著者は、吉本隆明の影響を受けた詩人・独文学者。私は、必ずしも彼の支持者ではない。ただ、詩に関わってものを考えていく上では確かに無視できない一人である。
この点は瀬尾も近著で触れているのだが、言語表現は散文=論理と詩=美に分かれる。今、「政治」が新たに前景化している。その時重要なのが、詩的言語はこれにどう対するのかという事だ。だが、残念ながら、この問題を理解している人は殆どいない。
本書は、一応は瀬尾の「新詩集」だろう。ただ、散文形式の部分が多い。しかも、社会思想等に関する独異な考察がかなりを占める。他方、世界の様々な地域を舞台とした断片的描写がさし挟まれる。
印象的だった点だが、世界のあちこちで人々が暮らし、軍隊があり、兵士達が「待機」している。その背後では、国際社会や国家、政治、法、言語等のメカニズムが作動している。本作は、そのあり方に、一般的な思想や小説とは異なった角度から確かに接近している。
本書への評価には賛否があろう。無論、読者も多くあるまい。ただ、今、政治と詩的言語との関係の考察は急務である。一部の論者は、詩=美は政治=現実を隠蔽するという教条的な議論しかしないが、それだけでは全く不充分だ。
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