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2021年12月23日木曜日

都道府県別の大学進学率(2021年春)

  今年の文科省『学校基本調査』の確報結果が公表されました。この資料が出たら,私はまず都道府県別の大学進学率を計算することにしています。リンクはコチラ

 大学進学率とは,同世代の何%が4年制大学(以下,大学)に入ったかという指標です。単純なようですが,算出はそう簡単ではありません。高卒者の進路統計に当たって,卒業者のうち大学に進学した生徒の率を出せばいいじゃん,と思われるかもしれませんが,同世代の中には高校に行っていない人もいますし,浪人経由で入る人がオミットされてしまいます。

 文科省で採用されている,公的な計算方法を説明しましょう。分母には,高卒者ではなく推定18歳人口を充てます。3年前の中学校,中等教育前期課程,義務教育学校の卒業者数です。今年(2021年)春の3年前だと,2018年春のデータを取ればいいことになります。『学校基本調査』のバックナンバーによると,2018年春の中学校卒業者は113万3016人,中等教育学校前期課程卒業者は5515人,義務教育学校卒業者は2609人,合わせて114万1140人(a)です。これが今年春の推定18歳人口で,大学進学率の分母に使う数値になります。

 分子には,今年春に大学に入った人の数を使います。昨日公表された確報値によると,2021年春の大学入学者数は62万7040人(b)です。この中には,過年度の高卒者(浪人経由者)も含まれますが,今年春の現役世代からも,同数の浪人経由の大学入学者が出ると仮定し,両者が相殺するとみなします。

 これで分母と分子が得られましたので,2021年春の大学進学率は,bをaで割って54.9%となる次第です。文科省の公表数値と一致しています。今の日本の大学進学率は50%超,同世代の半分が大学に行くことの数値的な表現です。

 このやり方で性別の大学進学率を出すと,男子が58.1%,女子が51.7%となります。男子が女子より6.4ポイント高くなっています。多くの人が肌身で感じている,大学進学チャンスのジェンダー差です。

********************

 さて,本題はここからです。文科省の公表統計では,全国の大学進学率は出ていますが,47都道府県別の大学進学率は出ていません。上記の計算方法に沿って,都道府県別の大学進学率を独自に計算してみます。

 都道府県別の場合,分子には,当該県の高校出身の大学入学者数を充てます。私の郷里の鹿児島県を例にすると,今年の春,本県の高校出身の大学入学者は6126人で,推定18歳人口(3年前の中学校,中等教育前期課程,義務教育学校の卒業者数)は1万5625人。よって,2021年春の鹿児島県の大学進学率は39.2%となります。全国値よりだいぶ低いですね…。

 私はこのやり方で,今年春の47都道府県別の大学進学率を計算しました。性差にも興味があるので,各県の性別の数値も出しました。以下に,一覧表を掲げます。このデータは文科省の公表資料に出ているものではなく,舞田が独自に計算したものであることを申し添えておきます。


 黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。男女計をみると,最高は東京の75.1%,最低は山口の38.5%です。同じ国内でも,18歳人口の大学進学率に倍以上の開き。毎年のことですので,データを継続的にウォッチしている私は驚きませんが,初めて目にする人は「!」でしょう。

 しかし東京はスゴイですね。4人に3人が大学に行くと。自宅から通える大学がたくさんあり,親年代の所得も高く,かつ大卒人口も多いので,幼少期から大学に行くのは当たり前という感覚で育つ。地方はその反対で,上表の大学進学率の地域格差は,地域間の社会経済格差の引き写しに他なりません。

 大学進学率の地域格差の要因について,私が考えるところは,ブログの前の記事で書いてますので,ここで繰り返しません。以下の記事を参照ください。県別の平均年収や大卒人口率と大学進学率の相関図も掲げています。

 ・都道府県別の大学進学率(2019年春)

 ・都道府県別の大学進学率(2020年春)

2021年12月16日木曜日

ツイッターのグラフについて

  ツイッターで発信した,国別の大学院修了者率のグラフについて,疑問が寄せられてますので,算出の手続きを書いておきます。

 データは,ISSP(国際社会調査プログラム)が2018年に実施した「宗教に関する意識調査」のものです。メインの主題は年によって違い,2018年調査では宗教の設問に重点が置かれています。ISSP調査の概要は,NHKによるコチラのページが分かりやすいです。

 私は「Religion Ⅳ-ISSP 2018」の個票データに当たって,各国の25~54歳のサンプルを取り出し,自身が持つ最高学歴(DEGREE)の設問への回答を分析しました。



 私は,6「Upper level tertiary(Master, Doctor)」を選んだ者のパーセンテージを出しました。9の無回答は分母から除外しています。

 各国の回答分布の表を掲げておきます。%にする前の人数の表です。


 日本だと,6「Upper level tertiary(Master, Doctor)」を選んだ人は23人で,9の無回答を抜いたベースは636人です。よって大学院修了者率は,23/636=3.6%となる次第です。

 「Upper level tertiary(Master, Doctor)」の定義は,国によって異なることもあり得るので,大学院修了者率というタイトルは不適切でした。当該グラフのツイートは削除します。記録として,スクショを以下に残しておきます。

2021年12月4日土曜日

社会科教員の女性比率

  ジェンダー平等という言葉が,今年の流行語になりました。関心が高まっているのは,これまで不問にされていたこと,肌感覚のレベルで何となく認識されているだけのことが,客観的なデータで可視化されているからだと思います。

 そのデータの最たるものは,国別のジェンダー平等指数です。日本の国際的な位置が無様なのは毎年のことで,分野別にみると政治分野がとくに酷い。国会議員など,政治家の女性比率が著しく低いことを思うとさもありなんです。最近知ったのですが,若者参画意欲にも性差があります。「政策決定に参画したいとは思わない」と考える20代の率は,男性では44%ですが,女性では63%なり(内閣府『我が国と諸外国の若者の意識調査』2018年)。他国では,ここまで大きな性差はありません。

 これがなぜかについて,女子は頭を押さえつけられて育つとか,政治の話を女子がすると変な目で見られるとか,世間一般で言われることを強調しても,あまり生産的ではありません。井戸端談義ではなく,データで可視化でき,かつ政策で変えることができるような要因に注目することが望ましい。

 ここでは,進路選択を控えた女子生徒が目にする職業モデルについて考えてみます。政治や経済について語る女性,具体的に言うと,学校で社会科を教える女性教員です。こういうロールモデルに多く接するならば,女子生徒の政治的関心も高くなるでしょう。はて,社会科教員の女性割合は,現状でどれほどなのでしょうか。おそらく低いと思われますが,具体的なパーセンテージはあまり目にしませんよね。

 文科省の『学校教員統計』に,各教科を担当している教員の割合が出ています。2019年の高校のデータを見ると,本務教員のうち,国語を担当している教員の割合は男性で9.0%,女性で19.2%となっています(こちらのサイトの表55)。ベースの本務教員数は,男性が15万2446人,女性が7万1592人ですので,先ほどの比率をかけて実数にすると,国語担当教員は男性が1万3720人,女性が1万3746人と見積もられます。ほぼ半々ですね。

 では,他の教科はどうか。同じやり方で,各教科の担当教員の実数を男女別に推計し,性別構成のグラフにすると以下のようになります。タテの点線は,全教員でみた女性割合です(32.0%)。


 国語はちょうど半々ですが,教科によって違いますね。男性より女性が多い教科は,音楽,書道,家庭,福祉で,それ以外は男性が多し。よく知られれていることですが,数学や理科教員の女性比率は低くなっています。理系に進む女子を増やすにあたって,これをどうにかしないといけないことは,前から繰り返し申してきました。

 しかし,もっと女性比率が低い教科があります。何と何と,公民ではないですか。公民を教える高校教員のうち女性は14.0%で,どの教科よりも低くなっています。このデータをツイッターで発信したところ,「これは知らんかった」と驚かれましたが,私もそうです。政治や経済について説く女性のロールモデル,学校で女子生徒になかなか見せられない。こういう現実が,データで露わになりました。

 日本よりジェンダー平等が進んでいる海外ではどうでしょう。国際比較は中学校段階でしかできませんが,アメリカの中学校の社会科担当教員に占める女性の割合は61.8%で,日本の26.1%よりだいぶ高くなっています(OECD「TALIS 2018」)。中学校教員全体の女性比率は,アメリカが65.8%,日本は42.2%。アメリカの社会科教員の女性比率は全教員と接近してますが,日本はさにあらず。全教員の女性比率は42.2%なのに,社会科教員だと26.1%でしかない。このズレに,社会科教員に女性がなりにくいことが表れています。

 以下は,主な7か国のデータです。個票データに当たらずとも,こちらのサイトのリモート集計で作れます。ドイツは,「TALIS 2018」には参加してません。


 全教員の女性比と,社会科教員の女性比がどれほどズレているかですが,日本以外の国では接近していますね。女性が社会科教員になりやすい度合いは,後者を前者で割った値で測られます。男女で均等ならば,表のaとbの値は等しくなり,よって1.000となるはずです。日本は0.618で,通常の期待値(1.000)をかなり下回っています。

 7か国だけでは心もとないので,比較の対象をもっと増やしましょうか。以下に掲げるのは,データが得られる48か国について,女性教員輩出度(上記の表の右端)を算出したものです。社会科教員の女性比が,全教員の女性比の何倍か。高い順に並べています。


 女性が,社会科教員にどれほどなりやすいかの指標(measure)です。20の国で1.0を超えていますね。男性よりも女性が,社会科教員になる傾向がある国。首位のニュージーランドは,全教員の女性比率は65.4%ですが,社会科担当教員のそれは72.7%です。

 その対極にあるのは日本で,算出された値は0.618と,48か国の中で最も低くなっています。女性が社会科教員になりにくい国,女子生徒に,政治や経済について説く女性のモデルを見せられない国です。そもそも社会科教員の女性比率が26.1%などというのも,国際標準からすれば異常で,上表の48か国のうち45か国で50%(半数)を越えています。

 こうなるともう,アファマーティブ・アクションの考えのもと,教員採用試験でも,社会科教員への女性の採用者数を意図的に増やす策も必要かもしれません。政治分野でのジェンダー平等を促進するというビジョンにおいてです。

 中高では教科担任制なんですが,各教科について教壇で説く教員の性別構成は,生徒の職業志向に少なからず影響を及ぼす「隠れたカリキュラム」と言えます。最初のグラフで,高校の教科別の教員の性別構成を示しましたが,これが社会の職業構成ときっかり対応してるんですよね。高校生にとって,ロールモデルの影響は大きい。

