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シリアルバレット・オイタナジー

作者: 河野裕

 霞みのような粉雪が舞う場所で、小さな子供が、軽やかに歌う。

「なんにもないのは黒か、白か」

 まっ黒なコートを着た子供だ。

「ぜんぶ消すのは黒か、白か」

 細い鎖が、柔らかな首筋に引っ掛かっている。

「なんにもなくて、ぜんぶ消えて、最後に残った色はなに?」

 小さな子供が首を傾げる。鎖の先っぽについた鉛色の弾丸が、ふらふらと揺れる。

「ぜんぶ消えて、残るのはなに?」

 何もかもが消えてゆく場所で、何もかもが消えるまで。

 歌声に合わせて、粉雪と弾丸が、同じ音を立てて揺れる。


 1


 灰色の朝日が差し込むベッドの中で、少年は考える。

 どうしようもない事実として、〈青い野原の集落〉は終わりつつある。

 ここには未来なんてない。そんなことみんな知っている。

 誰か偉い人が、早く看板を立てるべきなのだ。〈青い野原の集落〉は終了しました、と大きな字で書いて。そうすればこの集落の人たちだって、雪原へと足を踏み出すかもしれない。あるいは自主的に、墓石の下に潜り込むかもしれない。どちらにせよ重たいため息を一つ残して。

 だが、もしもこの集落を出たとして、人々はどこを目指すのだろう?

 信じられないことだが、商人たちは雪原を越えてやってくる。彼らが自分の命にどれだけの値段をつけているのかは知らないけれど、少なくとも何割かの確率で、人間があの雪原を越えられるのだという証明はしてくれる。

 もしも、雪原を越えられたとして。――少年は身震いしてから、一度は胸の辺りまで下ろした毛布に再び頬を埋める。

 もしも雪原を越えられたとして、その先に何があるというのだろう?

 辺境――というのは、今はもう壁の向こうに消えてしまった、〈大きな街〉以外のすべてを指す――はどこであれ、雪に覆われている。雪は何もかもをすっかり隠して、どこもかしこも同じ場所にしてしまう。

 結局、人々に居場所なんてありはしないのだ。墓石の下を除けば、どこにも。

 そして凍った土を掘り起こすのが面倒な人々は、日が沈めばベッドに潜り込む。翌朝太陽が昇ったなら、またそのベッドから這い出すことができるかもしれない。夜が明けなくても、親切な隣人がいたなら、代わりに凍った土を掘り起こしてくれるかもれしない。前者ならため息をつくだけでいいし、後者ならその必要もない。代わりにため息をつくのは隣人の仕事だ。

 それだけのことを考えて、ようやく少年はベッドから抜け出す。ともかく朝はやってきたのだし、親切な隣人なんてものはどこにもいないのだから、と自身に言い聞かせて。

 毎朝のことだった。体温の移った毛布を手放すには、この程度の猶予が必要だ。それから朝食のスープを作るための塩があと何日分残っているのか思い悩み、首を振って、やはりため息をつく。ここまでがすべて、定型化した朝の行事だ。

 室内とはいえ、この時間は冷える。少年は黒いコートを着込んで、首に細い鎖を掛けた。首筋の、鎖にふれた部分が、その冷たさに痛みを覚える。あくび一つで誤魔化した。

 軋む扉を押し開けて、寝室を後にした。

 長い廊下を進み、キッチンの扉を開く直前、庭の方から重たい音が聞こえた。屋根に積もった雪が滑り落ちたのだろう。興味もなかったが、少年は窓の外に視線を向けた。おそらくはその辺りにいくらでもある雪山の、どれか一つが今、屋根から落ちてきたものだ。

 どうでもいいことだ。しかし、少年は思わず窓際に歩み寄る。

 見間違えならよかった。だが、違う。庭の、真新しい雪の上に、一組分の足跡が並んでいた。人間の足跡だ。

 足跡はこの屋敷の、玄関の方に続いているようだった。少年はキッチンの扉に背を向けて、玄関を目指す。

 無意味に広い玄関ホールを通り抜ける途中、入り口の扉が叩かれた。

 不意を打たれた。

 それは、優しいノックだった。

 火かき棒の最も鋭利な部分で錠前を叩き壊されることがあったとしても、まさかこの扉が軽くノックされるなんて、考えたこともなかった。

 立ちすくむ。どうしていいのか、わからなかった。もう一度寝室に戻って、ベッドに潜り込んでしまおうか? 半ば本気でそう考えていると、再び扉が叩かれる。

 優しく二回。それは、囁く声のような。

 ため息が漏れた。定型化した儀式から外れたため息。これで今日一日につくため息の総量が、普段に比べて少なくとも一つ、多くなった。良くない傾向だ。

 少年は首に掛かった鎖の先端がきちんとコートの中に入っていることを確認してから、錠をはずして重たい扉を押し開けた。雪面に反射する朝日が眩しい。

 そこに。真っ青なコートを着た、背の高い女性が、立っていた。

 目が合う。深いブラウンの瞳。奇妙な引力を持った目。

 彼女は吐息を漏らし、瞼を閉じて。

 ぐらりとこちらに、倒れ込んだ。


 一体、なんだというんだ、まったく。

 心の中でそう呟きながら、少年は青いコートを着た女性を背負い、寝室に運んだ。コートはひどく濡れていた。雪の中を歩いたなら当然だが。それを脱がせて、彼女の身体を毛布で包み、もう何年も使っていなかった暖炉に薪をくべる。

 その薪が燃えて弾ける音を聞きながら、少年は声に出さずにまた呟いた。――一体、なんだというんだ、まったく。

 彼女の額は熱かった。口からは時折、うめき声のような吐息が漏れる。このまま、彼女が目覚めなかったとして。まさか見ず知らずの女性のために、墓穴を掘らなければならないのだろうか。なんの為に? 理解できない。

 きつく絞った布を彼女の額に載せてしまうと、それ以上にできることは何もない。仕方なく少年は、キッチンに向かった。雪解け前の薪は高価だ。一度に二つの場所で火を起こすというのも馬鹿げていたが、寝室の暖炉には鍋を掛けることができない。

 薄い塩味のスープにニンジンを入れ、少し悩んでから塩漬け肉を削って落とす。硬いパンを二つあぶり、適当に皿に盛った。一緒に秘蔵のチーズをあぶろうかと思ったが、目を覚ます保証もない人間にそこまでするのも馬鹿げている。

 キッチンの片隅で埃を被っていた給仕用の台車に、パンとスープを二つずつ、四つの皿を載せて寝室に運ぶ。

 毛布に包まった彼女は、まだ目を閉じていた。うめき声は収まっている。なんの音も聞えない。薪が弾ける音の他には、なにも。ふと不安になり、少年は彼女の口元に手をかざした。まだ息はしているようだ。

