一時期、私は給料の殆どをオーディオに注いでいた時期があった。まだオーオタという言葉が浸透する前。その頃の愛読書は「HiVi」で、毎週ハードオフを回るのが楽しみだった。元々、電化製品が好きだし、高校では電子工学を学んでいたので、ハマる素質は十分にある。
オーディオ製品が持つ一種独特の格好良さ。機能美。高級感。雑誌のレビューにより物欲は刺激され、次第に金銭感覚は狂っていった。高給取りでもないのに1万円のケーブルを5本揃えたりしていた。
今や懐かしきあの日々を振り返り、いかにして呪いが解けたかを書いてみる。
オーディオの魅力
基本的に今でも電化製品が好き。技術者が丹精込めて作り上げた機械は格好いい。アンプやスピーカーの外観は美しいので眺めているだけで楽しいし、中の技術を考えるのも好きだ。
性能を比較して楽しむのは趣味の醍醐味。車やバイク、ゴルフクラブと同じように所有欲も湧く。より性能の良い製品が欲しくなる。
オーディオが面白いのは、組み合わせやセッティングを変えることで音の変化が楽しめる点。例えば、CDプレイヤーとアンプとスピーカーを別々で買い揃える場合、その値段は全て同じ価格帯にしないと、どれかが足を引っ張って性能を生かせない。
50万円のCDプレイヤーに(嘘みたいな話だが100万のCDプレイヤーもある)、10万円のアンプやスピーカーを繋いでも性能は発揮できない。
せっかく買ったデバイスが100%性能を発揮できないのは悔しいので、買い換えるうちに全体のランクは徐々に上がり、ズブズブと沼に沈んでいく。
LUXMANのフラッグシップCDプレーヤー D-08u。メーカー希望小売価格110万円。ラックスマンは1925年創業の国産高級オーディオブランドのひとつで、オーディオ好きには憧れのブランド。
オーディオの呪い
オーディオの世界はピュアオーディオとオーディオ・ビジュアル(AV)に分けられる。ピュアオーディオは昔ながらのステレオ再生を基本とする。AVは5.1chなどマルチチャンネルに加え映像が入る。
私は映画好きという事もあって迷うことなくAVに傾倒した。当時のマルチチャンネルは5本のスピーカーに1本のスーパーウーファーが標準的だった。その後7.1ch→9.2chなどのように進化しているようだが、今はよく知らない。
今考えるとマルチチャンネルはハリウッドにおける3Dのように、低迷するオーディオ業界のカンフル剤という気もするが、当時は興奮して5本のスピーカーを買い揃えた。
スピーカーは出来るだけ同一性能が好ましい。スピーカーケーブルは合計すれば数十メートルという単位になる。当然アンプも5ch分必要になる。
性能を引き出したい&完璧な視聴環境を作りたいなどの欲求を源に、際限なくお金が飛んでいく。そして映画を楽しむよりも、音のアラ探しの時間が長くなるという本末転倒ぶり。今から思うと、やっぱりちょっと狂っている。
Amazonのコスパ最強30mスピーカーケーブル。Amazonが存在していなかった時代なら、10倍以上の予算を見積もっていたと思う。
ピュアオーディオに目覚める
そんなわけでマルチチャンネル厨だったわけだが、5.1ch分の予算をピュア2chに投資した方が遥かに音が良くなるという、ごく当たり前な事実に気づく。
丁度その時、ソニーから2chで5chを擬似的に再現するバーチャルシアターを搭載したAVアンプが登場したので、全ての機材を一新した。スピーカーもBoseからPMCに変更した。
このあたりが私のオーディオ歴のピークと言って良い。PMCのTB2SMは2本で20万円。スピーカースタンドだけで8万程した。収入にまったく見合っていない支出。
その頃はたしか200枚くらいCDを持っていたが、悲しいかな音楽の為のオーディオというより、オーディオの為の音楽という感じ。
しかしピークを堺にオーディオ熱は一旦冷める。その後、これらの機器を日本に置いたままニュージーランドに1年間住むことになる。そこで衝撃的な体験をしてオーディオの呪いから解けることになる。
スタイリッシュなPCスピーカー『Bose Companion 20』。Boseは至る所で目にするので最初に欲しくなったスピーカーでした。ボーズサウンドと言われるその音は耳障りがよく聞きやすい。パッときいたら一番よく聞こえる場合も多々ある。まさにボーズマジック。
最後のデバイス
ホームステイで海外生活を始めた私が遭遇したのは、英語がまったく聞き取れないという致命的な問題だった。何を言っているか聞き取れないというのは、単語が分からないより深刻だ。一応MP3プレイヤーを持って行ったが音楽を楽しむゆとりはなく、とにかく英語漬けの日々を送った。
そんな日々が3ヶ月程続き少しゆとりができた頃、日本でよく聞いていた洋楽をMP3プレイヤーで聞いてみて衝撃が走る。今まではラジオを聞いていたのかと思う程、ベールが何枚も取れてクリアになった様々な音が耳に入ってきた。音の密度に酔ってしまうほどだった。