 ジェンダー不平等の要因はたくさんあり,大きくは社会の文化といった抽象度の高い次元に還元されますが,まずは,政策で変えやすい次元にまで降りてみることです。学校の教員のジェンダーアンバランスはその最たるもので,まずはこの部分から人為的に変えるべきかと思うのですが,どうでしょうか。

 しかし何と言いますか,他国と比較すると,自国の状況が「自然なこと,仕方ないこと」と割り切ってはいけないことが分かりますね。これぞ国際比較の意義で,止めることはできません。

2021年11月26日金曜日

母子世帯の生活保護減少の謎

  生存権の最後の砦の生活保護ですが,時代と共に受給世帯は増えてきています。

 厚労省『被保護者調査』によると,1995年度の受給世帯数(月平均)は約60万世帯でしたが,10年後の2005年度に100万世帯を超え,2014年度には160万世帯に達しました。平成の「失われた20年」にかけて,生活に困窮する世帯が増えたためです。

 しかしそれ以降は横ばいです。コロナ禍の昨年は増えただろうと思われるかもしれませんが,2019年度は162万7724世帯,20年度は162万9522世帯で,ほんの微増にとどまっています。困り果てている人は間違いなく増えているはずですが,生活保護の受給世帯数はほとんど変わっていない。2019年7月から2021年7月までの受給世帯数のグラフ(月単位)を描くと,ほぼ真っ平です。最近の生活保護の機能不全については,先週のニューズウィーク記事で書きました。

 ここで書くのは,その続きです。生活保護を受給している世帯は,類型別にみると,①高齢者世帯,②母子世帯,③障害者・疾病者世帯,④その他の世帯,に分かれます。この4つのタイプごとに保護受給世帯の推移をみると,近年において明らかに減少傾向の世帯があります。母子世帯です。

 1995年度の受給世帯数(月平均)を100とした指数のグラフを描くと,以下のようになります。生活保護受給世帯総数,そのうちの母子世帯のカーブです。母子世帯とは,母親と18歳未満の子からなる世帯をいいます。


 2010年頃までは,ほぼ同じペースで増えていましたが,母子世帯の保護受給世帯は2012年をピークに減少傾向です。2012年度は11万4122世帯でしたが,2020年度は7万5646世帯と,3割以上減じています。2019年度は8万1015世帯だったので,コロナ禍であっても,6.7%減ったことになります。母子世帯だけね。

 コロナでダメージを被ったのは女性です。販売やサービス産業で非正規雇用女性の雇止めが激増し,困窮しているシングルマザーは増えているはず。常識的に考えれば,母子世帯の生活保護受給世帯は増えるはずですが,現実はそうでなく横ばいどころか減少です。減少ペースも,コロナ前と変わっていません。

 そもそも,この10年ほどで全体の傾向と乖離して,母子世帯の保護受給世帯だけが明らかに減少傾向であるのも不可解です。母子世帯をターゲットにして,生活保護の削減が図られているのではないか。京都府の亀岡市では,こういう疑いをもって,市民団体が調査に乗り出すとのことです(京都新聞,10月26日)。ぜひ,真相を明らかにしてほしいと思います。

 母子世帯の生活保護受給世帯が減っている(減らされている?)ことと関連し,提示しておきたいデータがあります。子どもの貧困率が,2人親世帯と1人親世帯でどう違うかです。貧困率とは,年収が全世帯の中央値の半分に満たない世帯が何%かです。

 OECDの「Family Database」から,18歳未満の子がいる世帯の貧困率を,2人親世帯と1人親世帯に分けて知ることができます。以下の表は,日本を含む43の国を高い順に並べたものです。


 日本の子どもの貧困率は,2人親世帯は11.2%ですが,1人親世帯は48.3%と半分近くになります。その差は40ポイント近くで,日本は両者の差が大きい社会です。貧困が1人親世帯に集中する度合いが高い国と言っていいでしょう。

 日本のシングルの親はフルタイム就業がしにくい,賃金が激安(とくに女性),養育費不払い…。1人親世帯の貧困率の高さは,こういう要因によると考えられていますが,知られざる別の可能性も見えてきました。これが,母子世帯への公的扶助を意図的に削減することでもたされているなら,それこそ大問題です。子どもの貧困がつくられていることになります。

 困り果てている人が増えているのに,我が国の生活保護の受給世帯総数は横ばいで(定員制?),母子世帯の限ると明らかな減少傾向がある(狙い撃ち?)。近年の生活保護の運用実態について,外部による厳格な検証が入るべきです。その先陣を切った,京都府亀岡市の市民団体には敬意を表します。

2021年11月4日木曜日

社会に不満だが,政治参画はしたくない

  衆院選が実施されました。投票率は55%で,戦後で3番目に低い低い水準だったそうです。年齢層別のデータはまだ公表されてませんが,前回(2017年)の結果から推測するに,20代は3割ほどでしょう。

 豊かな国・日本では,若者は社会への不満を持ってないのかというと,そんなことはありません。内閣府の『我が国と諸外国の若者の意識調査』(2018年)によると,日本の20代で「自国の社会に不満がある」と答えたのは49.3%と,半分弱います。アメリカの33.5%やイギリスの39.5%よりも,だいぶ高し。

 年功序列の日本では,若者は能力に関係なく低い給与で働かされます。最近ではあまりに安くなっていて,実家を出ることもできぬほど。高齢化の進行で税金もガッポリ取られ,自分たちが高齢期に達した頃には,年金すらもらえない可能性もある。日本のユースが,社会に不満を持つのは道理です。

 こうした状況を変える合法的な手段は政治参画ですが,日本の若者はその意欲も低い。上記の調査によると,日本の20代の53.7%が「主権者として,国の政策決定に参加したくはない」と答えています。アメリカ(23.6%)やイギリス(27.3%)よりも高し。

 社会の不満が高い一方で,政治参画への参加は忌避する。厄介なのは,この2つが重なってしまうことです。こういう若者が,全体の何%いるか。上記調査の個票データを使って,明らかにしてみましょう。個票データは,コチラのページから申請すれば送ってくれます。

 社会への満足度を問うた設問は問25,政策決定への参加希望を問うた設問は問24-2です。日本の20代サンプルを取り出し,この2つの設問への回答をクロスすると,以下のようになります。


 合計680人の未加工データです。この表から,以下の3つの数値が得られます。

 社会への不満がある者の率
 =(208+127)/680=49.3%
 政策決定に参加したくない者の率
 =(210+155)/680=53.7%
 両方に当てはまる者の率
 =(87+44+24+39)/680=28.5%

 社会への不満があるが,政策決定には参加したくない。こういう人が,日本の20代では28.5%(4人に1人)ですか。思う所を書く前に,上記の3グループの量的規模が視覚的に分かるグラフを載せましょう。

 ツイッターでも発信した,正方形の面積図です。日本の特徴を知るため,アメリカの図との対比にします。


 青色が社会に不満,赤色が政治参加忌避の量的規模で,緑色のゾーンが両者の重なりです。社会への不満があるが,政策決定には参加したくない。アメリカの20代では9.6%ですが,日本ではその3倍の28.5%であると。

 内閣府調査の対象は7か国ですが,他国のパーセンテージも示しておきましょう。

 日本=28.5%
 韓国=19.7%
 アメリカ=9.6%
 イギリス=14.6%
 ドイツ=12.2%
 フランス=18.5%
 スウェーデン=17.2%

 日本が最も高くなっています。社会への不満は持ちつつも,それを変える政策決定への参加は欲しない。日本の若者は厳しい状況に置かれていますが,ひたすら現状を耐え忍び,それが限度に達し,自らを殺めてしまう者もいる。日本の20代の死因首位は自殺で,こういう社会は他に類を見ません。

 さらに怖いのは,腹の底の不満(マグマ)が,非合法の方向を向いてしまうことです。暴動やテロなどですが,昨今続発している,若者による無差別刺傷事件をみると,その兆候が感じられます(小田急,京王線事件)。

 図の緑色のゾーンが広まるのは,恐ろしいことだと思います。日本の若者は,なぜ政治参画を欲しないか。よく言われることですが,日本人は幼少期から「出しゃばるな」と,頭を押さえつけられながら育ちます。学校でも校則でがんじがらめで,変に異議を申し立てると碌なことがない。こういう状況が継続することで,「従っていたほうがまし,政は偉い人に任せよう」というメンタルが植え付けられます。

 学校というのは実社会のミニチュアで,日本の学校では児童会・生徒会活動など,民主主義の主権者としての振る舞い方を学ぶカリキュラムも組まれています。こういう場において,校則について協議してもよいでしょう。よくない所は,話し合いで変える。大事なのは,こういう経験をさせることです。校則を,主権者教育の題材として使うことができればしめたもの。

 教科である公民教育の役割も大きい。政治参画によって社会は変えられることを,具体的な事例でもって示す必要があります。政治参画の手段は投票だけでなく,陳情や署名なども含まれ,生徒が馴染んでいるSNSはそのツールとして機能します。SNSに書き込んだ思いが政治家の目にとまり,政策の実現につながった例もあり。案外,生徒はこういうことも知らぬものです。

 社会への不満(思い)を,政治的関心に昇華させる。これができていないのが,日本の若者の特徴といえます。

2021年10月7日木曜日

教員給与の相対水準(2019年)

  戦前の教員養成は,師範学校で行われてました。学費は無償で,生活費も支給。勉強が好きでも,家が貧しくて,旧制中学等の上級学校に進学できない子どもの受け皿として機能していました。

 その上,卒業後の教員就職率はほぼ100%。至れり尽くせりの感があります。

 しかるに,それでも生徒の集まりはよくありませんでした。理由は,教員の待遇がものすごく悪かったからです。私は2012年頃,図書館通いをして,戦前の教員問題の新聞記事を収集していましたが,「食物さへ十分でない」「弁当はパン半巾」「結核死亡率高し」「一家離散」といったタイトルの記事がわんさと出てきました。教員になるのを強いられた青年が自殺する事件も起きていました。

 戦後になっても,本業の給与だけでは食えず,同僚や教え子に見つからぬかとビクビクしながら,靴磨きのバイトに精を出す教員もいました。高度経済成長期でも,民間と比した薄給は明らかで,「デモシカ教師」という言葉が流行ったのはよく知られています。

