『ジョナサン・アイブ 偉大な製品を生み出すアップルの天才デザイナー』読んだ。
アップルのデザイナー、ジョナサン・アイブの仕事のあゆみを追った本。本人のインタビューや関係者の証言をもとに書かれている。
ジョナサン・アイブはMacとかiPodとかiPhoneとか、アップルのプロダクトデザインを統括してる人で、製品ビデオでよく喋ってる人。彼のことは知らなくても、iPodやiPhoneを今までに見たことも触ったこともないという人は稀だと思う。それだけ、多くの人に影響を与えるデザイナーということだ。
本はアイブの学生時代から始まるのだけど、既にその頃から天才と呼ばれていて、デザイナーの父親のもと幼いうちからプロダクトデザインを学び、若くして数多のデザイン賞を受賞、企業からは引っ張りだこという、絵に描いたようなカリスマデザイナーだった。実際すごいんだろうけど、関係者の証言をもとに書いてるものだから、もうとにかく滅茶苦茶に持ち上げる感じ。正直、このパートだけ読んだら、あまりに自分と世界が違いすぎて落ち込む。
もともと彼はデザイン事務所で成功したけど、次第にコンサルタント的な立場での限界を感じ始めたという。「社会に劇的な変化を起こすには、外部から働きかけるのでは足りなくで、組織の内部からでないといけない」と思い(つまりインハウスデザイナーだ)、アップルへの入社を決意したとのことだった。
アップル入社以降の章は、アイブ一人というよりデザインチーム(アップル・インダストリアル・デザイン・グループ=IDg)全体にスポットが当たる。アップルのデザインチームは大変な秘密主義で知られ、その様子が外部に漏れ聞こえることは殆どない。だから、その様子が詳細に語られる本書はそれだけでも興味深いと思う。ちなみに、秘密主義をよく表すエピソードとして、デザインチームのブースには社内のスタッフでも立ち入れないという(前iOS責任者スコット・フォーストールでさえも彼の社員証では立ち入り権限がなかったらしい)。いくらなんでも過剰だと思うけど、そのくらい徹底しているということだった。
僕は割とプロジェクトX的なフォーマットの本が好きで、「うまくいってない会社が何かイノベーションを起こして急成長する」みたいな話が好きである。アイブが入社したときのアップルがまさにうまくいってない時期にあたる。アップルはかつて社内にデザインチームを持ってなかったので、人材採用は難航した(自社でデザインしない会社だと思われてた)。ジョブズは解雇されるし、各製品のデザインの統一感も失われていた。アイブ入社当時のデザインチームの役割は、エンジニアが設計した製品の「ガワを作る」仕事だったという。これデザイナーの魂が濁るやつだ。
ジョブズが戻ってきてから、鶴の一声でデザインチームの地位が一気に向上する。デザイナー主導の製品開発がスタートする。そこからのアイブの活躍ぶりは、iMacやiPod, iPhoneのデザインを見れば明らかだ。
個人的にはデザイナーの書籍、デザイナー本人が「オレはこう思う」みたいなことを書いたほうが面白いと思う。本書は取材をもとに書かれているのでどうしても事実が中心になっちゃうんだけど、まあそれはそういうコンセプトの本だからよいと思う。それに、(自分にとってはあまり馴染みのない)プロダクトデザイナーと呼ばれる人々が普段どんな仕事をしてるのかは興味深かったし、何よりアップルのデザインを作ったチームであるから、自分がかつて持っていたiPodなどを思い返しながら読めた。
丁度400ページでそこそこボリュームあるんだけど、意外とすぐ読めた気がした。なんでだろ。
なかなか売れているようで、Amazonでは一時在庫切れだった。Kindle版もあって、こっちは在庫切れとかないから便利。こういう、まだ古本で安くなってない本はKindle版買ったほうが得だと思う。
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