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若いコロニイによる「音楽の自由解放区」
かつて、珈琲屋のひび割れた玻璃ごしに“摩天楼の衣擦れが舗道をひたすのを見た”のは、はっぴいえんどの松本隆だ。それから約40年後にLampは、“捻れた摩天楼を定刻通りの汽車が走る 君を乗せて”(「恋人と雨雲」)と歌う。また、“ぼんやりと思い出す窓の外は風の街”(「君が泣くなら」)とも歌っている。Lampは“街”を歌にする。しかも単なる目に映る「風景」だけではなく、色や光や温度を伴った「景色」「光景」「情景」、さらにはすでに消え去った街の「残像」や「残り香」までも表現する。その意味で、Lampは“はっぴいえんどの子供たち”と呼ぶに値する数少ないバンドの一つだ。また、この『東京ユウトピア通信』のアルバム・カヴァーを飾っているのは、鈴木翁二の絵。よって雑誌の『ガロ』繋がりで、『はっぴいえんど』を連想する人も少なくないだろう。
ただし、当然のことながら、Lampは、はっぴいえんどが切り拓いた音楽的土壌の上に、独自の音世界を構築している。現に一曲目の「空想夜間飛行」からして、音楽的には「ジェット機のサンバ」に乗って、アントニオ・カルロス・ジョビン国際空港に向かっているような曲だし、ミナスジェライス州の山々に響き渡る夢幻的なエコーがかすかに聞こえてくるような曲もある。また、前作『ランプ幻想』と比較するなら、リズム・アレンジがより複雑に組み立てられている曲が目につき、この点が大きな特徴だ。
Lampにとって『ランプ幻想』は、一つの到達点だったと思う。“はっぴいえんどの子供たち”としての彼らにとって。対して、『東京ユウトピア通信』は、Lampが新たな階段に足をかけ、頂上を目指し始めたことを示すアルバムである。70年代から築き上げられてきた“日本のシティ・ポップス”という伝統の階段。たとえば、キリンジが彼らに先駆けて上っている階段に。2010年夏にリリースされたEP『八月の詩情』は、この階段を駆け上がるための美しいフォームによる助走だったことが、これでよく分かった。
『東京ユウトピア通信』は、これまでにも増して洗練されている。が、それでいながら、今なおLampには、かつて存在した日本のバンドでいえば、シュガーベイブがそうだったように、あるいは現役のブラジルのアーティストでいえば、ロー・ボルジェスがそうであるように、どこかで成熟を拒んでいるような雰囲気が感じられる。この点がLampの真髄だと思うし、だからこそ僕は彼らの音楽が好きだ。
『東京ユウトピア通信』というタイトルに合わせる形で、あえて1953年に出版された北園克衛の詩集のタイトル『若いコロニイ』を引用して、この文章を締め括ることにしたい。3人の“若いコロニイ(colony)”は、新たな土地に鍬を入れ、肥沃な音楽畑を育て始めた。その畑は「ユウトピア」━━「音楽の自由解放区」とでも呼ぼう。
渡辺 亨
染谷大陽、永井祐介、榊原香保里によって結成。永井と榊原の奏でる美しい切ないハーモニーと耳にのこる心地よいメロディーが徐々に浸透し話題を呼ぶことに。定評あるメロディーセンスは、ボサノバなどが持つ柔らかいコード感や、ソウルやシティポップスの持つ洗練されたサウンドをベースにし、二人の甘い声と、独特な緊張感が絡み合い、思わず胸を締めつけられるような雰囲気を作り出している。 日本特有の湿度や匂いを感じさせるどこかせつない歌詞と、さまざまな良質な音楽的エッセンスを飲み込みつくられた楽曲は高い評価を得ている。これまでに5枚のアルバム(韓国版を含む)をリリース。
どこを切っても現在進行形のバンドが持つフレッシュネスに溢れている。
真っ先に"成熟"を聴きとってしまいがちな音楽性にもかかわらず、だ。
そんな人達あんまりいない--そしてそこが素敵です。
冨田ラボ(冨田恵一)