 安堵の息を漏らし、それをため息にカウントすべきか悩んでいると、ふいに彼女の目が開いた。少年の手はまだ彼女の口元にある。なんだか気まずい。

 ゆっくりとその手を引き戻して、少年は言った。

「おはよう」

 それから、おそらくは彼女の方が年上だろうということに思い当たる。もう少し丁寧に挨拶した方がよかっただろうか。彼女の機嫌をとっても、仕方がないとは思うけれど。

「貴方は?」

 熱のせいだろうか、彼女の声は掠れている。

 勝手にやってきて、目の前で倒れて、その質問はないだろう。

 だが文句を並べても仕方がない。わかり切っていることを、少年は答える。

「この家に住んでいるんだ」

 彼女はまた目を閉じる。再び眠ったのかとも思ったが。どうやらしばらくの間、考え込んでいただけらしい。彼女は言った。

「思い出した。貴方が、助けてくれたの?」

「助けた?」

 驚いて、尋ね返す。

 彼女は顔をしかめた。眉をひそめようとしたのかもしれない。

「違うの?」

 少年は首を振る。

「きみは、わざわざ扉をノックして、開くのを待ってから倒れたんだ。扉を閉めようと思えば、きみを運ぶしかなかった。外側に運ぶよりは家の中に運び込んだ方が、手間が少ない」

「じゃあ、毛布とか、これは?」

 彼女は額の湿った布を指差す。

「きみが死ぬと、僕は穴を掘らなければいけない。人が一人埋まるだけの深い穴だよ。布をしぼるのとはわけが違う」

 できれば歩いて出て行って欲しいんだ、と少年は告げる。

 彼女は口元を歪めて笑う。まだ、笑い声を上げるだけの元気はないようだった。

「助けてくれて、ありがとう」

「言葉が通じてないのかな?」

「通じているから、お礼を言ったのよ」

 それから彼女は、顔をしかめた。

「頭が痛いわ」

「熱がある。もう少し眠った方がいいね」

「嫌よ。いい匂いがするもの」

 それから彼女は、給仕台の皿を見た。

 少年は尋ねる。

「食べられるの?」

「食べられると思ったから、作ったんじゃないの?」

「僕の朝食だよ。きみの分は、ついでに用意しただけ」

 彼女はもう一度、口元だけで笑ってから、「よいしょ」と漏らして体を起こした。それからまた額を押さえる。

「もう。頭痛って、なんなのよ。人体に必要なもの?」

 少年はため息をつく。

「知らないよ、そんなの。もう少し寝てろって意味じゃないかな?」

「なら素直に眠くなればいいじゃない。本当に頭が痛い時、貴方は眠ろうって気になる?」

「さあね。少なくとも、頭痛に対して文句を並びたてる気にはならないな」

 少年は給仕台を押して、彼女の前に食事を運ぶ。

 彼女はスプーンを掴んでから、ふいに不安げな表情を浮かべてこちらを見た。

「食べていいの?」

 ずいぶん、いまさらな質問だった。

「いいよ。僕が二皿も食べるわけにはいかない」

 食べられないわけではない。だがその量に慣れてはいけない。日常的に得られるものではないのだから。

 不安げな表情のまま、彼女は言った。

「いくら?」

 思わず顔をしかめそうになり、少年は苦労して無表情を装う。

 彼女の質問は、ひどく正しい。値段を告げずに差し出されたものを受け取るなんて、愚か者の極みだ。初めから踏み倒すつもりなら別だけれど。

「お金を取るつもりなんてないよ」

 答えてから、間違いに気づいた。

 そんな言葉を信じる人間が、どこにいるというのだ? 相手に不信感を与えないためにも、妥当な対価を要求するべきだった。

 訂正しようとして、でもその前に彼女の顔に笑みが広がる。

「ホント? ありがとう!」

 それからいただきますと告げて、スプーンをスープに突っ込む。

 少年は今日何度目かのため息をつく。もうカウントするのも馬鹿馬鹿しい。それから部屋の隅にあった椅子を引き寄せて、台車の前に座った。


 食事は黙々と進んだ。彼女は何度かこちらに話しかけようとして、その度に顔をしかめながらこめかみの辺りを押さえていた。

 少年は暖炉の炎を見ていた。朝、これから暖かくなる時間に、暖炉に火をくべているのは極めて贅沢なことだ。スープには僅かとはいえ塩漬け肉が入っている。少し奮発しすぎだ。自戒しなくてはならない。