私はそれまで英語を音楽のように聞き流していたが、英語漬けによって急激に英語耳が出来上がった。そして洋楽には、英語耳でないと聞き取れない音が巧みに使われていた。
この時、私のオーディオに対する価値観は崩壊した。スピーカーから出た音を拾う最後のデバイス、「耳」の性能が最も大切だったのだ。
記事公開から5年後。の追記
この記事で語った内容は、つまり私のような音楽家でもない素人耳の持ち主には、何百万もするオーディオによって生まれる繊細な違いよりも、耳を鍛えたほうがよっぽど音を聴けるようになるという内容でした。イタズラな高級志向からの目覚めでした。
だからといって今はオーディオに興味を失っているかというと、そんなことはありません。残念ながら高級オーディオの世界には金銭的にも踏み込めませんが、PCオーディオ全盛期のいま、オーディオはアナログ時代よりも低価格に高音質が楽しめるコスパ時代に突入しています。
耳を鍛えよう
いくら高価な機材を揃えても、それをちゃんと聴ける耳がなければもったいない。音楽の知識が乏しいのに大金をオーディオにつぎ込むのは、不相応な感じがしてちょっと恥ずかしい。趣味として高音質を追求するのは単純に楽しいからいいのだけれど、音楽を聴いてアラ探しになるのは本末転倒だ。
そんなわけで「耳を鍛える」というテーマはいまも心の片隅に置いてある。英語を勉強することで新しい音がピックアップできるようになったように、もっと音の世界をちゃんと認識したい。いつも聴いてる曲も「今日は一つ一つの楽器を聴き分けてみよう」とか「一番小さな音を探してみよう」とか「左右の音のバランスに意識してみよう」とか、音楽を楽しみつつ耳を鍛えていれば、音への集中力が上がり、オーディオ機器をしっかり評価できることにも繋がるはずだ。
Boseと同じくスタジオや映画館で頻繁に目にするJBLのBluetoothスピーカー。スマホと無線で繋げて手軽にJBLサウンドが楽しめる。気軽に楽しめるってとても大事。
オーディオとオカルト
100円のケーブルでも十分音は鳴るのに10万のケーブルも存在する。このようにオーディオにはオカルトを思わせる文化がある。わたしの個人的見解だと、ケーブルによる音の変化は確かに起こる。電源ケーブルの交換でも確かに音が変わる。しかしそれらは機器の性能を覆すレベルではないし、変化の大部分はプラセボ効果だと思っている。
しかしプラセボ効果というのは恐ろしいほどに効く。例えば映像ケーブルならば、ディスプレイを2台横に並べれば比較は一目瞭然だが、音は同時には比較できない。そこがオーディオの難しいところだ。たとえば10万のスピーカーケーブルを買ってきたとする。そのケーブルには高純度軟銅線が使われており電気的特性に優れ、さらに究極的なノイズ対策が施されているとする。意気揚々と古いケーブルと取り替え、ワクワクしながらリファレンス曲を流す。そんな時は当然いつもより集中して聴くわけだし、そのケーブルに素晴らしい技術が導入されているという知識は、音をより高音質に錯覚させる。
オーディオアクセサリーは料理における食器と同じで、聴く人間にとって価値があるのならば本当に良い音になる。ただ現実的に高音質になったのかどうかは、他人に聴いてもらったりブラインドテストが必要になる。プラセボとはそれほどによく効く。
良い音とは
オーディオで皆が追求する良い音というのは人それぞれで、だからこそ沢山のオーディオ機器が存在している。コンサートでも前に座ればライブ感があるし後ろに座れば全体が見渡せるが、それは良し悪しではなく好みだ。でも、オーディオ機器は機械なのでスペック的な良し悪しというのは存在する。
まずCDプレーヤーなどの音源。PCオーディオの場合はDACになるが、これはいろいろなDACを聴いてみると分かるが、音の味付けが機種によって大きく異なる。個人的に好きな味付けは音がリアルに感じるものだ。つぎにアンプ。良いアンプというのは繊細でかつパワフルで、それが存在感に繋がる。アンプはメーカーによって音の味付けがかなり違うし面白い。最後にスピーカー。良いスピーカーは本当にそこで演奏しているかのように聞こえる。ボーカルの口の位置まで特定できる(気がする)システムもある。私はシステム全体を通して「現実感があって感動する音」という感覚的基準で良し悪しを決めることが多い。
オーディオ専門店で良いシステムを聴いていると分かってくるが、ある段階からのオーディオは、低音のスピード感に物理的にウーファーの口径が必要になり、そこからが大型スピーカーの領域となる。大型スピーカーはその駆動の為に質の高いアンプが必要になり、金銭的にも追いつけないレベルになってくる。
コスパ時代のデジタルオーディオ
そんなわけで際限なくお金が飛んでいくオーディオの世界だが、デジタル時代になって少しづつ高級志向が弱くなっているように思う。というのは、デジタル技術の普及により手軽に高音質な音源が手に入るようになったからだ。たとえば『PC100USB』のような安価な外付けDACでも、少し前の10万クラスのCDプレイヤーと遜色ないと思わせる。