 これではいけないと,70年代に教員の待遇を改善する法律ができ,状況は次第に改善されてきました。昔のように,絶対的貧困の状況に置かれる教員はいません。ですが,民間と比してどうなのかということは,データであまり明らかにされていません。目下,教員不足を解消するため,教員を魅力ある職業にするという方針が掲げられてますが,給与はどうかというのも無視できぬ要素です。

 教員の給与は,文科省の『学校教員統計』に出ています。最新は2019年ですね。このページの表26から,公立小学校本務教員の平均月収が分かります。諸手当は含まない本俸です。2019年6月の公立小学校男性教員の平均月収は34.9万円です。当然,全国一律ではなく自治体によって違います。元資料には,47都道府県別の数値が出ています。


 東京は33.1万円,私の郷里の鹿児島は37.0万円ですね。大都市より地方が高いことに疑問を持たれるかもしれませんが,これは年齢構成の違いによります。団塊世代の退職により,都市部では若い新採教員が増え,一気に若返っていますからね。平均年齢(見積もり)は,東京は35.9歳,鹿児島は43.5歳なり。

 これを,同年齢の大卒男性労働者の平均月収と比べます。同じく2019年の厚労省『賃金構造基本統計』のデータを使いましょう。公立小学校男性教員の平均月収は34.9万円で,平均年齢は39.7歳(上表)。こちらのページの表1によると,30代後半の大卒男性労働者の所定内月収は37.7万円。小学校教員の月収は,同条件の労働者全体をちょっと下回ります。

 これは全国値に基づく比較ですが,県ごとの比較もしたい。県別の男性労働者の給与は,全学歴のものしか得られません(このページの表1)。そこで,全国値の「大卒/全体」倍率を適用し,各県の大卒男性の給与を推し量ります。30代後半だと,全国の大卒男性の月収は37.7万円,全学歴の男性は32.8万円なんで,倍率は1.147となります。これを,各県の30代後半男性の月収にかけるわけです。

 以下の表は,このやり方で推計した,47都道府県の大卒男性労働者の平均月収です。 


 最初の表によると,東京の公立小学校男性教員の月収は33.1万円で,平均年齢は35.9歳。上記の表によると,東京の30代後半大卒男性の月収は46.3万円。うーん,東京の教員給与は,民間の7割ほどしかないのですね。

 秋田だと,小学校男性教員の月収は39.1万円で,平均年齢は47.4歳(最初の表)。40代後半の大卒男性労働者の月収は36.8万円。秋田では,教員給与が同条件の労働者全体をやや上回ります。

 このやり方で,公立小学校の男性教員の月収を,同条件の労働者全体と比較しました。前者が後者の何倍かという倍率を出し,高い順に並べると以下のようになります。全国値だと,34.9万円/37.7万円=0.925です。


 どうでしょう。最高は岩手の1.16倍,最低は東京の0.715倍です。教員給与が民間を上回るのは倍率が1.0を超える県ですが,その数は13県です(赤色)。青色の14県では,教員給与が民間より10%以上低くなっています。

 ボーナスも含めた年収だと違うかもしれませんが,月収の比較だとこんな感じです。おおよそ,教員給与が民間より高いとは言えなそうですね。

 教員の待遇改善を考えるデータにしていただけたらと思いますが,教員を「魅力ある職業」に映じさせるならば,教員になるための経済的障壁をなくすのも手です。教員養成大学の学費を無償にする,ないしは教員になったら奨学金の返済を免除するなどしたらどうでしょう。

 いずれも,過去において為されていたことです。冒頭で書いたように戦前の師範学校の学費は無償でしたし,90年代初頭までは,教育公務員になったら日本育英会(現・日本学生支援機構)の奨学金の返済は免除されていました。

 全国一律でなくとも,こういう実験をする国立大学が出てきたら面白い。もしかしたら,優秀な学生がどっと押し寄せるかもしれません。わが母校,教員養成の老舗の東京学芸大学が先陣を切ってみたらどうでしょう。

 前に,ニューズウィーク記事で書いたことありますが,日本は,優秀な学生を教員に引き寄せるのに成功しています。労働時間がメチャ長く,給与もさほど高くないのに,これは軌跡と言っていいかもしれません。教員という崇高な仕事への憧れでしょうか。しかし,こういう感情によりかかるやり方は綻びを見せつつあります。

 優秀な若者を教員に引き寄せるにはどうしたらいか。経済的な困窮が広がっている今,行政がやってみるべきことは多そうです。

2021年9月28日火曜日

性犯罪の何%が裁判になるか?

  性犯罪に関する法改正が議論されています。細かい内容は各紙の報道に譲りますが,基底的な問題意識は,性犯罪がきちんと裁かれていないのではないか,ということです。いわゆる「暗数」が非常に多いことも,よく知られています。

 こういう現実を印象や肌感覚ではなく,データで可視化する(固める)のは意義あることでしょう。そこで,タイトルのような問いを立ててみます。性犯罪の何%が裁判になるか?

 犯人を法廷に立たせるには,①警察が被害届を受理して捜査に踏み切ること,②犯人が検挙されること,③検察が起訴すること,という3段階を経ないといけません。この3つの関門を通過する率を出し,かけ合わせることで,上記の問いへの答えが得られます。

 まずは①です。2019年1~2月に法務省が実施した『第5回犯罪被害実態(暗数)調査』によると,16歳以上の女性1771人のうち,過去5年間に性犯罪(強制性交,強制わいせつ)の被害に遭ったという人は30人です。被害経験率は1.69%。

 総務省の『住民基本台帳人口』によると,2019年1月1日時点の16歳以上の女性人口は5701万451人。先ほどの比率をかけると,2014~18年の5年間において,性犯罪の被害に遭った女性は96万5733人と見積もられます。推定被害女性数です。

 警察庁の『犯罪統計書』によると,2014~18年の強制性交,強制わいせつの認知事件数は3万7314件。先ほどの推定被害女性数に占める割合は3.86%です。低いですねえ。被害者の大半は警察に行かず泣き寝入り。勇気を出して訴え出ても,「よくあること,証拠がないので難しい」と突っぱねられることも。

 次に②です。警察が捜査に踏み切った事件のうち,どれほどが犯人検挙に至るか。警察庁の同資料によると,2014~18年の強制性交,強制わいせつの検挙件数は2万6645件です。上述の認知件数で割って,性犯罪の検挙率は71.41%となります。

 最後に③です。検挙された犯人は検察に送られますが,このうちの何%が起訴されるか。法務省の『検察統計』を紐解くと,2014~18年の強制性交,強制わいせつの起訴人員は8861人,不起訴人員は1万3823人です。起訴率は,両者の合算に占める起訴人員の割合で39.06%となります。

 これは,他の罪種に比して低い部類です。性犯罪は物証が得にくいためでしょう。近年,(訳のわからない)無罪判決も相次いでいることから,検察も起訴をためらうようになっているのかもしれません。

 これで,①~③の関門の通過率が得られました。太い赤の数字です。この3つをかけ合わせると,「性犯罪の何%が裁判になるか?」という問いへの答えは,1.08%となります。実際に起きている推定事件数の1.08%,93件に1件しか裁判になっていないと。

 この現実がどういうものかを,グラフで表すと以下のようになります。ちゃんと裁かれる事件はほんの一握り,いや一つまみということが,視覚的に分かりますね。


 これでは法治国家ではなく,放置国家です。法改正により,こうした酷い実態が変わることを切に願います。

2021年9月25日土曜日

普通に働いて,これはない

 秋らしく,少し涼しくなってきました。私は今日,近くの医院で2回目のワクチンを打ってきました。ひとまず,コンプリートです。ワクチン接種証明書ももらえ,地元の提携店で見せると割引を受けられるそうです。ありがたや。

 さて,ふと目にしたNHKのニュースによると,コロナ禍の影響で,フリーランスの働き方を選ぶ人が増えているとのこと。正社員として勤めていた先の仕事が減っているためでしょう。あるいは,自宅でPCを使った副業をしてみて,これは本業でいけるかもしれない,という展望を持った人もいるかもしれません。

 しかし,そうは甘くないのが現実。フリーランスのフリーは自由,ランスは兵隊という意味で,元々の意味は「自由兵」ですが,フリーとは「不利ー」で,何の保障もない「不利兵」と揶揄する言い方もあります。上記のNHK記事でも,フリーランスの保護するセーフティネットの整備が不可欠と指摘されています。

 給与も悲惨をきわめています。データで示しましょう。

 資料は,毎度使っている『就業構造基本調査』(2017年)です。コチラの統計表から,有業者の年間所得分布を従業地位別に呼び出せます。正規雇用者,非正規雇用者,そしてフリーランスのデータを出してみます。フリーランスとは,従業地位が「雇人のいない業主」のことです。

 なお労働時間も入れられますので,普通に働く人だけを取り出してみましょう。年間の就業日数が250~299日,週の就業時間が43~48時間という人に限定します。月に22日,1日あたり8~9時間ほど働いている人達です。あと一つ,性別も組み込み,男性と女性に分けます。言わずもがな,稼ぎには大きな性差があるからです。


 全体を100とした%値ですが,どうでしょう。赤字は最頻階級で,男性正規は300万円台,非正規・フリーは200万円台,女性正規は200万円台,非正規は100万円台,フリーは100万円未満です。

 これは,家計補助やお小遣い稼ぎの短時間労働は含んでいません。月22日,1日8~9時間ほど働いているフルタイム就業者のデータです。それでこの有様とは,少ないなあという印象です。最近よく言われる「安いニッポン」が数字で出ています。

 フリーランスをみると,男性の31.6%,女性の72.4%が200万円に達しないプア,フルタイム・ワーキングプアです。フリーランスは労働時間の際限がなくなりがちで,かつ給与の未払いなども横行しています。こういう搾取に遭いやすいのは,とりわけ女性のフリーランスです。

 上記の分布から中央値(median)を計算してみましょうか。本ブログを長くご覧の方は,分布から中央値を出すやり方はご存知かと思いますが,久しぶりですので,算出方法を説明します。男性のフリーランスを例にします。


 真ん中の%分布は,最初の表と同じです。右端はそれを累積したもので,中央値(累積%=50)は,所得200万円台の階級に含まれることが分かります。按分比例を使って,それを割り出します。以下の2ステップです。