 食事を終えて、空になった皿を見てから、彼女は言う。

「せめて、お皿くらい私が洗うわよ」

「いいよ。きみは寝ていなさい」

「でも」

「どうしても僕に穴を掘らせたいの?」

 しばらくこちらの顔を見てから、彼女はしぶしぶといった様子でベッドに横になる。

「じゃあね、おやすみ」

 そう告げて、給仕台を押して部屋を出ようとした時に、

「いかないでよ」

 と、彼女は言った。

 少年は足を止めて、振り返る。言葉は出てこなかった。

 彼女は、もう一度言う。

「いかないでよ。昔から、こういう時って、なんだか凄く寂しくなるの」

「こういう時?」

「要するに、熱があったり、頭が痛かったりっていう時」

 まったく、馬鹿馬鹿しい。

「じゃあ、なに? 僕は子守唄でも歌えばいいの?」

「歌ってくれるの?」

「歌わないよ、絶対に」

 少年は再び彼女に背を向ける。

「だから、ねぇ。いかないでよ」

「どうしろっていうのさ?」

「話し相手になって」

 少年は首を振る。

「きみと話すようなことなんてない。何一つ、ない」

「うそ。少しは気になるでしょ? 私が誰なのか、とか。まだ名前も教えてないもの」

「興味ないよ。きみの名前なんかに」

「もしかしたらとても変わった名前かもしれないじゃない」

「きみの名前がどれだけ変でも、僕には関係ないことだ」

 少年は早くこの部屋を出たかったけれど、彼女は勝手に話し続ける。

「ねぇ、貴方、〈黄色い波打ちぎわの集落〉って知ってる?」

「……昔、行ったことがあるよ」

 ずいぶん南の方にある集落の名だ。一〇年くらい前までは、魚介類と果物の産地として有名だった。今、どうなっているのかはよく知らない。

「そう。貴方、お金持ちっぽいものね」

 幼い頃から旅行なんてするのは、金持ちの子供だけだ。

「元、ね。それにお金を持っていたのは、僕じゃなくて僕の父親」

 彼女は再び、そう、と気の無い様子で答えた。

「ともかく、そこで人が死んだのよ。一年くらい前に」

「人なんて、いつでも死んでるよ。今日も昨日も、そこかしこで」

「死んだのは私の母親よ。頭を撃ち抜かれたの」

「それも、珍しいことじゃない」

 横になったまま、彼女は頷く。

「知ってる。でも許せない」

 彼女は懐から、小さな布袋を取り出した。中身をこちらに向かって投げる。横になったままだから目測を誤ったのか、それは床に落ちて壁際まで転がった。

「母さんの頭の中から見つかったの」

 少年はそれを拾い上げる。弾丸だ。先端が潰れている。

 弾丸を――そこに記されたナンバーを見てから、少年はそれを投げ返す。緩やかな放物線を描いた弾丸が、軽い音を立ててベッドの上に落ちる。

「だから、この集落に来たんだね?」

「うん」

「馬鹿げている。とても」

「それも、知ってる」

 彼女は弾丸を再び布袋に入れ、懐にしまった。

「役所はどこ?」

「そんなもの、もうないよ」

 滞りがちだった〈大きな街〉からの給金が、完全に止まったのが一年前。そのすぐ後に、最後の職員が姿を消した。

 どの集落でだって起こっていることだ。彼女は特別に、驚いた様子もなかった。

「そう。……ねぇ、貴方のご両親は?」

 彼女の質問に、少年は背を向ける。

「おやすみ」

 それだけ告げ、少年は給仕台を押して部屋を出た。


 2、


 すべての始まりは、世界の急速な寒冷化だった。およそニ〇年前から始まったといわれる寒冷化は、十数年かけて生態系に大きな打撃を与え、農作物を駆逐した。

 そして、六年前。〈大きな街〉は、すべての辺境を切り捨てた。

 昔、〈大きな街〉は世界の中心で、辺境にあるすべての集落の統治者だった。

 集落は〈大きな街〉に任命された役人によって納められ、〈大きな街〉から派遣された衛兵の力で治安が維持されていた。

 でも寒冷化で食料が枯渇し、交通が麻痺して、社会が成り立たなくなった。その時〈大きな街〉は辺境の集落から姿をくらませた。〈大きな街〉の周囲を高く大きな壁で囲い、辺境からはその姿が見えなくなった。

 あるいは、〈大きな街〉が築き上げた壁は、死にゆく辺境のための墓石だったのかもしれない。墓石とはすなわち、生き残る者の心の平穏を保つためにある。〈大きな街〉は辺境を壁で隠し、視界から追いやった。

 壁の内側を、辺境から覗き見ることはできない。石炭を焚き続け、その熱で豊潤な土壌を作っているのだと噂する者もいる。あるいは辺境とかわらず、〈大きな街〉もまた死にゆくだけだと言う者もいる。

 ともかく〈大きな街〉は、辺境を切り捨てたのだ。壁が完成した直後から、順番に役人への給金を打ち切り、衛兵を引き上げた。

 そして代わりに、辺境に一つのルールを与えた。それは粗悪な紙に記された、死と弾丸に関するルールだった。

 だいたい、次のような文面から始まる。


 ――統治とは、一の力しか持たない人と、一〇の力を持つ人に、平等に一万の力を与えるものです。

 一〇の力を持つ人は、一の力しか持たない人を簡単に支配します。ですが、一万と一〇の力を持つ人でも、一万と一の力を持つ人を支配することは困難です。

 今まで〈大きな街〉は、すべての集落のすべての人々に、平等に強い力を与えてきました。強い力とは、つまり衛兵です。衛兵はいつも、ルールを守るすべての人々の力であり続けました。それにより、個人による個人の支配を取り除くのが統治だと、〈大きな街〉は考えてきました。そして――


 文面はまだまだ続くが、結局のところルールは一つだった。

 辺境から衛兵がいなくなる。

 その代わり、役所には銃が用意される。加えて辺境に暮らす人々にはナンバーが割り振られ、そのナンバーが刻印された一発の弾丸が配布される。

 弾丸で何を撃とうが自由だ。弾丸に刻印されたナンバーの持ち主が、私が撃ちましたと証言すればなんの罪にも問われない。女性も幼子も一様に、自分を守る強い力を持つことができる。

 一が、一万一になるために。

 人は生涯に一度だけ、何を撃っても許される弾丸を手に入れる。

 衛兵の代わりに、人を殺める権利を配るというのが、このルールのすべてだった。

 今、辺境の人々は、自身のナンバーが刻まれた弾丸を首からぶら下げて生活している。まだ人を殺める権利を有しているのだと証明するために、冷たい鎖を首筋に食い込ませて生きている。

 ――馬鹿げている、と少年は思う。

 そのルールを破った時、例えばナンバーが刻印されていない弾丸で人を殺めた時、それを取り締まるのは誰だ? 衛兵はもういないのだ。別のナンバーを持つ人間が、弾丸を相手の頭に撃ち込むしかない。

 問題は、辺境にいる人間と弾丸の数だった。辺境には人間と同じ数だけの、人を殺めることが許された弾丸がある。

 どこかの誰かが、空にでも向かって発砲すれば、それだけ弾丸の数は減るだろう。だがそんなことができる人間が、一体どこにいるというのだ? 衛兵がいないなら。どれだけ馬鹿げていても、その弾丸が唯一の、自分を守る力であることには変わりない。

 もしも誰かが弾丸を使えば、その誰かは無力になる。次の誰かに、弾丸で狙われる。〈大きな街〉はその連鎖を望んでいるのだ、と少年は思う。つまりはすべての、ナンバーが刻印された弾丸で、順番に辺境の人々が撃ち殺されていくことを。〈大きな街〉は墓石の向こう側にいる人々がうっかり自分たちの前に現れることを怖れ、きちんと死人になることを求めた。そしてそのスイッチを辺境に与えた。

 弾丸に刻まれたナンバー。それは、持ち主が所属する集落を表す二つのアルファベットと、四から五桁の番号で構成される。

 少年の集落――〈青い草原の集落〉の住民が持つ弾丸は、必ず「bg」から始まる。その後ろに四つの数字。

 そして――

 少年は、自身の首に掛かった鎖を撫で思い出す。その、何もついてはいないただの鎖を撫でて。

 彼女が投げてよこした弾丸には「bg-147」と記されていた。

 その後ろにあるはずの、最後の一桁は、弾丸が潰れていて読み取れなかった。


       ※


 彼女が少年の家に現れてから、三日経った。

 その昼下がり。少年はキッチンの床に掘った穴――辺境の地面に掘られた穴はなんであれ、氷室と同等の役割を果たす――に顔を突っ込んでいた。

「ねぇ、これ」

 後ろから声が聞こえた。彼女の声。

「なに?」

 答えながら、少年は穴の奥に手を伸ばす。

「見てよ、こっち」

 指先に、ざらりとしたものが触れた。一抱えほどの麻袋。それを掴み、穴から引きずり出す。それからようやく、少年は振り返った。

 そこには、笑顔の彼女がいる。彼女は平熱を取り戻し、頭痛に苛まれることもなく、顔全体で笑うことができるようになっていた。

「これ。こんなのあったよ」

 彼女の手の中には、立方体に近い形をした缶があった。さびついた缶。どこかで見た記憶がある。

「……ああ」

 少年の口から、ため息混じりの声が漏れる。それは、紅茶の葉が入った缶だ。

「そんなものに、カロリーはないよ」

 生きる糧にはならない。

 しかし、彼女は笑顔を崩さなかった。

「いいじゃない。嗜好品って、基本的には役に立たないものでしょ?」

「そんなことないよ。キャンディーもチョコレートも、とても栄養がある」

「栄養を取るために口に含んだキャンディーなんて、もう嗜好品じゃないわ」

「気の持ちようだよ、そんなの」

 彼女は開いている方の手の人差し指を立てる。

「ともかく。飲んでみましょうよ、これ」

 少年は考える。

 できれば売ってしまいたいところだけれど、この集落に真っ当な対価を支払い、紅茶を飲もうとする人がいるだろうか? 同じ重さの塩とだって、交換して貰えるかあやしいところだ。

