Location via proxy:   [ UP ]  
[Report a bug]   [Manage cookies]                

コラム

ユニクロに続け! 隠れた日本のスーパー企業

2009年11月24日(火)10時12分

今週のコラムニスト:レジス・アルノー

 10月1日以来、ファッションの中心地パリは「ユニクロ・ショック」に見舞われている。この日、「ユニクロ」がヨーロッパ髄一の商業地であるパリのオペラ地区に、ニューヨーク、ロンドンに続き世界で3番目となる旗艦店をオープンしたのだ。開店以来、大勢が行列を作る賑わいを見せている。

 この熱狂ぶりは、01年にエルメスが銀座に店をオープンしたときのことを思い出させる。パリっ子がどんなに我慢が嫌いかを知っている人なら、寒いなか彼らが並ぶのがいかにすごいことか分かるだろう。さらにすごいのは、この店が開店する数日前まではヨーロッパ大陸で誰も「ユニクロ」なんて知らなかったということ。ユニクロは少しずつ、非欧米企業としては初めてにして唯一、世界規模の生活用品ブランドになりつつある。このような例を、私は他には知らない。

 ユニクロの例は、他の日本企業にとって前向きな教訓になるはずだ。私たち日本在住の外国人は、この国以外では見つけることのできない日本の商品やサービスの恩恵を受けている。これらを提供する日本企業の多くは、自社を外国企業と比較することはない。だが在日外国人はこうした企業の真価に気付くことができる。外国にある外国企業による、同様の商品やサービスと比較できるからだ。

 ユニクロについては幾分知識があるから、同社の成功は予見できた。いくつかの国で衣服を買ったことがある人なら、ユニクロは世界に十分通用するブランドだという結論に自然と行き着くだろう。
 
 個人的にも、価格や品質について右に出るものはないと思う。カシミア製品なんて、本物としてはあり得ないほど安い。ブルージーンズは、今ではアメリカ製のものよりしっかりしている。

 現在日本のテレビで流れている吸湿発熱素材「ヒートテック」のCMは、ヒートテックを着たモデルが闊歩する舞台が銀座、ニューヨーク、ロンドンへと移り変わっていく。アップルやIBM社の広告ように、世界をまたにかけた企業というイメージにぴったりだ。以前のCMと比べてみると、ユニクロの成長ぶりが一目瞭然だ。

■フランスにも欲しい日本独自の一流サービス

 同じように、私たち外国人が評価する日本の企業の中には、世界規模になり得る企業はたくさんある。例えば、サービスでは無敵のヤマト運輸の「宅急便」。

 そして、「TSUTAYA(ツタヤ)」。私が日本に住む重要な理由の1つは、新宿のツタヤだとさえ思っている。フランスにある行きつけのレンタルショップよりも、新宿のツタヤのほうがフランス映画の種類が豊富なんだから!
 
 聞いたことのない監督の作品もズラリとそろっているし、午前2時まで開店している。フランスの行きつけ店は夜8時に閉まる。ツタヤでは1週間に何作品でも、安い金額で借りられるが、フランスでは一度に2作品までしか借りられず、次の日には返却しなければならない。値段も高い。フランスのどこが「映画の国」だって? どうしてツタヤが国外進出しないのか、私は不思議でならない。

 ベネッセもそうだ。私の5歳の娘クララはベネッセの幼児教育教材「しまじろう」の熱心なファンだ。毎月、私はこの教材のクオリティーの高さ、完全無欠のサービス、そして学習を素晴らしい体験に変えるソフトウェアとおもちゃや絵本の教材の取り合わせにびっくりさせられる。

 ベネッセは16年前に世界各地に展開する語学教室ベルリッツを買収したが、独自の素晴らしい教材を外国に売り込むところまではいっていないようだ。フランスのすべての子供たちが、「しまじろう」で学べるようになればいいのに!

 フランスの子供向けの本は堅苦しく、ゲームの要素などが入ると低俗だと思われる。私の知る限りでは、「しまじろう」のように子供たちの発達に合わせて楽しく学びを導くようなものはない。

 それから、「スープストックトーキョー」も最高だ。あるフランスのレストラン・チェーンのオーナーは、「あの店は世界のどこに行っても大成功するだろう」と私に言ったことがある。なぜこの店は外国に進出しないのか。このように、世界に通じる日本企業を挙げ始めたらきりがない。

■「ジャパン2.0」の新しい波を起こすには

 私が出会う日本人はそろって、日本経済は死に体だと言うが、私はこの運命論に強く反対したい。1つの国には、常に2つの顔があるものだ。日本の1つの顔は、非効率で、余剰人員があふれ、赤字にあえぐ企業を抱えた国。もう1つの顔は、最高の競争力を備え、価格と品質において他の企業を寄せ付けず、消費者に尽くす企業が繁栄する姿だ。こうした企業は、この20年間のデフレによってたくましさを身に付けてきたといえる。

 後者の企業は世界を味方に付け、日本以外の世界を驚かせることができる。もう1度言うが、日本にしばらく住んでいる外国人に聞いてみるといい!

 この「ジャパン2.0」という新しい波を引き起こすにはどうしたらいいか。日本企業は、上層部の意思決定レベルにもっと多くの外国人を起用すべきだ。外国人は外国の競争相手と比べた上で、日本の強みを発見できるのだから。

 ユニクロだって、一夜にして世界に通用する企業になったわけではない。01年にロンドンに進出したときはうまくいかなかったが、06年にニューヨーク・マンハッタンに店をオープンしたときには改善し、パリではもっと良くなった。ベネッセやツタヤ、それに他の企業はユニクロの後に続くべきだ。高度成長時代に重工業や自動車、電子機器産業の世界進出を当時の通産省が助けたように、経済産業省がこうした新しい「日本ブランド」を後押ししたら、私たちみんなが日本の将来について今よりはるかに前向きになれるだろう。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英HSBC、一部の上級幹部を刷新 組織再編の一環

ビジネス

米シェブロン、第4四半期に最大15億ドルの費用計上

ワールド

ユナイテッドヘルスケアCEO射殺、犯人なお逃走中 

ビジネス

インテル、業界ベテラン2人を取締役に指名 次期CE
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    国防に尽くした先に...「54歳で定年、退職後も正規社員にはなりにくい」中年自衛官に待ち受ける厳しい現実
  • 2
    100年で1.8mの表土が消失...フロリダの大地を救うのは「米作り」? 鳥たちも集まって一石三鳥
  • 3
    ついに刑事告発された、斎藤知事のPR会社は「クロ」なのか?
  • 4
    肌を若く保つコツはありますか?...和田秀樹医師に聞…
  • 5
    「冗談かと思った」...人気ビーチで目撃されたのは「…
  • 6
    放射能汚染がウクライナ戦争を終わらせる──プーチン…
  • 7
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 8
    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…
  • 9
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
  • 10
    電車の遅延が減る? AIカメラで豪雨対策...JR武蔵野…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 4
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 5
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 6
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 7
    バルト海の海底ケーブルは海底に下ろした錨を引きず…
  • 8
    国防に尽くした先に...「54歳で定年、退職後も正規社…
  • 9
    「すぐ消える」という説明を信じて女性が入れた「最…
  • 10
    白昼のビーチに「クラスター子弾の雨」が降る瞬間...…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 9
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 10
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story