 按分比=(50.0-31.6)/(56.3-31.6)=0.7437
 中央値=200万円+(100万円×0.7437)=274.4万円

 フルタイムで働く男性フリーランスの所得中央値は,274万円と出ました。同じやり方で,他のグループの所得中央値を算出すると以下のようになります。

 男性正規 = 420.3万円
 男性非正規 = 259.5万円
 男性フリーランス = 274.4万円

 女性正規 = 297.1万円
 女性非正規 = 204.1万円
 女性フリーランス = 137.7万円

 日本において,普通に働く労働者の年間所得中央値です。「1日8~9時間働いて,これはないやろ」って感じです。

 言い忘れましたが,『就業構造基本調査』の用語解説によると,年間所得は税引き前のだそうです。つまり手取りの額はこれよりもっと少ないことになります。開いた口がふさがりません。

 これでいて,税金や住居費(家賃)等の基礎生活費は増えているのですから,国民の生活は実に苦しい。私自身,何の後ろ盾もないフリーランスの働き方をしてますが,身をもって感じます。国保なんかは本当に重いです。会社員の方には分からんでしょうね。

 その一方で,企業の内部留保は過去最高と聞きます。某企業の社長さんが言われてますが,こういう時期こそ,内部留保を取り崩し,従業員に還元すべし。ここまで給与が安いと,国民の購買力が下がり,モノが売れなくなります。海外からも労働力が来なくなります。商品を売る,必要な労働力を確保する,この2つの面において,痛手を被ることになります。要するに,自分たちに返ってくるのです。

 普通に働けば普通の暮らしができる社会を。もっと具体的に言えば,「1日8時間の労働で,普通の暮らしができる社会」が望まれます。選挙の公約でよく聞きますが,日本の現状は程遠く,時代と共に遠ざかってすらいます。

 この秋,衆院選が実施されますが,この基本がマニフェストに盛られているか。私が真っ先に注目するのはココです。

2021年9月1日水曜日

家庭の通信環境の不足

  久々の更新になります。9月になり,急に涼しくなりました。今後の週間予報をみても,30度を超える真夏日にバックすることはなさそうです(横須賀市)。初秋です。

 今年4月実施の『全国学力・学習状況調査』の結果が公表されました。去年はコロナの影響で中止でしたが,今年は実施されたようです。詳細な資料は,国立教育政策研究所のホームページで見れます。

 例年通り,新聞では平均正答率の都道府県順位に注目されてますが,私はあまり興味を持ちません。教科の学力調査の他に,児童生徒や学校を対象とした質問紙調査も実施されていて,こちらのほうに興味深い設問が盛られています。昨年4月以降,コロナ禍にどう対処したか,どういう教育活動を行ったかなどです。感染症拡大のような異常事態が起き,学校はどうなったか,どういう課題が浮き出てきたか。大事なのは,この経験データ(fact)をちゃんと総括することです。

 周知のとおり,昨年は全国の学校が臨時休校を迫られました。それに伴い,オンライン授業などが導入されたのですが,なかなか一筋縄ではいかなかったようです。円滑な実施を妨げたのは,十分な通信環境がない家庭が少なくないこと。これを受け,今年の質問紙調査(学校対象)では,2020年4月以降のコロナに伴う臨時休校中,家庭でのICT学習に際して,課題となったことを問うています。

 ①家庭の端末(PC等)が不足,②家庭の周辺機器(ウェブカメラ等)が不足,③家庭の通信環境(無線LAN等)が不足,ということが,オンライン教育の足かせになった学校はどれほどか。小学校の回答分布を図示すると,以下のようになります。


 公立,国立,私立に分けて分布を示しました。量的に圧倒的に多い公立をみると,支障として「当てはまる」と答えた学校の率(赤色)は,家庭の端末の不足が48.0%,家庭の周辺機器の不足が52.0%,家庭の通信環境の不足が41.5%,となっています。

 なるほど,メディアで報じられた通り,PCがない,ウェブカメラがない,Wi-fiがない家庭が多く,困り果てたという学校が多いようです。義務教育の公立小学校には,社会の全ての階層の子どもが通っていますが,赤色が半分近くまで垂れている様に,子どもの貧困の広がりが出ているようです。

 しかし,ごく限られた階層(約1%)の子弟が通う国私立小となると,様相は違っていて,家庭の端末・機器・通信環境の不足がネックになったという学校は,公立と比して少なくなっています。身もふたもないですが,通っている児童の階層構成の違いが出ていますね。ホンマもんのICT格差です。とはいえ,私立といえど,「当てはまる」ないしは「やや当てはまる」と答えた学校の率は小さくはないですが。

 いわずもがな,小学生の99%は公立の児童ですので,深めたいのは公立校のデータです。上図は全国の結果ですが,地域による違いもあります。家庭の端末不足,機器不足,通信環境不足が支障になった学校のパーセンテージを,47都道府県別に出してみると,これがまた一様でない。以下に載せるのは,「当てはまる」と答えた公立小学校の割合の一覧です。高い順に並べています。


 どうでしょう。端末の不足がネックになった学校の率は66.3%~33.9%,機器の不足は70.8%~38.9%,通信環境の不足は65.8%~23.3%のレインヂがあります。

 50%超の数字には色をつけましたが,情報機器の不足で困ったという学校が半分を超える県は35県にもなります。Webカメラとかは高価ですからね。これがないという家庭は少なくないでしょう。経済的に余裕のない家庭は,たやすく持てるものではありますまい。

 児童の家庭のリソース不足がネックになった学校の率は,地方で高く,都市県で低い傾向もあります。3つの肯定率とも,各県の県民所得と有意なマイナスの相関係数が出ます。県単位のデータから演繹するのは難しいですが,子どもの貧困が影を落としている可能性もあるでしょう。東京都内の区別のデータが出せれば,もっとはっきりしたことが言えそうですが,私の手では叶いません。個票データが手元にあるお偉いさん,ぜひ分析してみてください。貧困世帯へのICT支援の必要性を支持する,揺るぎないエビデンスになります。

 地方の郡部では,ウェブカメラ等の機器の普及率も低そうです。しかし,こうした機器を必要としているのは,田舎の子どもたちです。空間を越えた遠隔教育の行う上で必須のアイテムです。前から言ってますが,とくにへき地にあっては必須の学用品と捉え,用意できない家庭には,就学援助の範疇で支給ないしは貸与すべきかと思います。文科省も認識してきるようで,援助費目として「オンライン学習費」が加えられてはいますが。

 コロナ禍によって,教育の情報化を進める上での課題がくっきりと浮かび上がりました。家庭のリソース不足はその最たるもの。「1人1台端末」のGIGAスクール構想など手は打たれていますが,令和の時代の学校教育を国際水準にキャッチアップさせていくには,人為的な支テコ入れをもっとしないとなりますまい。

2021年7月27日火曜日

悩みを相談しない

  夏も本場,学校も夏休みに入ったみたいで,登下校の小学生とすれ違うこともなくなりました。

 夏休みといえば「宿題」ですが,私も,ここ毎日「宿題」をやっている感覚です。社会科の教員採用試験の要点整理集の改訂で,あとちょっとで世界史が終わるところです。カレンダーに予定を書き込んで,そのペースに沿ってやっています。私は,物事を計画的に仕上げていくのは性に合っています。

 朝から夕刻まで,この宿題の日々で,ツイッターやブログの更新が少なくなってますが,ツイッターに上げた図表のネタを書いておきましょう。タイトルのごとく,悩みを相談しない日本の若者についてです

 コロナ禍で辛い日々が続いてますが,困りごとや悩みは相談することが大切。自分で抱え込み,先行きを勝手にシュミレートして,自分と対話しても碌な答えは出てきません。客観的(楽観的)な見方ができる他人に,きちんと言語化してはき出すこと。これに尽きます。

 ところがデータで見ると,日本の子ども・若者には,これをしない人が多い。2018年の内閣府の国際意識調査で,13~29歳の子ども・若者に対し,「悩みがあっても,誰にも相談しない」という項目に,当てはまるか否かを問うています。「はい」と答えた人の率をグラフにすると以下のごとし。男性と女性に分け,年齢層ごとのパーセンテージをつないだものです。


 日本の折れ線(赤色)は,他国より高い位置にあります。とくに男性は顕著です。悩みがあっても,人に相談しない人の率が高くなっています。20代後半の男性は33%,女性は21%です。

 前にデータを出しましたが,「人に迷惑をかけるな」と言い聞かされて育ってますからね。とくに男子は,「弱音を吐くべからず」という有形・無形の圧力を感じ取っているのでしょう。

 こういう国民性を意識してか,政府の『自殺対策白書』では,学校において「SOSの出し方教育」を行うことを推奨しています。困った時は遠慮せずSOSを出しなさい,一人で抱え込んではいけません,ということです。

 自己責任論や根性論にとらわれて,SOSを出せない子どものメンタルもほぐさないといけませんが,同時に,「SOSの受け止め方」も問わねばなりますまい。当の子どもは,相談したところで説教をされるだけ,事態がかえって悪化するだけと思っているのかもしれません。

 子どもの場合,悩みの相談相手としては,親や教師が想起されますが,日本の10代に「悩みを誰に相談するか」を問うと,これらを選ぶ子の率は低くなっています。代わりに高いのは…? 以下のグラフを見てください。


 日本の子は,友人に相談するという回答の率が他国と比して高くなっています。言い方がキツイですが,親や教師はあまり頼りにされていないのかもしれません。「親や先生に相談したって…」と思っているのかもしれないですね。

 文科省の自殺対策の手引では,悩みの相談相手として友人が多きな位置を占めることを認識し,悩みをしっかり受け止める「傾聴」の仕方を生徒に教えるべき,と指摘しています。結構なことですが,教師や親にも手ほどきが要るのではないでしょうか。子どもが相談してきた時,話を決して遮ったりせず,まずはじっくりと聞くことです。

 来年度から成年年齢が18歳に下げられることに伴い,消費者被害の増加も懸念されます。今以上に,ためらうことなく悩みを相談できる環境をつくらないといけません。責任,自由に加えて支援の3点を。

 「悩み上がっても,誰にも相談しない」。こういう傾向を,国民性や文化(これとても,上の世代が下の世代に植え付けているのですが)のせいだけにせず,子どもを取り巻く周囲の「SOSの受け止め方,気付き方」の問題ともみるべきでしょう。

2021年7月16日金曜日

県庁所在地の基礎生活費

  日経新聞WEB版に「地方移住,こんなはずでは,増える支出に落とし穴」という記事が出ています。内容は推して知るべし。生活費が安くなるからと移住したもの,光熱・水道費や自動車関連費がかさんで,かえって支出が増えてしまった,という体験談です。

 そうですねえ。東京からの移住の場合,住居費は確実に安くなるでしょうが,光熱・水道費は上がりそうです。田舎はプロパンガスが多いですが,都市ガスより高いですからね。水道も,維持費の関係で田舎では割高です。自動車の費用は言うまでもません。公共交通網が発達している東京と違って,地方では車は必須です。維持費がバカになりません。

 データで総決算の比較をすると,どうなるでしょう。『家計調査』に,2人以上世帯の年間支出額平均が47都道府県の県庁所在地別に出ています。2020年のデータは,コチラの統計表です。私は,①住居費,②光熱・水道費,③鉄道・バス費,④自動車関連費の4つを,各県の県庁所在地別に呼び出しました。③を入れたのは,都市部では自動車は要らずとも,公共痛交通機関の費用が要ると考えるからです。

 手始めに,東京23区と,私の郷里の鹿児島市を比べてみましょうか。背比べの積み上げグラフにすると以下のごとし。


 住居費は鹿児島市が安いですが,自動車関連費用がかかります。しかしトータルでみると,鹿児島市の方が安いですね。上記は2人以上世帯の年間支出額ですが,平均世帯人員は東京23区が2.97人,鹿児島市が2.92人ですので,家族サイズを考慮しても鹿児島市のほうが割安です。

 郷里をひいきするのではないですが,きたれ,鹿児島へ。生活費が安いのに加え,食べ物も美味い!