「まあ、少しくらい飲んでもいいけどさ」

「ホント?」

「それよりもまず、確認しておくことがある」

「あら、何かしら?」

 本当に何も察していない様子の彼女に、少年は内心でため息をつく。

「体調はどう?」

「心配してくれるの? 大丈夫よ、もうまったく平気」

「じゃあ、いつまでここにいるつもりなのかな?」

「ウソ。実は今も、頭痛と熱で死にそうなの」

 少年は、今度は彼女にも伝わるように、大きなため息をついた。

「あの時、僕はきみのための穴を掘っておくべきだったのかもしれないね」

「いいじゃない。別に、迷惑は掛けていないでしょ?」

「六日分あった塩が、三日で無くなったよ」

 彼女は笑顔を引っ込める。

「……それは、ごめんなさい」

 彼女は眉間に皺を寄せて、考え込んでから口を開く。

「じゃあ、私が持っているものをあげる。毛布が一枚と、木苺のジャムが小瓶に半分あるわ」

「それだけで雪原を越えたの?」

「ええ」

「まったく、馬鹿げている」

 そう答えながら、心の中では理解していた。

 どこで死のうが、彼女の死が持つ意味が変わるわけではないのだ。ベッドの中でも、雪原の途中でも。弾丸を母親の仇に撃ち込んでからでも、それを握り締めたままでも。死は何も変わらない。

 彼女はきっと、死ぬつもりで雪原に入り、たまたまここまで歩いてきてしまったのだ。それは幸運でも不幸でもない、ただの偶然として。

 少年は首を振る。

「毛布はいらない。ジャムは、そうだね。紅茶を飲むときに、スプーン一杯分だけ貰う」

「三日でスプーン一杯なら、まだ当分いられそうね」

「本当に、ここにいるつもりなの?」

 彼女は顔をしかめる。

「そんなに迷惑? ジャムがなくなるまでには、きちんと見つけ出すわよ」

 あの弾丸の持ち主を。

 少年は首を振る。

「確認しただけだよ。でもここにいるなら、一つだけ仕事を頼みたい」

「やった。なんだってするわよ」

 嬉しげに彼女は笑う。どうして笑えるんだろう? 母親の仇を討とうとする彼女が。

 少年は先ほどひっぱりだした麻袋の口を開け、中身を取り出した。

 塩漬けにした肉。野兎が四羽、野鳥が一羽分の肉だった。

 彼女は目を丸くする。

「どうして、こんなの持ってるの?」

「獲ったんだよ。本物の冬が来る前に」

 辺境にある季節は二つだ。本物の冬と、偽物の冬。一年のうちの半分ほどは、それほど雪も降らず、天候によっては雪原が地面の一部を見せる。その期間に限れば、野に出れば野鳥や野うさぎを取ることができる。森に入れば、木材が手に入る。

 もちろん、誰にだって可能なことではない。まだ動く鉄製の罠と大きな斧が、少年の財産のすべてだった。

 彼女は塩漬け肉を見つめたまま、言った。

「これを料理すればいいの?」

「どうしてそうなるのさ」

「私の歓迎パーティーとか」

 そんなわけがない。

「集落の人たちに会って、交換してきて欲しいんだよ。塩と、パンと、できればチーズに」

「それはいいけど……でも、貴方が行った方がいいんじゃないの?」

 集落は、どこだって部外者に優しくない。物品の交換にはコネクションが大きな意味を持つ。それに、商人を殺すことはできないけれど――どれほど不条理な商売をしている商人であれ、彼らの行き来が途絶えることは集落の死を意味する――ただの部外者を生かしておく理由はない。

 でも、

「僕じゃダメなんだよ。この集落には一つのルールがある。僕の持っている物なら、なんでも力任せに奪い取っていいというルールが」

 躊躇いもなく、彼女は尋ねた。

「どうして?」

 こちらが尋ね返したい。どうして平然と、そんな質問ができるのだ? なんとなく察しても良さそうなものだけれど。

「要するにね、この集落にとって僕は、誰よりも部外者なんだよ」

 少年が塩漬け肉と他の食料を交換できるのは、同じく部外者である商人が現れた時だけだ。

 彼女はまだ納得していない様子だったけれど、少年は一方的に告げる。

「一度この集落を出て、別の方向から入って。残りの肉は雪原に隠したというんだ。次の商品が届くとわかれば、きみは商人と同じ扱いを受けられる」

 彼女は、しぶしぶといった様子で頷いた。


 三日ぶりに屋敷の中で一人きりになった少年は、迷わずベッドに潜り込んだ。

 あらゆる熱を消費しないように勤めるのは、辺境の常識だ。……それほど生きていたいのだろうか? よくわからない。今は考えることも億劫で、意識がまどろんでいく。あるいはただ、死ぬことすら面倒なだけなのかもしれない。

 昔のことを思い出していた。そんなこと、考えたくもないのに。少年の父親は〈大きな街〉から任命された役人で、この集落の統治者だった。

 多くの場合、集落の統治者は〈大きな街〉から派遣される。だが少年の父親は違った。祖父が商売で大金を手にし、父親はその金で地位を手に入れた。辺境の成功者。この集落の生まれだというだけで、少年の父親は多くの支持を得ていた。

 彼は弱い人間だったのだ、と思う。六年前、〈大きな街〉が辺境を切り捨てた時、集落の人々は当然憤った。その雰囲気に飲まれた父は、〈大きな街〉と戦うことを宣言した。そこに彼の意思なんてなかった。ただ人々の怒りが自分に向くことを怖れただけだ。

 三年間、彼は戦うふりを続けた。毎晩のようにこの屋敷には集落の人々が集まり、議論を交わした。すべて無価値なものだ。〈大きな街〉の壁を乗り越える方法なんて、辺境の人々にありはしないのだから。そんなこと、父にだってわかっていた。ただひたすらに戦おうとするポーズを取り繕い、言動を大きくし、目減りする財産に恐怖した。

 そして三年前、その恐怖は限界を超えた。彼はこの集落から姿を消した。夜の暗いうちに、持てるだけの通貨を持って。

 少年は、その頃にはもう、通貨は無価値だと気づいていた。同じく父親にも価値はないのだと。だからそれらが消えることに、抵抗はなかった。

 ただ、消えて無くなればよかったのだ。なのに父は、少年とその母親に当てた書置きを残した。そこには残った財産で〈大きな街〉と交渉すると書かれていた。いつか必ず少年と母親を迎えに来ると。彼は自分が臆病者だと理解する勇気もなかったのだ。だから、すべての行為は家族を守るためだと言い訳した。

 きっと、英雄にでもなったつもりだったんでしょうね。と、少年の母親は言った。集落を裏切るのは家族のためだと、自分に言い聞かせて。彼はきっと、何も間違っていないと信じてこの集落から逃げ出したのだ。

 書斎のテーブルに置かれたその手紙を最初に見つけたのは、屋敷の使用人だった。使用人は当然、その手紙を少年や母親よりも先に、集落の人々に公開した。彼らはこの屋敷に押しかけて、残った財産を奪い取った。

 その間、母親は、少年を抱いて歌っていた。

 ――なんにもないのは黒か、白か。

 誰かが叫び声を上げる。裏切り者だと叫んでいる。

 ――ぜんぶ消すのは黒か、白か。

 人々がそれに答える。裏切り者だと口々に叫ぶ。

 ――なんにもなくて、ぜんぶ消えて、

 こいつらも今に、〈大きな街〉に逃げ込むのだと叫ぶ。

 ――最後に残った色はなに?

