたが、それでもPiは大成功を収めた。新型ボードでは、もうそんな苦情を受けることがないように作られている。
この2つのモデルの先を、さらに期待してしまうのだが、それはよりスペシャライズされたRaspberry Pi財団のボードだ。しかし、Piの拡張ボード HATの投入で、Piのフォームファクターはしばらく固定されることになりそうだ。
今はどこだ?
今後6カ月は、これまでの12カ月間に発表されたものと似たような傾向でボードが市場に出回ることになるだろうと私は考える。ボードデザインの普及はさらに続き、新しいボードもさらに多く登場するだろう。新型ボードの多くは、登場したときと同じぐらい早く消えてしまうであろうが、それを超えたところに、市場の安定化がある。
ここしばらくは、ボードの小型化と無線内蔵のトレンドは続くだろう。たとえば、Espruinoは、まもなくPicoが発売される。そうなるかどうか定かではないが、Arduinoのときのように、小型ボードについてもなんらかの標準のサイズが決まってくるのかもしれない。そして、そこから、そのボードの周囲にウェアラブル関連の第四のコミュニティが作られるようになるのだろう。
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