 しかし47都道府県の県庁所在地のデータを眺めると,東京区部より割高なエリアも見受けられます。以下は一覧表です。


 黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。住居費は東京がマックスですね。光熱・水道費は寒い北国で高くなっています。鉄道・バス費は都市部で高く,自動車関連費はその逆です。

 47都道府県の県庁所在地の基礎生活費は,4つの費目の合算を平均世帯人員で割った値で測れます。東京区部は,4つの費目の合算は81.25万円で,世帯人員は2.97人ですので,1人あたりの基礎生活費は27.36万円となります。鹿児島市は24.62万円です。

 47都道府県の県庁所在地の数値を,高い順に並べると以下のようになります。


 東京がマックスではないですね。上位というのでもなく,中よりちょっと上という位置です。首位は住居費と自動車費がともに高い福岡市で,その次は鳥取市です。鳥取市では車関連の支出が多い(年額55.8万円)。

 右下をみると,関西圏では基礎生活費が安上がりですね。京都市は19.14万円で,福岡市の半分くらいです。学生の街ですが,これは2人以上世帯のデータに基づく数値なんで,単身学生は除外されています。

 冒頭の日経新聞でも言われてますが,移住しようとしているエリアのデータを調べてみるのもいいでしょう。

 地方の郡部では,光熱・水道費や自動車費がもっと高くなると思われます。随所で言われていますが,移住はまず地方都市からで,それを経てから郡部に移るという2ステップを踏んだほうがよさそうです。郡部には「濃すぎる人間関係」という,別のコストもありそうですしね。

 『家計調査』からササっとこしらえたデータですが,生活費が「都市>地方」とは単純には言えないようです。

2021年7月9日金曜日

洋服への支出減少

  コロナが渦巻いて久しいですが,それが社会にどういう影響を与えたか,可視化できるデータが溜まってきています。

 私はこれまで,社会病理学を専攻する立場から自殺者数に注目してきました。コロナ前の2019年と2020年を比較すると自殺者は増えています。性別にみると,男性では微減ですが,女性では増加です。さらに年齢も加えると,若い女性で増加率が高くなってます。女子高生では1.8倍です。データと背景の考察はコチラの記事で。

 なお,総務省の『家計調査』も使えます。お金をどれほど使っているか,どういう品目に使っているかです。コロナになってから外出自粛が要請されるようになり,経済停止により家計も厳しくなっているとみられます。こういう条件が出てくると,家計はどう変わるか。

 まずは使うお金の額です。上記の資料によると,2人以上世帯の消費支出額(年間平均)は,2019年は352万547円,2020年は333万5114円となっています。コロナ禍になってから減ってますね。しかし観察のスパンをもっと広げると,今世紀初頭の2000年では380万7937円です。平成不況で収入が減っているためか,消費に使うお金も長いスパンでみて減ってきています。世帯の高齢化の要因もあるでしょうが。

 中学の社会科で習うレベルですが,生活が苦しくなると必須度の高い品目への支出は維持ないしは増える一方で,そうではない品目(奢侈品)への支出は減ります。前者の代表格は食費で,後者としては,たとえば洋服なんかはどうでしょう。

 トータルの消費支出額,食費,および洋服の支出額の変化をグラフにしてみます。2人以上世帯の年額平均で,始点の2000年を100とした指数にしています。コチラの統計表からデータを作成しました。

 今世紀になって,新自由主義政策の影響もあってか国民の生活は苦しくなり,それゆえ消費支出額は減っています。2019年から2020年の減り幅が大きく,コロナの影響も出ています。具体的な額は上述の通りです。

 食費はというと,こちらは増えていますね。消費支出全体に占める割合(エンゲル係数)もアップしており,消費が必須品に偏るようになっている,すなわち生活が苦しくなっていることが,この点からも汲み取れます。

 さてあと一つの洋服への支出額ですが,こちらは消費支出全体よりも速いスピードで減少しており,コロナの影響もよりハッキリ出ています。2000年では8万243円でしたが,2019年は5万9473円,2020年は4万3886円です。

 洋服は,外界の温度変化(暑さ,寒さ)への適応という機能もありますが,おしゃれや見栄のツールとしての機能もあり,時代につれてこちらが強くなってきています。収入が減り,かつコロナで人と会えなくなっているとなったら,この財への支出が減るというのは道理です。

 生活が苦しくなったらどうなるか? この20年間の変化ですが,教科書セオリーがはっきり可視化されるものですね。中学の社会科の資料集にでも載せていただきたいグラフです。

 洋服への支出額ですが,47都道府県別の変化も見ておきましょう。県別のデータは2007年からとれます。2007年と2020年の県別データを高い順に並べ,左右に並べてみます。県別のデータも,上記リンク先の統計表で得られます。


 若者が多い都市部で高い傾向かなと思いますが,最低値は両年とも沖縄ですね。年中暖かく,軽装だからでしょうか。

 ご自分の県の値をみていただければと思いますが,注目いただきたいのは表の色つき範囲です(薄い色は5万円台,濃い色は6万円以上)。2007年ではほとんどの県が5万円以上で,36の県で6万円を超えていました。それが2020年では,5万以上が11県,6万以上は3県しかありません。

 上記のデータは地図化してツイッターにあげています。コメントにもありますが,こういうマップも,国全体が貧しくなっていることの可視化です。洋服を買う量が減っているのか,それとも安いやつで済ませているのか,そこまでは判別できません。

 あと一つのデータを示しましょう。洋服といってもいろいろありますが,中でも減り幅が大きいのは,スーツ関連です。背広,ワイシャツ,ネクタイへの年間支出額はどう変わったか。最初のグラフと同じく,2000年の値を100とした指数のグラフにします。


 すごい減りっぷりですね。ネクタイに至っては,この20年間で8割の減少です(1595円→307円)。クールビズとやらで,夏場,ネクタイをする頻度が減っているのもあるでしょう。

 収入の減少で,以前は老舗で高級品を買っていたのが,最近は安いやつで済ませるようになっているのもあるでしょうが,働き方の変化も大きいでしょう。今はオフィスでもカジュアル化が進んでますし,雇用労働自体が減ってきています。

 お金の使い方の変化にも,時代の変化がハッキリ表れるものです。

2021年7月6日火曜日

非正規公務員の悲惨

 今年は梅雨入りが遅く,7月になっても雨の日が続いています。蒸しますが,いかがお過ごしでしょうか。

 昨日,「非正規公務員の過半数が年収200万未満」という記事(NHKサイト)を見かけました。ある団体による大規模調査の結果です(1252人が回答)。それによると,661人(52.8%)が年収200万未満と回答したとのこと。働く貧困層,それも「官」の世界で働く,いわゆる官製ワーキングプアです。

 今や「官」の世界も非正規化が進んでおり,非正規の比重は小さくありません。生活苦や正規との格差への不満を訴える声が看過できなくなり,大規模調査に踏み切った,ということでしょうか。改革を促す貴重なデータであると思います。

 なお公務員の収入は,官庁統計でも分かります。毎度使っている『就業構造基本調査』です。有業者の年間所得分布を,産業分類別に知ることができます。コチラの統計表です(2017年)。

 「公務」というカテゴリーの有業者を取り出し,正規雇用と非正規雇用に分けて,年間所得の分布をとってみます。ジェンダー差もみるため,性別も入れましょう。母数は男性正規が154万人,女性正規が42万人,男性非正規が11万人,女性非正規が27万人です。


 左は正規,右は非正規ですが,分布の違いが明瞭です。正規では所得200万未満はほんのわずかですが,非正規では大半です。男性では56.0%,女性では76.7%です。上記の団体の調査で男女込みで52.8%とのことですが,官庁統計の数値はそれよりも高くなっています。

 上表の公務員とは産業分類が「公務」の人で,教員,警察官,図書館司書,児童福祉士などは入っていません。多くが役所の職員かと思いますが,こういうフツーの公務員に限ると,非正規のプア化の状況がハッキリと出ます。

 上記の分布から中央値(median)を計算すると,男性正規が588万円,女性正規が467万円,男性非正規が186万円,女性非正規が137万円となります。ちょうど真ん中の人たちですが,非正規は男女とも200万円に届きません。

 地域別にみると,もっと悲惨な値も出てきます。上記でリンクをはった統計表では,「地域」という変数もあります。これを入れれば,47都道府県別に,非正規公務員の所得分布を呼び出せます。それをもとに,各県の非正規公務員の所得中央値を算出してみました。

 県別にバラすと人数が少なくなるので,男女込みにしています。まあ非正規公務員では女性が多いので,ほぼ女性の傾向を反映していると読んでいいかと思います。下表は,高い順に並べたものです。


 どの県も200万円に及びません。それどころか,150万円にも届かない県が多数です(色付き)。全国値は149万円。濃い色は140万円未満で,最下位の鹿児島では114.8万円です。私の郷里ですが,生活が成り立つレベルではないですね。

