学生ちゅうもく~。いや遠い昔に学生だった人にも、ぜひ注目してほしいです。
早稲田大学のすぐ近くで20年近く営業し、多くの学生から愛されたカレー屋さん「メーヤウ」が、2017年に惜しまれつつ閉店したことは皆さんご存知かと思います。
あのめちゃくちゃ辛いのになぜか旨くて癖になるチキンカリー。昼時は行列ができて店の前の階段に一列で並んだ日々。
ああ、メーヤウはもうないのか…とちょっと切ない気持ちだったのですが、
本当にいろいろなことがあって最近復活したそうです。
あのカレーは健在なの?って気になる方も、メーヤウは知らなかったけど美味しいカレーは好きだよという方もちょっと読んでいってください。3分くらいで終わります。
こちらが現在のメーヤウ。西早稲田駅徒歩1分、明治通りと諏訪通りが交差する好立地に今年7月に復活しました。
もともとは早稲田大学文学部キャンパスのすぐ横にあって、昼時はほぼ100%学生相手でしたが、これからはより幅広い方にカレーを味わってもらえそうですね。
復活の立役者はIT企業勤務のメーヤウマニアだった
そもそもなんで大人気のカレー屋さんが閉じてしまったかというと、店主の高橋さんの体力的な問題、そして人材難という課題がありました。アルバイトがなかなか集められず、シフトが空いてしまうと店主がカバーしなければいけません。
女性の高橋さんが1人で行列のできるカレー屋を維持するのは大変な苦労があったそうです。
では、一旦はお店を閉じてしまったメーヤウがなぜ今回復活できたのか。その立役者がこの高師雅一さんです。
高師さんはIT企業に勤務するビジネスパーソン。freeeという会社でクラウド会計ソフト 「freee」のプロダクトマネージャーをやっているそうです。
飲食経験のない会社員の方がいったいどうやって…?メーヤウ復活に至る経緯を振り返ってもらいました。
――もともとメーヤウとのご関係は。
学生の頃は毎日のように通っていました。卒業してからは平日は仕事で行けなくなりましたが、土曜日の午前中は必ず食べに来ていました。
本当に毎週のように食べていたので、なくなっちゃったときは結構乱れましたね、心が。
――やはり、乱れますか。
乱れました。月から金まで死ぬほど働いて、土曜日の午前中に辛いカレーを食べてリセットするっていう僕なりのサイクルがあったんですけど、それがなくなっちゃって、心も体も。
――元店長の高橋さんとはメーヤウの常連としてのつながりですか。
いえ、カレーは毎日食べに行っていたんですけど、僕がシャイっていうのもあって、店長さんに、「今日も美味しかったです!」とかとても言えなかったんですよ。
なので、ちゃんと顔を合わせたことはなくて。閉店したあとに1日だけ復活するっていうイベントが早稲田大学でありました。
そこに参加してカレーの列に並んでいるときに、店長さんとファンの方の会話が聞こえてきました。当時は閉店の理由なんて知らなかったんですが、聞き耳を立てていると、「後継者がいなくて潰れちゃったんだよね」みたいな声が聞こえてきました。
そのとき隣にいた僕の奥さんに「もう『継ぐ』って言いなよ」って言われて、たしかにここしかないよな、と思っていたんですけど、そのまま普通にカレー食べて帰ってきちゃったんですよね。
――シャイを自称するだけありますね。
そのときのことはすごく後悔しました。僕は毎年、1年の目標を決めているんですけど、実はその年の1月1日には「メーヤウ復活させる」って書いていたんです。それなのに…と。
だから、やっぱりここを逃したらダメだと思って、あとでTwitterで高橋さんにDMを送りました。かなりの長文で、「復活をお手伝いしたい」と。
でも断られちゃったんですよね、もうやりませんって。
メーヤウの運命をかえた1つの奇跡
――それは残念ですね。きっぱり断られてしまったと。
ああ、これで本当にメーヤウは終わったんだなって思ったんですけど、ちょっと信じられないような出来事が起きました。
だいぶ時間がたったある日、新宿の「やすべえ」っていうつけ麺屋に僕が並んでいたら、突然iPhoneのフェイスタイム(テレビ電話みたいなやつ)が知らない番号からかかってきて、見たら女性が映っている。誰だろう? 知らない人だな、怖いなと思ったんですね。
あっちも「誰ですか?」みたいなこと言ってるので、僕も「間違い電話ですかね」って切ろうとしたら、
相手がどう見てもメーヤウの元店長の高橋さんだったんです。
――え、まじで?
