Evernoteは6月9日、何の前触れもなく「Evernote Peek」という新作アプリケーションをリリースした。それまでのEvernoteとは毛色が異なる、スマートカバー付き「iPad 2」専用のアプリケーションだ。
この突然の発表はなんだったのか。Peekリリースの2日後、たまたまEvernoteへの訪問をスケジュールしていた筆者が、同社のフィル・リービンCEOを直撃した。わずか30分のインタビューだが、同氏は気前よく「WWDC 2011」の感想や、今シリコンバレーでブームになりつつある伊藤園の「お〜い、お茶」についても熱弁してくれた(聞き手:林信行)。
―― 「Evernote Peek」、リリースされるや大人気みたいですね。
リービン うん。リリース後すぐに、米国AppStoreの教育分野でナンバー1に輝くことができたんだ。アップルがこのアプリを「注目のアプリ」にフィーチャーしてくれたのはリリース2日目なので、最初の1日半は、たいした周知活動もできなかった。それにも関わらず、Twitterで全世界のトレンディングトピックの4番目に入り、すぐにApp Store教育分野の1位になれた。我が社でもこれまでこんなことはなかった。
これは日本でも同様で、AppStoreが正式に取り上げてくれる前から、「Macお宝鑑定団」などのサイトが取り上げてくれたおかげで、すぐに教育部門の1位、さらには無料アプリケーションの4位を獲得できた。まったく驚くべきで、うれしいことだ。
―― 開発のきっかけはなんだったのでしょう?
リービン Evernote Peek開発のきっかけは、iPad 2の発売初日にまでさかのぼるんだ。私と社員のアンドリュー・シンコフは、行列に並んで発売初日にiPad 2とスマートカバーを手に入れた後、テキサス州オースティンで開催されるSxSW(サウスバイサウスウェスト)というイベントへ飛行機で向かった。
機内でとなりあわせに座りながらアンドリューがスマートカバーの一折り目の部分をパタパタ開け閉めし、こう言ったんだ――「これってすごい。なんだか気持ちがいいし、音もいい。この動きって身体的にも非常に自然だし、これで何か操作できるモノが作れないかな」――そこから、何ができるかなという話になった。
ちょうどページをめくる動作に似ているから、記憶を補助するフリップカード(めくって答えをみるカード型の単語帳)のような使い方がいいんじゃないか、という話になったんだ。フタを閉じるとiPad 2がスリープ状態になるから、そこから起動したタイミングで何かをしかけるというアイデアで、2人で盛り上がっていた。
―― ということは構想3カ月のアプリケーションなんですね。
リービン いや、実はそうではないんだ。確かに、アイデアが出たのはiPad 2発売初日だったんだけど、初日にすぐ思いついたアイデアだし、1週間もしたらいろいろな開発者がそんなアプリケーションを出してくるだろうと勝手に思い込んでいた。だから、アイデアはそのままお蔵入りさせてしまい、2カ月ほど放ったらかしにしていたんだ。
その後、何かのきっかけでアップルで働く友人に、このアイデアを話したら「それって最高にクールだよ! そんなアプリケーション、これまでに見たことないし、絶対にやるべきだ」って説得されたんだ。そこで初めて本当に開発することを決めたんだ。
緊急でスタッフを集めてホワイトボードにアイデアを書き出した。いろいろ話し合った結果、どうせ出すならWWDC 2011の最中のほうが話題作りにもなっていい、ということになった。
残り期間は3週間ちょっとになっていたが、なんとか、この短期間でリリースまでこぎ着けることを絶対的なゴールの1つにした。そう、実はとても短期間で作ったアプリケーションなんだ。
―― なんと、わずか3週間で! スタッフのみなさんはすごく機動力があるんですね。
リービン いや、実はそれもちょっと違って……確かにアプリケーションそのもののデザインは我々のスタッフが手掛けたんだけど、いざ開発をしようにも、手の空いているスタッフがいなかった。
そこで我々は「Egretlist」というアプリケーションを開発したプエルトリコの開発者仲間に連絡をし、相談を持ちかけたんだ。彼らはすぐに快諾し、2時間後には飛行機でEvernote本社に向かっていた。そこから約1週間半かけて、彼らは地元とここを往復しながら基礎部分の開発を行った。
実はサンプルとして添付したノートが完成したのもリリース前の晩だったし、プロモーション用のムービーが仕上がったのも前日で、Peekが形になったのは、本当にリリース直前のことだった。非常にあわただしいスケジュールで作ったアプリケーションなんだ。
この製品を今後どう展開していくかというミーティングも、リリースから2日後、つまり、今日このインタビューが終わってから2時間後に開くことになっている(笑)。「さあ、とりあえず先にアプリケーションだけ出しちゃったけれど、これ一体、どうやって事業化していく?」ってね。
Peekをリリースした当日、フランスのビジネススクールの人たちが会社見学に来て「この商品の開発に当たっては、どんなマーケティングリサーチをされたんでしょう?」って聞かれた時には答えに困ったよ。だって、我々のマーケティングリサーチの実態は「これって最高にクールじゃん?」「OK、じゃあ、それやろう」だけだったんだから(笑)。
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