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三橋ゆか里
(@yukari77)
入賞した4チームに各500万の賞金と、最優秀賞には9月に開催される「TechCrunch Disrupt」への出展権が与えられるNTTレゾナント主催の「Challengers」。今年見事に優勝を決めたのは、トーキョーストームの「おれのそうび」だった。
8ビットの世界観が可愛らしく、どこか懐かしさを感じさせる同サービスを生んだのは、4歳児の母親で社員数8人のベンチャー企業を運営する大沢香織さん。「おれのそうび」について、またIT業界で母親であると同時に経営者であるというチャレンジについて話を伺った。
リストラをきっかけに起業
大沢さんを一言で表現すると「かっこいい」。そんな彼女に、そこまで頑張れるモチベーションは?と聞いてみたところ、意外にも「不安だから」という答えが返ってきた。不安だからこそ人一倍頑張るし、最優秀賞を獲得したChallengersの準備も抜かりなく徹底的に行ったという。
一見すると身体も大きいしおおらかに見えるので、自信満々っていう印象を与えるみたいなんですけど全然ないですよ。むしろ不安でしかない。今回の独自サービスの企画を、資金調達をしてではなくお金を貯めてからやるっていう時点でそうですよね(笑)
そんな不安のルーツは、彼女が過去に経験したリストラにある。もともと経理の仕事をしていたが出産をきっかけに退職。厳しいながらもガラケーの公式サイトなどの企画職に再就職したものの、スマートフォンへの移行もあって社員全員リストラに。当時お子さんはまだ2歳だったそう。さらには夫が急に仕事をやめてしまうハプニングに見舞われ、自ら営業をして企画をとってくるようになった。徐々に仕事が軌道にのり、CTOに上松さんという仲間を迎え、今では社員数8人の制作会社トーキョーストームを運営する女社長だ。
受託制作を主に行ってきたトーキョーストームだが、いつか自社サービスをやりたいという想いは常にあったという。資金調達をするのではなく、あくまで受託制作で資金を貯めてから取り組むことを決めていた。そろそろ自社サービスに投資しようかと考えていた頃、タイミングよく「Challengers」について耳にし参加することに。4月に参加が決定し、「おれのそうび」は見事500万円の賞金と最優秀賞に送られるTechCrunch Disruptへの参加権を手に入れた。
持ち物プロフィールサービス「おれのそうび」
テレビで「天空の城ラピュタ」が放送されるとインターネットでちょっとした祭りが起こるように、Appleの新製品発表やGoogleの基調講演前後にも同じような現象が見られる。次にでる最新のiPadを買うかどうかについて、次のバージョンまで待つという人もいれば早速予約したという人がいたり。そんなネット上の小さな祭りは珍しくないものの、いわゆるバイラル効果のあるマーケティングが廃れてきている現状があると話す大沢さん。
一方で、自分が知っている誰かが何かを買った、持っているという情報が人に与える影響は大きい。その最たるものがMac製品で、「おれのそうび」はそんな「人の持ち物」を1ヶ所にまとめて紹介できるプロフィールサービスだ。最新のiPadを買ったという情報がFacebookのタイムラインにパラパラ流れてくるのではなく、○○さんの持ち物はこれですと一覧性を提供する。
「おれのそうび」の使い方はシンプル。まず自分の名前を入力しマイページを作成する。次にアバターを選択し自己紹介を入力したら装備品(自分の持ち物)を登録していくだけ。持ち物登録のプロセスにサジェスト機能などを実装することで、ユーザが次々と簡単に持ち物登録できるようにしている。商品データにはアフィリエイトを活用しており、膨大なデータベースを保持している。ユーザは装備品を登録すればするほど「おれのそうび」独自の仮想通貨であるコインが貯まる仕組みだ。仮想通貨でアバターのグッズを購入でき、将来的には独自ゲームを提供する予定もある。
サービス名を考えるときは必ずドメインから考えます。「おれのそうび」では、持ち物をさらに細分化した、常に身に付けているものという意味で「装備品」という言葉に目を付けました。さらに、ドメインとしてbiで終わるものがないかを考えた結果たどり着いたんです。例えば弊社CTOの上松のプロフィールページはhiroki.nosou.bizとなって、読むと「ひろきのそうび」になるっていう(笑)。そこが決まったため、サービスの世界観はおのずと8ビットに決まりました。
OEM販売など、サービスをつくる上でのポイント
