発行日 : 2009年05月28日
温暖化の影響で、東京の桜、あと100年で見収め?
~ 利用者のPC1万台を繋ぎ、シミュレーション計算した初の試み ~
株式会社ウェザーニューズ(所在地:東京都港区、代表取締役社長:草開千仁)は、この度、2010年~2110年における3パターンの気温変化シナリオを用いた桜の開花シミュレーションの結果をそれぞれ発表いたしました。桜の開花シミュレーションは、これまで一般の方と共に観察した過去6年間のきめ細かい地点での観測データと気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change、IPCC)の今後の気温データを基に当社独自の地域別気温分布予測、桜開花予測式を用いて計算したものです。計算は当社のグリッドコンピューティング技術を用いたデスクトップアプリ「ソラマド」(注※1) で、一般の方のPC(約1万人)と共同で算出した初の試みになります。シミュレーション結果、3パターンにおける気温変化率が最も高いシナリオの場合、50年後には、桜の開花は北海道で4月上旬から中旬、東北地方で3月下旬前後、東日本、西日本で3月上旬頃となり、100年後には、東京を含む太平洋側の地域で桜が開花しない現象が起きる可能性があることが判明しました。本発表は環境の変化を受けやすい植物に注目することで、日本の春の象徴でもある桜により多くの方に関心をもってもらうために発表しています。
2010年~2110年における桜開花シミュレーション結果詳細 |
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http://weathernews.jp/sakura/simulator/ |
近年、桜の開花は早まっています。過去30年と直近5年を比較してみても東京では、平均で6日ほど早くなっています。また過去30年の気温変化を比較してみても、東京では0.8℃上がっており、ここ数年は30年平均と比べて、気温は全国的に高まっています。日本の桜の代表種でもあるソメイヨシノは、適度な寒さと、暖かさの両方が必要な植物で、冬の間(12月~2月前半)に、十分低い気温にさらされることにより、休眠から覚める「休眠打破」の状態を経て、気温の上昇とともに生長し開花に至ります。前年の12月から2月前半にかけ十分気温が下がらないと、「休眠」から覚めにくく、また、2月後半以降の気温が高く推移すると開花が早まるのが特徴です。
※上記3つのシナリオはIPCCの第四次評価報告書に基づくデータを利用しています。
3パターンにおける気温上昇率が最も高いシナリオ1の場合、50年後には桜の開花は北海道で4月上旬、東北地方で3月下旬前後、東日本、西日本で3月上旬頃となります。ただし、気温が上昇するにつれて桜が開花するのに必要な休眠打破を促すまでの気温の低下がなくなるため、季節変化に対応した桜の開花が見られない状態になるとの結果が得られました。このため、植生に変化が発生し、日本の桜の代表種でもあるソメイヨシノが咲かない現象が起きる可能性があることが判明しました。
シナリオ1のシミュレーションでは、桜が咲かなくなるのは伊豆諸島の八丈島で2044年、鹿児島で2074年、宮崎で2087年、愛媛県で2107年、和歌山県で2081年、静岡県で2098年、東京都で2109年です。100年後には東日本、西日本の太平洋側では桜が春に咲く所はかなり少なくなり、また開花から見頃を迎える日数が長くなります。今のように春の訪れとともに咲いてパッと散るという季節の変化に応じた桜の生長がはっきりしなくなることが想定されます。このため桜を春の風物詩と感じられる地域は少なくなりそうです。愛知では桜の開花は2月27日、大阪の開花は3月2日と、ひな祭りの頃には桜開花の便りが届き、春爛漫な状況になる時期がかなり早くなる、あるいは冬から春への季節の変化が今までよりも明確に感じられなくなるかもしれません。
シナリオ2の場合では100年後にかけて桜が咲かなくなる地域はありませんが、開花日は今より10日から15日程度早くなり、西日本、東日本では3月のうちに葉桜になることが当たり前になりそうです。
下記は、2009年における東京都の靖国神社の開花日(3月21日)を基準に、100年後の桜の開花状況をそれぞれの気温変化パターンで算出した図と解説になります。詳細は当社のインターネットサイト「さくらCh.」(URL:http://weathernews.jp/sakura/simulator/)にて確認ください。
◎シナリオ1『気温上昇最大シナリオ』
2110年までに、東京から西の太平洋側を中心に季節に応じた桜の開花がなくなるエリアが多くなります。また桜の開花は全般的にかなり早くなり、桜が開花をしてから見頃を迎えるまで、また見頃が終わるまでの時期も今までより長くなります。これは今までよりも冬から春への季節変化が緩やかになりはっきりしなくなるためで、開花から葉桜に至るまでの桜の生長と季節の変化があまり連動しなくなることが考えられます。桜の開花は2009年と比べて北海道では1ヶ月ほど早くなり、東北地方や北陸地方も20日以上早まります。そのほかの西日本と東日本は日本海側や標高の高い所を中心に桜は咲きますが、20日ほど早い開花で、開花から見頃を迎えるまで2週間程度もかかる所が出てきます。
◎シナリオ2『気温上昇平均シナリオ』
2110年の段階では桜が咲かなくなる地域はありませんが、2111年以降は桜の季節に応じた開花がなくなるエリアが増えてきそうです。2110年の桜の開花日は今より10日から15日程度早くなり、西日本、東日本では3月のうちに葉桜になることが当たり前になりそうです。開花は東京都では3月11日、大阪府で3月13日、西・東日本のほとんどの地域では3月の前半には開花し、北日本では3月の下旬頃に開花する見込みです。また、開花から見頃を迎える期間も長くなるため、見頃は現在より1週間程度早まりそうです。