アンプも中華アンプのような安価なデジタルアンプの登場で、アナログ時代の常識を塗り替えようとしている。 音の出口のスピーカーだけはデジタルの恩恵を受けることができないが、それでもネットには有意義なレビューが溢れているので、コスパが高い製品を見出すことは簡単になった。アナログ時代なら30万円は必要なレベルの音も、いまなら半分くらいで実現できそうだ。
中華アンプ『SMSL SA-98E』。デジタルならではの解像度とクリアな音質。80W+80W=160Wという大出力なのに、電力効率は85%に達し発熱はほぼない。それでいて安価という。高解像度な音が好みなら一聴の価値あり。
今の環境
大人気のDAC『Chord Mojo』を購入してしまいました。Mojoは過去のどんな機器よりも費用対効果が高いと感じています。
Chord Mojo | Macから据え置きDACとして使っています。コスパ最強だと思う。いつかHugoにレベルアップしたい。 |
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Denon PMA-2000IV | 数年前にセレクター部分が故障したのでオーバーホールしました。中華アンプと比べると、いかに感動的な味付けがされているかが分かる。 |
PMC TB2SM | あまりメジャーではありませんが、イギリスのスピーカー。一時期とても人気がありました。モニター系の音が欲しくて色々視聴して決めた。 |
audio-technica ART MONITOR ATH-A2000Z | 定評の機種をいろいろと視聴した結果。これに決めました。アートモニターという名前はピッタリだとおもう。 |
Etymotic Research ER-4S | かなり好きな音。初代ゲームボーイのデザインとそっくりだけど、出てくる音は別次元です。 |
過去の機器
- Input
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Pioneer DVL-909 LD再生も可能でした。タイタニックとかSWエピソード1とかの時代でした。 Sony DVP-S9000ES 当時のフラッグシップ。Sonyのフラッグシップというだけあって絶大な安心感がありました。 Onkyo SE-200PCI LTD PCから出てるとは思えないほど繊細でノイズレスな音でした。良い製品です。 - Amp
-
Yamaha DSP-A2 初めてのAVアンプ。部屋全体がホールのような響きに包まれます。当時は響きよりも解像度が欲しいと感じていました。 Sony TA-E9000ES 2chでドルビーデジタルとかDTSが聴けるバーチャルサラウンドができました。一度壊れて修理に出したら3万円くらいかかってビックリしました。 Nakamichi PA-1 友達が持っていたナカミチのカーオーディオがとても良かったし、HMVの試聴機もナカミチでした。憧れのメーカーでした。 Aura British Stingray 鏡みたいなアンプ。小さくて薄いのにパワフルでびっくり。量感はあるんだけど軽い音だったと記憶しています。 - Cable
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Ortofon 6.7N AC50 レコード針で有名なオルトフォン。コンプリート欲が刺激されて5ch分を揃えました。 - Speaker
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Bose 100j 最初に買ったBoseのスピーカー。当時はBoseしかスピーカーメーカーを知らなかった。まだ音の善し悪しが分からない時代です。 Bose 121 100jの次に購入。Boseが大好きだったんですね。121は高級感があって好きでした。 Bose 363 WestBorough 121にウーハーとツイーターを付け足す構成。今から考えると多少不安を覚えるシステムですね。 Bose AM-033C Acoustimas アコースティマスキャノン。バズーカーです。部屋につけていたので大迷惑でした。 - Portable
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Audio-Technica ATH-AD700 抜けの良さが気に入って購入したオープンエアー。AD300と視聴比較して思ったより違ったのでこちらに。今でも捨てずに使っています。 Etymotic Research ER-6i ES-4Sが良かったので購入しましたが、結構早くケーブルの接続部が壊れました。4Sは丈夫です!
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