「おれのそうび」に着手するまでは、完全に受託制作のみを行ってきたトーキョーストーム。そんなこれまでの経験から、サービスをつくる上で心がけている点がいくつかあるという。
OEM販売とマネタイズ
まずマネタイズができること。「おれのそうび」はアフィリエイトであるため、極論サービス開始当日から売上が生まれる。サイトのバリューがあがれば売上も比例して上昇し、例えばiQonとZOZOTOWNの連携のように直接商品データベースを提供してもらえるかもしれない。
新しいサービスをつくるときに必ず考えるのが、“他に応用できるか、汎用性があるか”ということです。今回のサービスは、一見するとターゲットが限られているように見えますが、箱さえ変えてしまえばどんな人もターゲットになりうるんです。例えば同じ仕組みを使って、女性向けのデザインをのせれば化粧ポーチの中身を共有するサービスだってつくれる。受託制作をしているため、OEM販売できることを常に想定しちゃうんですね。
サイトを再訪する動機づけ
Challengersの審査員にも指摘されたのが、プラットフォームサービスにおけるリテンションの重要性。持ち物を登録するモチベーションや、一度登録した後にサイトを再訪する理由やきっかけは何なのか。
「おれのそうび」のターゲットは、大沢さんの同年代でもある35歳以上の男性。この世代が最初にインターネットを触ったのは19歳頃のこと。当時、いわゆるTech Savvyな人たちはHTMLを使って自分の自己紹介的ホームページをつくっていた。Mac派とWindows派がガッツリ分かれて対決していたような時代で、ホームページには必ずPC環境が記載されていた。
今回はそんな世代にとって馴染みのあるコンセプトとデザインを採用しており、リテンションに関しては今後ゲームフィケーションの要素を加え、仮想通過でゲームを遊べるようにしていく予定だ。
UIを含め参考にするのはアダルトサイト
大沢さんが常にチェックしているのがアダルトサイトだという。サービスやプラットフォームがガラリと変わる瞬間をいち早く目にできるからだ。ウェブサイトからガラケー、ガラケーからスマートフォンといった大きな流れ。コンテンツを持つアダルトサイトは、取りこぼしがないようプラットフォーム全てに対応する必要があり、また資金もある。これらのサイトがどれだけお金を注ぎ込んでいるかを確認することで、ネット全体の大きなトレンドを把握することが可能になる。
アダルトサイトのUI(ユーザインタフェース)もチェックしています。Pinterestのインタフェースだってアダルトサイトは昔からやっていたり。動画のスクリーンショットを使っていたり、マウスオーバーすると少し動くみたいな動作もよくできていると思うし。あれって一番滞在時間や閲覧が多かったタイミングの静止画を置いてるんですよね。大きな動きを見るためにもアダルトサイトは抑えるようにしてます。
「おれのそうび」のティザーサイトが本日OPEN!
9月に開催されるTechCrunch Disruptでのお披露目に向けて動く「おれのそうび」。イベントでは、日本語版、英語版、フランス語の3カ国語で同時リリースを予定している。フランス語は、チップチューンに代表される8ビットの可愛い日本的デザインや文化に一定数のファンがいるであろうことから。TechCrunch Disrupt後は、iPhoneアプリ、Androidアプリもリリースする予定だ。
また、本記事公開のタイミングに合わせてティザーサイトも公開されたのでユーザ登録ができる。Facebookで自分のプロフィールページのURLが取得できたように、「おれのそうび」でも早い者勝ちで希望するURLが取得できるというわけだ。まず使ってみたいという人は早めにユーザ登録するといいだろう。
女性、母、そして起業家として
女性として、母として、起業家として前進する大沢さん。パワフルな彼女に、この業界で女性や母親として進んでいくための心構えなどを聞いてみた。
—出産後の女性の道
就職して、結婚して、その後も仕事を続ける女性は珍しくない。ところが、妊娠して子どもを産んだ後の再就職は決して容易ではない。母親として仕事を続けるためには、2つの選択肢があると大沢さんはいう。ひとつは、子どもがいる母親として会社の制度を変えながら働くこと。もうひとつは、そもそも自分の働き方そのものを変えること。
わたしは後者を選びました。前者がいちばん大変。だって男性社会を変えることにもなるから。だから個人的にはとっても尊敬します。例えば上司を説得して、子どもが病気になったときの休暇制度をつくるとか。でもその一方で、それが目的になってしまう可能性があるとも思っていて。本当に自分のやりたい仕事ができているかではなくて、それが全てになってしまうというか。