高橋さんはあまりスマホとかに詳しくないので普段はご家族としかフェイスタイムは使わないそうです。なのに、なぜかよりによって僕と繋がっちゃった。お互い電話番号も知らないのに。いまでも本当にどうしてかよくわからないんですけど。
「もしかしてメーヤウの高橋さんですか!?」って言ったら、「はい、そうです」みたいな。
僕、TwitterでDMしたタカシです! あー!タカシさん、みたいな感じで、復活しないんですか?って聞いたら、そうなんですよねぇって。
それで会話が終わってしまいそうな雰囲気だったので、もうこのチャンスを逃したらすべて終わるかもしれないと思って必死で、「1回だけ会ってください!」って強くお願いしました。
そうしたら、そこまで言うなら、と。なんとか繋げられたんです。
――奇跡ですよね。間違い電話が来て、それがメーヤウの…。
すごい話ですよね。フェイスタイムって電話番号を知らないとできないはずなのに。高橋さんは知らないおじさんが映って普通にびっくりしてましたね。
――間違い電話の相手がメーヤウの元店長の人だってわかるのもすごいです。
相当通っていたので。それで会って直談判させてもらいました。
いろんな人からアプローチは受けていたらしいんですけど、もうやる気がなくなっていたみたいなんです。そこをなんとかやりましょうって説得しました。
これ人に言っても誰も信用してくれないんですけど、ぜひ高橋さんにも聞いてみてください。もうすぐいらっしゃいますので。
「飲食店はもういいや」が高師さんの熱意で変わった
出勤してきた高橋さん。
――さっき高師さんから、間違い電話がきっかけで話が進んだって聞いたんですけど。
本当にそうなんです。とても不思議な話で、お互い電話番号も知らない。なのにフェイスタイム…?で繋がって、不思議ですよね。どう考えてもあり得ないんですけど。
それがなければたぶん、(メーヤウの復活は)なかったと思います。まったく考えていませんでした。
――それまでも復活を望む声はたくさんあったと思いますが、タカシさんと一緒にやろうと思った理由というのは。
彼の熱意でしょうね。実は飲食店はもういいや、と思っていたんです。
でも早稲田大学のイベントに本当に遠くから、日本全国から食べに来ていただいて、今の店長もそうなんですけど、これだけ待っている方がいらっしゃるということを自覚させてもらったのもあって、少し話を進めてもいいかなと感じ始めました。
高師さんはずっと通ってくれてたって言うんですけど、たぶんいつも下向いていたんですよね、全然顔を覚えていないの。
ただ、いまの店長の高岡さんはしょっちゅう来てたのを覚えています。2人とも卒業してからは毎週土曜日に食べに来ていたみたいで、高岡さんはもうメニューも毎回同じなので、座ったらサッといつものカレーが出る常連さん。
復活したメーヤウの店長を務める高岡さん。熱心なファンの1人だった。
プロダクトマネージャーの経験がカレーに生きた
再び、高師さん。
――普段は会社員をされながらカレー屋のオーナーとして店頭にも立っている。両立は大変じゃないですか。
そこはなんとか。普段はfreeeという会社で会計ソフトのプロダクトマネージャー(PM)みたいな役割で、デザイナーさんやエンジニアさんと一緒にプロダクトを良くしていくというのをやっています。
メーヤウも一緒なのかもしれません。常連のお客さんへのリサーチやフィードバックをベースにものづくりをして、大事なのは味だけじゃないことも学びました。
看板のロゴもリニューアルして作ってもらったんですけど、デザイナーさんに入ってもらったり、あとはECサイトの構築とかもエンジニアさんに入ってもらったりして、カレーだけじゃない、あらゆる接触面でお客さんにいい体験をしてもらいたい。
それを考えるのはプロダクトと一緒です。
PMをやったからカレー屋ができたのか、カレーがあったからPMができたのか。よくわからないですけど、似ている気はします。
――復活に関して一番苦労されたのはどこですか。
いくつかあるんですけど、1つは、事業承継って世の中よく言われますけど、けっこう大変だと思います。
やっぱり高橋さんの人生の大部分を占めるようなカレーを僕が継ぐには、高橋さんもそれなりに思いがあります。逆に僕もメーヤウを今まで通りに、というよりは新しくしなきゃいけない、自己破壊的な部分もあるので、それを高橋さんに認めていただけるかどうか、というのはすごい大変でした。これはソフト面の話ですね。
経営面・ハード面では、やっぱり店舗を探すのがすごく大変で、早稲田という場所にこだわっていたんですけど、やっぱり良い物件ってチェーン店にどんどん回っちゃっていて、Webとか不動産業者から情報を得られる時にはもう遅い。
ここもたまたまの縁で見つかったので、店舗を探すのは難しかったですね。
あとは資金も相当大変ですね、創業融資とクラウドファンディングをしてお金を集めていますけど、かなりきついです。このコロナ禍で飲食店の方は本当に大変だと思います。
――経理や会計のプロであっても、予想以上に結構お金がかかったと。
かかりました。それなりにすべてのリスクを織り込んで事業計画を作っていましたけど、想像以上にお金かかるんだなという印象です。
なので国の補助金とか助成金とか、あとは追加で借入をしたり、そっちの業務が大変でした。