 何かが弾ける音が響いて。それきり、母親の歌声は聞こえなくなった。母親に抱かれた少年の視界が、赤く染まった。

 その翌日、少年は初めて穴を掘った。人が埋まるくらいの、深い穴だった。

 すべての作業を終えて、掘り起こした穴をまた埋めて。

 少年は歌った。

「ぜんぶ消えて、残るのはなに?」

 何もかもが消えてゆく場所で、掘り起こした地面の跡が、雪の下に消えるまで。

 少年は歌っていた。なぜだか軽やかに、粉雪が舞うのと同じリズムで。


 それから屋敷には、何度も集落の人々が訪れた。屋敷のすべてを奪い取るために。

 その度に少年は、庭に逃げ出し、屋敷の方を眺めていた。

 死ぬのが怖かったわけではない。ただ、穴の底に埋めた母まで奪われるような気がして、それが嫌だった。

 穴の上には鉄製の罠を仕掛けた。背後の雪に斧を埋めておいた。

 でも、誰も少年には見向きもしなかった。

 少年の手元には、鉄製の罠と斧だけが残った。加えて紅茶が一缶あることには、三年間気がつかなかった。


       ※


 スプーンからどろりと垂れる木苺のジャムは、血液を連想させる。だがそんなことがいまさら、気分を害することもない。

 正面に座った彼女は、甘いジャムがとけた紅茶を一口飲んで微笑む。

「美味しいね」

 少年は頷く。

「うん。そうだね」

「まだ口をつけてないじゃない」

「美味しいものって、だいたい口に入れなくてもわかるよ」

 そう答えてから、少年はカップを傾けた。暖かいけれど、熱いというほどではない。辺境ではあらゆるものが、急速に冷えていく。

 少年はテーブルの脇に積み上げられた食料に目をやる。塩にパン、ニンジン、ジャガイモ。チーズだってある。十分な量だった。

「凄いね。よくこれだけ手に入ったものだ」

 そう告げると、彼女は目を丸くした。

「驚いたわ。貴方が私を褒めることがあるなんて」

「別に、今までは褒めるところがなかっただけだよ」

「ひどいわね。これでも昔は毎日、可愛いっていわれてたのよ?」

「嗜好品はたいてい、なんの役にも立たないものだね」

「嗜好品……」

 彼女はしばら考え込んでから、難しい顔をして言った。

「それって、褒めてるの? けなしてるの?」

「さぁ。どっちでもいいんじゃないかな」

「よくないわよ。喜ぶか怒るかじゃ大違いじゃない」

「なら、好きな方を選べばいい」

「そう」

 彼女は一度、真面目な表情で頷いてから、にっこりと笑った。

「では、褒めてくれてありがとう。好きなだけ眺めて楽しんで」

「今は止めておくよ。紅茶が冷める」

「そうね。私も紅茶を楽しむわ」

 彼女はもう一口、紅茶を飲んでから暖かな息を吐き出した。

「私のお母さんはね、商人だったの」

「へぇ」

「だから私も上手く、集落の人と交渉できた。付け加えるなら――」

 彼女は両手で、首に吊った彼女の弾丸を包み込む。

 世界で一番大切なものを守るような手つきだ。でもその弾丸は、母親の仇に捧げるためにある。

「母さんは、商人だから殺された」

「商人を殺すなんて馬鹿げている」

「それは集落から出ない人の理論よ。集落を移動する人なら、商人ほど標的にしやすい相手はないわ。二人きりで会うことは簡単だし、少なくとも商品かお金を持っている。それで集落に他の商人が寄りつかなくなっても、なんの被害もない」

「なるほど」

 その通りだ。

 少年はカップを傾ける。紅茶の熱はすでに失われつつある。

 彼女は言った。

「兎肉と塩を交換した時、貴方の話を聞いたわ」

 少年はため息をつく。そんなことはわかっていた。わざわざ報告する必要もない。

 彼女は続ける。

「ここには近づくなと言われた。――貴方、人を殺したの?」

 なぜ、そんなことを聞けるのだろう? 微笑んだままで。

 理解できなくはなかった。母親を埋めた後、少年が軽やかに歌えたように。きっと彼女も、どこかが欠落している。辺境では誰だって、すべてを失うまで何かを失い続ける。

 少年は、自分の首に掛かる鎖に手を触れた。先端になんの重みもない鎖。でもそれをコートの下から引き上げることはできなかった。

「もしも、そうだとしたら?」

「どうだっていいわよ。私も人を殺すためにここに来たんだもの」

 少年は、少女が人を殺す場面について想像した。それは難しいことではなかった。光の下であんなにも綺麗に輝く雪でさえ人を殺すのだ。少女に殺人ができない理由はない。

「銃はあるの?」

 と少年は尋ねた。もちろん、弾丸があっても銃がなければ発砲できない。

「ええ。拾ったわ」

「拾った?」

 辺境において、銃はそれほど珍しいものではない。〈大きな街〉がばら撒いたのだ。粗悪なものばかりで発砲できる保証はないが、少なくとも銃口と引き金があれば、殺人を試みることはできる。

 だが、そうそう道端に落ちているものでもない。銃をみつけた人間は慎重に持ち帰り、引き出しの奥にでもしまう。そして、自身がそんなものとはまったく関わりがないふりをして生活を送る。そうするに決まっている。

「死体と一緒に落ちていたのよ。五〇歳くらいの、小柄な男の人だった。商人かもしれないけれど荷物はなかった。持っていたのは小さな銃一つだけ」

 少女の口調に罪の響きはない。当たり前だ。死体に銃はいらない。雪や石ころに銃がいらないのと同じように。

 彼女は視線を壁際にやる。

「窓っていいわね。光が入ってきて」

「それほど暖かくはないよ。窓を作るお金があるなら、それだけ薪を買った方が効率的だ」

「でも、やっぱり炎と陽の光は違うもの」

「どちらかといえば、僕は炎の方がいい。スープも作れるしね」

「そう」

 気を害した風でもなく、彼女は頷いた。

「ねぇ、私の用事が終わっても、一緒に暮らしましょうよ。貴方が作った塩漬け肉を私が売るの。きっと上手くいくわ」

 少年は首を振る。

「そういうわけにはいかない」

 彼女は頷く。

「そう」

 やはり、気を害した様子もなく。


 3、


 それから彼女は、頻繁に家を空けるようになった。

 少年はその間に、本物の冬が終わるまでの日数を数えて、食料を小分けにした。一人分なら余裕があるが、二人で食べると少し足りない。どうしたものかと考えてから、馬鹿馬鹿しくなってため息をつく。