 上の表から,全国どこにおいても,非正規公務員はプアであることが分かります。

 非正規公務員は女性が多く,夫の扶養内で就業調整してる人がたくさんいるんじゃないの,という疑問もあるでしょうか。別の統計表にて,公務員の週間就業時間の分布をとってみると,そうでもないようです。


 就業時間が分かる公務員のデータですが,正規も非正規も,最頻階級は35~42時間ですね。非正規も,フルタイム就業の人が最も多くなっています。35時間以上のフルタイム就業の割合は全体の35.6%,3人に1人です。

 お店のパートとは違い,公務員となると,非正規もそこそこ労働時間が長いことが知られます。専門的な業務も多く,無給の残業をしている非正規の人もいるのではないでしょうか。にもかかわらず,年間所得は先ほどみたように200万,地域によっては150万にも達しません。ブラック労働撲滅の旗振りをする「官」の世界でこうであるとは,開いた口がふさがりません。

 冒頭のNHK記事によると,役所の非正規職員は,今では会計年度任用職員というみたいです。ボーナスも支給されるなど待遇改善もされているようですが,まだまだ不十分であることは政府も認めています。

 フレキシブルな働き方が求められる中,非正規雇用者の待遇改善は急務。いや,そもそも「正規・非正規」なんていう区分が他国に例を見ないおかしなものであって,職務内容や労働時間に依拠して給与が決まる,素直なシステムに変革すべきです。それと最も隔たってるのが「官」の世界であるとは,何とも皮肉なこと。

 改革が必要なのは,データでも明らかです。

2021年6月16日水曜日

男性の育児休業

  育児・介護休業法が改正され,男性の育休取得が後押しされることになりました。制度の細かい変更事項については,厚労省のホームページに譲りましょう。

 こういう法改正は,世の中の声(世論)に押されてのことであるのは,疑いようがありません。それほどまでに,日本のパパの育休取得状況は酷い。育休取得を申し出た男性社員に対し,「男が育休だと?ふざけんな」という怒号が全国の会社で飛び交っています。

 いわゆる会社(上司)の無理解ですが,これを正さない限り,法を変えても,男性の育休取得促進は難しいのでは,という懸念も出ています。私もそう思いますが,男性の育休取得を阻んでいる要因としては,もっと大きなものがあります。

 それは後述するとして,まずは男性の育休取得の実態をデータで可視化しましょう。ここでお出しするデータの特徴は,他国と比較することです。

 内閣府の『少子化社会に関する国際意識調査』(2020年度)では,20~40代の子持ちの有配偶男性に対し「直近の子が生まれた時,出産・育児に関する休暇をとったか」,同じ条件の女性に対し「直近の子が生まれた時,あなたの配偶者は出産・育児に関する休暇をとったか」と問うています。「とった」と答えた人に対しては,その期間も尋ねています。

 日本のデータをみると,「とった」と答えた人の割合は17.9%で,取得した休暇の期間は「2週間未満」が82.3%と大半で,「6か月以上」という長期は6.2%しかいません。

 育休とりましたか? とった人はその期間を答えてください。二段階(枝分かれ)設問ですが,上記の結果をグラフでどう表現したものでしょう。できれば一つで視覚化したい。対象者全体を正方形に見立て,横軸で育休の取得の有無(とった,とらなかった),縦軸で育休期間を示しましょう。

 以下は,調査対象の4国の結果を,この方式で図示したものです。


 どうでしょう。横軸をみると,日本のパパの育休取得率が低いことが知られます。上述のように日本は17.9%ですが,フランスは58.6%,ドイツは63.0%,スウェーデンに至っては86.7%です。すごい違いですね。

 次に縦軸を見ると,日本の育休期間は2週間未満が多くを占めますが,他国はもっと長く,スウェーデンでは半分近くが半年以上の長期です。これも「!」ですね。グラフで見ると,日本の情けなさが露わになります。「こんなだから,日本は少子化が進むんでねえの」という声が聞こえてきそうです。

 はて,どうしてこんな状況になっているのか。育休をとらなかった男性,夫が育休をとらなかった女性にその理由を複数回答で訊いた結果をみると,日本では,1位が「業務が繁忙で休めなかった」(39.4%),2位が「出産・育児の休暇制度がなかった」(37.4%),3位が「休むことによる減収が怖かった」(26.2%)です。上司の無理解より,こうした理由が大きくなっています。

 2番目は何なんでしょう。「育休の制度がない」って,法律では規定されていることなんですが。おそらく自分の勤務先の会社にない,就業規則に書いてない,ないしは育休取得を申し出たところ「そんな制度はウチにはない」「法律の育児休業は大企業に適用されるもので,ウチみたいな零細企業にはない」とか言われたのでしょうか。

 こんな思い込みを持たされているとしたら恐ろしい。法で定められている育児休業は,全ての労働者に適用されるものです。人が属する集団(社会)にはレベルがありますが,全体社会のきまり(法律)よりも,自分が属する小社会(会社)の決まりが優先されると思っているのでしょうか。

 所属集団の流動性が低い日本では,こういう思い込みが蔓延っています。ウチ社会とソト社会の敷居が高いことに由来する,と言ってもいいでしょう。たとえば学校での教師の暴力(体罰)は等閑視されますが,一般社会の刑法に即せば立派な暴行罪(傷害罪)です。学校の外で子どもを叩いたら即110番。しかし学校という部分社会の内部では,全体社会のきまり(法)は適用されない。こういう治外法権の小社会では,世間一般の感覚では理解しがたい「ブラック校則」も幅を利かせています。

 ウチの会社には育休制度なんてない。こういう思い込み(刷り込み)は,子どもの頃より,世間ずれした学校での決まり(校則)を絶対視するよう強いられてきたことによるかもしれませんね。

 しかし状況は変わってきていて,文科省がブラック校則を見直すよう通知を出しましたし,学校での教師の体罰も警察沙汰になるようになってきました。ウチ社会とソト社会の敷居も崩れつつあります。これが進み,労働者が冷静・適正な判断ができるよう願ってやみません。

2021年5月31日月曜日

じょうごグラフ

 知られざること,ないしは誰もが肌で感じていることをデータで可視化して示すのが,私の商売です。同時に可視化の方法,データの表現技法にも気を配るようにしています。

 エクセルに「じょうごグラフ」というツールがあります。横方向の棒(バー)で量を表現するのですが,通常の棒グラフと違うのは,バーがセンタリングされていることです。グラフの様が,大きい口から小さい口へと液体を流し込む「漏斗」に似ていることから,じょうごグラフと言われます。

 今や広く知られているデータも,このグラフで表現してみると結構インパクトがあります。たとえば,人口の年齢構成です。


 左は『国勢調査』の初年の1920(大正9)年,右は将来推計がとれる最も遠い年次の2065年のデータです。140年の隔たりがありますが,人口の年齢構成の変化はあまりにも大きい。1920年では0~4歳が最多でしたが,2065年では一番上の85歳以上が最も多くなっています。双方とも13%ほどで,人口ピラミッドの型がひっくり返っていることが知られます。

 その人口ピラミッドを,じょうごグラフで表現してみます。2つの年次の年齢%をじょうごグラフにして,重ね合わせます


 下が厚く上が細いピラミッド型から,その反対の逆ピラミッド型に変わります。グラフをセパレートではなく,重ねてみるとインパクトありますねえ。

 2065年といったら,今から44年後,私は90歳近くになっています(そんなに生きてないでしょうが)。人口の4人に1人が,今でいう75歳以上の後期高齢者。ドローンが空を飛び,AIロボットが闊歩し,外国人も街に溢れ返っていることでしょう。

 あと一つ,労働者の年間所得分布を同じ図法で表してみると面白い。1000人以上の大企業に勤務している従業員のデータです。男性と女性に分けると,分布にものすごい差があります。男性にあっては23%が所得800万以上ですが,女性はたった1.7%です。その代わり女性では,所得200万未満が53%と半分以上を占めます。同じ大企業なのに,とてつもない差です。

 男女の所得分布(%値換算)を,上記と同じ「じょうごグラフ」で表現し,重ねてみると以下のようになります。


 何も言いますまい。「搾取」という語が真っ先に浮かびます。大企業の利潤は,女性の安い労働力に支えられていると。

 人口の年齢ピラミッド,労働者の所得ピラミッド…。普通は,ヨコの棒グラフでヒストグラム形式で表すのですが,じょうごグラフというニュータイプのグラフを使うと,インパクトあるものに仕上がりますね。

 今後もいろいろ試行錯誤を重ね,表現技法のバリエーションを増やしていこうと思います。

2021年5月23日日曜日

大卒者の出身県定着率

  大学進学率は時代と共に高まり,今では同世代を半分(50%)を超えます。地域格差は大きいものの,地方でも進学率は高まってきています。47都道府県の大学進学率は本ブログで毎年出しています。2020年版は,コチラの記事をご覧ください。

 さて,地方の親の関心事は,都会の大学に出したわが子が帰ってきてくれるかです。行政にしても,東京や大阪の有力大学に進学した生徒が,将来地元に帰ってきて,地域の発展に尽くしてくれるかは,大いに関心があるところでしょう。

 私は鹿児島県の出身で,高3のクラスの半分以上が県外の大学に進学したと記憶してますが,どれくらい戻ってきているのでしょう。私みたいに帰ってない者もいれば,今や県庁の管理職になって,郷土にバリバリ尽くしている人もいます。たとえば,バスケ部のキャプテンだったUくん・・・。

 2017年の総務省『就業構造基本調査』によると,同年10月時点において,鹿児島県に住んでいる大学・大学院卒の40代前半男性は1万5700人です(★コチラの統計表)。

 2017年の40~44歳というと,私の世代ですが,1992~96年に大学に進学にした世代です。鹿児島県の高校出身の大学入学者(男子)は,1992年春が4270人,93年春が4519人,94年春が4219人,95年春が4375人,96年春が4467人となっています。(文科省『学校基本調査』)。5年間の合算は2万1850人ですね。上の世代の入学者(浪人経由者)も含んでますが,当該世代からも同数の浪人経由者が出ると仮定しましょう。

 この世代の鹿児島出身男子からは,高卒時に2万1850人(a)の大学進学者が出ているのですが,40代前半になった2017年時点で,同県に住んでいる大卒男性は1万5700人(b)です。2つの数値に隔たりがあるのは,都会の大学に進学したが戻っていない,ないしは地元の大学(鹿児島大など)を出た後,他県に就職したという人がいるためです。