――味のほうはどうですか。メーヤウは本当に不思議な味で、私もたぶん最後に食べたのは5年以上前なんですけど、なんとなく記憶が残っています。
ちょっと匂い、思い出しませんか。
――このお店に入った瞬間に思い出しました。
たぶんスパイスの配合が絶妙なんだと思うんですけど、ちょっと変えるだけで味が変わっちゃったりするので味の復活は難しかったです。
去年もカレーを作ってくれる工場さんとかに委託して、レシピもお伝えしてやってみたけど上手くいかなかったので、スパイスのほかにも煮込み時間とか、微妙なラインがあると思うんですよね。
いまも高橋さんに監修してもらっていますが、一発で同じように作るのは流石に難しいと感じました。店内のオペレーションとかもやっぱり20年やられているので、そこも伝授していただいています。
あの間違い電話がなければ…
再び高橋さん。
――創業者として、いまの味の再現度はいかがですか。
ほとんど元に戻っているんじゃないかと思います。ただここはキッチンが狭いので、いまはチキンとポークの2種類が精一杯です。
タイ風グリーンやレッドカレーもすごい人気だったので、できれば全部出してみたいななんて思っています。
――ではいずれはメーヤウの全メニューが出るかも。
出るかも。その前にたぶん激辛が出ます、高岡さんが激辛大好きなので。
淡々とカレーを仕込んでいく高岡さん。
オープンしてから顔見知りの方もたくさん、「待ってました」みたいな感じで来てくださって、ありがたいですよね。
卒業した学生さん、大学1年生のときから知ってる人もいて本当に嬉しいです。この近くにお住まいの方にも、初めての方にもぜひ食べていただきたいなと思います。高田馬場寄りになって便利になったので。
高師さんと高橋さんの奇跡のようなお話でしたーー。
あの謎のフェイスタイムがなければ、いまこうしてお二人がここに立っていることはなかったかもしれない。
ましてやメーヤウが復活するなんて…。
はい。もうここからは蛇足かもしれませんが、カレーをいただきます。
いちおうグルメ媒体なので。
開店前に取材を終えて、11時半のオープンちょうどに戻ってきたらもう行列が…! 現在はテイクアウトのみの営業ですが、お客さんは絶えません。
その日のカレーがなくなり次第終了とのことで、早い日はお昼で終わっちゃう時もあるそうです。
カレーのメニューは2種類。
チキンカリー
辛さ★★★★☆
手羽先がごろっと入ったインド風チキンカリー。ココナッツのエスニックな香りと後からガツンとくる刺激的な辛さが特徴のカリー。
ポークカリー
辛さ★★★☆☆
ホロホロの豚肉が大人気のインド風ポークカリー。
程よい辛さで一番人気のカリー。
カレーをつくる高岡さん 、盛り付ける高師さん、手渡してくれるのは高橋さん。
お会計は完全キャッシュレス。Suicaなどの交通系やクレジットカード、LINE Pay、PayPay、iD、QUICPayに対応しています。
久々のメーヤウのカレーを…
近所にある都立戸山公園でいただきます。
こちらがめちゃくちゃ辛いチキンカリー 。この辛さが堪らないというファンがたくさんいる。
ああ、この香り。目が痛くなるほどスパイシー。
こっちは程よい辛さのポークカリー。辛いのがそんなに得意じゃない人はポークがおすすめ。
辛さ控えめとはいえスパイス感はしっかりあって、胡椒とバターの風味を強く感じる味わい。このほろほろポークも最高。
というわけで、まずはチキンカリーから。
あっ!(ヤバい)
からっ!!!!!!!!!!
でもンマーイ!!!!!!!(まんが道)
こういう微妙な表情になる辛旨具合なんです。
食べた瞬間、これはヤバい!となるんですが、次の瞬間、体はもう次のひと口を求めている。
そうだ、これがメーヤウだった。
ああ、思い出してきた。
辛い。とにかく辛いのに、止まらない。
ヒーヒー言いながら次へ次へ。
この辛さにだんだん慣れてくるから不思議だ。
そしてポークのどっしりとした濃厚なスパイス感もまた良い。
一番人気はこっちというのも納得。
いやあどっちも美味しい。
チキン
ポーク
ざっくりとこんな感じなのでお好みの気分でどうぞ。
あの懐かしいメーヤウの味をこうして戸山公園で楽しめるなんて…。
学生時代の懐かしい味が、気づいたらなくなってしまうのはよくあることだと思う。
とても残念だし、寂しいけど、じゃあ今でも足繁く通っていたのかというと、決してそうではなかった。足は遠のいていた。
でもずっとそこにあってほしかった。そんな自分勝手な望みを抱いているだけの自分。
実際に動いてくれる人たちがいるからこそこうしてまた会えた。
ありがとう、メーヤウ。
おかえりなさい、メーヤウ。
新生メーヤウの営業時間は火金土の11時30分〜売切れ次第終了。当面はテイクアウトのみで、お支払いは完全キュッシュレスです。
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あの辛さに青春を捧げた人も、初めての人も、美味しいカレーを味わってみてください。
著者プロフィール
narumi(@narumi)
コンビニ飯を愛するグルメライター。趣味はポッドキャスト配信。高田馬場・早稲田のお店がなくなると悲しい。実家は所沢、西武線沿線で育った西武ライオンズファン。
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