—子育ては会社のみんなで
自分の働き方を変えるという後者を選んだ大沢さん。平日子どもと一緒にいられる時間は夕方の6時から(8~9時には寝てしまうため)の数時間だけ。でもこの時間帯は、IT業界で仕事が最もはかどるゴールデンタイム。そのため、この時間を抜けると考えるだけで恐れを抱いてしまう人が多いという。5時以降、ピタッと連絡が途絶えてしまうのでは?と。でも大沢さんや彼女の周りのIT業界で働く母親は、子どもが寝た夜9時以降にまた仕事を再開している。会社勤めでこのライフスタイルを実現することは難しく、自分で形にするしかなかった。
わたしの子どもはみんなに育ててもらってる感じです。岐阜に開発拠点があるから月に2,3回出張に行くんですが、その間は夫に子どもを迎えに行ってもらったり、時にうちの社員に迎えに行ってもらうこともあります。みんなに助けられていますね。
—働いているお母さんを子どもに見せること
お母さんが働いているからごめんね、なんて一切口にしないし思わない。会社がOKなら職場に子どもを連れていって仕事をしている様子を見せたり、家でも仕事をしている姿を子どもに見せる。何をやっているかわからないから生まれる子どもの不安を取り除き、堂々と仕事をすることが大切だという。
出産後、仕事復帰したときは、子どもがいるので定時にすぐに帰っていました。それが周囲の人間にどう思われていたかはわからないけれど、気にしていてもキリがないと割り切っていました。何より大切なのは、子どもに対して自分が働いていることを後ろめたく思わないことだと思います。
働く時間、性格、結婚/未婚は関係ない。トーキョーストームの評価指標
トーキョーストームでは、上司が部下を見るときでも、同僚が同僚をみるときでも、その評価指針を重要視しているという。
その人が何時間働いているか、性格がいいか、結婚しているか、子どもがいるかなんてことは全部取っ払って、その人が何をつくっているかだけを意識しています。クライアントとの守秘義務がなければ、働く場所が自宅でもオフィスでも構いません。うちの会社は月に160時間働ければ他のことはどうでもいいっていうルールなんです。だから遅刻とか早退っていう概念もないですし。日中にフラッと髪を切りに行く人もいます。つくったもの、成果物だけを見るようにすれば、その人のバックグラウンドなんて関係なくなります。
トーキョーストームというベンチャーがこの形で成り立っているのは、当然そこに信頼関係があるからだろう。それもそのはず、いわゆる面接採用を行ったのはTwitterで行った社員募集に応募してきた1人だけで他は全員知人だ。今後も縁故採用だけを想定している。
性格とかは本当に関係なくて、うちは全員バラバラです。岐阜にいる全然しゃべらないエンジニアがいたり、かと思えばチャラいキャラがいたり。でもみんな仕事をちゃんとやっているので関係ありません。唯一の共通点といえば、ほぼ全員岐阜県出身だということくらいですね(笑)
大沢さんとCTOの上松さんは2人とも岐阜県出身。毎年100人のスマートフォン開発者を育てることを目標に掲げる岐阜県には、県がつくったMobileCoreという施設がある。そこでトーキョーストームの2人が勉強会などを企画し、その参加者の中から人材を採用したこともあるという。また、社員には以前に一緒にリストラになった仲間もいる。
会社を続ける上でのモチベーションに、一緒にリストラになった子を自分が採用するということがあって。もうひとつが岐阜県に雇用をつくるということです。岐阜には仕事がないため、東京でわたしたちが仕事をとってきてそれを岐阜に流す。この2つはどちらも達成できていると思っています。
肩書きウェブディレクター。ディレクションの他、翻訳やライティングなど、フリーでお仕事してます。2011年1月15日に公開の映画『ソーシャル・ネットワーク』の字幕監修をさせていただきました。ツイッターIDは”yukari77“。
個人で運営している【TechDoll.jp】というサイトで、海外のテクノロジー、ソーシャルメディア、出版、マーケティングなどの情報を発信しています。目指せタイムリーな情報発信!
これまで雑誌のECで→UIデザインのコンサル→ウェブ制作会社などを渡り歩いてきました。そこで得たスキル、人、全部かけがえのない財産。幸せの方程式は、テクノロジー(UI, IA..)×マーケ×クロスカルチャー×書く・編集。いま一番夢に近いとこにいる。
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