 答えは簡単だ。つまりはこの家にいる人間が、一人だけになければいいのだ。以前と同じように。

 小分けにした食料をまた一つに戻し、キッチンの床下に掘られた穴に突っ込む。それから、夕食用のスープを作った。

 背後で扉が開く。

「ただいま」

 濡れたコートを着た少女が、少年の隣に並ぶ。彼女は湯気を立てる鍋の上に両手を突き出した。

「雪、また降ってきたよ」

「ああそう」

 この時期に、雪の降らない日なんてない。

 少女は鍋の中のスープを覗き込んだ。

「味見しちゃだめ?」

 少年は首を振る。

「もしも不味かったとして、どうするのさ?」

 まともな調味料なんてない。塩を使いすぎているということもありえない。間違いなく味付けは薄すぎるけれど、でもさらに塩を使うわけにはいかない。

「この時期の温かいスープが、不味いわけないじゃない」

「なら、味見をする必要もないね」

「しない理由もないわよ」

「夕食の分が減る」

「私の分から減らしていいから」

 少年はため息をついてから、カップにスープをそそぐ。

 それを受け取った少女は、にっこりと笑った。

「ありがと」

 彼女は両手で包み込むようにカップを持ち、ゆっくりとスープを飲む。それから、大きく息を吐き出した。

「温かい」

 と、呟く。

 少年は尋ねる。

「何か、わかった?」

 彼女の母親の頭から見つかった、弾丸の持ち主について。

 少女は首を振る。

「役所の場所はわかったんだけど。鍵が掛かってて、中には入れなかった」

 役所には、その集落に住む住民のリストがある。それを見ればもちろん、どの住民がどのナンバーを持っているのかもわかるようになっている。

「どうして誰もいない――戻ってくる予定もない場所に、鍵を掛ける必要があるのかしら?」

 ぼやくような少女の声。

「さあね。でも、どんな理由があるにせよ、自分たちがいた場所に鍵を掛けないっていうのは不安なものだよ」

 きみだって〈黄色い波打ちぎわの集落〉の家には鍵を掛けて出てきたでしょ? と少年は尋ねる。

 しかし少女は首を振った。

「私の母さん、行商人だったもの。家なんて持ってないわよ」

「ああ、そうだったね」

 彼女は両手で握り締めているスープをもう一口飲んだ。

「不思議だなって思ってたの。人がずっと、同じ場所で生活してるっていうのがよくわからなかった。自分の家とか、自分の部屋とか、自分のベッドとか」

「へぇ。僕は自分のベッド以外で眠る方が、よくわからないけれど」

 ずっと昔は、よく旅行に行っていたはずなのに。もうその頃のことは覚えていない。なんだか生まれた時からたった一人で、この家で生活していたような気がする。母親に抱きしめられる感触だって、もう忘れてしまった。

