コピ・ルアク(英語ではシヴェット・コーヒー。フィリピン産出のものは「アラミド・コーヒー」)は、世界で最も高価なコーヒーのひとつで、1杯が80ドルする。東南アジア原産のジャコウネコ(シヴェット)の消化器をコーヒー豆が通過することで、驚くほどスムーズな味になる、と生産者や愛好家は言う。
もともとは、インドネシアのコーヒー農園で栽培されるコーヒーノキの熟した果実を、野生のジャコウネコが食べていたのが起源だ(果肉は栄養源となるが、種子にあたるコーヒー豆は消化されずにそのまま排泄される)。しかし、コピ・ルアクの需要が増えているため、現在はジャコウネコたちがケージに入れられ、(栄養的には偏った)コーヒーの果実を餌として与えられるケースが出てきている。
「その生産のさまは、コーヒーのフォアグラのようなものだ」と、合成生物学者のカミーユ・デレベックは、このほど『WIRED』USオフィスを訪れた際に語った。
デレベック氏は、食品科学者のソフィー・ドゥテール(グラン・マルニエのビターオレンジの香りなどに取り組んだことがある)とチームを組み、コーヒー豆がジャコウネコの消化器を通過する際に起こる変化の一部を模倣した発酵法を開発した。
会社名はAfineur社。ふたりは年末までにこの豆を販売したいと考えている。
デレベック氏によれば、価格は1ポンド(454g)あたり50~100ドル。確かに安くはないが、本物のコピ・ルアクに対して人々が払う値段よりはるかに安いという。
デレベック氏によると、ジャコウネコの消化器を通ることによる最大の効果は、コーヒーの苦みと渋味が抑えられることだ。ジャコウネコ体内のプロテアーゼ酵素がタンパク質を分解し、それにより焙煎後の香りが変化する。
ジャコウネコの体内のマイクロバイオームの特徴は、科学的にはわかっていない。おそらくは多数のバクテリアがいて、その多くは研究室で培養するのが難しいものだろう。デレベック氏はAfineur社が用いている微生物を明らかにしなかったが、おそらく規模は小さいが慎重に選ばれた微生物集団であるはずだ。
豆は2日かけて発酵させ、その後に焙煎される。
デレベック氏たちのコーヒーを実際に試飲してみたところ、普通のコーヒーとの差は明確だった。発酵させたコーヒーは、たしかに苦みと渋みが少なくなっている。
筆者の感じだと、酸味も少なくなっていると思ったのだが、水素イオン指数(pH)は実はほぼ同じだとデレベック氏は言う。ただ、発酵によりさまざまな酸の割合が変化するので、これによって、一部の人には発酵した豆のほうが酸味が少ないように感じるのかもしれない。
従来のコーヒー製造では、コーヒー豆を選んだあとは、焙煎の温度と時間を変えるくらいしか差はつけられなかった。しかし、発酵させることで、クリエイティヴな工夫が追加できるようになるとデレベック氏は言う。「コーヒーのまったく新しい風味世界を探究できるようになる」。
TEXT BY GREG MILLER
PHOTOS BY ALEX WASHBURN/WIRED
TRANSLATION BY RYO OGATA, HIROKO GOHARA/GALILEO