◎シナリオ3『気温上昇最小シナリオ』
2110年においても気温の上昇による桜の開花時期への影響はごく少なく、1日早まる程度となります。見頃時期も今と大きく変わらず、北海道で4月末から5月上旬以降、東北や北陸地方で4月中旬頃以降、そのほかの西日本や東日本は3月下旬から4月上旬からとなります。なお、目先100年にかけての年ごとの気温変化量は本シミュレーションでは平滑化された予測値を用いており、実際はこの温暖化による影響よりも年ごとの気温変化が大きく桜の開花に影響すると考えられます。
都市名 | 各シナリオ | 2009年 | 2030年 | 2050年 | 2070年 | 2090年 | 2110年 |
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札幌 | 1 | 5月4日 | 4月22日 | 4月15日 | 4月10日 | 4月6日 | 4月2日 |
2 | 4月27日 | 4月24日 | 4月21日 | 4月19日 | 4月17日 | ||
3 | 5月1日 | 5月1日 | 4月30日 | 4月30日 | 4月30日 | ||
仙台 | 1 | 4月11日 | 3月30日 | 3月24日 | 3月20日 | 3月15日 | 3月11日 |
2 | 4月4日 | 3月31日 | 3月30日 | 3月28日 | 3月25日 | ||
3 | 4月8日 | 4月8日 | 4月7日 | 4月7日 | 4月7日 | ||
東京 | 1 | 4月3日 | 3月23日 | 3月19日 | 3月16日 | 3月14日 | - |
2 | 3月26日 | 3月24日 | 3月23日 | 3月22日 | 3月20日 | ||
3 | 3月28日 | 3月29日 | 3月29日 | 3月28日 | 3月28日 | ||
名古屋 | 1 | 4月3日 | 3月22日 | 3月19日 | 3月16日 | 3月14日 | 3月12日 |
2 | 3月25日 | 3月23日 | 3月22日 | 3月21日 | 3月19日 | ||
3 | 3月27日 | 3月27日 | 3月27日 | 3月26日 | 3月26日 | ||
大阪 | 1 | 4月3日 | 3月26日 | 3月23日 | 3月20日 | 3月19日 | 3月17日 |
2 | 3月28日 | 3月27日 | 3月26日 | 3月25日 | 3月23日 | ||
3 | 3月31日 | 3月31日 | 3月31日 | 3月30日 | 3月30日 | ||
広島 | 1 | 4月3日 | 3月22日 | 3月19日 | 3月16日 | 3月14日 | 3月12日 |
2 | 3月26日 | 3月23日 | 3月22日 | 3月21日 | 3月19日 | ||
3 | 3月28日 | 3月28日 | 3月28日 | 3月27日 | 3月27日 | ||
高知 | 1 | 3月25日 | 3月22日 | 3月20日 | 3月17日 | 3月17日 | 3月15日 |
2 | 3月24日 | 3月23日 | 3月22日 | 3月21日 | 3月20日 | ||
3 | 3月26日 | 3月26日 | 3月26日 | 3月26日 | 3月25日 | ||
福岡 | 1 | 3月22日 | 3月23日 | 3月20日 | 3月18日 | 3月17日 | - |
2 | 3月25日 | 3月24日 | 3月23日 | 3月22日 | 3月21日 | ||
3 | 3月27日 | 3月27日 | 3月27日 | 3月27日 | 3月26日 |
当社では、5年前より毎春一般の方と共に桜の生長を観察し、全国の桜の魅力を利用者と共有する「さくらプロジェクト」を展開しています。今年は1万6千人の方が参加し、多くの方と共に桜の観察を実施しました。2007年からは、日本の病んだ桜を救い、守るきっかけを作る取り組みとして「桜レスキュー」を展開しています。「桜レスキュー」は、一般の方と共に桜の健康状態(テング巣病、キノコ、花数等)を調査する全国でも例の少ない試みで、これらの調査で収集されたデータはサイト上で公開された他、桜の健康回復を促すための治療方法も併せて紹介され、一人ひとりが桜を守るための取り組みが進められました。当社では、日本の春の象徴でもある桜をより多くの方に楽しんでいただくため、今後とも一般の方と共に沢山の取り組みを進めていく予定です。
※1)デスクトップアプリ「ソラマド」についてソラマドは当社の24時間生放送の気象情報番組を視聴するインターネット専用のデスクトップアプリケーションで、ソラマドは現在1万人以上のダウンロード有しています。ソラマドには、グリッドコンピューティング技術を用いた計算式が組み込まれており、視聴者と共に様々な “計算”をすることが可能になっています。利用者のPC機能を用い、“計算”をみんなに分散することで、これまで時間のかかっていたシミュレーション計算がより素早くできるようになる他、利用者はソラマドを立ち上げてさえいれば、“未来の環境”のために一役を担うことができるのが特徴です。
世界主要国 / 地域に32の営業拠点を持つ、世界最大の民間気象情報会社。
海、空、陸のあらゆる気象現象の世界最大規模のデータベースを有し、独自の予報により、航空、海運、流通、自治体などの各業務の問題解決情報を提供している。
一般個人に対しては、携帯電話、インターネット、BSデジタル放送等のメディアを通じて、個人の生活を支援する各種情報を提供。