この記事は「Board Game Design Advent Calendar 2014」の17日目記事として作成しています。
Board Game Design Advent Calendar 2014 - Adventar
前日、16日目は「タンサンファブリーク」さん。
その幅広いゲーム・デザイナーとしてのはお仕事はボドゲの関係者なら目にしないことはないでしょう。そんな大御所に囲まれ、ボドゲ制作について何を語るか。
ここに来る方は当然ボドゲに興味がある人で、「どんなことを考えて作ってるんだろう」、あるいは「自分が作るときの参考にしたい」という方でしょうか。
その「考え方」については既に様々な角度から語られています。
ならば私はそれをより具体的に、「自分がボドゲを作ったときの話」をします。
新しい物を作るということ
仕事が商品企画なので、ボドゲ制作でも発想の基本は商品企画です。
何年も新しい商品を考える仕事をして感じることは、
「本当に新しい物なんか作れないし、作らなくていい」ということ。
アート作品は知りませんが、電機製品もボドゲも、使う人の間に共通言語がなければ成立しません。
例えば漫画で無音を表す「シ~ン」という擬音も、手塚治虫御大が作り上げた一つの共通言語です。
Taipei_20110731_12 / Lordcolus
「新しい物を作る」とは、こういう積み重ねの上に自分が一つ新しい石を置き、それが新しい共通言語となるのを目指すということ。そう考えると自分が行える、やれる事は自然と見えてきます。
で、そこまでマトモそうなことを言っておいていきなりぶっちゃけます。
要は一から本当に新しい物なんか作れないんだから、何かをベースにして作ればいい。つまり、まずパクればいいんです。
陰陽賽の場合
ポストカードゲームとしてゲームマーケット2014秋で販売、現在はボドゲとして制作を進める「陰陽賽(おんみょうさい)」は、「ブループリント」のパクリです。
実はボドゲ制作までやっているくせに、家族の環境や通勤時間が長い等で、あまりボドゲで遊べません。
だからネット上で他のゲームのルールを見たり、プレイ記を見るのは好きです。
そんな中で目にしたのが「ブループリント」。
ブループリントをプレイ! 公開された7個のサイコロから好きなものを取っていき、サイコロ建築を完成させるゲーム!! 途中の同色ボーナス取得で隣と同数になり、人気建材の個数でも同数、人気建材の数字も同じというミラクルがありました! pic.twitter.com/s6y8HuEcys
— 戦闘員ディー@たけのこ攻防 (@DEE_worldslayer) 2014, 12月 14
「ブループリント」とは「設計図」のこと。
渡された設計図通りに、ダイスを組み立てるゲームです。(設計図を無視してもOK)
箱には建築現場風のイラストが描かれていますが、ゲームはダイスを積み重ねるだけのシンプルなもの。
これが面白そうでした。
・・・大事なのはここです。
「なぜ、面白いと思ったのか」
これを自分のなかで分解します。
そもそも、自分はダイスゲームが苦手です。それは運で左右されすぎるゲームは、自分の意思(プレイヤーの実力)が入りにくいと感じるから。ゲームには乱数発生が必要で、ダイスは非常に優れた乱数発生器です。ただ、安易にダイスを使うと「運ゲー(運で勝負の決まるゲーム)」になってしまいます。
すごろく大会 / Osamu Iwasaki
だからドイツではダイスが嫌われるなんて話も聞きます。
ダイスゲームの近年の名作と言えば「キングオブトーキョー」ですが、「ダイスを振り直すことで運の要素を減らす」という仕組みも、やってみればそれほど機能しているとは思えず、やっぱり運の要素が大きいことは否めません。(もちろんあれはそういう部分を楽しむゲームだとは理解しています)
キングオブトーキョー、プレイ風景
これに対して「ブループリント」は「ダイスを使っているのに、運の要素をあまり感じない」ところが魅力でした。ブループリントでは「必ずしもダイスの目を使わない」「数あるダイスから選んで取る」というルールで運の要素を減らしています。
そうやって、なぜ「面白そう」なのか、その要素を取り出して、整理します。
- ダイスを沢山使う
- ダイスの色ごとに特徴がある
- 各プレイヤーは他のプレイヤーに分からないようにダイスを組み立てる
自分なりに整理した「面白そうな理由」はこんな感じでした。
この「面白そうな理由」を元に考え、結果としてできたのが「陰陽賽」です。
ルールは全く違うものの、実は上の三要素を全て満たしています。しかし使用するダイスは16、カードは4枚とブループリントより大幅に減っています。同人ゲームは原価が高くなるので、この辺の「省略」は制作・販売上で重要です。
パクって、終わり?