 少女は言った。

「ここに来て少しだけ、家を持っている感覚がわかった気がする。なんだかとても、安定した感じ」

 鍋の中のスープをかき混ぜながら、適当に頷く。

「ああ、そう」

 少女はくすりと笑って、少年を見た。

「意外ね。ここはきみの家じゃない、って言われるかと思った」

「きみに何か言う事が、すごく無意味だって気づいたんだよ」

「そう? 私ってわりと、素直に人の言う事を聞く方だと思ってるんだけど」

「主観の相違って奴だね。人と人は、なかなかわかり合うことができないものだ」

「貴方が認めてくれればいいだけじゃない。私は素直だって」

 適当に頷いてから、少年は言った。

「斧を貸してあげようか?」

「そんなもの、どうするの?」

「役所の鍵くらいなら壊せるよ」

 少し考えるような時間を置いてから、彼女は答えた。

「やめとく。あんまり暴力的なことをすると、ここに居づらくなるもの」

 リストが見つかって、彼女の仇がわかりさえすれば、ここにいる必要なんてない。

 そう反論しようかと思ったけれど、止める。別に彼女が役所に押し入る必要なんてないのだ。

「まだ、名前を聞いてなかったね」

 と、少年は言った。

 少女は驚いたように目を見開いて、それから顔いっぱいに笑みを浮かべる。

「ずっとここにいていいの?」

「どうしてそうなるのさ?」

「だって、名前を聞くって、そういう意味でしょ」

 よく理論がわからなかった。

 ため息をついて、少年は答える。

「いいよ。いつまででも、ここにいればいい」

 少年は内心で付け加える。――僕には関係のないことだ。

 少女は、本当に嬉しそうに笑って、「ありがとう」と言った。

 それから彼女は、自分の名前を口にする。ありきたりで、でも綺麗な名前だった。

 頷いてから、少年も名前を伝える。それから尋ねた。

「きちんと覚えた?」

 少女は頷く。

「ええ、もちろん」

「そう。じゃあ、食事にしよう。パンを焼いて持っていくから、暖炉に火をくべてきてくれるかな?」

「薪を使ってもいいの?」

「うん」

 今夜くらいは、多少の贅沢だって許されるだろう。

 少女がキッチンを後にするのを見送ってから、少年はスープの入った鍋に、水と塩を加える。先ほど少女のカップにそそいだ分を補填するために。

 それからパンとチーズを焼いて、皿に盛り付けた。

 床下の穴にはまだ、一人で冬を越えるには、十分な量の食料がある。ただしそれは、二人分には少し足りない。


       ※


 チーズ付きの豪華な食事を終えた夜、人々が寝静まる時間になってから、少年はベッドを抜け出した。

 斧はベッドの脇に運んでいた。それを抱えて廊下に出る。足音を忍ばせて歩いた。決して少女に気づかれないように。

 少しだけ緊張した。広い玄関ホールを通り抜けて、扉を開ける。

 家を出るのは、久しぶりだった。夜空に粉雪が舞っている。

 とても寒い。好都合だ。雪の降る夜に出歩くような人は、この集落にはいない。

 家を出てしまえば、もう足音を忍ばせる必要もなかった。

 大きな斧をぶら下げるように持ち、少年は雪を踏みしめながら歩く。外れにある屋敷から、集落の中心へと続く道を。

 歩きながら、口ずさむ。

「なんにもないのは黒か、白か」

 夜中に火を灯している家など、ありはしない。

 辺境の真っ暗な夜に、白い粉雪だけが舞う。それを雲の間から漏れるささやかな月光が照らす。

「ぜんぶ消すのは黒か、白か」

 夜の闇はなんの音も立てはしない。粉雪も、もう銃弾のついていない鎖も。

 それらは音もなく、何もかもを消し去っていく。

「なんにもなくて、ぜんぶ消えて、最後に残った色はなに?」

 闇と雪が混じり合う。

 だがその中間は存在しない。灰色の弾丸は、もう少年の首にはない。

「ぜんぶ消えて、残るのはなに?」

 辺境では、何もかもが消えていく。

 母親の真っ赤な血も、少年を抱きしめる腕の温もりも、もう失われてしまった。

 歌声だって、無意味に響いて消えていく。

 ただ、深い穴を掘った時と同じ疲労感だけが、両腕にあった。

 注意深く辺りを見回してみても、人の気配はない。

 彼らはみんな疲れ果てて、ベッドに潜り込んでいる。

 翌朝、目を覚ますことを願いながら。あるいは永遠に続く眠りを願いながら。

 すべては終わりに向かって進行している。終わりゆく辺境の夜に、少年が雪を踏みしめる音だけが、ただ響いて消えていく。

 やがて少年は、役所の前に立つ。

 誰にも出会わなかったことに安堵しながら、両手で斧を構えた。

 深い夜に、斧と錠前がぶつかり合う音が響く。

 大きな音が誰の耳にも入らなかったことなどあり得ない。だが、周囲の家から誰かが顔を出すこともなかった。

 辺境に朝が来るまで、決して人々はベッドの中から這い出さない。


       ※


 少年が自身の弾丸を手放したのは、二年前のことだった。

 誰かに向かって発砲したわけではない。だが、それとあまり変わりはしない。

 商人に売ったのだ。そうしなければどうしても、生きていくだけの食料が手に入らなかった。

 ナンバーの振られた弾丸は、それなりの価格で取引される。少年の弾丸は、三週間分の食料になった。

 自身のナンバーが入った弾丸を、人に向かって撃つことは困難だ。法で裁かれることがないとわかっていても。それ以降、自分を守る力を失うことになる。そして同時に、誰かの恨みを買う。

 だが、それが他人の弾丸だったなら。引き金を引く労力は、ずっと軽くなるだろう。

 自分を守る力を失うこともなく、恨みを買うのは本来弾丸を持っていた誰かだ。

 そんなこと、少年だってわかっていた。

 弾丸が売れてしまえばほどなく、それが使用されることが。

 つまりは少年が弾丸を売ることで、どこかの誰かが死ぬことが。

 すべてわかっていて、少年は弾丸を売った。食料を手に入れるために。

 それほど生きていたかったのだろうか――よくわからない。

 ずっと、いつ死んでもいいと思っていた。

 それなのに少年は弾丸を売って、生きるための食料を手に入れた。

 錠の壊れた役場の扉を押し開けて、少年は自分の首に掛かった鎖に触れた。

 二年前、その先についていた弾丸には『bg-1472』と刻印されていた。

 少女の母親の頭から見つかった弾丸のナンバーは、『bg-147』。その後ろに続くはずの、最後の一桁は、銃弾が潰れていてわからない。

 でも、そこにあった文字が『2』ではなかったと信じることなんて、少年にはできない。

 辺境に暮らす人々の大半は、自分がまだ人を殺す権利を持っていることを証明するために、自身のナンバーが刻まれた弾丸を首から吊るして生活している。

 多くの人々はまだ、弾丸を使っていないのだ。ナンバーが入った弾丸の中で、実際に発砲されたものは僅かしかない。

 少年の弾丸と、少女の母親の頭から見つかった弾丸は、ナンバーがほぼ一致する。集落を表す二つのアルファベットと、四桁の数字のうちの三つが一致する。

 最後の一桁が読み取れなかったとしても。ほとんど確定したようなものだ。

 ――僕の弾丸で、彼女の母親は死んだ。


       ※


 玄関の扉を開けると、「お帰りなさい」と声が聞こえた。

 そこには、青いコートをはおり、寒さに震えている少女がいた。

「起きてたの?」

「眠っていたわよ。でも、貴方が出て行くのがわかったから」

「そう」

「暖炉に火を入れましょうか?」

「いいよ。すぐに眠るから」

 答えながら、少年は斧を壁に立てかけ、濡れたコートを脱ぐ。

「ねぇ、どこに行っていたの?」

「散歩だよ」

「こんな時間に?」

「夜が好きなんだ」

「そんなものを持って?」

 少女は、壁に立てかけられた斧を見ている。この深い闇の中でも、斧はシルエットでそれとわかる。

 なんだか、色々なことが面倒になって、少年は手に持ったコートのポケットから、紙の束を取り出した。

 乱暴に、少女の胸に押し付ける。

 辺りに光源はない。紙に書かれた文字を追えるはずもなかったが、少女はそれがなんなのか察したようだ。

「わざわざ、取ってきてくれたの?」

 少年は肩をすくめる。

 少女は言った。

「ありがとう」

「きみのためじゃないよ」

「うそ。それじゃあ、誰のためなのよ?」

「僕のためだ」

 本当に、心の底から、そう思う。

 少女は不安げに顔をしかめた。――実際には、闇の中では表情なんて見えなかったけれど。おそらくそうしたのだろうと、少年は思った。

「ねぇ、全部終わっても、私はここにいていいのよね?」

 少年は頷く。

「もちろん。何時までだって、いていいよ」

 少女はまた、「ありがとう」と言う。どこか硬い声で。

「暖炉を使ってもいいけれど、眠る前にはきちんと火を消すように」

 光がなければ、文字を追うこともできない。

「それじゃあ、おやすみ」

 そう言い残して、少年は自室に向かった。


 首に掛かった鎖を外し、乱暴に机の上に置く。

 それから少年は、ベッドの中にもぐりこんだ。

 眠れるはずもなかったけれど、それでも目を閉じる。

 何もかもがすべて、もうすぐ終わる。本当はもっと、ずっと昔に終わっていたのだと思う。でもそれが、やっと明確な形になる。

 頬の辺りまで毛布を引き上げてもまだ寒かった。震えながら、少年は考える。彼女は僕のための墓穴を掘ってくれるだろうか? きっと掘ってくれるだろう。

 その時、彼女がどんな表情をしているのか、少し気になった。

 笑っているのだろうか、泣いているのだろうか。あるいは完全な無表情なのかもしれない。なんでもよかったけれど。凍った土を掘り起こすのは、骨の折れる作業だ。明日の朝が少しでも暖かくなることを、少年は祈る。

 そのまま、長い時間が過ぎた。

 深い闇の中で、色々なことを思い出す。母親の顔、父親の顔、裏切り者と叫ぶ人々、下品な笑みを浮かべて弾丸の値段を告げる商人。だが、どれ一つとして、少年の中に感情を生むことはなかった。

 僕は疲れているのだ、と少年は思った。

 三年前、墓穴を掘った時の疲労が、まだ体の中心に居座っている。

 それを癒すためには、睡眠が必要だ。長い、長い睡眠が。もう二度と、太陽が昇る必要はない。

 最後に少女の顔を思い浮かべた時、小さな音を立てて、扉が開いた。

 少年は目を閉じて、規則正しく呼吸していた。

 足音が部屋の中に入ってくる。ゆっくりとした歩調。それは、部屋の中心辺りで止まった。次にじゃらりと鎖がこすれる音。テーブルの上の鎖を手に取ったのだとわかる。少女は、少年がもう弾丸を持っていないことを確認した。その音だ。

