カテゴリ:健全な青少年少女の育成を阻害する記事
自分はつい最近までエロゲを商売にしていました。この『商売』というのは過不足の無い表現で、収入のためにエロゲを作るという『作業』ないし『事業』をしていたわけです。
かといってブランドを立ち上げるようなことは無く、ライターやディレクター、あるいは諸般の雑務全部ということをこなす程度で、『作品作り』というカテゴリまで昇華させたことは少ないです。少なくとも『外注』という域を出たことは、いままで一度もありませんし、残念ながら才能不足で、自分がメイン外注でやったエロゲは出荷数1000本台という大惨敗でした。 以後は経験を活かして、『エロゲを現実的に組み上げる職人』という立場に、長く居ました。 2~3年前までエロゲ業界は好景気で、ブランド乱立出せばそれなりに出荷(で)るという状況にありました。これは平成不況と呼ばれる現在の不況には逆らう状況で、ちょっとした売り手市場だったと言えます。 しかし、現在商業エロゲ業界は深刻な人手不足にあります。 萌え絵を描く絵師は不足していません。ちょっとwebをさらえばいくらでもいます。声優も比較的なんとかなります。声優は古い業界なので、システム構築がなされているからです。 実際に不足しているのは、安価に『背景』を請け負ってくれる会社です。一番シビアなところは。 エロゲというのは非常に低予算で作られていて、その中で『力量を要するのに予算配分が難しい』というもののトップが背景です。背景はそれなりに写実的に描かなければなりませんし、力量を要するので低価格で請け負ってもらうのも難しいです。 でも、平均的なエロゲでは50枚ぐらい発注するのが普通で、多くは水彩画なので、例えば季節の変わり目は『差分(キャラの衣装替えのような微細な変更)』として描けません。ヒロインに爆破属性があったりして料理で爆発ネタをやるようなら、それはそれで一枚絵で発注する必要があります。 もちろんイベントシーンはキャラ絵を描く人に『背景コミ』でお願いするのですが、『人間は描けるけど背景は無理』という中途半端な絵師さんが最近多いです。結果萌え絵を描く人にもそれなりの力量を要求することになります。 が。 最近の絵師はプライドの高い根性なしばかりで、新しい要求を出すとすぐ及び腰になって逃げます。理由はシンプルで、特に萌え絵師さんは『エロゲは自分をプロデュースしてくれる踏み台』ぐらいにしか考えていないからです。 何故このようなことになったかというと、同人の活性化が一番の理由でしょう。インターネットでダイレクトに自分の評価を数字で確認出来、なおかつ商業エロゲのようなめんどくさい契約などを行わなくても作品の発信が出来るようになったからです。 時流なのでそれに否を唱えてもしょうがないのですが、結果的にエロゲ業界は内部に有用な絵師を抱えているLeafやアリスソフトやage、あるいは外部に強固なコネを持つOverflowのようなところしかマトモにスタッフを確保できない時代になりました。しかしOverflow関連のごとうじゅんじさんのように「SchoolDaysのお陰でオファーがヤンデレものばかりになった」という弊害も出ています。エロゲがステップアップの一つという時代が、今かなりの勢いで総崩れになっているわけです。 声優にせよ絵師にせよ、ポルノ関連はリスクと隣り合わせになります。清純派アイドルがAVに出ていたらスキャンダルになりますし、アイドル化したタレントもAV時代は黒歴史として封印しています。ネットワークが当たり前になったこの時代では、過去の履歴など隠しようが無い状態だからです。整形ひとつでやり玉にあがるご時世ですし。 しかし最近は、「リスクはやだ、メリットだけ欲しい」というようなことを言う人が多いです。これが一種『時代』のようなものでしょうが。 『ゆとり』だよね。 同人関係のインフラが充実してきた現在、無理にリスクを犯さず同人でユルユルとやっていくという選択肢があります。エロゲを一つ作るとなると100枚前後の絵を同じクオリティで描かなければなりませんし、描けば描くほど成長するのが絵師というものなので、初期に手をつけた絵がリテイクになるというのは当たり前に起こります。拘束期間も長いですし。 そして何より、『ギャラが安い』というのが、エロゲの外注離れに拍車をかけています。 今はそこまでひどくはありませんが、例えばエロゲ業界最大手のヴィジュアルアーツのギャラは、『背景付き原画5000円』『彩色8000円』『シナリオテキスト1K700円』というものでした。当時の別の会社と比べれば7割程度の価格です。 しかしヴィジュアルアーツは、『Key』などを抱える業界最大手。つまり、多くのブランドがこの価格でしか外注予算申告を出来ないというシバリがありました。結果『業界最大手がギャラをケチってる』という状態になり、内部やコネクションできっちりスタッフが居ない場合、その制作に厳しい制約がかかるということになりました。 長期的には、これがエロゲ業界の人離れを加速しました。 ダウンロードサイトには、毎日十数から数十のアップロードがあります。ダウンロードサイトはその利益率が公開されているので、コスト意識も素人にも分かりやすく認識できるようになっています。しかも数万のダウンロード数があったりして、収益的に『夢が見られる』ようなツクリになっています。コミケも同じで、壁になれば原価100円の本が500円で数千冊売れるという夢が見られます。 もう、エロゲ業界に頭を下げて「作品を作らせて下さい!」という時代でもなくなったわけです。『ひぐらしのなく頃に』のような、ノンエロでアニメ化までたどり着ける『実例』の存在もそれに拍車をかけています。 ペーペーの新人をカミサマ扱いするのは間違っていますが、下積み意識の無いヤツを登用するのも業界にマイナスです。しかし現状、ペーペーの新人だろうがセンセイ扱いしないとすぐへそを曲げるような状況にしてしまったエロゲメーカー全体にその責任はあるでしょう。現実、下積みの出来ないヤツが使い物になった試しは、少なくとも私の知る範囲ではありません。 エロゲ業界は、今まさに、業界全体を挙げて『雰囲気作り』をしなければならない時期にあると思います。でないと、下が育たないし新しい人も入らないという、先細りの状況しか待っていません。 個人的には「オレ様サイコー!」みたいな勘違いヤロウが来ない、『在るべき業界』の姿であってほしいです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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