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世界各地の民族衣装や祭礼のコスチュームを撮り続けるフランス人写真家、シャルル・フレジェ。前作『WILDER MANN(ワイルドマン)──欧州の獣人 仮装する原始の名残』(2013年)でヨーロッパ各地の伝統的な祭りに登場する毛むくじゃらの獣人を撮った彼の次なるターゲットは、ここ日本だった。
フレジェは2013〜2015年にかけて、日本各地(北は秋田から南は沖縄まで)の58カ所を巡り、それぞれの土地の祭りで実際に使われる仮面や装束をとらえた。発売中の『YOKAI NO SHIMA 日本の祝祭──万物に宿る神々の仮装』〈青幻舎〉には、ナマハゲから獅子、鬼といった馴染みのあるものから、見たことも聞いたこともないような奇妙な風貌のものまで、さまざまな種類の妖怪のポートレイトが収められている。
タイトルの「YOKAI NO SHIMA」とは、これらのキャラクターをまとめて「YOKAI」と呼ぶフレジェの想像が生み出した、YOKAIたちが住む架空の島のことだという。
ページをめくっていくと、妖怪たちの奇妙な外見にはもちろん、その種類の多さ、そしてこれらの妖怪を生み出した先人たちのイマジネーションに驚かされる(巻末ではWIREDで連載「21世紀の民俗学」を行っている民俗学者・畑中章宏が、それぞれの妖怪の特徴を解説している)。
また本書のまえがきではフランス在住の翻訳家・関口涼子(日本語版記事)が、理性を標榜する国・フランスには妖怪がいない、というエピソードを綴っており、彼女はフランスにわたって初めて、日本人がいかに妖怪や霊といった人以外の存在と共存する国民であるかということに気づいたと語っている。古くは伝承や絵巻に始まり、現代でもゲゲゲの鬼太郎やトトロ、妖怪ウォッチといった人気キャラクターがいる。昔からいまに至るまで常に文化のなかに妖怪が存在してきたことを考えると、たしかに日本は世界有数の「妖怪の国」といえるのかもしれない。
とはいえ、かつてに比べれば、現代人が日々の生活のなかでそうしたものの存在を(そして関口の言葉を借りれば「異界への扉」を)意識する機会が減っているのもまた事実だろう。『YOKAI NO SHIMA』は、日本にはこれほど豊かな「向こう側の世界」があるのだということに、外国人の目線を通して気づかせてくれる1冊である。
関口はまえがきで、2011年の震災に触れてこう続けている。
「あの日、波にさらわれていって戻らなかった多くの人たちのことを今も思うにつれ、死んだ者たちと自分たちは常に共存し続けている、それは、迷信ではなく現実で、そのことを意識し続けなければならない、という感覚は、おそらく作家として、2011年後さらに強くなった」
たとえ作家でなくとも、生と死、この世とあの世、人とそれ以外の存在が共存するという感覚は、失ってはいけないものなのだろう。そのために妖怪に学ぶことは、きっと大きい。
[最先端の流行や風俗、新しいメディアやツールを読み解くためには、「民俗学」が最も有効な手法である! 柳田國男がかつて明治・大正の世相を分析したように、民俗学者・編集者の畑中章宏が、21世紀の一瞬一瞬を、民俗学から掘り下げていく。書き下ろしの論考「ありえなかったはずの未来─『感情史』としての民俗学」を収録した単行本もKADOKAWAより発売中。](/series/commons-in-a-digital-age/)
PHOTOGRAPH BY CHARLES FREGER
TEXT BY WIRED.jp_U