 長い沈黙の後で、彼女の声が聞こえた。

「ねぇ、起きているんでしょう?」

 少年は答えない。ただじっと目を閉じている。それは、死者のように。

 こつり、こつりと足音が近づいてくる。

 これが死の近づく速度なのだ、と少年は思う。

 耳のすぐ隣で、足音が止まる。

 軽い音が聞える。きっと彼女が、リストを投げ捨てたのだろう。この集落に暮らす人々の名前と、それぞれに割り振られた番号が記載されたリストを。

「こんなことのために、貴方は名前を教えてくれたの?」

 少年は答えない。

 少女は小さな声で言った。

「貴方が、撃ったの?」

 それはかすれた声だった。

 彼女が始めてここに訪れた時、熱にうなされながら口にしたような。なぜだか、その声は子守唄のように聞こえた。

「ねぇ、起きているんでしょう? 何か答えてよ」

 口を開いてもよかった。

 でも、彼女に語るべき言葉なんて、何一つ思い浮かばなかった。

 空気が動くのがわかる。きっと彼女が、銃口をこちらに近づけたのだろうと思った。

 だが、違う。少年の頬に、少女の手が触れる。

 冷たい、だが確かに体温を持った手。

 意図したわけではなかった。少年は思わず、目を開いた。

「ほら、やっぱり起きてた」

 と、彼女は言った。

 左手で少年の頬に触れ、そしてだらりと下ろした右手には小さな銃を握り締めている。

「ねぇ。私、今、泣いてる?」

 部屋は暗くて、少女の顔も見えない。

 少年は答えた。

「ううん。泣いてないよ」

「そう」

 彼女は身をかがめ、顔を少年に近づけた。

「私、母さんが大好きだった」

「僕もだよ」

 再び少年は、目を閉じる。

 それから言った。

「ごめん。とっても、眠いんだ」

 長い沈黙の後で、

「そう」

 とだけ、彼女は答えた。

 軽く一度、少年の頬を撫でて、少女の手が離れる。

 次に、硬く、冷たい銃口が、少年の額に触れた。

 なんだかとても心が落ち着いていた。今までに感じたこともないくらいに。

 それから思い出した。母親の腕に抱かれていた時も、同じように安心していた。

 集落の人々に取り囲まれた時でさえ。母の血を、浴びた時でさえ。

 少年は笑みを浮かべて、いつの間にか眠っていた。

 最後まで、銃声は聞こえなかった。


       ※


 母親の夢を見た。

 でもそれはすぐに忘れてしまった。

 朝の光に照らされて、少年は目を覚ました。

 毛布の中でまどろみながら、昨夜の出来事はすべて夢だったのだろうか、と少年は考えた。そうでなければ、また目を覚ました理由がわからなかった。

 だが、違う。テーブルの横、細い鎖の隣に、潰れた弾丸があった。

 おそらくは、かつて少年のものだった弾丸。

 ベッドを這い出した少年は、しばらくそれを眺めてから、身震いして黒いコートを着込んだ。

 ともかく太陽は昇ったのだ。

 そして少年は生きている。誰かが深い穴を掘る必要はない。

 少年は廊下に出る。雪はもう降り止んでいた。雲の切れ間に、珍しく青空が見えた。

 いつものように、キッチンへと向かう。その途中で、思い至って、少女が使っている部屋をノックした。

 軽く二回。返事はない。

 まだ眠っているのだろうか? おそらく違う、と少年は思った。

 母親の仇がいる家に、住みたいと思うはずがない。――実際に銃を撃ったのは、少年ではないけれど。でも彼女はそんなこと知らないし、弾丸を売ったのだから同じようなものだ。

 再び二回、今度は強く扉をノックする。

 やはり、返事はなかった。

 彼女を恨む理由なんてない。

 引き金を引かなかったことも、この家から出て行ったことも。

 何もかもが、彼女が訪れる前に戻っただけなのだ。ただ一つ、潰れた弾丸がテーブルの上に載っていることを除けば。

 でも、なんだか腹立たしかった。彼女はきちんと、引き金を引くべきだったのだ。そうすれば少年は、自身が苛立っている原因について、思い悩む必要はなかった。

 もう一度、窓の外を見る。

 そこに足跡はない。

 きっと彼女は少年の部屋を後にしてすぐ、この家を出たのだろう。一夜明けて、人の足跡がまだ残っているはずがない。

 軽く首を振って、少年は歩き出した。食欲もなかったけれど、習慣でキッチンに向かう。

 扉を開けると、そこに彼女がいた。

 鍋を火にかけて、スープを作っていた。

 こちらに気づいた彼女は、顔全体に笑みを浮かべて言う。

「おはよう」

 まったく、わけがわからない。

 少年は、彼女の姿を眺めていた。

 少女は一音ずつ言葉を区切り、「お、は、よ、う」と再び笑った。

「どうして、ここにいるの?」

 そう尋ねると、彼女は顔をしかめる。

「いつまでいてもいいって言ったじゃない」

「そりゃ、言ったけど」

 そういうことではないような気がした。

「なら、問題ないでしょ?」

 気を取り直したように、少女はまた笑う。

「置いて貰うんだから、料理くらいはしようと思って」

 味見する? と言って、彼女はカップにスープをそそいだ。

 なんと答えていいのかもわからず、少年はそれを受け取る。

 一口飲んで、塩を贅沢に使いすぎだ、と思った。床下にある食料は、二人分には足りないのだ。

 相変わらず、彼女は笑みを浮かべている。

 どうして笑えるんだろう? 少年には、わからない。

「どう?」

 と、彼女は首を傾げる。

 その首元で、鎖に繋がれた弾丸が揺れている。

 なんと答えるべきか考えて、思い浮かんだ言葉は、スープの感想からはかけ離れたものだった。

 ――どうして、僕を撃たなかったの?

 だが結局、その疑問を口にすることはなかった。

 彼女の答えが何であっても、何かが変わることはない。

 暖炉には火が入っていて、鍋の中には塩を使いすぎたスープがあり、目の前で彼女が笑っている。

 何もかもを失う場所で、何もかもを失うまで。

 なぜだか楽に死ぬこともできず、少年は生きている。

 いつかすべてを失うけれど、それはおそらく、今日ではない。

 残りの塩の分量に思いを巡らせ、少年は今日初めてのため息をついた。


『エンジェル・ハウリング』という小説が好きすぎて、私なりにそれっぽい作風で書きました。

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― 新着の感想 ―
[一言] ものすごく好みのお話です ありがとうございます
2018/07/10 18:30 みそしる
[良い点] 読後の余韻がすごいです! 表現しづらいのですが、何ともいえないものを残していく感じです。 それが、この作品をより面白くさせてるのかなと思いました。 [気になる点] 少女は少年の弾丸の話をこ…
2017/02/23 22:56 はるさめ
[一言] ただ単純にいいなって思いました。少女はそのことを知って幸せになれはしれないけど、次に何かが手に入ってくれればと願うばかりです
2013/09/30 00:21 退会済み
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