陰陽賽では「ダイスの目」と「ダイスの色」が得点になります。また、ダイスを置く場所も重要です。この辺は「ブループリント」と同じ。
ポストカードゲーム版の「陰陽賽」
違うところは、
- 皆が同じ盤面にダイスを置く(ブループリントでは各自が自分の盤を持つ)
- ダイスの側面の目を数える(ブループリントでは上面)
この二点です。
特にダイス側面を点数とするゲームは珍しいようで、私の狭いボドゲ知識では見当たりませんでした。(「こんなゲームがある」という方はぜひ教えてください)
また、各プレイヤーは自分の担当する「ダイスの色」が点数になりますが、これを非公開としました。これにより同じ盤上でダイスを並べながら、相手の点数が正確に読めないようにしました。
結果、「ダイスを沢山並べて遊ぶ」という「ブループリント」を出発点としながら、
全く別のゲームになったと思います。
先日、「ブループリント」を初めて遊び、そのまま「陰陽賽」を遊んで貰いましたが「同じゲームじゃねぇか」とは誰も言いませんでした。楽しんでくれた、かどうかは分かりませんが。楽しかった、よねぇ・・?
上にも書いたように、同人ゲームで金銭面の制約は大きいです。でも、その制約が発想の「種」になります。商品企画も大手企業と中小企業では同じ商品でも違うコンセプトで考えます。(実際に転職してそういう提案をしています)
だから、パクったらいいんです。
そして、パクったら、自分の環境・コンセプトで練り直して突き詰めます。(←重要)
「面白い」と思ったら、まずその面白さを分析します。それができれば、それを自分なりに、あるいは自分のリソースで表現することを考えます。
同じ発想の人、同じ環境の人は居ません。
コンセプトから考えれば、結果は必ずオリジナルのものになる、と私は考えています。
コロボックル、見~つけた!
上は「商業品をネタに、ローコスト化して別のゲームになった」例です。逆のパターンの実例が、もう一つ制作しているゲームです。
このゲームは、ポストカードゲームで話題になった「おさわり人狼」のパクリです。
「おさわり人狼」は写真のように各プレイヤーが指を置いて、目を瞑ります。
ゲーム会での「おさわり人狼」プレイ風景
その間「人狼」だけが動いて他のプレイヤーを触り、その結果を受けてみんなが協議します。協議+多数決の結果、人狼を当てれば人狼以外のプレイヤー(村人)の勝ち、当てられなければ人狼の勝ち、というシンプルなもの。
このゲーム、何がいいかというと
- 「触る」という対面ならではの良さを生かしている
- 「おさわり」というキャッチーなネーミング
「合法的に女の子を触りまくれるゲーム」なんていい方もされました。
引いてダメなら、足してみる
「おさわり人狼」は元々がポストカード一枚の同人ゲームなので、これ以上のコスト低減はできません。素晴らしいゲームデザインです。
ところで発明・企画の定石・鉄則で、「組み合わせる」というのがあります。例えば「鉛筆+消しゴム」→「消しゴム付き鉛筆」のように。
そこで今回は、削れないなら「足す」方向で考えました。
おさわり人狼の魅力は「触る」です。そしてそれが生きるのは「対面でこそ楽しい」ということ。では「対面で楽しい」何を足すせばいいか?
「触る+声に出す」これがこのゲームでやったことです。
ボドゲでは「声に出す」事を楽しむゲームが結構あります。
今回のゲムマで話題になったゲームでは「上座-KAMIZA-」がそうでしょう。
「クク」では「汝、滅びよ」「にゃあ」などの台詞がありますし、個人的に一番は「ウボンゴ!」は秀逸だと思います。
「ウボンゴ」の何が素晴らしいって、何言ってるか分からないことですね。
「『ウボンゴ』はスワヒリ語で『脳』という意味で・・・」
いやいや、違うでしょ。みんな「ウボンゴ!」って叫びたいんでしょ。
違う?