 大卒者のどれほどが地元に定着しているか? この度合いは,上記のbをaで割って出すことができます。%にすると71.9%ですね。当該世代の大卒者の自県定着率と呼んでおきましょう。鹿児島県の私の世代の男子だと,こんな感じです。

 東京だと,92~96年の都内高校出身の男子大学入学者は19万4655人,2017年の都内在住の40~44歳男性の大学・大学院卒者は29万9400人です。他県から都内の大学に進学してくること,他県からの大卒者が就職時にどっと流れ込んでくることから,大卒者の量はうんと膨れ上がります。

 私は同じやり方で,各県出身の大卒者の自県定着率を計算してみました。47都道府県について,私の世代の男子と女子の数値をはじき出しました。結果の一覧は以下です。


 2017年の40~44歳,すなわち私の世代の試算値です。高卒時(1992~96年)の各県出身の大学進学者数と対比して出した結果です。

 都市部では膨らんで,地方では萎むというのが道理です。しかしその程度は,県によってまちまちです。大卒者の自県定着率が60%未満の数値に,青色のマークをしました。定着率が最も低いのは,男性は長崎の50.8%,女性は秋田で49.9%ですね。

 都会の大学に行った人が戻ってこない,自県の大卒者が県外就職してしまう。このどっちが大きいのかは分かりませぬが,自県出身の大卒者の半分ほどしか県内にとどまっていないというのは,才能の流出が大きいのだなと思わされます。大卒者の受け皿がない,という事情があってもです。

 性差をみると,「男性<女性」の県が多くなっています。女性の場合,自県大学進学率,自県内就職率が高いためでしょう。しかしその反対の県もあり,私の郷里の鹿児島をみると,男性が71.9%,女性が55.2%と,「男性>女性」の度合いが最も大きくなっています。大卒者の自県定着率,男性と女性の差が大きいのですねえ。

 都会の大学を出た女子は帰ってきづらいのか,県内の大学を出た女子が出て行ってしまうのか。大卒の女性への眼差しについて,ニューズウィーク日本版に試論を載せましたので,リンクをはっておきましょう。

 各県出身の大卒者のどれほどが,40代になって自県に住んでいるか。試算値の提示です。

2021年5月16日日曜日

政令市格差

  前に何かの記事で,「ヨコハマ格差」という言葉を目にしたことがあります。横浜市内の区別の平均年収を提示してです。

 横浜市は国内最大の政令市で,面積も三浦半島全体より広し。この大都市を一括りにして論じるのは,いかにもおかしい。横浜市内には18の区がありますが,世帯の年収を区ごとに出してみるとかなりの差があります。

 県よりも下った細かい地域レベルの世帯年収は,総務省の『住宅土地統計』で知れます。★コチラの統計表では,9区分による世帯年収分布が明らかにできます(2018年)。私は横浜市内の普通世帯(主世帯)の年収分布中央値を区別に計算し,昨日,ツイッターで発信しました。

 大都市内部の格差は興味深いということで,多くの方が見てくださり,「他に見てみたい政令市はあるか?」と問うたところ,名古屋市,仙台市,大阪市など,多くのリクエストが寄せられました。この記事にて,まとめてお答えいたしましょう。

 私は国内の21の政令市について,普通世帯の年収分布の中央値を区別に計算しました。元の資料は,上記リンク先の統計表です。度数分布から中央値を出すやり方については,本ブログで何度も説明していますので,ここでは触れません。

 まずは,全体の構造を俯瞰できる図をご覧いただきましょう。各政令市の区別の世帯年収中央値を,縦軸の目盛りに沿って位置付けたグラフです。


 最も高いのは,横浜市の都筑区で622万円となっています。都内のマックスの千代田区をも上回るのですね。横浜市の区別の世帯年収中央値は,最高の622万円から最低の374万円までの開きがあります。これぞ「ヨコハマ格差」,この大都市の住民を一概に論じられそうにはありません。

 では,具体的な数値を見ていただきましょう。まずは札幌市から浜松市までです。各政令市の区別の中央値を,高い順に並べています


 札幌市は,中央区の年収が高いかと思いましたが,単身学生とかが多いため,全世帯でみると中ほどなのでしょうか。今回の分析では,世帯主の年齢まで統制できないのがネックです。

 東京23区はさもありなんですね。川崎市は,麻生区が2位ですか。私は多摩市に住んでいた頃,この区を通る小田急多摩線を使っていましたが,車窓をみると,小奇麗な家が碁盤の目のように並んでいました。

 次に,名古屋市から熊本市までです。


 どうでしょう。各区の経済力は,住民の健康指標や子どもの学力などと強く相関していると思われます。前にやったところ,大阪市内24区の経済力と寿命なんかは,とても強く相関していましたね。
https://tmaita77.blogspot.com/2018/04/2015.html

 今回のデータは,世帯の年齢層を統制できていない,ラフな全世帯の年収中央値ですが,経済力を媒介にした不平等の可視化に,いくぶんかは使えるかもしれません。あまり明らかにされていない政令市内部の格差として,データをみていただければと思います。

2021年5月14日金曜日

所得と貯蓄のクロス

 気温が上がってきました。今日の横須賀のマックスは25度,半袖を着て,久里浜の床屋に行ってきました。

 さて生活のゆとり(富裕度)の指標としての所得については,いろいろな角度から分布や中央値を明らかにしてきました。しかし入ってくるおカネ,収入面をみるだけというのでは不十分です。いざという時への備え,湯浅誠さんの言葉でいうと「溜め」がどれほどあるかも,合わせて見ないといけません。

 2019年の厚労省『国民生活基礎調査』にて,年間所得階級と貯蓄額階級のクロス表の形で,世帯数を呼び出すことができます。★こちらのページの表160です。


 私は原資料の表を,「所得階級13 × 貯蓄階級12」の形に整理し,各セルに該当する世帯数をグラフで可視化してみました。最近ツイッターでよく出している,ドットグラフです。ドットの大きさを使って,2変数のクロス表のデータを表現します。

 ツイッターでも出しましたが,ブツを見ていただきましょう。


 横軸は所得,縦軸は貯蓄額の階級で,この2つの組み合わせの各セルに該当する世帯数が,ドットの大きさで表されています。

 ぱっと見,所得が少なく貯蓄も少ない困窮世帯(左下)が多いことが分かります。所得300未満,貯蓄200万未満の世帯(緑の枠囲い)は全体の15.1%に該当します。7世帯に1世帯です。その一方で,右上の富裕世帯(所得たっぷり,貯蓄ガッツリ)も結構あります。社会の富の格差も見取れますね。

 所得が少なくが貯蓄はたくさんある世帯は,リタイアしている高齢世帯でしょう。

 赤マルは,所得・貯蓄とも100万未満の世帯で,生活困窮のレベルが甚だしく,生活保護の対象のレベルです。全体の3.2%に相当し,2019年1月時点の全世帯数(5853万世帯)にかけると,実数で187万世帯ほどと見積もられます。

 現実の生活保護受給世帯数はどうかというと,2019年の1か月平均でみて約164万世帯です(厚労省『被保護者調査』)。うーん,やっぱり日本の生活保護は困窮世帯を十分に掬えて(救えて)いないようです。日本の生活保護の捕捉率の低さは,よく指摘されること。

 あと一つ特記すべきこと。「日本で一番多い世帯は?」という問いへの答えです。上記のグラフのドットサイズから,答えは「所得100万円台,貯蓄ゼロの世帯」ということになります。単身非正規の若者,ないしはカツカツの暮らしをしている高齢者世帯でしょう。強烈な現実です。

 これでは経済も回らないというもの。これでいて企業の内部留保が過去最高というのですから,開いた口がふさがりません。モノが売れなくなり,必ずや自分たちにも跳ね返ってきます。

 所得と貯蓄のクロスで,日本の世帯数分布を可視化してみると,怖い現実が露わになりますね。できれば年齢層別に出して,若年層,中年層,高齢層でドットの色分けもしたいところです。

2021年4月29日木曜日

夫婦の所得組み合わせ

 共稼ぎの夫婦が増えていますが,夫と妻がどれほど収入を得ているかは多様です。私くらいの年代だと,正社員の夫が400~500万ほど稼いで,妻はパートで就業調整してマックスで100万ちょっと。こんな夫婦が多数でしょうか。

 しかし両者の稼ぎが対等,ないしは妻が夫を上回るという夫婦も存在するでしょう。夫婦の稼ぎの組み合わせというのも,多くの人が興味をもっている所です。

 毎度使っている『就業構造基本調査』に,この点を知れる統計表があります。最新の2017年調査だと,★コチラの統計表です。共稼ぎ世帯の数を,夫と妻の所得階級別に知ることができます。この2つをクロスすることで,目的のデータが得られます。


 年代は子育て年代に絞ることとし,妻が35~44歳の世帯を分析対象としましょう。この年代の世帯で,夫と妻の所得の双方が分かる共稼ぎ世帯は約360万5200世帯です。

 「9×9」の81のセルに該当する世帯(夫婦)の数を,視覚的なグラフで表してみます。以下のグラフです。横軸は夫,縦軸は妻の所得階級で,双方をクロスした各セルに該当する夫婦の数を,円のドットの大きさで表しています。


 真ん中の下あたりが多くなっています。一番ドットが大きい,すなわち該当の夫婦が多いのは,夫が所得400万未満,妻が100万未満という組み合わせです(23万1300世帯)。

 私くらいの年代だと,男性正社員の所得中央値は500万円弱で,妻はパートで就業調整しているでしょうから,納得の結果です。子育ての最中ですが,夫婦の合算で大よそ600万円弱。子を2人,私学に通わせるとなったらキツイでしょうね。教育費を理由に,出産をためらう夫婦が多いのはよく知られていること。「安い」ニッポンは,少子化にも影を落としています。

 右上,黄色囲いは夫婦とも700万円以上「パワーカップル」です。その数は3万3400世帯で,全体の0.9%に相当します。

 ドットの色分けですが,青色は「夫>妻」,緑色は「夫≒妻」,赤色は「夫<妻」という夫婦です。夫の稼ぎが多い青色が全体の84.3%とマジョリティを占めます。対等は9.3%で,夫より妻が稼ぐ夫婦(赤色)は6.5%となっています。