でも実際、「意味のない言葉」を発明するのは大変です。
「それはゲール語で非常にわいせつな言葉だからマズイよ」とか言われかねない。どこにもない言葉で神々の名前を付けたクトゥルフ神話は凄いし、「とりあえず新しい言語を作る」からスタートするトルーキンに至っては「変態」という尊称を与えるに相応しいでしょう。
オッサンがひたすら乱舞する映画、ホビット。トルーキン原作。
でも欧州言語でも中国語でも、話す人には普通の言葉。その言語を知っている人に目新しさはありません。
そこで今回は、話者の少ない言語として「アイヌ語」を使う事にしました。
できあがったゲームはこんな感じ。
- プレイヤーは隣にチップを手渡す(何を渡すか見えないようにする)
- 隣のプレイヤーはそれを受け取るか、拒否するか選べる(拒否されるとチップを公開し、同じチップを補充する)
- それを繰り返し、「コロボックル」のチップが7つ集まればクリア(逆に「蕗(ふき)」のチップが7つたまり、それを指摘されると脱落)
特殊効果のカードがあるとか色々ルールはありますが、大まかなポイントはこんな感じです。チップはわざと大きくしているので、かなりがっちり渡さないと他の人から見えます。恥ずかしがらすに、隣の人としっかり握手しましょう。(隣の人に拒否され続けても泣かないでください)
「あの人の隣に行きたい」という時のために、「席替えする」というカードも用意しています。何のゲームだ、これ。
クリアの宣言は「アワンペ!」アイヌ語で「7」だそうです。他、ゲーム中に使うアイヌ語は「1」「2」「はい」「いいえ」等計7個。この辺が限界でしょう。
テストプレイは正直、思った以上に好反応です。
実際のゲームは読み合いがかなりの比重を占める上に、適当にやってもそれなりの結果になる。小学一年生の娘とも本気で遊べます。
また「渡す」のドキドキ感はなかなかの物で、下手に表情に出すとそれが他のプレイヤーへのヒントになります。当事者同士が目線で会話せざるを得ないのが、思った以上に良い感じ。
大人げなく小学一年生に勝利するゲーム制作者の父親
そしてやっぱり「知らない言葉で発音する」のはそれだけで楽しい。
イラストは「ぐるっぐ(@grg_0110)」さんに制作をお願いしています。こんなかわいいイラストを描けるなんて、それだけで羨ましい。
ぐるっぐさんのWEBサイト:ぶるふぉ
コロボックル(制作途中なので変わる可能性もあります)
かわいいイラストで女性が「やりたい」と思うゲームになっていれば。
そして「合法的におさわりができて女性受けのいいゲーム」第二弾という二匹目のドジョウが、このゲームの狙うところであります。(ゲスい・・・)
パクれ。でも自分で作れ
実際に私が作っている流れはこんな感じです。
「パクった」と言っていますが、その作業は「面白さの分解」から始まります。面白さを分解し、「分解したテイスト」を起点にゲームを作ることで、結果として新しいゲームを作っています。
「いや、オレは完全に新しいゲームを作るんだ」という方は素晴らしいと思います。ただ、商品企画をして思うのは、「数」は大事ということです。ヒット作を作る方のアイデアは多作です。
自分の場合、商品化まで進めるのは1/5ぐらいでしょうか。まだボドゲの作り始めなので、確率は高いです。そのうちもっと「ハズレ」が増えて、その結果残った物の完成度は逆に上がるでしょう。そのためにネタはどこからでも拾ってくるべきですし、元ネタがあることを気にするのはお勧めしません。
もちろん元ネタそのままではダメです。著作権的にもルール的にもダメですし、「そんなもん作るなら、元のゲームを遊べばいいじゃん」と思います。作ってて、楽しくない。
どう「色」を付けるか。
自分なりにコンセプトから組み上げれば、結果としてできあがるゲームは自然と元と違う物になるハズです。ならないなら、考えが足りないです。掘り下げが足りてないか、組み上げが足りていないか。そんな時はとりあえずそのネタは捨てましょう。変な袋小路に入ったネタは、いじるより捨てた方が早いです。だからいつでも捨てられるように、元のネタの数は重要になります。ネタが少ないと、悪いアイデアにいつまでもこだわってしまいます。
まぁ、この辺は私の持論ですが。
作ってみたい、という人に
私の思考の流れはこんな感じです。どなたかへの参考になれば幸いです。
実際にゲームを作るには次のような段階を踏みます。
- コンセプトを考える
- ゲームとして成り立つルールを考える
- 形にする(遊べるようにする)
- 微調整して完成する
- 販売できる形にする(量産する)
今回のお話は主にこの「1」の部分についてです。他の項目については他の方の記事が参考になるかと思います。ゲームを作るにはこの段階をきちんと登る必要がある上、同人でボドゲを作るなら儲かるどころか数万、いや十万以上の持ち出しになります。(記事を書かれている他の大御所クラスではまた違うでしょうが)
それでも作りたい、という奇特な方は大歓迎です。
さて、明日は「宇宙エレベーター」の雨宮さん。特殊な動物ダイス74個(!)を使うゲーム「MBUGA(ムブガ)」の作者です。ダイスゲームの話を書きましたが、MBUGAはルールに「ゲーム経験による実力差がはっきり出やすい」とあり、どんな調整なのか非常に気になります。
残念ながら私は未プレイですが、ぜひ一度遊んでみたいところです。