 しかし何と言いますか,妻の稼ぎの寄与度は小さいですね。上述しましたが,最も多いのは「夫400万円台,妻100万未満」の夫婦です。ツイッターで流しましたが,地方では,夫婦二馬力の稼ぎが東京の一馬力に及ばない県が大半です。東京の一馬力の方がいいと,地元へのUターンをためらう家庭もあるとのこと。

 妻は,夫の扶養の範囲内で就業調整するためですが,配偶者控除制度ってのは,女性の労働力を押さえ込んでいるなと思います。人手不足の時代だというのに。この制度は,妻の稼ぎが少ない世帯を救済しようという意図のものですが,今では女性の稼ぎを押さえ込むことに貢献しています。いつまでも残しておいていいものかどうか…。

 最近では,妻の正社員として働いている世帯も増えています。上記のデータを,妻が35~44歳の正規職員という夫婦に絞るとどうなるでしょう。このグループだと,夫と妻の双方の所得が分かる共稼ぎ世帯は130万8900世帯です。先ほどの全体の3分の1ほどですね。このグループのデータで,上記の同じグラフをつくってみました。


 妻が正社員の夫婦ですので,先ほどの全体図と比して,分布がタテの上方にシフトしています。最も多いのは,「夫400万円台,妻200万円台」です。うーん,正社員でも妻の稼ぎの最頻階級は200万円台。家事・育児が足かせになるのでしょうか。

 右上のパワーカップルの率は2.1%です。青色の「夫>妻」は65.0%,緑色の「夫≒妻」は19.6%,赤色の「夫<妻」は15.4%となります。妻の稼ぎが夫と対等以上の夫婦は,全体の3分の1ですね。

 お見せした2つのグラフですが,どういう印象を持たれるでしょうか。女性の能力がフェアに活用されている事態を想定すると,左上の赤色のドットがもっと大きくなっているはずかと思うのですが。

 フルタイムで働いている有配偶女性に,自分の稼ぎと夫の稼ぎを比べてもらうと,「対等」ないしは「自分の方が多い」という回答が多くなっています。以下の表は,25~54歳の既婚フルタイム就業女性のうち,夫と対等以上の収入がある人の率です。2012年のISSP調査の個票から作成しました。


 何もいいますまい。日本の状況が普遍的でも何でもない,むしろ特異なんだということを見取ってほしいと思います。中高生にもこういうデータを見せて,自分が日頃目にしている光景が万国共通ではないことを,しっかりと分からせてほしいです。

2021年4月22日木曜日

有業者の所得ピラミッド

 4月も下旬,気温が上がってきました。今日の東京のマックスは27度で,熱中症への注意を呼び掛けるニュースも出ています。GW前にして,「熱中症」という言葉が出てくるようになったかという思いです。

 さて,ツイッターで発信したグラフが注目を集めています。凝ったものではありません,日本で働いている人の年間所得の分布図です。100万ごとに区切った階級に該当する人の数を,ヨコの棒グラフでピラミッド状で表したグラフです。男性と女性で分け,従業地位の3区分(自営,非正規雇用,正規雇用)でバーを塗り分けています。

 元データは,2017年の『就業構造基本調査』から得たものです。★コチラの統計表にて,「性別×所得×従業地位」の3重クロスをしました。ネット上で,こういうオリジナルの集計もできるようになり,便利になったものです。


 所得の階級を100万円刻みにし,男性と女性に分けてグラフを作ります。左に男性,右に女性のグラフを置いた対称にすると,ジェンダーの差が見やすくなります。ブツをご覧いただきましょう。


 どうでしょう。私の第一印象は,全体的に「安い」んだなあです。男性でも,最頻階級は200万円台です。

 女性にあっては,下が厚く上が細い,見事なピラミッド型になっています。全体の6割近くが200万未満です。扶養の範囲内で調整している既婚女性が多いのでしょうが,それにしても安い。販売やサービス(介護など)といった職業の給料が安いのもあります。これらのエッセンシャルワークは,安い女性非正規で支えられている現実があります。ある方がツイッターで,「女性活躍=コスト削減」と言われてますが,言い得て妙です。

 社会は,右下の安い女性労働力に支えられている。大企業従業員に絞ったグラフでみると,「左上=男性,右下=女性」というコントラストがより際立ちます。

 繰り返しますが,日本の労働者は「安い」。こうしたコストカットが効いてか,企業の内部留保は過去最高だそうですが,国民の購買力が下がり,モノが売れなくなり,結局は自分たちに返ってきます。アイリスオーヤマの社長さんも言われてますが,大変な今こそ,企業は内部留保をはき出し,従業員を守るべきなのです。

 さて,上のグラフをみて,自分の稼ぎは全労働者の中のどの辺だろう,という関心もおありでしょう。その目安を出しておきましょう。出てきた結果には,結構驚かされます。以下の表は,男女,自営・非正規・正規をひっくるめた全有業者(6408万人)の所得分布です。


 一番の関心は,ど真ん中の中央値(median)がナンボかです。累積%が50ジャストの値ですが,黄色の「250~299万円」の階級に含まれることが分かります。上位20%値(累積%=80)は赤色,上位10%値(累積%=90)は青色の階級に属します。

 按分比例を使って,3つの値を推し量りましょう。本ブログを長くご覧の方は,もう慣れっこですよね。

中央値:
 按分比=(50.0-45.9)/(53.9-45.9)≒0.5110
 中央値=250+(50×0.5110)≒276万円

上位20%値:
 按分比=(80.0-77.8)/(84.8-77.8)≒0.3183
 上位20%値=500+(100×0.3183)≒532万円

上位10%値:
 按分比=(90.0-89.5)/(93.0-89.5)≒0.1354
 上位10%値=700+(100×0.1354)≒714万円

 日本の全有業者の所得の中央値は276万円,上位20%値は532万円,上位10%値は714万円と出ました。この3本のポールを立てた場合,あなたはどのゾーンに属しますか。715万円以上の稼ぎがある人は,上位1ケタのトップ層に属することになります。

 これは男女ひっくるめた場合の数値ですが,男性と女性では条件が違うので,両性で分けたほうが診断の目安としてはいいでしょう。私は全有業者,男性有業者,女性有業者の所得分布をもとに,下位10%値,下位20%値,…中央値,…上位20%,上位10%値を計算しました。結果をまとめると以下のようになります。


 9本のポールを立てましたが,あなたはどのポールの間にありますか,中央値は超えてますか…。私は,男性の中央値(379万円)に及びません。

 女性の中央値は174万円で,上位20%値(339万円)は,男性の中央値にも及ばず。女性にあっては,460万以上の稼ぎがあれば「スター」の部類です。

 上記の表は,ご自身の立ち位置を知る「診断表」としてお使いくださればと思います。自分と同年代の正社員のデータが見たいという方は,冒頭でリンクをはった統計表(★)に飛んでいただき,同年代の「正規職員」の所得分布表を呼び出し,表を作ってみてください。ツイッターをされているなら,私のアカウントにメッセージください。拡散させていただきます。

2021年4月13日火曜日

家族の世話で勉強できない生徒

  昨日から,メディアが足並みを揃えて報じているニュースがあります。そう,ヤングケアラーの初の公的調査の結果が発表されたのです。

 ヤングケアラーとは,幼き介護(看護)者のことで,家族の世話をしている子どもをいいます。病気の親・祖父母の介護をしている子,幼い弟妹の世話をしている子などがイメージされます。

 子どもの頃,よく読んだ「キャプテン翼」の日向小次郎は母子世帯で,小さい弟妹の世話をしつつ,新聞配達や屋台のバイトで家計を助けていました。小学校高学年にしてです。カッコいいなあと,子ども心に思った人は,私の世代には多いはずです。この人物の強さの源泉は,こうした環境で培われたハングリー精神でした。

 しかしこの少年の場合,明らかに勉学に支障が出ているレベルです。家族のケアは子どもの人間形成にプラスの効果をもたらしますが,それも程度問題で,学業に支障が及ぶというのはNGです。

 このほど公開されたヤングケアラー調査では,そうした問題状況にある子どもの量的規模を明らかにしています。国が三菱UFJの研究所に委託し,昨年末から今年初頭にかけて中高生を対象に実施された調査です。結果報告のレポートは,厚労省審議会のサイトでみれます。中学校2年生(5558人)を対象とした調査では,以下の数字が出たと報告されています。

 世話している家族がいる … 5.7%

 うち,宿題や勉強をする時間がない … 16.0%

 いずれもメディアで大々的に報じられたデータです。この2つを使って,調査対象となった中学校2年生の組成図を描くと以下のようになります。


 横軸は,世話している家族がいるか否かです。いる生徒は上述のように5.7%で,右側の群が該当します。このグループのうち,宿題や勉強の時間もないという生徒は16.0%で,縦軸の比重でこれを表します。

 世話をする家族がいるヤングケアラーで,かつ勉強の時間もとれないという生徒は,図の赤色のゾーンということになります。全数ベースの比率は,5.7%と16.0%をかけ合わせて0.91%ということになります。110人に1人です。

 2020年5月時点の中学生の数は321万人ほどです(文科省『学校基本調査』)。上記の比率をこの全数にかけると,結構な数になりそうですね。はて,家族の世話のために勉強もできないという生徒は,見積もり数でどれくらいいるか。以下に,掛け算の結果を示します。全日制高校2年生(7407人)の回答をもとにした,高校生の結果も添えます。


 中学生321万人のうち,世話している家族がいるヤングケアラーは5.7%,このうち勉強の時間もないという生徒は16.0%,現実の母数にこの比率を適用すると,家族ケアで勉強もできないという中学生は2.93万人と見積もられます。高校生は1.61万人で,合わせて4.5万人ほどにもなります。

 家族の世話で勉強に支障が出ている中高生は4.5万人。こんなにいるのですね。法が定める健やかに育つ権利,教育をうける権利を侵害された子どもたちです。人為的な支援が必要であるのは明らかで,今後,国の審議会で具体策を提言するのだそうです。埼玉県では既に,ケアラーの支援条例を独自に定めています。

 ただ,支援というのは,当事者から「SOS」がないと発動しにくいもの。しかし上記の調査結果をみると,自分をヤングケアラーと自覚している者は少なく,他人に相談するほどのことではないと思い込んでいる生徒が多いのです。これでは支援の網を張っても,そこから落ちてしまいます。「あなた方は困難な状況にある」ってことを,意図的に分からせる必要もありそうです。

 近年の子どもの自殺防止策の目玉が,「SOSの出し方教育」であることも,思い出しておきましょう。